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一章
42話
しおりを挟む──妖精。
その言葉を聞いた瞬間、エルローディアの顔は嘲笑に歪んだ。
「──はっ。何が妖精よ。馬鹿馬鹿しい」
あの出来損ないも「妖精姫」と呼ばれている。
妖精と言う言葉から、エルローディアはウェンディの事を思い出し、嘲笑った。
「あの出来損ないが妖精姫と言われるくらいなんだから……大した事は無いわね。……最も、今は馬鹿にする意味で妖精姫なんて呼ばれてるけど」
「エルローディア様……」
護衛の窘めるような声に、エルローディアはギッと護衛を睨み付ける。
「何よ……! 私はホプリエル侯爵家の一人娘よ! 私に生意気な態度取ったらお義父様に言いつけて、クビにしてやるからね!」
「……っ」
黙った護衛に、エルローディアはふんっと鼻を鳴らして人々の視線を集める方へ顔を向けた。
そこには、輝く程の金髪を風にたなびかせ、細身の女性が護衛の男の手を借りて馬車から降りた姿が見える。
その女性が降り立った瞬間、集まった人達の中で特に男性が見蕩れるようにほうっと息を吐いた。
(何よ。まだ顔すら見えてないって言うのに。この女がとんでもなく醜い顔だったらどうするのよ? いえ、きっとそうだわ)
そこで、エルローディアは降りて来た女性をエスコートしている騎士の姿を見て、驚きに目を見開いた。
「──あの、騎士。ヴァン・ハーツラビュル……? あの男、私がいくら誘っても私に見向きもしなかったくせに……。義姉を捨てて、他の女に──いえ、待って……」
エルローディアは、ヴァンに笑いかける女性の横顔を見て、はっとする。
さっきまでは見えなかったが、馬車から降りてこちらに向かって歩いてくるため、顔がはっきりと見えたのだ。
柔らかそうな金の髪。
長い睫毛に縁取られたそこから覗くのは、蒼い瞳。
そして、面影のある顔立ち──。
「え……っ、ウェンディ、お義姉様……?」
ぽつり、と呟いたエルローディアの声は、集まっていた周辺の人の耳にも。
そして、歩いて来ていたウェンディとヴァンの耳にもしっかりと入った。
美しい女性──ウェンディの蒼い瞳が、エルローディアを捉える。
ウェンディに倣い、ヴァンの目もエルローディアを捉え、不快感を顕に細められた。
「──ひっ」
ヴァンの冷たく、怒気の籠った視線にエルローディアの背筋が震えた。
情けない声を漏らし、ウェンディとヴァンが歩いて来るのを見て、エルローディアは思わず逃げ出してしまった。
周囲に集まった者達は、ウェンディを信じられない面持ちで見ている。
あれが妖精姫? だとか、嘘だろ。だとか、話している声が聞こえてくる。
「ウェンディ……、大丈夫か?」
ヴァンに心配そうに話しかけられたウェンディは、にこりと笑みを浮かべ「大丈夫」と答える。
「もう、家の事も……あの家に住んでいた人達の事も気にしていないわ。ヴァン、早く買い物に行きましょう」
「ああ。そうしようか、ウェンディ」
「私ね、あの家から持ち出したかつてプレゼントしてもらった宝石とかを持ってきたの。全部売っちゃえば、ある程度の金額になると思うわ。伯爵家にお世話になるんですもの。自分の物は自分で購入するし、置いて頂くお礼はするわ」
「そっ、そんな他人行儀な……! そのっ、ウェンディは俺が養うし……、気にしなくて全然──」
「ねえ、ヴァン! 伯爵は何がお好きかしら? ヴァンのお兄様は? お酒とか……そういう物をお贈りしたら喜んで下さる?」
ヴァンのごにょごにょとした言葉は、ウェンディに全く届いていない。
楽しそうにウェンディに話しかけられ、ヴァンは困ったような笑みを浮かべつつ「多分喜ぶと思うよ」と答えた。
「良かったわ。それなら、伯爵と、ヴァンのお兄様への贈り物を先ずは買いましょう!」
ぐいぐいと腕を引っ張るウェンディに促され、ヴァンはウェンディに着いて行った。
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