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一章
41話
しおりを挟むウェンディを部屋に送る道すがら。
ヴァンは先程自分の父親に言われた言葉を思い出していた。
ヴァンは、ナミアと楽しそうに話すウェンディを見つめる。
(父上は、ウェンディの体調が良さそうなら買い物に行ってもいいと言っていたな。確かに、ナミアが少しばかり侯爵邸からウェンディの服は持ってきてくれていたが……それは全部着れないだろうし)
衣服の新調が必要だ。
それに、ウェンディに似合うドレスを贈りたい、とヴァンは考えていた。
ちょうどいい事に、数日後には王都で大規模な祭りが開催される。
以前行われた祭典が王侯貴族メインの催し物だとしたら、今回王都で開催されるのは、国民が主体となった祭りだ。
祭典の時も市民は参加出来たが、貴族の参加が多いため、中々市民は羽を伸ばせない。
(そうだな……祭りには貴族達も結構参加しているし……。ウェンディも参加したいだろう。もし、ウェンディが大丈夫そうだったら買い物に行ってもいいかもしれない)
そう考えたヴァンは、前を歩くウェンディとナミアに声をかけた。
「じゃあ、行ってくるわねナミア! お土産買ってくるから、楽しみにしてて」
「ふふふ、お気になさらず。お買い物を楽しんできてくださいね、お嬢様」
「ええ、行ってくるわね。──ヴァン! 行きましょう」
「ああ、ウェンディ。ナミア、それじゃあ行ってくる」
「ええ、お嬢様をお願いいたしますねヴァン様」
「──っ! ああ、任せてくれ」
ぱちん、とナミアからウィンクをされ、ヴァンはナミアの気遣いに感謝して強く頷いた。
ウェンディとヴァン。
二人は今から王都に買い物に行く。
先程、ヴァンがウェンディに買い物の提案をしたら、ウェンディはとても嬉しそうに頷いてくれたのだ。
ウェンディもヴァンも、当然ナミアも一緒に行くと思っていたのだが、ナミアがそれを辞退したのだ。
ウェンディの部屋の片付けと、急成長する前に着ていたドレスの手直しをしたいから、と同行は断られてしまった。
だが、先程ヴァンに音もなく近付いたナミアは、ウェンディとのデートを楽しんでくれ、とヴァンにこっそり伝えてくれたのだ。
ナミアが、気を使ってくれた──。
(ナミアには、後でお礼の品を沢山買ってこよう……)
ヴァンが感動していると、ウェンディに自分の手を取られ、はっとする。
「ヴァン、どうしたの? 早く行きましょう!」
「──ああ、走ると転ぶよウェンディ」
「もう! 子供じゃないんだから大丈夫だわ!」
ぷりぷりと頬を膨らませて怒るウェンディ。
だが、その顔は愛らしくてちっとも怖くない。
ヴァンは幸せそうに笑いながら、ウェンディに繋がれた手を引き寄せた。
「じゃあ、レディとして案内しないとな。腕はここに置いて?」
「──っ! 淑女みたいだわ! 今まで背が足りなくてぶらさがるようになっちゃってたけど、エスコートって素敵ね」
「ふっ、ふふっ。ぶらさがるって……!」
「だって本当だもの。凄い不格好になっちゃうから、すぐにしなくなったわ。でも、今の身長ならこうして歩いていても様になるわ。凄く嬉しい」
本当に嬉しそうに笑うウェンディに、ヴァンまで嬉しくなってきてしまい、自然と笑みが浮かぶ。
「じゃあ、街までしっかり俺がエスコートするよ、ウェンディ様?」
「やだ、様だなんて! 気持ち悪いわ!」
「酷いな、ウェンディは。ほら、馬車に乗って。転ばないでくれよ?」
「もう、大丈夫よ。子供扱いしないでちょうだい」
ウェンディとこうして笑い合える事が幸せで、ヴァンはずっと笑みを浮かべていた。
◇◆◇
王都、貴族街。
周囲からはくすくす、と嘲笑う声が聞こえてくる。
嘲笑う声や、視線、そして下卑た視線を自身に送られている。
そのあからさまな視線達に、街を歩いていた女性は、二人の護衛に向かって声を荒らげた。
「──ちょっと! 私を嘲笑っている不届き者がいるわよ! 捕まえてきなさいよ!」
「し、しかしエルローディア様! 相手は貴族の子息や令嬢です。そのような方達を捕まえるなんて──」
「うるさいわね! 私はこの国随一である騎士、フォスターの主人よ! 私を馬鹿にすると言う事は、フォスターも馬鹿にしていると言う事! それに、侯爵家まで嘲笑われているのよ!」
──ぷっ、国随一の騎士の主人ですって。
──嫌ね、契約に失敗しているって聞いているわよ?
──恥ずかしいわよね、大勢の目の前で契約に失敗したんですって!
──例え、契約に失敗してもあの体はいいよなぁ
──ああ、一度くらいお相手願いたいもんだ。
周囲からは嘲笑の声と、自身を厭らしく舐めるような視線で見つめてくる男達の目。
それに侮辱するような声が上がっており、エルローディアは自分の体を守るように両腕で抱きしめた。
(どうして、どうして私がこんな目に……! 嘲笑われるのは義姉だけで十分よ! それなのに、どうして私が……! これも全部フォスターが契約を成功させないからいけないのよ!!)
悔しさと羞恥心で視界が滲む。
だが、ふと気付いた時、エルローディアの耳には先程までの嘲笑の声が届かなくなっていた。
「──? なに、みんな……どこを見て……」
さっきまで集まっていた視線が、別の場所に集中している。
エルローディアは、人々の視線を集める先が何なのか気になって。
自らもそちらの方に近付いて行った。
貴族街の一角。
そこには、馬車が停まっていて。
そこから降りてきた人物に、皆の視線が集中していた──。
だれかがぽつり、と呟く。
「誰だ、あの美人──まるで、妖精のようだ……」
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