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64.帰路①

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「あ、の……ちょっと、待って下さい。お願いします。立って下さい」
 仮にもこの人は、王族なのだ。

 困ったように笑ったエドワード様が、スッと立ち上がった。

「直接会ってお礼を言いたかったのです。あれほどの力を使ったのですから、起き上がれないのも分かっていました。お元気そうで良かった」

 いや、ものすごく元気で暇でしたよって言いたい。言いたいけど、何も言うなって顔をしている。

「殿下、琥珀様は先ほどまでベッドで休んでいましたので……ソファで、座ってから話しましょう」

「申しわけない。ソファに座って下さい」
「はい。あの、もう大分良くなったので心配させてすみません」

 ソファに向かい合うように座って、紅茶を一口飲むと落ち着いた。
 本当に、ジェイドが過保護で困る。

「エドワード様、肩の傷は本当に大丈夫でしたか? 動かしにくいとか、痛みがでたりはありませんか?」

「大丈夫です。 琥珀様が居なかったら、きっと今頃生命は無かったと思っています」

「でも、あれはエドワード様がかばってくれたのでしょう? 」
 自分をかばって怪我を負わせたのだ。全力で助けたいと思うのは当たり前だ。感謝なんていらないのに。

「琥珀様を守るのが、私の役目ですから」
 それほど、この世界で聖女や神使は大切なんだろう。そう思うと、役に立ちたいと思ってしまう。それでも、命を投げ出す様な事はして欲しくない。

「あまり、無茶をしないで下さい。エドワード様は、この王国で大切な方なのですよ」
「琥珀様の方こそ、無茶をし過ぎです。私の治療の後、聖女様に浄化の力を渡してましたよね?」

 ──守りたいと、祈っただけだった。
 彼女のチートの為なら何もしない方が良かったのだろうか? でも、彼女の中心から浄化は始まったはずだ。

「そんなつもりでは、すこしでも」
「聖女様の力になりたかったですか?」

 ミカエル様が、会話に入って来た。この人の表情は、全く読めなくて思わず黙ってしまった。
「当然でしょう。今までもそうでした。琥珀様は損得関係無く、動いてしまう方です。ただ自己犠牲をしがちなので、私としては怒ってますけどね」

 黙って聞いていたジェイドが、そう言って紅茶を飲んだ。カップを置くと、その手が俺の手に重なった。

「琥珀様は、どれだけ周りが心配したか、分かってない」
 重ねられた手に少し力が入って、冷えていた指先に温もりが伝わって来た。

「──ごめん、なさい」

「本当に、神使様は無茶をし過ぎですよ。確かにあのままだったら、聖女様は生きていなかったかも知れませんけど」

 ミカエル様が言うように、生きていないかもは頭に過ぎった事だった……それだけは、どうしても避けたかった。だから祈ったんだ。

「自分からチートを得る為に、危機的な状況を作ったのではライゼ神も力を貸すとは思えませんから」

「ミカエル様、今回の浄化の報告はどうされるのですか? 我々は分かっていますが、他の者は聖女の力だと誤認していますよ」

「ジェイド様……それは、王宮に戻ってからにしましょう。とりあえず水晶に触れていただき、きちんと判断されるべきだと思います」

「そうですね。私が祈ったとは言え今までより聖属性が増えているかも知れません」

 僅かでも、彼女の力が上がって欲しいと思ってしまう。

「琥珀様。明日には、王宮へ向かいます。こちらの浄化は無事に終わってましたよ。王宮に戻ったら、今後の事も話しましょう」

 ミカエル様の、圧力を感じる言葉を笑って誤魔化すしかできなかった。






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