「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船

文字の大きさ
20 / 84
一章

20話

しおりを挟む


 お父様は、全部ご存知だったのね──。

 ウェンディは、愕然とした。
 いくら出来損ない、と蔑まれていても。
 父と母だけは最後まで自分を見捨てないだろう、と。見限らないだろう、と勝手に思っていた。
 だが、ウェンディのその認識はとても甘かった。

 侯爵家の恥となる娘など、ウェンディの父と母は簡単に見捨てるのだ。
 それを悟った時、ウェンディの中から父と母に対する親愛の情が、音を立ててガラガラと崩れ落ちた。

 要はの娘が、国随一の護衛騎士と専属護衛騎士契約をしていれば、それはもうどちらでもいいという事なのだろう。
 ウェンディでも、エルローディアでも。娘であれば、どちらでもいい。
 寧ろ、出来損ないと呼ばれるウェンディより社交界で評判の高いエルローディアがフォスターの主人である方が都合が良いのだろう。

 理解したくなくとも、ウェンディには理解できてしまった。

 だから、実の娘がこのような大勢の人間の目の前で恥をかこうとも気にしていないのだ。

 ウェンディは、自分の心の中でぷつり、ぷつりと何か細い糸のような物がちぎれていくような、奇妙な感覚を覚えた──。




 祭典最終日の模擬戦が終わり、 ホプリエル侯爵邸に戻った。
 戻ったばかりだと言うのに、侯爵は馬車から降りるなりウェンディに向かって冷淡な声で告げた。

「ウェンディ、フォスターとの専属護衛騎士契約を破棄する。このまま着いて来なさい」
「──分かりました、お父様」

 ふふ、と勝ち誇ったようなエルローディアの声が背後から聞こえる。
 ウェンディの母は、エルローディアに声をかけてウェンディには一瞥もくれる事なく邸に入って行く。
 契約の破棄は、ウェンディとフォスター両名が必要だ。そのため、必然的にフォスターもその場に残っており、侯爵が歩いて行く先に着いて行っている。

「ウェンディ嬢、侯爵が行ってしまいます。お早く」

 既に他人行儀な振る舞いのフォスターに、ウェンディは最早面白くなってしきてしまった。
 人の情とは、なんと脆いものか。
 ウェンディの心は失意に覆われていた。

「分かっているわ」

 小さく返事を零し、ウェンディは侯爵の後を追う。


 到着した場所は、鍛錬場だ。
 専属護衛騎士契約は、魔法契約である。
 契約者両名が契約魔法のかかった書類に、小刀で自分の指を浅く切り、血を垂らして契約を行う。
 契約の破棄など、まさか自分がするとは思わなかったウェンディだったが、破棄の仕方も契約を結ぶ時同様の手順で行う。

 ウェンディとフォスターが契約をした時は、当主である侯爵が見守る中、書斎で行われた。
 契約する両名が契約に納得していれば、無事に契約は成る。
 だが、もし。もし、万が一どちらかが契約に納得していないと、魔力が反発し合い、魔法が暴走を起こしてしまう、らしい。
 けど、契約を結ぶ時のウェンディとフォスターは誰がどう見てもお互い信頼し合い、愛情を抱きあっていた。
 だから、万が一の暴走の可能性など考える必要などなかった。

 だが、今回は。

(私が反発すると、思っているのね……。反発なんてしないのに)

 ウェンディが抵抗すると思っているのだろう。
 そのため、防御魔法で守られた鍛錬場を選んだ。

 万が一ウェンディが暴れても、すぐに制圧できるよう、最適の場を選んだらしい。

「ウェンディ嬢、あなたの番だ」
「……分かったわ」

 小刀で自分の指先を切り、契約魔法のかかった書類に、フォスターが血を垂らした。
 そして無表情でウェンディに小刀を渡してくる。

 ウェンディは小刀を受け取り、躊躇いなく自分の人差し指を切った。
 ぴりっとした痛みが指先に走ったが、ウェンディは僅かに顔を強ばらせただけで、躊躇いなく血を垂らした。

 瞬間、二人の魔力に呼応して、契約書類が微かに光を帯びる。

 まさか、ウェンディが少しもごねる事なく血を垂らすとは思わなかったのだろう。
 肩透かしを食らった、と言うような顔をした侯爵が契約書類に手を翳し、魔法を発動させる。

「──両名の契約の見届け人、タークナー・ホプリエル。両名は、専属護衛騎士契約の破棄を行う。異論はないな?」

 侯爵の言葉に、フォスターがはきはきと答えた。

「異論ございません」
「ウェンディ・ホプリエル、異論ございません」

 ウェンディとフォスターが答えると、二人を淡い光が包んだ。

「ならば、両名の契約の破棄を」

 侯爵がそう告げた瞬間、ウェンディとフォスターの体を包んでいた光が、すうっと無くなり、次いで体の中でぱつん、と何かが弾けたような感覚がした。
 フォスターも、それを感じたのだろう。
 驚いたように目を見開き、自身の両手を見下ろしている。

「──無事、契約は破棄されたようだな。ウェンディ、自室に戻っていい。ウェンディの身の振り方は、後日指示する」
「分かりました、お父様」

 侯爵は、もう用はないとばかりに鍛錬場を後にする。
 フォスターは、ウェンディに向き直ると晴れ晴れとした表情で告げた。

「これで、俺とあなたの契約は無くなった。もう、俺に縋りつかないで下さいよ、ウェンディ嬢」

 何がおかしいのか、フォスターは愉しげに笑いながらウェンディを置いて鍛錬場を出て行く。

 ウェンディは、一人残された鍛錬場で、首を傾げていた。

「……さっきの、感覚は何……? のあれは、契約を破棄した時の感覚だったのは分かるんだけど……。何かが、弾けたわ……?」

 首を捻りつつ、ウェンディは自室へと戻るため、歩き出した──。
しおりを挟む
感想 128

あなたにおすすめの小説

義兄のために私ができること

しゃーりん
恋愛
姉が亡くなった。出産時の失血が原因だった。 しかも、子供は義兄の子ではないと罪の告白をして。 入り婿である義兄はどこまで知っている? 姉の子を跡継ぎにすべきか、自分が跡継ぎになるべきか、義兄を解放すべきか。 伯爵家のために、義兄のために最善の道を考え悩む令嬢のお話です。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

【完結】広間でドレスを脱ぎ捨てた公爵令嬢は優しい香りに包まれる【短編】

青波鳩子
恋愛
シャーリー・フォークナー公爵令嬢は、この国の第一王子であり婚約者であるゼブロン・メルレアンに呼び出されていた。 婚約破棄は皆の総意だと言われたシャーリーは、ゼブロンの友人たちの総意では受け入れられないと、王宮で働く者たちの意見を集めて欲しいと言う。 そんなことを言いだすシャーリーを小馬鹿にするゼブロンと取り巻きの生徒会役員たち。 それで納得してくれるのならと卒業パーティ会場から王宮へ向かう。 ゼブロンは自分が住まう王宮で集めた意見が自分と食い違っていることに茫然とする。 *別サイトにアップ済みで、加筆改稿しています。 *約2万字の短編です。 *完結しています。 *11月8日22時に1、2、3話、11月9日10時に4、5、最終話を投稿します。

侯爵家を守るのは・・・

透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。 母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。 最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・

『悪役令嬢』は始めません!

月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。 突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。 と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。 アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。 ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。 そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。 アデリシアはレンの提案に飛び付いた。 そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。 そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが―― ※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

処理中です...