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一章
19話
しおりを挟むフォスターが放った魔法が相手騎士に直撃し、後方に吹っ飛ばされた相手は、そのまま地面に倒れ込みぴくりとも動かなくなってしまった。
模擬戦の進行役が複数慌てて駆け出してきて、相手騎士の容態を確認する。
そして、相手の息を確認し、戦闘続行が不可能だとアナウンスすると、フォスターの勝利を宣言した。
その瞬間、模擬戦場内は割れんばかりの歓声が響く。
ぴくりとも動かない相手騎士を見て、ウェンディは悲しそうに眉を下げた。
「……あそこまでしなくたっていいのに」
ぽつり、と呟いたウェンディの声は、歓声に掻き消されてしまい誰の耳にも届かなかった。
そして、トーナメントを順調に勝ち進んだフォスターは、残りの二戦も難無く勝利を掴んだ。
最終戦など、歓声が凄く、ウェンディの耳を劈くほどだった。
観客の熱が冷めやらぬ中、祭典の模擬戦優勝者、準優勝者が発表される。
惜しくも決勝にまで勝ち進む事が出来なかった護衛騎士達も、自身の主人を模擬戦場に呼び、自らの主人に硝子の薔薇を贈る。
その光景を、ウェンディは見つめ、素直に拍手を贈った。
皆、自分の主人のために必死に戦ったのだ。
喝采を受けるに相応しい戦いぶりだったな、とウェンディはそう思う。
そして、準優勝者の護衛騎士が自分の主人に硝子の薔薇を贈り、観客からは惜しみない拍手が贈られ、最後にフォスターの番がやって来た。
ウェンディの周囲にいる観客達は皆、ウェンディとエルローディアの姿を交互に見やり、噂をしている。
愉しそうに事の成り行きを見守る者。
賭けをする者。
哀れみの目を向ける者──。
様々な種類の視線に晒されるウェンディだったが、ウェンディはただ真っ直ぐ姿勢を正し、無感情に模擬戦場を見下ろしていた。
(私が呼ばれるなんて、少しも考えていないわ。フォスターはきっとエルローディアを呼び、エルローディアの為に用意した硝子の薔薇を贈る)
ウェンディの予想が的中したように、フォスターは幸せそうな、蕩けるような笑みを浮かべ、エルローディアの名前を叫んだ。
「エルローディア様!!」
「──まぁっ」
エルローディアは、わざとらしく自分の口を手で覆い、驚いて見せる。
そしてウェンディに申し訳なさそうな顔をしてみせたが、目の奥にはウェンディを嘲笑うかのような感情がはっきりと浮かんでいた。
「どうしましょう、お義姉様を差し置いて私が……?」
「いいんだ、降りなさいエルローディア」
侯爵がエルローディアに向かって優しく声をかける。
まるで、侯爵はこうなる事を知っていたかのように落ち着き払い、ウェンディに一瞥も寄越さない。
逆に、ウェンディはぎょっとしてしまった。
黙認するのではなく、寧ろ勧めるなんて、とウェンディは言葉を失う。
(お父様は、フォスターがエルローディアを下に呼ぶ事を……まさか知っていたの……?)
そうでなければ、こんなに落ち着き払った態度ではいられないだろう。
フォスターは、ウェンディの専属護衛騎士だ。
その専属護衛が、主人ではなく別の女性を呼んだ。
それは本来であれば、家門にとって恥ずべき行為なのだが、その行為を容認している。
ウェンディの驚きに気づいているはずなのに、侯爵はウェンディに顔すら向けずエルローディアを促している。
「……それじゃあ、仕方ないわよね。ごめんなさいね、お義姉様? フォスターの薔薇の花……私が頂く事になってしまいそう……」
「……ええ、どうぞ」
「ふふふっ、ありがとうお義姉様」
周囲からは嘲笑の声と、蔑みの視線がウェンディに降り注ぐ。
一部からはやっぱりこうなったか、と囁く声が聞こえた。
ウェンディは自分のドレスの裾を力一杯握り、その視線や言葉に耐える。
そうしていると、エルローディアが模擬戦場にまで降り立つのが見えた。
フォスターはエルローディアの腰をしっかりと支え、満面の笑みを浮かべて彼女を抱き上げた。
そして、模擬戦場内に良く通る声で言葉を発した。
「──私の想いを込めた、硝子の薔薇は……私の新しい主人となるエルローディア様に捧げる!」
「……えっ」
フォスターの宣言に、ウェンディは驚きに目を見開いた。
「私は、出来損ないの妖精姫、ウェンディ・ホプリエル嬢との専属護衛契約を破棄し、私の本当の主人、エルローディア・ホプリエル様と専属護衛騎士の契約を結ぶ!」
フォスターの言葉が模擬戦場に響いた瞬間、一瞬模擬戦場は静まり返り、次の瞬間にはどっと歓声が轟いた。
その様子を満足そうに見回していたフォスターは、驚くウェンディの顔を見て、嘲笑うような顔に変わり、言葉を続けた。
「この契約の破棄と新たな契約の結び直しは、ホプリエル侯爵様も認めた、正式なものとなる! エルローディア様は、私の新しい主人! エルローディア様を害する者は、私がこの手で葬り去る! 肝に銘じよ!」
フォスターの言葉に、観客は今日一番の歓声を上げた。
ただ一人、観客席でぽつりと置いてけぼりになってしまっているウェンディは、信じられない思いで、自分の父を見つめた──。
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