18 / 84
一章
18話
しおりを挟む──カンッ!と、長剣が弾かれる大きな音が模擬戦場に響き渡る。
長剣を弾かれてしまった護衛騎士の一人は「参った」と口にして、敗北を受け入れた。
その瞬間、観客からはわっと歓声が上がり、盛り上がりは最高潮に達していた。
模擬戦場の騎士の奮闘は、観客にも伝わる。
負けてしまった騎士にも、勝ち抜いた騎士にも惜しみない拍手が贈られ、戦った騎士達は互いの健闘を称え合う。
今回で、何組目だろうか。
ウェンディは、眼下で繰り広げられる高度な戦いに、いつの間にか視線が釘付けになっていた。
息をつくまもなく魔法が連発で発動され、それを護衛騎士が防ぎ、攻撃に転ずる。
まるで踊っているかのような優雅な戦い、勇敢な戦いに、ウェンディも惜しみなく拍手を贈った。
「次がフォスターだな」
「あら、そうですわねあなた」
ふと、ウェンディの耳に侯爵の声が届く。
(そっか、もうフォスターの番なのね)
いつの間にか、最後の模擬戦になっていた。
ウェンディがふと視線を下ろすと、どこか余裕ある様子で、ゆったりとした足取りで模擬戦場に姿を現すフォスターの姿があった。
彼が姿を現すと、観客からは一段と大きな歓声が上がる。
フォスターは余裕の表情で観客に向かって手を上げ、笑顔を返している。
ウェンディは興味無さ気についっと視線を相手の騎士に向ける。
フォスターの相手騎士は、昨年貴族令嬢と契約を結んだ専属騎士のようだった。
初めての祭典の模擬戦参加に、酷く緊張しているように窺える。
確かに、初戦の対戦相手がフォスターでは、緊張もするだろう。
(可哀想に……)
フォスターは、手加減をしない。
まだ、ウェンディとの関係がここまで悪化していなかった四年前ですら、一応は主人であるウェンディの体裁を守るため、相手騎士を完膚なきまでに叩き潰していたのだ。
それが、今回は想いを通じ合わせた相手──エルローディアが熱い視線でフォスターを見つめて、応援しているのだ。
四年前よりも手酷くやられるだろう、と予想したウェンディは、相手騎士に対して心の中で合掌した。
◇
(誰、を見ている──!?)
模擬戦場にいるフォスターは、ウェンディの視線が自分ではなく、違う場所に向いている事に苛立ち、ウェンディの視線を辿る。
すると、何とウェンディが見ていた方向には、フォスターが戦う相手騎士がいるではないか。
(護衛騎士の俺、ではなく! 相手の騎士を見てるだと──!?)
フォスターは、ウェンディの視線を一身に受けている相手騎士に怒りが込み上げてくる。
(どうして、俺を見ない……!? ウェンディ、お前の騎士はまだ俺だろう!)
自分勝手な事を考え、フォスターは理不尽な怒りを抱く。
自分から捨てるのはいいが、ウェンディから興味を失われるのは、許せない。
(俺に惨めに縋って、捨てられたくないと懇願されれば考えてやらない事も無かったのにな。愚かな女だ。今後、俺に縋っても手酷く拒んでやるからな)
フォスターはふん、と鼻を鳴らす。
ちょうどその時、フォスターの名前と相手騎士の名前が呼ばれ、とうとう模擬戦開始の時刻がやってきた。
◇
フォスターの模擬戦が開始し、観客は熱狂していた。
多彩な魔法に、まるで重力など感じさせない軽やかな体術や剣さばき、フォスターの相手騎士は圧倒され、防御するのに必死だった。
「やあねぇ、フォスターったら。誰にアピールしたくってあんなに一生懸命戦っているのかしら」
くすくす、と余裕たっぷりな声が隣から聞こえ、ウェンディはちらりと横目でエルローディアを見やる。
「エルローディア、あなたのためじゃないの?」
「やだわ、お義姉様っ。フォスターはお義姉様のために戦っているんじゃなくて? そんな事を言ったら、一生懸命戦ってるフォスターが可哀想よ?」
──そんな事、微塵も思っていないくせに。
ウェンディは胸中でごちる。
実際、エルローディアは口では否定するものの、彼女の目は雄弁に語っているのだ。
自分こそがこの国随一の護衛騎士に愛されているのだ、と。自分こそがフォスターに相応しい唯一無二の存在なのだ、と。
ウェンディはこっそりと溜息を零し、眼下で繰り広げられる白熱した模擬戦に意識を戻した。
少しよそ見をしただけで、フォスターと相手の戦いはもう決着が着きそうになっている。
その時、フォスターの視線がちらりとこちらを向いた気がして、ウェンディは僅かに目を見開いた。
(え……? まさか、ね──)
フォスターの視線がこちらを向いたと言っても、きっと自分の隣に座るエルローディアを見たのだろう、とウェンディは結論付ける。
今更フォスターが自分に興味を持つはずが無い。
だが、相手騎士はフォスターの注意が逸れた事を感じ取ったのだろう。
その隙をついて、剣を突き出した。
よそ見をしていたフォスターは、その行動に一瞬だけ反応が遅れ、完全に避けきれず、フォスターの綺麗な顔──頬に一筋の傷を作った。
瞬間、観客席からどよめく声が上がった。
「──チッ」
フォスターの舌打ちがしっかりとウェンディの耳にも届く。
フォスターは、忌々しげに眉を顰め、やり過ぎだと言う位の魔法を繰り出し、相手騎士を完膚なきまでに叩き潰してしまった──。
1,245
あなたにおすすめの小説
義兄のために私ができること
しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。
しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。
入り婿である義兄はどこまで知っている?
姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。
伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚
里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」
なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。
アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。
【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】
青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。
婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。
そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。
それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。
ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。
*別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。
*約2万字の短編です。
*完結しています。
*11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています
春野オカリナ
恋愛
エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。
社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる