素直になれない皇女の初恋は実らない

高瀬船

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シェリナリアの厳しく、硬い声音にシュドルクはびくり、と体を跳ねさせると真っ青な顔色のままシェリナリアに怖々と視線を向ける。

「──自分の発言には気を付ける事ね。自分の発言一つで、ドレスト国が危機に瀕してもいいと言うのであれば止めないわ」
「──、っ!」
「シュドルク様……っ」

シェリナリアの言葉に、シュドルクもやっと事の重大性に気付いたのだろう。
帝国を敵に回してしまう事はドレスト国に取っても避けたい事だろう。
寧ろ、シュドルクはシェリナリアをドレスト国の国賓として歓待しろ、と言われていた筈だ。

それが何故、曲がりなりにも宰相を輩出しているルドシア伯爵家の者がここまで愚かなのだろうか。
貴族としての最低限のマナーも、国賓を迎えるにあたっての常識一つすら身に付けていないように思える。

シェリナリアが怒りを覚えているのを如実に察したシュドルクの補佐官が、これ以上シュドルクが失言をしないようにシュドルクに対して発言を控えるようにどうにか説得しているように見える。

(それを、国賓の前でやってしまう愚かさが既にもう駄目なのよ……)

国賓の前でこのような醜態を晒し、どうするつもりなのだろうか。
自分達の愚かな行いのせいで、今回の婚姻が流れてしまう可能性がある、と言う危険性を微塵も考慮していない。

(──あら、けれど待って……?)

そこでシェリナリアはふと自分の思考に引っかかりを覚える。

(そうよね、普通はそう考えるわ。だからこそ、国賓を迎える時は相手の国に失礼のないよう、徹底して相手の国の事を調べるし、不快な思いをさせてしまわないようにしっかりとした人間を案内に寄越すわよね?)

これでは、まるで逆に帝国を怒らせようとしているようではないか。

その考えに至り、シェリナリアは嫌な事に気付いてしまった、と頭を抱えたくなる。

シェリナリアから帝国の陛下へ連絡はした。
だが、この程度の無礼な行いであれば、婚姻が無かった事になるには弱い。
ドレスト国は、帝国を軽んじているのでは無く、シェリナリア個人を軽んじているのだ。

シェリナリアを軽んじると言う事は結果、シェリナリアの背後にあるアレンバレスト帝国を軽んじていると言う事になるのだが、それを分かっていながら敢えてそうしているのか、それとも本当に分かっていないのか。

(──これ、は……本当に内戦が濃厚ね)

強大なアレンバレスト国に対して諍いを起こし、それに乗じて動くつもりなのだろうか。





「皇女様……っ、我々はそのっ、アレンバレスト帝国に対してそのようなつもりは全くございません……!」
「そのようなつもりは、無いと?先程私は言ったわよね?自分の発言には気を付けるように、と。その言葉を聞いた後にそのようなつもりは無い、と確かに言ったわね?」

シュドルクの補佐官の焦ったような言葉に、逆にシェリナリアは冷静に、静かに淡々と言葉を紡ぐ。

先程、シェリナリアは「助言」をしたのだ。
発言には気を付けるように、と。

その言葉を聞いてからの補佐官の言葉に、シェリナリアはつぃ、と瞳を細める。

補佐官は何か自分が失言をした事に気付いたのだろう。
下手に言い訳などせず、ただ単にシェリナリアに謝罪をすれば良かったのだ。
それなのに、自分達の身を守る為に補佐官は言い訳じみた弁明を口にしてしまった。

シェリナリアは強く補佐官を見詰めると、唇を開いた。

「──そこの、シュドルク・ルドシア卿は私の大事な専属護衛騎士であるカイル・クロージックとシアナ・ランバード二人に対して"国際問題にされたくなければ命令に従え"と命令をしたそうよ?」

シェリナリアはにこり、と口元だけで笑みを浮かべ更に唇を開く。

「それに、自分は次期宰相なのだからと宣ったそうね。ドレスト国は国賓に対して、宰相でも無いただの貴族の子供がそのように発言をする事を許しているのね、良く分かったわ」

シェリナリアの言葉に、真っ青を通り越して顔色を無くした指揮官、補佐官はシェリナリアに対して口を開く事が出来ない。

唯一、渦中の「次期宰相」であるシュドルク・ルドシアだけはシェリナリアの「貴族の子供」と言う発言に機嫌を損ねたような、そんな表情を浮かべていた。
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