「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

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一章

18話

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 ──カンッ!と、長剣が弾かれる大きな音が模擬戦場に響き渡る。
 長剣を弾かれてしまった護衛騎士の一人は「参った」と口にして、敗北を受け入れた。

 その瞬間、観客からはわっと歓声が上がり、盛り上がりは最高潮に達していた。

 模擬戦場の騎士の奮闘は、観客にも伝わる。
 負けてしまった騎士にも、勝ち抜いた騎士にも惜しみない拍手が贈られ、戦った騎士達は互いの健闘を称え合う。


 今回で、何組目だろうか。

 ウェンディは、眼下で繰り広げられる高度な戦いに、いつの間にか視線が釘付けになっていた。
 息をつくまもなく魔法が連発で発動され、それを護衛騎士が防ぎ、攻撃に転ずる。
 まるで踊っているかのような優雅な戦い、勇敢な戦いに、ウェンディも惜しみなく拍手を贈った。

「次がフォスターだな」
「あら、そうですわねあなた」

 ふと、ウェンディの耳に侯爵の声が届く。

(そっか、もうフォスターの番なのね)

 いつの間にか、最後の模擬戦になっていた。
 ウェンディがふと視線を下ろすと、どこか余裕ある様子で、ゆったりとした足取りで模擬戦場に姿を現すフォスターの姿があった。

 彼が姿を現すと、観客からは一段と大きな歓声が上がる。

 フォスターは余裕の表情で観客に向かって手を上げ、笑顔を返している。
 ウェンディは興味無さ気についっと視線を相手の騎士に向ける。

 フォスターの相手騎士は、昨年貴族令嬢と契約を結んだ専属騎士のようだった。
 初めての祭典の模擬戦参加に、酷く緊張しているように窺える。
 確かに、初戦の対戦相手がフォスターでは、緊張もするだろう。

(可哀想に……)

 フォスターは、手加減をしない。
 まだ、ウェンディとの関係がここまで悪化していなかった四年前ですら、一応は主人であるウェンディの体裁を守るため、相手騎士を完膚なきまでに叩き潰していたのだ。
 それが、今回は想いを通じ合わせた相手──エルローディアが熱い視線でフォスターを見つめて、応援しているのだ。

 四年前よりも手酷くやられるだろう、と予想したウェンディは、相手騎士に対して心の中で合掌した。




(誰、を見ている──!?)

 模擬戦場にいるフォスターは、ウェンディの視線が自分ではなく、違う場所に向いている事に苛立ち、ウェンディの視線を辿る。

 すると、何とウェンディが見ていた方向には、フォスターが戦う相手騎士がいるではないか。

(護衛騎士の俺、ではなく! 相手の騎士を見てるだと──!?)

 フォスターは、ウェンディの視線を一身に受けている相手騎士に怒りが込み上げてくる。

(どうして、俺を見ない……!? ウェンディ、お前の騎士はまだ俺だろう!)

 自分勝手な事を考え、フォスターは理不尽な怒りを抱く。
 自分から捨てるのはいいが、ウェンディから興味を失われるのは、許せない。

(俺に惨めに縋って、捨てられたくないと懇願されれば考えてやらない事も無かったのにな。愚かな女だ。今後、俺に縋っても手酷く拒んでやるからな)

 フォスターはふん、と鼻を鳴らす。
 ちょうどその時、フォスターの名前と相手騎士の名前が呼ばれ、とうとう模擬戦開始の時刻がやってきた。




 フォスターの模擬戦が開始し、観客は熱狂していた。
 多彩な魔法に、まるで重力など感じさせない軽やかな体術や剣さばき、フォスターの相手騎士は圧倒され、防御するのに必死だった。

「やあねぇ、フォスターったら。誰にアピールしたくってあんなに一生懸命戦っているのかしら」

 くすくす、と余裕たっぷりな声が隣から聞こえ、ウェンディはちらりと横目でエルローディアを見やる。

「エルローディア、あなたのためじゃないの?」
「やだわ、お義姉様っ。フォスターはお義姉様のために戦っているんじゃなくて? そんな事を言ったら、一生懸命戦ってるフォスターが可哀想よ?」

 ──そんな事、微塵も思っていないくせに。

 ウェンディは胸中でごちる。

 実際、エルローディアは口では否定するものの、彼女の目は雄弁に語っているのだ。
 自分こそがこの国随一の護衛騎士に愛されているのだ、と。自分こそがフォスターに相応しい唯一無二の存在なのだ、と。

 ウェンディはこっそりと溜息を零し、眼下で繰り広げられる白熱した模擬戦に意識を戻した。
 少しよそ見をしただけで、フォスターと相手の戦いはもう決着が着きそうになっている。

 その時、フォスターの視線がちらりとこちらを向いた気がして、ウェンディは僅かに目を見開いた。

(え……? まさか、ね──)

 フォスターの視線がこちらを向いたと言っても、きっと自分の隣に座るエルローディアを見たのだろう、とウェンディは結論付ける。
 今更フォスターが自分に興味を持つはずが無い。

 だが、相手騎士はフォスターの注意が逸れた事を感じ取ったのだろう。
 その隙をついて、剣を突き出した。

 よそ見をしていたフォスターは、その行動に一瞬だけ反応が遅れ、完全に避けきれず、フォスターの綺麗な顔──頬に一筋の傷を作った。

 瞬間、観客席からどよめく声が上がった。

「──チッ」

 フォスターの舌打ちがしっかりとウェンディの耳にも届く。
 フォスターは、忌々しげに眉を顰め、やり過ぎだと言う位の魔法を繰り出し、相手騎士を完膚なきまでに叩き潰してしまった──。
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