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二章
13話
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あれから、小一時間程。
機嫌良さげに歩くウェンディを、ヴァンは後ろから見つめていた。
「──ヴァン! とっても良い買い物が出来たわ。今日は付き合ってくれてありがとう!」
くるり、とウェンディが振り向いた。
ウェンディは満面の笑みを浮かべ、ヴァンにお礼を伝える。
時刻は、夕方に差し掛かる頃合。
沈み始めた夕日が、ウェンディを優しく照らしていて。
オレンジ色に染まった空が、ウェンディの耳で揺れているイヤリングに反射してキラリ、と光った。
ウェンディのイヤリングについている宝石は、紫色。
紫は、ヴァンの瞳と一緒だ。
ヴァンはウェンディに向かって軽く手を上げると「こちらこそありがとう」と答えた。
ウェンディが振り向いた先にいるヴァンの耳にも、ウェンディと似たようなイヤリングが揺れている。
ウェンディの瞳の色と同じ青い宝石が、ヴァンの耳で揺れるイヤリングのアクセントになっていた。
西日を受け、ヴァンの耳にあるイヤリングがキラキラと光を反射して光っている。
その光景を見たウェンディは、胸がむず痒くて。
だけど、とても嬉しくて、胸が暖かくなる。
「ヴァン。早く伯爵邸に戻って、ナミアにお土産を渡しましょう?」
「ああ、そうだな。ナミアもウェンディが帰ってくるのを首を長くして待っているかも」
「ふふっ、そうだったらいいなぁ」
「そうに決まってる」
ウェンディの手をヴァンは優しく握る。
最早、2人で手を繋いで歩く事が当然のように、しっくりとくる。
ウェンディは自分の隣を歩くヴァンの横顔をちらり、と見上げ、ヴァンの耳で揺れている揃いのイヤリングを見てはにかんだ。
気恥しいけど、ヴァンとのお揃いは、とても嬉しい──。
ウェンディは自分の耳で揺れているイヤリングを、手を繋いでいない方の手でちょこんとつついて小さく笑みを零した。
◇◆◇
「──最悪だ。どうしてこんな風になるまで、放置していたんだ。父上も母上もおかしくなったとしか思えない……」
レックスは、頭を抱えてぐしゃり、と書類を握りしめる。
ホプリエル侯爵家の財政は、芳しくなかった。
領民から不当な税金を徴収し続けた罪で賠償金を支払う羽目にはなったが、元々侯爵家は裕福だったはずだ。
今回の件で、領地も返還してしまい、収入の激減にレックスは頭を悩ませていた。
収入が減っても、税は納めねばならない。
「──……そもそも、どうしてこんなに財政難に陥っていたんだ……」
ウェンディに異変が起きた年。
その年の医療費の莫大な支出はまだ分かる。
ウェンディのためにあちこちの医者を手配したのだろう。
娘を助けるためなのだから、それは分かる。
だが、それ以降も増え続ける支出に、レックスは眉を顰めた。
「母上の……不要な宝飾に……父上はおかしな事業に手を出して……失敗しているのか……」
資料を確認していたレックスは、なるほど、と納得する。
それに、調べていけば調べる程、義妹エルローディアとかつてのウェンディの専属護衛騎士だったフォスターに関わる支出が多い事に気が付いた。
「……エルローディアも、湯水の如く金を使っていたのか……なるほどな……それに、フォスターへの給金も、多過ぎる。そもそも、侯爵家の私兵騎士を纏める役職に就かせていたからといって、見栄を張りすぎだ」
これはどうしたものか、とレックスは椅子に深く座り込み、悩む。
「パーティーは、ホプリエル侯爵家の権威を保つために盛大に開かねばならない……」
そもそも、由緒ある侯爵家が財政難に陥る事すら醜聞物だ。
そこで、レックスはある書類を見つけてそれを怒り任せに握りつぶした。
「父上も……財政難は承知していたのだな……。だからこそ、ウェンディを金で売ろうとしたのか……」
見つけたのは、ウェンディを餌に、嫁がせようとしていた書類だ。
相手は、莫大な資産を持ってはいるが、変態で有名な男性貴族。
しかも、以前のウェンディの幼い容姿をとても好んでいたらしい。
相手方が提示した金額に目が眩み、前侯爵はあっさりとウェンディを嫁がせる事に決めたようだった。
「父上も……母上も……蟄居では生ぬるい……。家族を売るなど、言語道断だ」
ふつふつと怒りが込み上がってくるレックスの耳に、聞きたくもない女性の声が届いた。
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