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80.結【本編最終話】
しおりを挟む約束をしてる訳でも、待ち合わせをしてる訳でもない。
ただ、逸る気持ちに駆け足になって行く。
ドアを開けようと手を伸ばす。手がドアに触れる前に開いた。
中に立っていた人が、驚いた顔をしてる。
背の高い、美形のモデルみたいな男の人だ。苦しくて、触れたくて。手を伸ばしたくなる。
その人が一度後ろを見た。そこには外国人なのか、三十前くらいの白銀のような髪の神秘的な人がコーヒーを飲んでいた。昔──どこかで?
海外なんて行ったことないのに。そんな訳ないか。
それでも、二人とも知ってる気がする。
「あの」
その声に彼は反応した。
何故か手を引かれて、奥に案内されて行く。なんで手を握られているのだろう?
でも、嫌じゃなくて。
むしろ……嬉しい?この手を知ってる気がする。
通り魔に襲われたから、ニュースで知ってるとか?
俺って、男が好きだった?
一気に体温が上がり、恥ずかしさに身悶えする。
変に意識してしまって、手汗でやばい。男が好きなんじゃなくて、この人の事が好きなんだと思った。
古書店の奥、少し陽の当たる場所。こんな所にドアがある。前はなかった気がする。振り返った顔が、少し可愛く見えるとか……俺より何十倍も格好良い人に失礼だ。
でも、聞いてみたい。どうしてそんな切なそうな顔をしてるの?
「俺の事……知ってますか?」
抱きしめられると、その居心地の良さに涙が出そうだった。
ドアを開ける為に、離れただけなのに喪失感がすごい。
奥へと連れて行かれると、懐かしい感じさえする。
「琥珀」
泣きそうになって、目の前の人をじっと見つめていた。
少し明るい茶色の髪。美形でモデルみたいで。なのに……
「髪の色が……違う気がする」
思わず声に出してしまった。なぜそう思うんだろう? 茶色の髪だって、知ってるのに。
「何色だと思った?」
「深い……青」
綺麗な深い紺色で、とても綺麗だった気がする。
「濃紺だったら、この世界じゃ浮くと思うけど?」
「──そうですよね」
「琥珀は、その色が好きだった?」
大好きな声のトーンに、涙が流れて落ちていく。
「好きだった……かも」
「琥珀」
胸に空いた隙間に、水が流し込まれるように隙間を全て埋めていくみたいだ。彼の事を思うと幸せを感じるから。
「琥珀って───それ俺の名前?」
抱き締められて、唇が重なって。舌が口内を探ってくる。気持ちいい……おずおずと自分も舌を動かしてみた。激しくなって、足に力が入らなくなる。
抱きかかえられて、クルンと一回転する。思わずしがみつくと、笑い声が聞こえた。
「そうだよ。俺の大切な人の名前」
(琥珀が大切って事?)
「じゃあ、名前……教えて」
「──結だよ」
「ゆい……ってどんな漢字なの?」
「糸へんに、吉。結ぶと書いてゆいだよ。祈りが叶う、約束する……二人を繋いでくれるそんな意味のある名前」
「結……」
またギュッとしがみついて、結の温もりを感じてみた。
「──俺の大切な人の名前って聞いてた?」
「え、あ……はい。実は、事件に巻き込まれて、記憶が欠けてるみたいで……両親が名前を呼んでも、何故か聞こえなくて。文字で書いてもらっても、名前だけ読めなくて……そんな変な事ってあるんだって。だから、調べ物したくて古書店に来たんです」
「古書には魔法がかかっていて……必要な人を呼ぶらしいよ。ここのオーナーは、お気に入りには、とことん甘い。それに割と平気でエコヒイキをするんだ」
オーナーがエコヒイキ? 思わず吹き出した。
「古書に魔法? って素敵ですね。落ち着いたお店だから、もっと年配のオーナーかと思ったんですけど……美形の異国の人で、本当に魔法が使えそう。結……さんに会わせる為に、俺を呼んでくれたのなら、本物の魔法使いみたいですね」
「本当に……琥珀に会いたかった。会いたくて。会いたくて。気が狂いそうだった。結って呼び捨てにして。俺が歳下だから」
俺は、結を知ってる。
記憶に霞がかかっていても……結が何よりも大切。
「これが、運命なら……もう引き離されたくない」
「俺には、琥珀だけなんだ。もう、他の誰かを助けようとか……犠牲になるとか。俺を優先して欲しい」
涙が溢れて止まらない。抱きかかえられていて、自然と唇を啄むようにキスをする。結が好き。体が、心が……覚えてる。このキスも、その先も。
「琥珀……ずっと一緒にいたいんだ」
「結」
この先の未来を一緒に生きて行きたい。
古書の魔法が、二人を繋いでくれるのなら。
二人が離されないように、物語を紡いでくれますように。
Fin.
***
番外編など、時間が出来たら書きたいと思っています。
最後までありがとうございました。
Shizukuru
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(75件)
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綺麗な表紙絵に惹かれて読み始め、毎日の更新が楽しみでした!投票もさせていただきました!
完結おめでとうございます!!
タイトルのふたりを結ぶ、というのは結の琥珀への強い気持ちが2人を結ぶという事なのかな?とラストを読んで感じました。前世でも今世でも来世でも、2人にはずっと幸せでいて欲しいです♡
素敵なお話をありがとうございました!そしてお疲れさまでした!
るぴな様
投票ありがとうございます🙇♀️
参加作品も年々増えてる中、読んでもらえることさえ難しいので。本当に嬉しいです。
表紙は、応援FAで大好きな絵師様からいただきました。
この先は、幸せ甘々になるはずです。
番外編……ちょっと書くつもりです。
本当にありがとうございました🥹
わかめちゃん
最後まで読んでくれてありがとう😭
最終話、かなり迷い何度も書き直しました。二人が引き離されない未来を思い書き上げました。
少し番外編を足すかと思いますが、完結までの応援ありがとうございました。
感想ありがとう、嬉しいです🥹
電車うさぎ様
最初から最後まで、全力の応援ありがとうございました。
二人が幸せなる場所を考えて書いて来ました。番外編を少し書き加えつつ、お答え出来ればと思っています。
本当に、応援嬉しかったです。うさぎさんに支えられて書いてこれました。
ありがとうございました🙏😊🫶