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呪樹に囚われた従者
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思った以上に街は近く、商人は2人を自分の店へと真っ直ぐに案内した。
外観からして一際大きく見える木製の建物、中に入ると野菜や果物が入っている籠が隅の方にいくつも並べられている。
これは住民から買い取った物で、よその街へ売りに出している商品であると教えてくれた。
だがその商品は蔓の被害に遭ってしまい、共に地中に飲み込まれてしまった馬車のことも考えると大損と肩を落としていた。
「2階は客室になっております。今日ももうすぐで夜になりますし、泊まって行ってください」
お二人は命の恩人ですから、と宿泊を促す男。
ここは素直に泊めさせてもらうことにした天定と永海は、久しぶりの人の手作り料理をいただいた。
日が沈み、夜。
商人の男に頼んで本を一冊貸してもらった天定は、蝋燭の灯りで読書をしていた。
月明かりの下で永海と手合わせをしようかとも考えたが、たまには静かに過ごそうという思考に至る。
自分がまだ永海と出会う前やその後、そして今は亡き故郷を離れて旅をする直前までこうして蝋燭の灯りだけで勉学を励んだり書を読んだりしていた。
当時が懐かしいと口元が緩む。
ふと、ページを捲る指が止まる。
本を閉じ、移動して障子を開けると綺麗な月が浮かんでいた。
「天定、どうした?」
屋根の上にいた永海が障子の左右に開く音を聞き、屋根から逆さまに顔を出す。
「いや、急に月を眺めたくなってな。」
「ふーん。」
なら良いと、永海は顔を引っ込めた。
何かと自分を気にかけてくれる彼の存在に、何度助けられたことだろう。
「…お侍さま。」
ふと、襖が開いた。
そこにいたのは推定10歳前後の女の子で、襖と襖の間から室内を覗き込んでいた。
「どうしました?」
「あの……聞いてほしいことがあるの。」
天定は障子をそのままに襖の方へ近づくと、自ら襖を開いて女の子に入るように伝える。
女の子は緊張しているのか、軽く頭を下げてからゆっくりと中に入るものの襖の前で正座をする。
襖を閉めてから天定は女の子の斜め前に胡座で座り、女の子が話し出すタイミングを静かに待つ。
「お侍さま、あの……その……。」
話出しにくいのか、口籠もりながら視線を下げる。
でもここでイライラする天定ではなく、変わらない声音で語りかけた。
「大丈夫です、ここには私しかいません。貴女が話すことは、貴女と私だけの秘密です。」
「…本当?」
「私は嘘はつきません。」
数秒流れる、間。
ゆっくりと目を伏せた彼女は前を向くと、天定の目を見て話出した。
「お父様の様子がおかしいの。お母様やお手伝いさん達にも言ったのに、誰も信じてくれなくて……。」
「お父上の様子がおかしい、とは?」
話の流れからして、彼女の言う父というのは永海が助けた商人ーーー天定と永海をここに案内してくれた彼のことだろう。
「何がってわからないけど…でも、どこかいつもと様子がちがうの。お母様には言えてないけど、さっきもお父様がどこかへ出ていくところが見えて…。いつもは明日の準備とかで忙しくしているのに、怖くて…。」
自分にはわからない、彼女が感じる父親の違和感。
それは彼女の勘違いかもしれない。
だが万が一、それが勘違いじゃなかったら。
「わかりました。貴女のお父上がどこへ行ったのか、調べてみます。」
この言葉に、彼女の表情が一気に明るくなった。
「し、信じてくれるの?」
「もちろんです。影でこっそりと、そういう事を得意とする者がいますので。」
最後に彼女から、父がどの方角へ向かって行ったのかを確認した。
本来なら彼女もすでに横になる時間だと言うので、あとは任せて彼女には寝てもらうことに。
すると、屋根から逆さまに顔を出して室内を覗き込む従者に声をかけられた。
「あのおっさんの居場所を調べれば良いのか?」
「……頼めるか?」
「まぁ、やってみるさ」
先ずはどこへ向かったのかを探る為、永海は顔を引っ込めて体を起こすと屋根から別の建物へと跳躍し、早速行動に移る。
屋根伝に移動しつつ、道の繋がりを確認する。
当たり前だが、屋根から見下ろせる場所に探し人の姿は無い。
時間帯ということもあるのだろう。
大きな街なのに行き交う人はほとんどおらず、ルートによっては誰ともすれ違っていない可能性もある。
「あの嬢ちゃん、行き先は知らなさそうな感じだったしなー。」
永海は空を見上げる。
相変わらず雲の少ない、綺麗な夜空。
誰かと会うにしても、何か灯りがあるだろう。
屋根の上で片膝をつき、右手を瓦に置く。
目を閉じ、めずらしく真剣な面で探すのは対象者の影。
家内外問わず、明かりによって影が出来ている者が探し人であるか否かを瞬時に判別して行く。
永海が行き場の知らない人物を探し出せる所以である。
ただ、真っ暗な場所にいるなど影がない者に関しては別の話だが。
「ーーーーーいた。」
永海は商人の影を感じ取った方向を見た。
外観からして一際大きく見える木製の建物、中に入ると野菜や果物が入っている籠が隅の方にいくつも並べられている。
これは住民から買い取った物で、よその街へ売りに出している商品であると教えてくれた。
だがその商品は蔓の被害に遭ってしまい、共に地中に飲み込まれてしまった馬車のことも考えると大損と肩を落としていた。
「2階は客室になっております。今日ももうすぐで夜になりますし、泊まって行ってください」
お二人は命の恩人ですから、と宿泊を促す男。
ここは素直に泊めさせてもらうことにした天定と永海は、久しぶりの人の手作り料理をいただいた。
日が沈み、夜。
商人の男に頼んで本を一冊貸してもらった天定は、蝋燭の灯りで読書をしていた。
月明かりの下で永海と手合わせをしようかとも考えたが、たまには静かに過ごそうという思考に至る。
自分がまだ永海と出会う前やその後、そして今は亡き故郷を離れて旅をする直前までこうして蝋燭の灯りだけで勉学を励んだり書を読んだりしていた。
当時が懐かしいと口元が緩む。
ふと、ページを捲る指が止まる。
本を閉じ、移動して障子を開けると綺麗な月が浮かんでいた。
「天定、どうした?」
屋根の上にいた永海が障子の左右に開く音を聞き、屋根から逆さまに顔を出す。
「いや、急に月を眺めたくなってな。」
「ふーん。」
なら良いと、永海は顔を引っ込めた。
何かと自分を気にかけてくれる彼の存在に、何度助けられたことだろう。
「…お侍さま。」
ふと、襖が開いた。
そこにいたのは推定10歳前後の女の子で、襖と襖の間から室内を覗き込んでいた。
「どうしました?」
「あの……聞いてほしいことがあるの。」
天定は障子をそのままに襖の方へ近づくと、自ら襖を開いて女の子に入るように伝える。
女の子は緊張しているのか、軽く頭を下げてからゆっくりと中に入るものの襖の前で正座をする。
襖を閉めてから天定は女の子の斜め前に胡座で座り、女の子が話し出すタイミングを静かに待つ。
「お侍さま、あの……その……。」
話出しにくいのか、口籠もりながら視線を下げる。
でもここでイライラする天定ではなく、変わらない声音で語りかけた。
「大丈夫です、ここには私しかいません。貴女が話すことは、貴女と私だけの秘密です。」
「…本当?」
「私は嘘はつきません。」
数秒流れる、間。
ゆっくりと目を伏せた彼女は前を向くと、天定の目を見て話出した。
「お父様の様子がおかしいの。お母様やお手伝いさん達にも言ったのに、誰も信じてくれなくて……。」
「お父上の様子がおかしい、とは?」
話の流れからして、彼女の言う父というのは永海が助けた商人ーーー天定と永海をここに案内してくれた彼のことだろう。
「何がってわからないけど…でも、どこかいつもと様子がちがうの。お母様には言えてないけど、さっきもお父様がどこかへ出ていくところが見えて…。いつもは明日の準備とかで忙しくしているのに、怖くて…。」
自分にはわからない、彼女が感じる父親の違和感。
それは彼女の勘違いかもしれない。
だが万が一、それが勘違いじゃなかったら。
「わかりました。貴女のお父上がどこへ行ったのか、調べてみます。」
この言葉に、彼女の表情が一気に明るくなった。
「し、信じてくれるの?」
「もちろんです。影でこっそりと、そういう事を得意とする者がいますので。」
最後に彼女から、父がどの方角へ向かって行ったのかを確認した。
本来なら彼女もすでに横になる時間だと言うので、あとは任せて彼女には寝てもらうことに。
すると、屋根から逆さまに顔を出して室内を覗き込む従者に声をかけられた。
「あのおっさんの居場所を調べれば良いのか?」
「……頼めるか?」
「まぁ、やってみるさ」
先ずはどこへ向かったのかを探る為、永海は顔を引っ込めて体を起こすと屋根から別の建物へと跳躍し、早速行動に移る。
屋根伝に移動しつつ、道の繋がりを確認する。
当たり前だが、屋根から見下ろせる場所に探し人の姿は無い。
時間帯ということもあるのだろう。
大きな街なのに行き交う人はほとんどおらず、ルートによっては誰ともすれ違っていない可能性もある。
「あの嬢ちゃん、行き先は知らなさそうな感じだったしなー。」
永海は空を見上げる。
相変わらず雲の少ない、綺麗な夜空。
誰かと会うにしても、何か灯りがあるだろう。
屋根の上で片膝をつき、右手を瓦に置く。
目を閉じ、めずらしく真剣な面で探すのは対象者の影。
家内外問わず、明かりによって影が出来ている者が探し人であるか否かを瞬時に判別して行く。
永海が行き場の知らない人物を探し出せる所以である。
ただ、真っ暗な場所にいるなど影がない者に関しては別の話だが。
「ーーーーーいた。」
永海は商人の影を感じ取った方向を見た。
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