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一章

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 リリーナの自室の窓からは庭先が見渡せる為、リリーナは窓へと駆け寄りがばり、と窓に手を付いて庭先を視界に入れるとぎょっとして悲鳴を上げるように叫んだ。

「なっ、何で騎士団が居るのよ……っ!」

 騎士団とは言っても、調査を専門とする騎士団の団服を着ている隊の者達は、上官の指示を受けて続々と邸内へと入って来ている様子が見える。

 何故、自分の家が国の調査を専門とする騎士団が派遣されているのかが本当に分からないのか、それとも分からない振りをしているのかは判断出来ないが、リリーナは慌てた様子で窓から振り返ると、ディオンが蹴破る勢いで粉々に壊した部屋の扉へと視線を向ける。

 この期に及んでまだ、逃げるつもりなのだろう。
 何とかディオンの背後にある扉の方へと逃げ出そうとじりじり近付いて行くリリーナに、ディオンは呆れた溜息を吐き出す。



 リリーナの窓から見下ろす事が出来る庭先には、リズリットの兄であるハウィンツも姿を見せていて、庭にいた令嬢達は突如姿を表したハウィンツにざわついている様子が見える。

(このままじゃあ、本当に捕まっちゃう……っ、どうしよう、ディオン様が抱えているあの女に雷の魔法を放って、注意を逸らす……? 一瞬だけでも、ディオン様の注意を逸らせば、何とかなるかもしれない!)

 リリーナは、良い考えを思い付いたとばかりに口端を笑みの形に歪めると、思い立ったら即行動とばかりに、リズリットに向かって先程取得したばかりの雷の魔法を放った。

「──! 馬鹿な事を……っ」
「──っ、」

 リリーナの行動に、ディオンは小さく舌打ちをする。

 この様な場で、再び精霊の力を悪用して人間を害そうと魔法を放った。
 そうすれば、リリーナに祝福を与えた精霊がどうなるのか──。
 ディオンは、苦しそうにしている中級精霊に視線を向けると、悔しそうに表情を歪めた。

「あらやだ。本当に攻撃してきたわね」

 自分に向かって放たれた電に、リズリットが体を強ばらせるとリズリットの肩に居た白麗がこの場に似つかわしくないのんびりとした口調で声を発した。

 瞬間、白麗が小さく動くと、リズリットに迫っていた電がパンッと小さな破裂音を立てて一瞬で消滅した。

「──あら、……え?」

 戸惑いの声を上げたのは、リリーナでは無く何故か白麗で、当の白麗は驚愕に目を見開き、リズリットを凝視している。

「えっ、あ、白麗さんが今のを……?」

 咄嗟にディオンにしがみついていたリズリットが、そろり、とディオンの胸元から顔を上げると、不思議そうに自分の肩にいる白麗に話し掛けるが、雷を放ったリリーナが発狂したように声を荒げた。

「──なんっで! 何で、雷の魔法がっ! どうなっているのよ!」

 リリーナが暴れ、再度リズリットに向かって攻撃魔法を放とうとした時。
 邸に突入して来ていた複数の足音がすぐ側まで迫って来ており、リズリットとディオンが居る部屋へとなだれ込んできた。





 それからは、一瞬だった。
 リリーナが騎士団の面々に反応するより早く、騎士団の面々が素早くリズリットとディオンの横を駆け抜け、驚愕に満ちた表情を浮かべていたリリーナをその場で地面へと引き倒し、拘束した。

 何事か喚こうとしていたリリーナの唇に素早く布を噛ませ、口を封じると手首に魔法を放つ事を禁止させる手枷を素早く嵌める。

 リリーナから攻撃される心配が完全に無くなった事を確認すると、ディオンはそこでやっとリズリットを抱き上げていた体勢から地面へと下ろして突入して来た騎士達に言葉を掛けている。

 リズリットがディオンや騎士達の邪魔にならないように部屋の隅に移動して所在なさげに立っていると、リズリットの肩にいた白麗が話し掛けて来る。

「──ねえ、リズリットちゃん」
「はい、? 何ですか、白麗さん」
「さっき、あの女の子から魔法を放たれた時に、貴女の中から──いえ、貴女の側? かしらね? すっごく強い意識を感じたのだけど……何か心当たりはあるかしら?」
「──え、? 強い、意識?」

 白麗の言葉に、リズリットがぽかん、として言葉を返すと白麗は慌てて首をブンブンと横に振った。

「いえっ! いいのよ! 気にしないで大丈夫よっ」

 リズリットに自覚が無い事を確認すると、白麗は慌てたように言葉を紡ぐ。
 自分自身に全く記憶に無いのだろう。
 これ程までに強い意識がリズリットから感じられたのは初めてで、白麗はその意識──存在に、ひやり、と汗をかく。

 この大きな意識の正体に、触れてはいけないような気がして、白麗は黙り込んでしまう。

(……今は感じないけれど……っ、これっ、リズリットちゃんから感じた気配は……っ)

 寧ろ、何故今までこんなに近くに居ながら気付かなかったのだろうか、と白麗は混乱する頭で考える。

(いえ、寧ろ気付かないように細心の注意を払っていたのかもしれないわね……良く考えればおかしいのよ、リズリットちゃんの側はこんなにも居心地が良くって、とても安心する気配を持っているのに……っ)

 白麗は、未だに騎士達と話続ける自分の主であるディオンにちらちらと視線を向け続けた。
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