俺この 番外編 / 天定&永海

RiO

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天定から永海へ

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「永海、戻ったか。」
「あ、あぁ…。」

部屋に着くと、衣紋掛けに吊るされている見慣れた緑の着物が目についた。
主の声がする方を見ると、天定は室外の木造スペースでくつろいでいる。
先程の気合はどこへやら。
主を直視できず、視線が泳ぐ。
自意過剰と思われても仕方がない。
それくらい今、永海はこんなにも天定を意識してしまっている。

こだわりのある装飾品が飾られている、隅々まで手入れが行き届いている綺麗な部屋。
2組の敷き並べられている白いシーツの布団を見ると、口から心臓が飛び出してきそうである。

「永海もこっちへ来い、綺麗な景色が見えるぞ。」

"こっちへ来い”と言わないでくれ。
俺、心が持たない。

「へ…へぇ……。ちょっと待って、すぐ行くから。」

"すぐ”と言いながらも、民の服を脱ぐことで少しでも時間稼ぎ作戦に出る。
でも時間にして約1分。
全然時間稼ぎにならず、肩を落とす。
適当に脱き散らかし、天定のところに来るとひんやりとした風が優しく吹いていた。

ここは昨日着いた、和の国にある大きな街の一つ。
人助けのご縁もあり、数ある有名宿の一つに宿泊をさせてもらっている。

「すごいよな。宿主の話では、洋の国の建築を参考に作ったそうだ。“ばるこにい”っていう造りらしい。」
「へ…へえ。緑側とはまた違うんだな。」

そのバルコニーには転落防止用なのか手すりで囲われており、小さな座卓と座布団がある。
空いているところに胡坐で座ると、天定がお猪口を手前に置いてくれた。

「お前も飲みな。店主が美味しい酒を持ってきてくれたんだ。」

そう言いながら、酒を注ぐ。

「天定って酒飲めたっけ……?」
「飲めないがーロニロくらいなら問題ない。それに、この酒は後味がすっきりしていて飲みやすい。永海も飲んでみろ。」

お口に酒が注がれる間、ついつい天定の手を見る。
ダメだ、意識しないようにと思えば思うほど意識してしまう。
いつもの自分はどこへ行ってしまったんだ、俺。

「永海?どうした、飲まないのか?」

天定の声にビクゥと上半身が跳ねあがる。

「の、飲むに決まってんだろ!?」

お猪口を持ち、グイッと勢いよく飲む。
「酒よ、俺に力をくれ」な思いである。

「......うめえ。」
「だろ?店主もお気に入りの酒だそうだ。あとは永海が飲んでくれないか?」
「お、おう……。」

その後、穏やかな空気が流れる。ここから見える景色は、それはそれは素晴らしいものであった。
綺麗な満月が浮かび、その明かりに照らされる幻想的な自然の風景。
人混みであふれる声や音があちらこちらから聞こえる風景から一転し、なんとも静寂なそれである。
その風景を二人で独占している今のこの状況は、逆に永海から落ち着きを奪った。

「な、なぁ天定。」
「ん?どうした?」
「い、いや別に…!よ、呼んだだけだ。」
「なんだそれ。」

自分も何してるんだと思う。
なのに、ふふっと小さく笑う天定の表情に教われているのも事実。
あぁもう、自分でも自分がわからない。
神の存在を信じているわけではないが、本当にいるのなら助けてくれよ神様…。

「永海。」

突然名前を呼ばれて、声が裏返った。

「ななな、なんだよ。」
「いや、呼んだだけだ。気にするな。」

今までこんなやり取りが一度でもあっただろうか。
自分の記憶上、無い。
こんなやり取りをするなんて、まるで恋人同士じゃないか。
ますます耐えられなくなる永海である。




「なあ、永海。」

また名前を呼ばれて、言葉での反応ではなくただ静かに天定をチラッと見る。
天定は手すりにをかけ、瞳を細めて遠くの色を見ていた。
なんとも様になる画である。

「な…なんだよ。」

天定が名前を呼んだっきり何も言ってこないので、痺れを切らす。
吹く風に、天定の髪が揺れた。

「まだ、ちゃんと伝えてなかったなぁと思って。」

怖い、その先の言葉が怖い。
知りたい、早く言ってくれ。
頼む、言わないでくれ。
相反する2つの気持ちがせめぎ合い、一気に熱が冷めていく感覚である。

「永海、お前は俺の友であり従者だ。でもこの前の一件でお前と関係を持って……。いくら決心したとはいえ、言葉にして伝えていなかったから言わせてほしい。」

…どくん…どくん………どくん…
天定が永海の方を向き、目が合った。

「俺は、永海を好いている。これからも俺の傍にいてほしい。」

自分の耳を疑う言葉を向けられる。
天定を見つめる永海の目じりから、一筋こぼれるものがあった。



ーーー心を許しているひとがいるのね。



その人物から想いを打ち明けられ、それだけで永海は言い表せられない気持ちに満たされた。
初めての友達である彼。
そして周りの反対を押し切って従者に選んでくれた彼。
そんな彼が自分を好きという、これ以上の幸せがあっていいのかと思ってしまう。

「なに泣いてるんだよ。」
「だって…俺、俺なんかが……。」

本当に自分が選ばれて良いのだろうかと思っている永海の目元へ片手を伸ばし、指先で流れるものを拭う。

「良いに決まっているさ。俺は、永海が良いんだ。」

そのままの手で永海が落ち着くまで、天定は頭を撫で続けた。
時間の経過と共に少しずつ気持ちが落ち着いてきた永海は、目元の涙を腕で何度も拭う。

彼の様子を見て手を離すと、天定はお互いの猪口に一口分の酒を注ぐ。
丁度空になった酒瓶を隅に置き、永海に持たせたお猪口に自分の物をこつんと軽く当てた。

「こんな俺だが、これからも、末長くよろしく頼む。」
「……俺の方こそ、ずっと……。」

その言葉は限の奥に張り付いて出てこず、頷くことで気持ちを示す。
視線を交えて微笑み合った後、お互いにこの場後の酒を飲み交わした。
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