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呪樹に囚われた従者/その夜の話
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そして一方の永海はと言うと。
「……はぁ……。」
先程の自分の言葉を後悔していた。
恥をしのんで伝えた先程の自身の言葉。
なぜその時の自分がそう言ったのか、自分自身が一番わからない。
ただ天定に抱きしめられた時、今まで意識したことも感じたこともないほどに、いい匂いがした。
これまで幾度となく山賊や盗賊、魔物と退治して時にはどちらか一人が怪我をした時に、体を密着させてお互いを支え合ったりしたこともあるのに。
その時は、先ほどみたいに感じなかったのに。
なぜか、本当になぜかそう感じた。
ただでさえ敏感で疼く状況なのに、密着した上で天定の匂いに反応してしまった永海は、脳を混乱させていた。
体の奥の部分が、天定を欲していると感じてしまったのである。
だから、永海は恥をしのんで天定にお願いをした。
ーーーーーお前に…天定に抱いてほしい、と。
でも今、それを伝えてとても後悔している。
自分が伝えた直後、天定は自分から離れて出ていってしまった。
考えたいと言っていたが、答えはNOに決まっている。
すごく切なくて、辛い。
「……言うんじゃ、なかった……。」
天井に向かって、掠れた声でつぶやく。
絶対に嫌われた。
唯一、一緒にいたいと思える相手。
何があっても、何かが起きたとしても一番に守りたい相手。
"1人だけ心を許している人がいるのね?"
自分を拘束していた樹に言われた、あの言葉を思い出す。
今思い出しても腹立つし苛立つ。
「そうだよ…悪ぃかよ……。」
言葉にして吐き出さないとやってられない。
出来るなら、時間を戻して無かったことにしたい。
もしくは、あの時に「何言ってんだ」と普段のように呆れて笑ってほしかった。
考えさせてくれって言っていたが、この待つ時間がどれほど心細くて怖いことか。
「……天定……。」
この天定への気持ちが何なのかは、分からない。
ただ、天定に抱かれたいと思ってしまったのは変わらない事実。
永海は目を閉じ、1人苦しみに耐える時間を過ごした。
気づいたら襖の向こうから誰かが近づいてくる足音がして、永海は目を開いた。
どのくらいの時間が経過したかなど、感覚が狂っている永海には分からない。
少しでも襖の方を見ようかと視線の向きを変えるが、その細やかな動き一つでさえ首筋がピリピリとする。
「永海、入るぞ。」
声が聞こえた後すぐに開かれた襖。
そこにいたのは、永海の主だった。
先程は緑の着物を脱いだ時の普段の姿だったが、今は永海と同じ白の寝間着姿である。
また一つに結っている髪が今は下ろされていて、普段と異なる天定の姿に永海は目を釘付けにされた。
「天定……なんで……。」
何で、の言葉の後に何を言おうとしたのか分からない天定だが、静かに部屋に入り襖を閉めると退室した前と同じで布団の傍に座るのではなく、しゃがんで片膝をつく。
永海への掛布団を一気に剥ぎ取り適当にその辺りに置くと、天定は永海の脚に跨った。
膝をついてから上体を前へ倒すが、永海の顔の横にそれぞれ手を置いて真上から見下ろす。
天定の長い髪がハラリと垂れてきて、それが永海には艶っぽく見えてしまった。
「あま…さ……。」
永海は思考が追いつかず、状況を飲み込めないと言うように驚き眼で天定の目を真っ直ぐ見上げている。
天定の整った顔が少しずつ近づいてくる。
が、思わず永海は顔を横へ背けた。
さらに天定に見られたくないと心理が働き、手で顔を隠す。
「…や、やめろ…!」
お願いしてきた本人が拒否を示す言動に、天定は動きを止めて少しだけ目を見開いた。
「永海?」
「さっきの…!無し!やっぱ…っ…無しで!」
亡くなったとはいえ天定は頭領の息子であり、自分は一忍び。
従者が主にお願いをして良い内容ではない。
身分もあるし、自身が正常な判断や思考が出来ない時だからなのだろうか。
色んなことが混同し、元々余裕が無かった永海はさらに余裕を失った。
「だから……もういい……。行けよ……。」
拒否を示した言葉とは真逆で、弱々しく部屋から出て行くようにと言われると天定は数秒間、そのままの姿勢で永海を見つめた。
しかし天定は部屋から出ることも、そもそも永海の上から動こうとはせず、寧ろ一度上体を起こして永海の手を掴むと彼の顔の横に押し付けた。
驚いた永海は反対の手で天定を退かそうとしたが、今は天定の方が力があり、その手も顔の横に押し付けられてしまう。
「………永海。俺を見ろ。」
横を見ていた永海が少しだけ顔を天井の方へ戻すと、瞳を天定の方へ向ける。
「永海、また1人で我慢しようとしているだろ?俺の前では我慢するなと、あれほど言っているのに…。」
永海はよく本音を隠す。
天定には、永海が1人で苦しみを抱えようとする一面があることを知っていた。
「……だけど俺は……ただの、従者……。」
「従者が"抱いて"とお願いしてこないだろう?それに俺たちは、元は友達の仲じゃないか。」
恥ずかしい部分を突かれて、永海は唇を噛み締めて再びそっぽ向く。
永海の左手を押さえつける右手を離し、彼の顎を持つと強引に自分の方を向かせた。
触れられた瞬間に強く目を瞑った永海だが、特に強い抵抗をせずに恐る恐る天定を見上げる。
「でもな、永海。お前がいなかったこの数日間、とても不安で心配だった。捕まっている永海を見た時、俺はこれまでにない程の怒りを感じたよ。」
ーーーーー俺の永海に何をしている、ってな。
「……本当…か?」
「いいか永海。俺の中で、お前は特別なんだ。だから私も決心してここへ戻ってきた。」
永海は自分が不在中の天定の言葉を聞いて、自然と天定と見つめ合う。
「けっ…しん……?」
「永海を"抱く"決心だよ」
永海の心の奥が、大きく跳ねる。
申し訳ないような、恥ずかしいような、時間に止まって欲しいような。
でも嬉しいような。
天定が天定で良かったと、いうか。
天定が永海の右手を優しく取り、自分の口元へと誘導する。
そしてそのままの流れで、天定は永海の手の甲に軽く唇を落とした。
「………!?」
それだけで胸の鼓動が早まり、永海は目を見開き口を真横へ結ぶ。
対する天定は、どこか余裕そうで。
「俺にとって特別な永海が、勇気を出してお願いをしてきたんだ。頑張って応えなきゃな。」
右手を元の位置へ下ろすとそのまま指先を絡め、天定はさらに身を屈めて永海の唇へ初めてのキスをした。
「……はぁ……。」
先程の自分の言葉を後悔していた。
恥をしのんで伝えた先程の自身の言葉。
なぜその時の自分がそう言ったのか、自分自身が一番わからない。
ただ天定に抱きしめられた時、今まで意識したことも感じたこともないほどに、いい匂いがした。
これまで幾度となく山賊や盗賊、魔物と退治して時にはどちらか一人が怪我をした時に、体を密着させてお互いを支え合ったりしたこともあるのに。
その時は、先ほどみたいに感じなかったのに。
なぜか、本当になぜかそう感じた。
ただでさえ敏感で疼く状況なのに、密着した上で天定の匂いに反応してしまった永海は、脳を混乱させていた。
体の奥の部分が、天定を欲していると感じてしまったのである。
だから、永海は恥をしのんで天定にお願いをした。
ーーーーーお前に…天定に抱いてほしい、と。
でも今、それを伝えてとても後悔している。
自分が伝えた直後、天定は自分から離れて出ていってしまった。
考えたいと言っていたが、答えはNOに決まっている。
すごく切なくて、辛い。
「……言うんじゃ、なかった……。」
天井に向かって、掠れた声でつぶやく。
絶対に嫌われた。
唯一、一緒にいたいと思える相手。
何があっても、何かが起きたとしても一番に守りたい相手。
"1人だけ心を許している人がいるのね?"
自分を拘束していた樹に言われた、あの言葉を思い出す。
今思い出しても腹立つし苛立つ。
「そうだよ…悪ぃかよ……。」
言葉にして吐き出さないとやってられない。
出来るなら、時間を戻して無かったことにしたい。
もしくは、あの時に「何言ってんだ」と普段のように呆れて笑ってほしかった。
考えさせてくれって言っていたが、この待つ時間がどれほど心細くて怖いことか。
「……天定……。」
この天定への気持ちが何なのかは、分からない。
ただ、天定に抱かれたいと思ってしまったのは変わらない事実。
永海は目を閉じ、1人苦しみに耐える時間を過ごした。
気づいたら襖の向こうから誰かが近づいてくる足音がして、永海は目を開いた。
どのくらいの時間が経過したかなど、感覚が狂っている永海には分からない。
少しでも襖の方を見ようかと視線の向きを変えるが、その細やかな動き一つでさえ首筋がピリピリとする。
「永海、入るぞ。」
声が聞こえた後すぐに開かれた襖。
そこにいたのは、永海の主だった。
先程は緑の着物を脱いだ時の普段の姿だったが、今は永海と同じ白の寝間着姿である。
また一つに結っている髪が今は下ろされていて、普段と異なる天定の姿に永海は目を釘付けにされた。
「天定……なんで……。」
何で、の言葉の後に何を言おうとしたのか分からない天定だが、静かに部屋に入り襖を閉めると退室した前と同じで布団の傍に座るのではなく、しゃがんで片膝をつく。
永海への掛布団を一気に剥ぎ取り適当にその辺りに置くと、天定は永海の脚に跨った。
膝をついてから上体を前へ倒すが、永海の顔の横にそれぞれ手を置いて真上から見下ろす。
天定の長い髪がハラリと垂れてきて、それが永海には艶っぽく見えてしまった。
「あま…さ……。」
永海は思考が追いつかず、状況を飲み込めないと言うように驚き眼で天定の目を真っ直ぐ見上げている。
天定の整った顔が少しずつ近づいてくる。
が、思わず永海は顔を横へ背けた。
さらに天定に見られたくないと心理が働き、手で顔を隠す。
「…や、やめろ…!」
お願いしてきた本人が拒否を示す言動に、天定は動きを止めて少しだけ目を見開いた。
「永海?」
「さっきの…!無し!やっぱ…っ…無しで!」
亡くなったとはいえ天定は頭領の息子であり、自分は一忍び。
従者が主にお願いをして良い内容ではない。
身分もあるし、自身が正常な判断や思考が出来ない時だからなのだろうか。
色んなことが混同し、元々余裕が無かった永海はさらに余裕を失った。
「だから……もういい……。行けよ……。」
拒否を示した言葉とは真逆で、弱々しく部屋から出て行くようにと言われると天定は数秒間、そのままの姿勢で永海を見つめた。
しかし天定は部屋から出ることも、そもそも永海の上から動こうとはせず、寧ろ一度上体を起こして永海の手を掴むと彼の顔の横に押し付けた。
驚いた永海は反対の手で天定を退かそうとしたが、今は天定の方が力があり、その手も顔の横に押し付けられてしまう。
「………永海。俺を見ろ。」
横を見ていた永海が少しだけ顔を天井の方へ戻すと、瞳を天定の方へ向ける。
「永海、また1人で我慢しようとしているだろ?俺の前では我慢するなと、あれほど言っているのに…。」
永海はよく本音を隠す。
天定には、永海が1人で苦しみを抱えようとする一面があることを知っていた。
「……だけど俺は……ただの、従者……。」
「従者が"抱いて"とお願いしてこないだろう?それに俺たちは、元は友達の仲じゃないか。」
恥ずかしい部分を突かれて、永海は唇を噛み締めて再びそっぽ向く。
永海の左手を押さえつける右手を離し、彼の顎を持つと強引に自分の方を向かせた。
触れられた瞬間に強く目を瞑った永海だが、特に強い抵抗をせずに恐る恐る天定を見上げる。
「でもな、永海。お前がいなかったこの数日間、とても不安で心配だった。捕まっている永海を見た時、俺はこれまでにない程の怒りを感じたよ。」
ーーーーー俺の永海に何をしている、ってな。
「……本当…か?」
「いいか永海。俺の中で、お前は特別なんだ。だから私も決心してここへ戻ってきた。」
永海は自分が不在中の天定の言葉を聞いて、自然と天定と見つめ合う。
「けっ…しん……?」
「永海を"抱く"決心だよ」
永海の心の奥が、大きく跳ねる。
申し訳ないような、恥ずかしいような、時間に止まって欲しいような。
でも嬉しいような。
天定が天定で良かったと、いうか。
天定が永海の右手を優しく取り、自分の口元へと誘導する。
そしてそのままの流れで、天定は永海の手の甲に軽く唇を落とした。
「………!?」
それだけで胸の鼓動が早まり、永海は目を見開き口を真横へ結ぶ。
対する天定は、どこか余裕そうで。
「俺にとって特別な永海が、勇気を出してお願いをしてきたんだ。頑張って応えなきゃな。」
右手を元の位置へ下ろすとそのまま指先を絡め、天定はさらに身を屈めて永海の唇へ初めてのキスをした。
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