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第1章 探しているもの
4話
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狭い町の酒場の中に昼時で一服しにきた男達がひしめき合っていた。喧騒の中に芳しい食事の香りと、男達の汗の匂いが密集している。給仕の女の尻を撫でた男は下品な笑い声をあげながら女を抱き寄せようとするが、女は男の腕を掻い潜り顎に強烈な一撃を浴びせた。男は間も無く失神し、そばにいた数人に店に外へ引きずり出された。それをなんとなしに眺めていたヒラエスは事が終結へ向かうとどうでもよさげにジョッキを傾けた。
グリントは食事に舌鼓を打っている。酒場の食事は確かに絶品でよくハーブが効いた粗挽きの腸詰は前歯で齧り付けば中から肉汁をほとばしらせ、良い出汁を豆のスープの中に溶かしこんでいた。堅焼きのパンをスープに浸すととろりと口の中に豆の風味が広がる。
「そういやあ、ヒラエスはどうしてグリントの旦那についてきたんですかい。」
「一時的な雇われだ。彼に会う前は傭兵をしていた。今も似たようなものだが。」
ゼジョフの問いかけに答えると、彼は少し訝しげな顔をした。
「旦那がここを出たのは三日前です、あっちのなぁんにもない牧地で一体何があったんです?」
「俺は行き倒れていただけだ。」
ヒラエスはグリントに目配せしながら答えた。丁寧な所作で多めの食事を腹に詰め込んでいたグリントは視線に気がつくと口の中のものを咀嚼して飲み込んだ。ビールで流し込むと口を開く。
「なんでも、幽騎士に襲われたそうだ。一匹倒したが怪我を負って逃げてきたらしい。三日三晩逃げ続けたらしいが牧地で力尽きていた。」
ブボォッ。ヒラエスは飲んでいた酒を口から吹き出した。
「ど、どうかしやしたか!」
「いや、少し喉にパンのクズが引っかかっただけだ。」
心配するゼジョフに返事を返すと、自分の耳を疑ってグリントを見る。グリントはヒラエスを見ながら顎に手をつきニコニコを笑っている。よく見ればわかる意地の悪い笑みだった。
「幽騎士が二体も同時に襲ってきて生きのびれる奴なんて早々にはいないだろう。だがこいつはやってのけたんだ!一体目を倒したときにどのようにして切り抜けたのかを言ってやれ。」
ヒラエスはこう考えた、こいつは私をおもちゃにして楽しむつもりだと。おそらくは、うろたえる姿を見て酒のあてにするつもりなのだろう。散々楽しんだ後に助け舟は出すつもりだろうがこいつをこのまま楽しませてなるものかとなけなしの反抗心が湧き上がった。しかし、ヒラエスは嘘をつくのが得意ではない。ヒラエスは自分の体験を包み隠さず話すことにした。
「……その日のことは今でも詳細に覚えている。月の綺麗な夜のことだ。雲の流れは速く、風は轟々と木々を揺らしていた。私は依頼を終えた後でラケルヘクトルの首都からセルパラの街へ向かっている道中だった。まだ少し肌寒い風の中、馬に乗って森をかけていたんだ。夜の道は危険だと承知だったが、その森で野営する方がより危殆だと考えたから、そのまま馬を走らせていた。案の定というべきか森に入り数分もすると馬の様子がおかしくなった。馬は急に高く嘶くとその足を止め、苛立たしげに前足で地面を掻いた。」
ヒラエスは言葉を一度切ると、乾いた喉に酒を流した。
–-ゴクリ。いつのまにか喧騒は静まり返り、誰かが唾液を飲む音が大きく聞こた。
辺りを見渡すと風は静まり返り、月は雲の後ろへ姿を隠していた。森の木々は墨のように黒々と塗りつぶされ、馬の荷に括り付けていたランタンの明かりだけが自分の存在を見失わずにいられる唯一の光だった。いつのまにか凍えるような空気が周囲を包み、吐く息は白く染まっている。過去の経験からヒラエスは暗闇を忌避していた。一刻も早く抜け出したいと思う心が馬の歩みを急かせてしまうが馬は長旅で疲れていた。馬の足並みと息が合わず、ますます苛立ってしまう。いけないことだとヒラエスは自分に落ち着くように言い聞かせると馬を止め、その首筋をなでた。彼女が悪いわけでは無い。この借り物の馬は優秀な牝馬で、ここまで来れたものこの馬のおかげだった。馬が少し落ち着くと今度は少しだけ遅めに走らせた。残念だがこの森で休憩するという選択肢はない。ここがいかに危険かを街を出る前に散々教えられたからだ。そのまま暗い中を進んでいる途中、馬は急に止まると高く嘶いて前足で地面を掻いた。
唐突に、ザリ、ザリリ、と何か大きな生き物がが動く足音が聞こえる。それはゆっくりとした動きで次第にこちらに近づき姿を表した。
木々の間から出てきた6尺ほどの巨体が二体、片方は古めかしい鎧に燦爛ときらめく青い大剣を携えたまさしく騎士の風貌だった。
幽騎士は、戦場で散った幾多の騎士の魂が寄り集まって形作られた幻想の姿だ。一般的に奴らを動かす中枢と考えられているのは奴らが携えている大剣だと言われている。しかしまずいことに、通常奴らの持っている大剣はなんの変哲も無い鉄製のものだが、このとき幽騎士の一体が持っていた大剣は魔力を付与された所謂、魔剣と呼ばれる人工遺物だった。
まずい。そう思いながらも足を動かすことはできなかった。
ブオンッ!大剣が振りかぶられるとそれはヒラエスめがけておろされた。
その時、馬が前足を高く持ち上げ嘶いた。青い閃光の残像が軌跡を描き、まるでバターを切るかのように馬の頭が落とされた。後ろに振り落とされたヒラエスは死にものぐるいで鐙から足を抜くと、なんとか体を叱咤して立ち上がった。全身が沸き立つような恐怖で震えているが頭は馬のおかげで冴えていた。落馬でうまく受け身が取れなかった体は痛みを訴えてきたが、体に駆け巡る生き汚なさがヒラエス体を動かそうとしていた。馬の鞍から幸い無事であったカンテラをちぎると、次の一手が来る前にヒラエスは脇目も振らず黒塗りの森の中を駆け出した。
ランタンのかすかな光がぼんやりと足元を照らしている。このときほど、魔法を修めていないことを悔やんだことはなかった。魔法でなら、灯の魔法があれば片手が塞がるランタンを持つ必要もなくなり、走る速さも落ちないだろう。しかしこのランタンは生命線だった。せめて森を抜けるまでは離してはならないものだ。
一心不乱に駆けている。背後からは禍々しく響く唸り声と足音が追ってきている。走る速さはそれほどないが歩幅が違う、追いついてくるのは時間の問題だった。ヒラエスは投擲用の小刀を片手で腰から引き抜いた。刃を軽く指で持ち脇を締め耳の後ろまで持ち上げると一度立ち止まり、振り向きざまに手前の幽騎士の兜の奥でぼんやり光る目をめがけて、手をまっすぐ振り落とし、小刀を投げた。
勢いよく飛んだ小刀は目標通り暗闇の中でギラギラと赤く光る目に向かい、兜の隙間の中に吸い込まれていった。普通の大剣を持った幽騎士だったが、徐々に距離を詰めていた巨躯は足を止め、地響きのような呻きをあげた。
幽騎士が目を抑えながら動く。大上段から振り下げられた一撃を転がることでなんとか躱すと、すかさず立ち上がり体勢を整える。一撃が当たらなかった騎士は鈍い動きで大剣を持ち上げようとしていた。
その隙を見逃さず左側の腰に携えた片手剣を抜き、低く相手へ斬りかかった。鎧の継ぎ目に刃が突き刺さる。死んだ騎士を元としているだけあって、弱点は変わらぬようだ。肉体を斬る生々しい手応えは感じられなかったが中の何かが斬れたことはわかった。幽騎士は片脚をつきその場に崩れ落ちたところで、ヒラエスはランタンを足元に落とし、片手剣を両手で握るとわずかな光で首の隙間に叩き込んだ。
ゴトリ、騎士の頭が落ちる。あっさり倒れた幽騎士は肉が焼け焦げるような音を立てて蒸発すると、跡形もなく消え去った。
ヒラエスはひとつ息をつく。しかし落ち着いている暇はなかった。幽騎士は二体いたはず。ではもう一体はどこへ?ランタンを拾いヒラエスは踵を返すと、先ほどまで進んでいたはずの暗闇をのぞいた。方角はもはや覚えておらず、見渡したあたりは静寂に満ちている。
ヒラエスはランタンと片手剣を強く握りしめると再び歩みを進めた。もはや前後も左右もわからない。自分の手元と周囲をぼんやりと照らしているランタンの光でさえも、周囲の暗闇に吸い込まれているような妄想に捕らわれた。
走ると焦りで息が荒くなる。一刻も早くここからでなければ気が狂ってしまいそうだった。緊張で筋肉は引きつっていたがそれでも足は止めなかった。ランタンを掲げるがそれでも道は見えない。
暗闇は苦手だ。平衡感覚が狂い始めると、闇への恐怖心が一層ました。胸は激しく脈打ち汗が噴き出す。震え始めた体を無視して走り続けていると、前方がやや明るんだ。月の灯だ。足を止め暗闇の終わりへ安堵の息を吐き、明かりの方へ向かった。
森をぬけた出口の先には青い魔剣を構えた幽騎士が待ち構えていた。ヒラエスは走る速度を上げ巨躯へと攻勢をかけた。射程距離に入ると、間髪入れずにランタンを幽騎士めがけて投擲する。しかし、幽騎士は悠然とした動きで片腕を振るうと、投げられたランタンは青い剣の先が少し触れただけで水に溶けるかのように霧散した。あまりの光景に目を見開く。あんなものは、ただの鉄製の片手剣では受け止めきれぬ代物だと今更ながらに理解するとヒラエスは大剣の攻撃可能な範囲に入る前に足を止めた。
巨大な幽騎士はこちらを感情のない目でじっと見ていた。
グリントは食事に舌鼓を打っている。酒場の食事は確かに絶品でよくハーブが効いた粗挽きの腸詰は前歯で齧り付けば中から肉汁をほとばしらせ、良い出汁を豆のスープの中に溶かしこんでいた。堅焼きのパンをスープに浸すととろりと口の中に豆の風味が広がる。
「そういやあ、ヒラエスはどうしてグリントの旦那についてきたんですかい。」
「一時的な雇われだ。彼に会う前は傭兵をしていた。今も似たようなものだが。」
ゼジョフの問いかけに答えると、彼は少し訝しげな顔をした。
「旦那がここを出たのは三日前です、あっちのなぁんにもない牧地で一体何があったんです?」
「俺は行き倒れていただけだ。」
ヒラエスはグリントに目配せしながら答えた。丁寧な所作で多めの食事を腹に詰め込んでいたグリントは視線に気がつくと口の中のものを咀嚼して飲み込んだ。ビールで流し込むと口を開く。
「なんでも、幽騎士に襲われたそうだ。一匹倒したが怪我を負って逃げてきたらしい。三日三晩逃げ続けたらしいが牧地で力尽きていた。」
ブボォッ。ヒラエスは飲んでいた酒を口から吹き出した。
「ど、どうかしやしたか!」
「いや、少し喉にパンのクズが引っかかっただけだ。」
心配するゼジョフに返事を返すと、自分の耳を疑ってグリントを見る。グリントはヒラエスを見ながら顎に手をつきニコニコを笑っている。よく見ればわかる意地の悪い笑みだった。
「幽騎士が二体も同時に襲ってきて生きのびれる奴なんて早々にはいないだろう。だがこいつはやってのけたんだ!一体目を倒したときにどのようにして切り抜けたのかを言ってやれ。」
ヒラエスはこう考えた、こいつは私をおもちゃにして楽しむつもりだと。おそらくは、うろたえる姿を見て酒のあてにするつもりなのだろう。散々楽しんだ後に助け舟は出すつもりだろうがこいつをこのまま楽しませてなるものかとなけなしの反抗心が湧き上がった。しかし、ヒラエスは嘘をつくのが得意ではない。ヒラエスは自分の体験を包み隠さず話すことにした。
「……その日のことは今でも詳細に覚えている。月の綺麗な夜のことだ。雲の流れは速く、風は轟々と木々を揺らしていた。私は依頼を終えた後でラケルヘクトルの首都からセルパラの街へ向かっている道中だった。まだ少し肌寒い風の中、馬に乗って森をかけていたんだ。夜の道は危険だと承知だったが、その森で野営する方がより危殆だと考えたから、そのまま馬を走らせていた。案の定というべきか森に入り数分もすると馬の様子がおかしくなった。馬は急に高く嘶くとその足を止め、苛立たしげに前足で地面を掻いた。」
ヒラエスは言葉を一度切ると、乾いた喉に酒を流した。
–-ゴクリ。いつのまにか喧騒は静まり返り、誰かが唾液を飲む音が大きく聞こた。
辺りを見渡すと風は静まり返り、月は雲の後ろへ姿を隠していた。森の木々は墨のように黒々と塗りつぶされ、馬の荷に括り付けていたランタンの明かりだけが自分の存在を見失わずにいられる唯一の光だった。いつのまにか凍えるような空気が周囲を包み、吐く息は白く染まっている。過去の経験からヒラエスは暗闇を忌避していた。一刻も早く抜け出したいと思う心が馬の歩みを急かせてしまうが馬は長旅で疲れていた。馬の足並みと息が合わず、ますます苛立ってしまう。いけないことだとヒラエスは自分に落ち着くように言い聞かせると馬を止め、その首筋をなでた。彼女が悪いわけでは無い。この借り物の馬は優秀な牝馬で、ここまで来れたものこの馬のおかげだった。馬が少し落ち着くと今度は少しだけ遅めに走らせた。残念だがこの森で休憩するという選択肢はない。ここがいかに危険かを街を出る前に散々教えられたからだ。そのまま暗い中を進んでいる途中、馬は急に止まると高く嘶いて前足で地面を掻いた。
唐突に、ザリ、ザリリ、と何か大きな生き物がが動く足音が聞こえる。それはゆっくりとした動きで次第にこちらに近づき姿を表した。
木々の間から出てきた6尺ほどの巨体が二体、片方は古めかしい鎧に燦爛ときらめく青い大剣を携えたまさしく騎士の風貌だった。
幽騎士は、戦場で散った幾多の騎士の魂が寄り集まって形作られた幻想の姿だ。一般的に奴らを動かす中枢と考えられているのは奴らが携えている大剣だと言われている。しかしまずいことに、通常奴らの持っている大剣はなんの変哲も無い鉄製のものだが、このとき幽騎士の一体が持っていた大剣は魔力を付与された所謂、魔剣と呼ばれる人工遺物だった。
まずい。そう思いながらも足を動かすことはできなかった。
ブオンッ!大剣が振りかぶられるとそれはヒラエスめがけておろされた。
その時、馬が前足を高く持ち上げ嘶いた。青い閃光の残像が軌跡を描き、まるでバターを切るかのように馬の頭が落とされた。後ろに振り落とされたヒラエスは死にものぐるいで鐙から足を抜くと、なんとか体を叱咤して立ち上がった。全身が沸き立つような恐怖で震えているが頭は馬のおかげで冴えていた。落馬でうまく受け身が取れなかった体は痛みを訴えてきたが、体に駆け巡る生き汚なさがヒラエス体を動かそうとしていた。馬の鞍から幸い無事であったカンテラをちぎると、次の一手が来る前にヒラエスは脇目も振らず黒塗りの森の中を駆け出した。
ランタンのかすかな光がぼんやりと足元を照らしている。このときほど、魔法を修めていないことを悔やんだことはなかった。魔法でなら、灯の魔法があれば片手が塞がるランタンを持つ必要もなくなり、走る速さも落ちないだろう。しかしこのランタンは生命線だった。せめて森を抜けるまでは離してはならないものだ。
一心不乱に駆けている。背後からは禍々しく響く唸り声と足音が追ってきている。走る速さはそれほどないが歩幅が違う、追いついてくるのは時間の問題だった。ヒラエスは投擲用の小刀を片手で腰から引き抜いた。刃を軽く指で持ち脇を締め耳の後ろまで持ち上げると一度立ち止まり、振り向きざまに手前の幽騎士の兜の奥でぼんやり光る目をめがけて、手をまっすぐ振り落とし、小刀を投げた。
勢いよく飛んだ小刀は目標通り暗闇の中でギラギラと赤く光る目に向かい、兜の隙間の中に吸い込まれていった。普通の大剣を持った幽騎士だったが、徐々に距離を詰めていた巨躯は足を止め、地響きのような呻きをあげた。
幽騎士が目を抑えながら動く。大上段から振り下げられた一撃を転がることでなんとか躱すと、すかさず立ち上がり体勢を整える。一撃が当たらなかった騎士は鈍い動きで大剣を持ち上げようとしていた。
その隙を見逃さず左側の腰に携えた片手剣を抜き、低く相手へ斬りかかった。鎧の継ぎ目に刃が突き刺さる。死んだ騎士を元としているだけあって、弱点は変わらぬようだ。肉体を斬る生々しい手応えは感じられなかったが中の何かが斬れたことはわかった。幽騎士は片脚をつきその場に崩れ落ちたところで、ヒラエスはランタンを足元に落とし、片手剣を両手で握るとわずかな光で首の隙間に叩き込んだ。
ゴトリ、騎士の頭が落ちる。あっさり倒れた幽騎士は肉が焼け焦げるような音を立てて蒸発すると、跡形もなく消え去った。
ヒラエスはひとつ息をつく。しかし落ち着いている暇はなかった。幽騎士は二体いたはず。ではもう一体はどこへ?ランタンを拾いヒラエスは踵を返すと、先ほどまで進んでいたはずの暗闇をのぞいた。方角はもはや覚えておらず、見渡したあたりは静寂に満ちている。
ヒラエスはランタンと片手剣を強く握りしめると再び歩みを進めた。もはや前後も左右もわからない。自分の手元と周囲をぼんやりと照らしているランタンの光でさえも、周囲の暗闇に吸い込まれているような妄想に捕らわれた。
走ると焦りで息が荒くなる。一刻も早くここからでなければ気が狂ってしまいそうだった。緊張で筋肉は引きつっていたがそれでも足は止めなかった。ランタンを掲げるがそれでも道は見えない。
暗闇は苦手だ。平衡感覚が狂い始めると、闇への恐怖心が一層ました。胸は激しく脈打ち汗が噴き出す。震え始めた体を無視して走り続けていると、前方がやや明るんだ。月の灯だ。足を止め暗闇の終わりへ安堵の息を吐き、明かりの方へ向かった。
森をぬけた出口の先には青い魔剣を構えた幽騎士が待ち構えていた。ヒラエスは走る速度を上げ巨躯へと攻勢をかけた。射程距離に入ると、間髪入れずにランタンを幽騎士めがけて投擲する。しかし、幽騎士は悠然とした動きで片腕を振るうと、投げられたランタンは青い剣の先が少し触れただけで水に溶けるかのように霧散した。あまりの光景に目を見開く。あんなものは、ただの鉄製の片手剣では受け止めきれぬ代物だと今更ながらに理解するとヒラエスは大剣の攻撃可能な範囲に入る前に足を止めた。
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