26 / 79
一章
26
しおりを挟むディオンはリズリット達が向かったテーブル席に向かいながら、リズリットに付けた鳥の精霊を通じて三人の会話を警戒──盗聴する。
鳥──鶺鴒のような見た目をした精霊は、ふっくらとした体でリズリット達が着いた席の頭上にあるシャンデリアの上で体を休めているらしく、リズリットとリリーナの話し声がしっかりとディオンの耳に届いて来る。
「えっと……、リリーナ嬢は、何故私と話を……?」
戸惑い混じりのリズリットの声が耳に届き、ディオンはリズリットとリリーナの会話を聞き漏らさぬように集中する。
ディオンが会場の裏手、フロアからは四角になる通路を歩き、階段を降りながらフロアへと視線を向ければ、ハウィンツに近付こうとしている令嬢達は多いらしく、そわそわとした雰囲気を醸し出しながらリズリット達が座る席に向かおうか、としている者達が多い。
ハウィンツは、リズリットとリリーナから少し離れた壁際、リズリットの背後の壁際に背を預けひっそりと気配を消しているが、元々が目立つ容姿と、会場の目立つ場所からこの場所に移動しているのをしっかりと周囲の令嬢に見られてしまっているので暗がりに居ながら多くの令嬢の視線を集めている。
(──あれでは、ハウィンツの元に他の令嬢がやってきてしまうのは時間の問題だな。俺が隣に行って話せば煩わしい接触から避けられるか……?)
ディオンはそう考えると、階段を降りる速度を上げた。
リズリットから何故話をしたいのか、と問われてリリーナはぱちくりと瞳を瞬かせると近くのワゴンから持ってきた果実水が入ったグラスに唇を付けてからにっこりと微笑み返した。
「以前から、お話してみたいと思っていたのです……。リズリット嬢とは同い年ですし、実は絵画のスクールも一緒でしたのよ?」
「──え!? そ、そうだったのですね……。申し訳ないです……全く気付いていなくって……」
リズリットが通っている絵画スクールにリリーナも通っていたとは初耳である。
リズリットは人の視線を気にするあまり、俯く癖があるせいか、同じ絵画スクールに通っていた、と言われても参加者の顔を認識していなかったのだ。
「ふふ、リズリット嬢はいつも真面目に授業を受けておりましたし、周囲の方とお喋りもされていませんでしたので、お気付きになっていないのも仕方ないですわ」
「リズリット嬢はいつも真面目にスクールに通っているから仕方ないな……」
リズリットと出会って、リズリットの行動を見守り始めて直ぐ、ディオンはリズリットが通う絵画スクールも何処にあり、いつ通っているのかも把握済だ。
リズリットが描く個性的な絵画に心打たれ、いつか自分を描いてくれれば、と思っていたが、このままリズリット達の前に姿を表し、ハウィンツと会話をしながらリズリット達の会話を聞いたていで自分の絵姿を依頼する流れが出来るかもしれない、とディオンは密かに胸を弾ませる。
「ああ、でも駄目だな。リズリット嬢に見詰められては心臓が止まるかもしれん……」
至極真面目にディオンはそう呟くと、階段横にある壁際に背を預けているハウィンツの姿を確認し、唇を開いた。
「そこに居るのはハウィンツか? 奇遇だな」
ハウィンツは、突然自分に話し掛けて来たここ最近聞き慣れた男の声音に反応して、びくりと体を跳ねさせた。
「──は、? ディオン……!?」
「そんな所でどうした?」
ディオンは驚いたような表情を浮かべながら、しれっとそう問い掛ける。
正面からハウィンツに近付いて来ていた夜会に参加していた大勢の令嬢達は、ディオンが突然現れた事に黄色い悲鳴を上げ、騒いでいるのが目視出来る。
突然のディオンの登場に、それまでテーブル席で会話をしていたリズリットとリリーナも驚いているようで、リズリットは驚きに瞳を見開いている。
(リズリット嬢の瞳が今にも零れ落ちそうな程見開かれているな……そんな表情をしているリズリット嬢も愛らしい)
最近は様々な表情を見る事が出来ているな、と何処かディオンはほくほくとした表情でちらり、とリズリットの正面に座るリリーナに視線を向ける。
「──……?」
リリーナも、リズリットと同じく突然ディオンが姿を表した事に驚いているのだろう。
だが、驚いているには些か態度がおかしく、ディオンを真っ直ぐ、只管に凝視しておりその瞳は薄らと潤んでいる。
(何だ……? 熱か?)
ディオンが僅かに首を傾げる横で、ハウィンツは納得言ったように「なるほどな」と一言呟いて、リリーナに視線を向けた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,052
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる