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二章
14話
しおりを挟む「──お義兄様! レックスお義兄様!」
「……エルローディアか」
パタパタ、と足音を立ててレックスの居る書斎に近付いて来る気配。
エルローディアはノックもせずに書斎に駆け込んでくると、レックスの姿を見て速度を上げた。
「もう限界なのです、お義兄様!」
そのままの勢いで抱きついてこようとしたエルローディアの顔を鷲掴み、レックスは白けた目でエルローディアを見る。
(なるほど……こうやって以前のフォスターにも取り入ったのか)
レックスは、オードゥライヤに帰国して、侯爵家に戻ってからまだ日は浅いが、エルローディアの人となりをある程度察していた。
エルローディアは、持ち前の美貌と体を使い、周辺の男性に取り入っていたのだろう。
それは、この家で唯一、侯爵家の血を継がない彼女なりの処世術だったのだろう。
元来、男は綺麗な女に弱い。それに、女性には紳士的に接せねばならない。と幼い頃から貴族男性は教え込まれて来ている。
(そうやって、自分の地位を確立してきたのだろう、エルローディアは。だが──)
だが、とレックスは鷲掴んだエルローディアを冷たい目で見下ろす。
(立場を確立するのは頷ける。だが、それを俺の妹を押しのけ、蔑み、踏み台にしたようなこの女のやり方は気に入らないし、許せぬものだ)
家族は大事にせねばならない。
それに、レックスはこの侯爵家の嫡男として生まれた。
妹は、守らねばならない大切な存在だ。
本来ならエルローディアも義理の妹として守る義務がレックスにはあった。
実際、レックスも国外で生活している時はそう考えていた。
帰国が決まり、侯爵家の現状を知るまでは。
レックスは呻き、暴れるエルローディアから手を離すと、彼女に触れられない距離まで退がり、腕を組んだ。
「何が限界だと言うんだ、エルローディア。お前がみっともない真似をして牢に入れられ、醜聞まみれになったお前をこの邸に置いてやっていると言うのに、何が限界だと?」
「そっ、その罪こそでっちあげですわレックスお義兄様! わ、私はヴァンに部屋に呼ばれたのです! だ、だから……その、そう言う意味で呼ばれたからこそ、ヴァンの部屋に行ったのに……っ」
それなのに、私を痴女扱いして牢に入れるなんて! とエルローディアは咽び泣く。
「……そもそも、お前はフォスターと恋仲だったのに、どうしてヴァンの部屋に行く必要がある? それに、ヴァンはウェンディしか見えていない。ヴァンからしたら、ウェンディ以外の女性は微塵も興味がない」
きっぱりと言いきられ、エルローディアはぐっと口を噤む。
どうして長年国を離れていたレックスが、ヴァンとウェンディの関係性をそこまで把握しているのか。
それに、一体どこの誰がレックスにフォスターと己が恋仲だったと知らせたのか──。
そんな物は、この国に住む貴族達であれば誰でも周知の事実だ。
フォスターがエルローディアに夢中だった事も。
あの祭典の最終日の模擬戦で、フォスターがウェンディではなく、エルローディアに硝子の薔薇を贈った事も、国中に知れ渡っているのだ。
レックスはそれらの事を淡々とエルローディアに伝えた。
「お前が、ウェンディの護衛騎士フォスターに色目を使い、ウェンディからフォスターを奪った事はもう調べがついている。だからこそまたウェンディから護衛騎士であるヴァンを奪おうとしたのだろう? 同じ事を繰り返すとは……侯爵家の娘として暮らしていたのに、学習能力が無い女だ。これ以上惨めな姿を晒すんじゃない。まだ、お前の嫁ぎ先は決まっていない。決まるまで部屋で謹慎していなさい」
「ちょ、レックスお義兄様……! 私は嫁がない……っ! 嫁いでなんかやるもんですか!」
レックスが手を叩くと、使用人が書斎に入ってきて、喚くエルローディアを捕まえ、部屋から引きずり出す。
「絶対に! 絶対に私は結婚なんてしません! 侯爵家に居るんだから!」
エルローディアの大きな声を背に、レックスは疲れたように溜息を零し、額を押さえた。
◇
「エルローディア嬢、部屋で大人しくされていてくださいね」
レックスに指示をされた使用人は、エルローディアを部屋に押し込むと、部屋の扉に厳重に鍵をかけ、魔道具で魔法を発動した。
それは、レックスが他国から持ち帰った強力な魔法を無効化する貴重な魔道具だ。
いくらエルローディアが攻撃魔法で扉をぶち破ろうとしても、この魔道具がある限り外に出る事は叶わない。
エルローディアが脱走した事を受け、この貴重な魔道具を使ったのだろう。
エルローディアはぎりっと自分の爪を強く噛み、考えを巡らせる。
「……フォスター、フォスターがそろそろ出てくるはずだわ……どうにか彼と連絡を取って、この状況を変えないと……!」
侯爵家のパーティーが開催されるまで、残り僅か。
その事をまだ知らないエルローディアは、策略を巡らせた。
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