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1.嫌われ悪役令息でした
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スペードニア王国の第二王子クリス殿下と、婚約が成立したのはジェラルドが十四歳の時だった。あんなに嫌われていたジェラルドが、婚約者に選ばれてしまった。
幼少期、第二王子殿下の御学友選びに王宮に招待され、複数の候補者と共に初顔合わせをした時のことだった。
可愛らしく着飾った令息たちの中で、ジェラルドだけが悪口を言われ、除け者状態になった。
ストレートの銀髪に、ブルーサファイアの大きな瞳。侯爵家では可愛いと言われて育ったジェラルドにとって、クリスの悪口は深く心を抉り傷つける。
「なんで、こんな可愛げのない顔のヤツと……交流しないといけないんだ」
冷たい。笑顔が可愛くない。散々、他の令息の前で罵られて心が折れていく。
クリスのジェラルドへの態度の結果、見事に他の令息たちからもハブられ、嫌がらせを受け続けることになる。
「ジェラルド様って、笑わないよね」
「なんか、悪い使い魔を召喚したんだって」
「悪どい方法で、婚約を取り付けたって噂は本当かも」
交流会に招待されても、どの令息にも声をかけることができず、ジェラルドは一人でいることが当たり前になっていった。
最悪だったのは、クリスの誕生会の日に、王宮の庭にある池に落とされて溺れかけたこと。誰かに助けられたが、顔は覚えていなかった。寝込んだジェラルドの熱が下がった時には、そんな事実はなくなっていた。
ジェラルド自身が、ふざけて池に落ちたことになっていた。
誰も味方がいないジェラルドは、今や悪役そのものである。
「メイ……王命って、酷いよね」
二つ歳上の専属従者メイナードに小さくぼやいた。
鏡越しにメイナードの紅い瞳を見る。
漆黒の柔らかそうな髪は、襟足にかかるくらいだ。紅い瞳はジェラルドのお気に入りだが、本人には秘密にしている。
メイナード自体が、この紅い色が嫌いで、前髪で右側の目を隠しているのだ。
長くきれいな指が、銀糸の髪を器用に編み込んで、背の方で一つに結ってくれた。細いリボンは、瞳に合わせたサファイアブルーだ。
笑い顔まで、怖い冷たいと囁かれてしまい、笑い方がわからなくなって泣いていたこともある。
外見なんて、人それぞれなんだから。この冷たい顔が、嫌いなら婚約候補から外して欲しかった。
「──王命とは、思いませんが」
「王命だよ。無理やりだって。あれだけ、顔が嫌いだって言ってたくせに。婚約者になるなんて。会えば、嫌味ばっかり。婚約して、二年……その前から交流なんてしてない」
義理でジェラルドの誕生日には、花とメッセージカードが届く。毎度定型文で、つまらないカード。祝われている気持ちにもならない。きっとお付きの誰かが代筆しているのだろう。
「本当に意味がわからない」
社交界デビューは、学園に入る十六歳からだ。だから特にパートナーも務めてない。
クリス殿下の婚約者としての、教育も侯爵家で事足りてるらしい。
クリス殿下は、王家特有の金髪碧眼なので、美形な方だとは思う。
色味も、銀糸のジェラルドと比べたら、温かみがある。笑顔が素敵と評判だけど、その顔は胡散臭いだけで嫌いだった。
外見を貶されるから、他で誇れるようにと、勉学に勤しんできたのはジェラルドの意地だ。すでに、卒業レベルの知識を身につけている。
一人でできないのは、ダンスだけだった。妃用のステップを学ばないといけない。
これも、寡黙な従者であるメイナードが、ずっとパートナーとしてレッスンに付き合ってくれている。
いよいよ春には、学園に入寮する。入学式もある。すでにクリス殿下には、美しいと評判の令息たちと浮名が立っていた。そう、複数いるのだ。
「ね。メイ……他にクリス殿下にいい人が大勢いるなら、婚約解消したい」
「無理かと」
「僕の味方をして。浮気も……嘘つきも嫌い」
「ジェラルド様。人前では私と」
「──二人の時とかなら……僕でいいよね? だいたい、この顔で私なんて言うから、余計に印象が悪いんだよ」
そもそも、メイナードの前くらいなんだから、許して欲しい。彼だけは評判の悪いジェラルドに対して、裏表なく接してくれている。
(寡黙過ぎて、会話がはずんだりもしないけど)
「ジェラルド様」
「わかったから、真面目すぎ……」
真面目の方がマシか。浮気者……嘘つき。本当に許せない。
学園では、殿下に関わらない。ここで婚約解消の道を探そう。ジェラルドの大きなため息とともに、入寮の準備に入った。
幼少期、第二王子殿下の御学友選びに王宮に招待され、複数の候補者と共に初顔合わせをした時のことだった。
可愛らしく着飾った令息たちの中で、ジェラルドだけが悪口を言われ、除け者状態になった。
ストレートの銀髪に、ブルーサファイアの大きな瞳。侯爵家では可愛いと言われて育ったジェラルドにとって、クリスの悪口は深く心を抉り傷つける。
「なんで、こんな可愛げのない顔のヤツと……交流しないといけないんだ」
冷たい。笑顔が可愛くない。散々、他の令息の前で罵られて心が折れていく。
クリスのジェラルドへの態度の結果、見事に他の令息たちからもハブられ、嫌がらせを受け続けることになる。
「ジェラルド様って、笑わないよね」
「なんか、悪い使い魔を召喚したんだって」
「悪どい方法で、婚約を取り付けたって噂は本当かも」
交流会に招待されても、どの令息にも声をかけることができず、ジェラルドは一人でいることが当たり前になっていった。
最悪だったのは、クリスの誕生会の日に、王宮の庭にある池に落とされて溺れかけたこと。誰かに助けられたが、顔は覚えていなかった。寝込んだジェラルドの熱が下がった時には、そんな事実はなくなっていた。
ジェラルド自身が、ふざけて池に落ちたことになっていた。
誰も味方がいないジェラルドは、今や悪役そのものである。
「メイ……王命って、酷いよね」
二つ歳上の専属従者メイナードに小さくぼやいた。
鏡越しにメイナードの紅い瞳を見る。
漆黒の柔らかそうな髪は、襟足にかかるくらいだ。紅い瞳はジェラルドのお気に入りだが、本人には秘密にしている。
メイナード自体が、この紅い色が嫌いで、前髪で右側の目を隠しているのだ。
長くきれいな指が、銀糸の髪を器用に編み込んで、背の方で一つに結ってくれた。細いリボンは、瞳に合わせたサファイアブルーだ。
笑い顔まで、怖い冷たいと囁かれてしまい、笑い方がわからなくなって泣いていたこともある。
外見なんて、人それぞれなんだから。この冷たい顔が、嫌いなら婚約候補から外して欲しかった。
「──王命とは、思いませんが」
「王命だよ。無理やりだって。あれだけ、顔が嫌いだって言ってたくせに。婚約者になるなんて。会えば、嫌味ばっかり。婚約して、二年……その前から交流なんてしてない」
義理でジェラルドの誕生日には、花とメッセージカードが届く。毎度定型文で、つまらないカード。祝われている気持ちにもならない。きっとお付きの誰かが代筆しているのだろう。
「本当に意味がわからない」
社交界デビューは、学園に入る十六歳からだ。だから特にパートナーも務めてない。
クリス殿下の婚約者としての、教育も侯爵家で事足りてるらしい。
クリス殿下は、王家特有の金髪碧眼なので、美形な方だとは思う。
色味も、銀糸のジェラルドと比べたら、温かみがある。笑顔が素敵と評判だけど、その顔は胡散臭いだけで嫌いだった。
外見を貶されるから、他で誇れるようにと、勉学に勤しんできたのはジェラルドの意地だ。すでに、卒業レベルの知識を身につけている。
一人でできないのは、ダンスだけだった。妃用のステップを学ばないといけない。
これも、寡黙な従者であるメイナードが、ずっとパートナーとしてレッスンに付き合ってくれている。
いよいよ春には、学園に入寮する。入学式もある。すでにクリス殿下には、美しいと評判の令息たちと浮名が立っていた。そう、複数いるのだ。
「ね。メイ……他にクリス殿下にいい人が大勢いるなら、婚約解消したい」
「無理かと」
「僕の味方をして。浮気も……嘘つきも嫌い」
「ジェラルド様。人前では私と」
「──二人の時とかなら……僕でいいよね? だいたい、この顔で私なんて言うから、余計に印象が悪いんだよ」
そもそも、メイナードの前くらいなんだから、許して欲しい。彼だけは評判の悪いジェラルドに対して、裏表なく接してくれている。
(寡黙過ぎて、会話がはずんだりもしないけど)
「ジェラルド様」
「わかったから、真面目すぎ……」
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