「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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17話

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 祭典最終日、模擬戦が行われる会場は、多くの人で賑わっていた。
 一般の国民とはゲートが違い、観覧席も分けられている。

 ウェンディは、先を進む家族を必死になって追った。
 身長の低いウェンディは、下手をすれば沢山の人に埋もれてしまう。
 こんな時はいつもフォスターが隣で壁役になってくれていたのだが、今の彼はもうエルローディアに夢中で、彼女しか見えていない。

 ちょこちょこと小走りで何とか着いて行ったウェンディの視界に、大きな模擬戦場と、広い観覧席が現れる。

 四年前も、ウェンディはその観覧席に座った。
 そこで、模擬戦を勝ち抜いたフォスターが観覧席に座るウェンディを呼び、ウェンディは模擬戦場に降りて、大勢の観客の前で跪いたフォスターから硝子の薔薇を贈られたのだ。
 それが最早遠い昔のように思えてしまって、ウェンディは何だかおかしく感じた。

「ウェンディ、何をぼさっとしてる。早く来なさい」
「すみません、すぐに向かいます」

 侯爵に急かされたウェンディは、急いで皆の後を追った。




 模擬戦が始まる前。
 エルローディアをエスコートし、模擬戦が始まる時間いっぱいまで観客席にいたフォスターだったが、そろそろ時間だ、と席から腰を上げた。

「ホプリエル侯爵、侯爵夫人。エルローディア様。それでは行ってまいります」
「ああ、しっかりな」
「怪我だけはしないようになさい」
「無事を祈ってるわ、そして、私のために勝ってねフォスター」
「任せてください、エルローディア様」

 ホプリエル侯爵家が、そんな会話をしている様子は、周囲の観客席に座る貴族達にも伝わる。
 周囲の貴族は、皆ウェンディをちらちらと見やり、まるで小馬鹿にするように、嘲笑うかのように、時折憐憫の視線を向けるが、当の本人ウェンディは家族のそんな言葉など気にせず、観客席をきょろきょろと見回していた。

(ヴァン……。今日も、やっぱりヴァンの姿がどこにも、ない……。でも、ハーツラビュル伯爵家の方達はいらっしゃるわ……。後でヴァンの事を聞きに行こう……)

 ウェンディが、自身の事など気にもとめず、誰かを探すようにきょろきょろと観客席を見回す姿を見たフォスターは、ぎりっと奥歯を噛み締めた。

(まがりなりにも、俺はまだウェンディ様の専属護衛騎士だと言うのに……。俺に何の言葉もかけないつもりか!? 後悔するなよ!)

 フォスターは怒りで拳を握りしめたが、それを表情に出さぬよう必死に抑えると、ウェンディを除く全員に頭を下げてから模擬戦場へと向かった。

 そこでようやくウェンディを思い出したかのように、エルローディアはウェンディに顔を向けた。

「ごめんなさい、お義姉様。フォスターったら、お義姉様の専属護衛騎士なのに……お義姉様から言葉を貰わず行ってしまったわ……」
「いいわ、気にしてないから」

 それより、とウェンディはすぐにエルローディアから視線を逸らし、再びヴァンの姿を探す。
 そんなウェンディの態度にむっとしたエルローディアは、何か言ってやろうと思ったが、この先に起こるであろう出来事を思い、ほくそ笑んだ。

(何も知らないお義姉様。そうやって強がっているがいいわ。大勢の人の前で……国中の貴族の前で、取り返しのつかない恥を晒せばいい。ええ、ええ……そうなるのだから、これくらいの無礼など、許して差し上げるわ)

 エルローディアは、くすくすと笑い声を零し、ゆったりと観覧席に座り直す。


 眼下では、複数の専属護衛騎士達が模擬戦場に降り、それぞれ戦いに備えて支度をしている。
 フォスターも例に漏れず、腰に下げた訓練用の長剣を確認しつつ、他の護衛騎士に話しかけられ、それに応えている。

 まもなく、模擬戦が始まる。
 時刻が近付くにつれ、観客が増え、観覧席も埋まる。
 一般の国民の観覧席では、立ち見席も出ているようで、今年の模擬戦は過去一番の盛り上がりを見せるだろう、と誰もが期待した。
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