素直になれない皇女の初恋は実らない

高瀬船

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かくん、かくんと馬車の揺れに合わせてシェリナリアの頭が動く。
このままでは、馬車の振動でその内シェリナリアが目を覚ましてしまうかもしれない。

カイルは慌ててシェリナリアの隣に腰を下ろすと、ゆらゆらと揺れるシェリナリアの頭を自分の肩に凭れさせる事にした。
バランスが安定すれば、シェリナリアが目を覚ましてしまう可能性も減るだろう。

カイルは、昨夜のシェリナリアとのやり取りでシェリナリアがあまり満足に睡眠を取れていない事を察していたので、せめて休憩の時間まで自分の肩に凭れ、眠ってくれれば、と罪滅ぼしのような気持ちが半分、シェリナリアが怪我をしてしまわないように、と言う心配と、他にも抱いた感情はあるがそれには見えないふりをして目を背け、シェリナリアを眠らせる事に集中した。


流石に先程の自分のようにシェリナリアを座席に横にさせる事は出来ない。
だから、せめてシェリナリアが安心して眠れるようにカイルはシェリナリアに肩を貸した後、極力身動ぎしないように注意しながら、馬車が移動する時間をただ静かに過ごした。









「──様、皇女様」
「……んん、?」

自分のすぐ隣から優しく声を掛けられているような気がする。

シェリナリアは、「まだ起きたくない」とでも言うように自分の頬に当たる暖かいものに駄々をこねるようにぐりぐりと自分の額を押し付ける。

「皇女様、昼食の場に着きましたので……」
「──眠いのよ……」

困ったような声音が聞こえて来て、シェリナリアは瞼を強く閉じると更に額を擦り付ける。
その瞬間、隣のその暖かいものがびくりと体を跳ねさせた。

「──え、?」

その動きに、シェリナリアは急に意識が浮上して来て瞼を持ち上げた。
カイルは寝ていた筈なのに、何故先程から自分の斜め上から声を掛けられているのだろうか。
そして、自分が凭れ掛かっているこの暖かい物体は何なのだろうか。

そう思い、そろそろとシェリナリアが自分の視線を斜め上に上げると言葉を失ってしまった。



「──良かったです。目が覚めましたか?」

シェリナリアは、自分が凭れ掛かっていたのがカイルだと言う事に気付き、声にならない悲鳴を上げた。









帝国内で、最後の食事だ。
その食事を取る休憩の邸に到着し、カイルはシェリナリアを起こしてくれたらしい。

シェリナリアは即座にカイルから離れると、混乱する頭でお礼を告げ、昼食の場に連れて着てもらう。

「ここでの食事が終わったら、この先安心して過ごす事が出来なくなるわね」
「そう、ですね……。我々がお守り致しますが、皇女様も今まで以上に警戒をして下さい」
「ええ。それは勿論。……短剣もしっかりと懐にあるわ」

シェリナリアは、カイルを安心させるように自分の懐辺りをぽんぽん、と叩いて笑ってみせる。

手練相手にはどうする事も出来ないが、最低限自分の身を守る為に時間稼ぎ程度は出来るだろう。
専属護衛であるカイルと、シアナが自分の傍に駆け付けるまでの最低限の時間稼ぎや、逃げる際等に相手を斬り付け油断させるくらいは出来るかもしれない。

そして、自分が武器も何も持っていない、と言う不安に襲われる事もない。
武器を持っているだけで、少しでも自分の気持ちが強く保つ事が出来る。

「勿論、我々も皇女様を危険に晒してしまう事のないように致しますが……」
「ええ。万が一、があるものね」

分かっているから安心して、と言うようにシェリナリアはカイルに笑い掛けると、昼食を取り始めた。






昼食が終わり、馬車の馬変えを行い、設備の確認をして再度シェリナリアは馬車へと乗り込んだ。

先程と違い、カイルは馬上に戻り、シェリナリアと同じ馬車にはシェリナリア専属の使用人が同乗する。

これから、ドレスト国内に入るまで移動速度重視となる。
パロンドア国の地を踏むのは僅かではあるが、その僅かの間に襲撃でもされたら面倒だ。

帝国の領土を移動していた時とは違い、かなりの速度で移動して行く。

ガタガタ!と馬車の揺れと、馬車の音が激しく聞こえシェリナリアは窓の外に視線を向ける。
パロンドア国の山間部を選んで移動しているからか、周囲は森深く視界には森の緑が永遠と続くのが見える。

「皇女様、揺れが激しいのでお掴まり下さい……っ」
「分かったわ」

シェリナリアの使用人が両手で馬車の壁に取り付けられている取っ手に必死になって掴まっている。
悪路と呼ばれるような場所を移動しているせいか、馬車の車輪が何度か地面を跳ねる。
その度に、室内にいるシェリナリア達の体も軽く跳ねてしまう。
会話をしていれば舌を噛んでしまいそうだ。





シェリナリア達が乗る馬車が移動して行くのを、森の木々の上からじっと見詰める集団が居た。

「──"行き"は手出しするなと聞いている。"帰り"は好きにしろ、との事だ。あの集団をしっかりと覚えておけよ」
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