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しおりを挟む事故でいつの間にか転生して、攻略対象である第二王子殿下と主人公も学園で出会い 、知らずにBLゲームがスタートしていた。それを知ったのは、刺された時だった。
実際バグだ、転生者だって主人公から文句を言われて、きっとゲームだから殺しても死なないと思われていたのだろう。
心臓の音も脈も感じる。食事もとるし、排泄もする。生きているのだから、刺されたら普通に死ぬ世界にいる。
『リセットボタン』そう言っていたけれど、どうしてボタンがあると思うのかな? 画面越しじゃないのに。
もしかしたら主人公にだけは、ステータスとか、好感度とか表示されていたのだろうか?
そんなもの悪役に見えるわけがないなと、ため息を落とす。
ゲームとのズレは確かにあった。
殿下の傍から逃げていたジェラルドが、わざわざ階段から主人公を落とすとか……そんなことするわけがない。だいたい殿下に嫉妬したりしない。むしろ傍にいるのも嫌なんだから。これっぽっちの好意もなかったのだ。
野々瀬 陽斗 の時だって、恋愛に希望はもっていなかった。母の絶望の大きさと、何より不倫相手の女の勝ち誇った顔がチラついて離れない。あの顔から、女性というものが恐ろしく感じるようになったんだ。
忍さんは社会人として数年働き、きっと仕事も軌道に乗っていて充実していたんだと思う。堂々としていて、余計に格好よく見えていたのだ。
学生の陽斗からすれば、憧れの人でファンのような気持ちだった。
六歳も歳上で誘われて口説かれて、舞い上がった。世間知らずの陽斗は、簡単に落ちてしまった。
おかしな点はたくさんあったのに、気が付かない振りをしてただけ。
仕事が忙しいを理由に、既読スルーの時期が周期的にあった。
仕方がなかったといいながら、外で堂々とキスをしている姿も、陽斗を傷つけた。
『好きだ、愛してる。お前だけだ』
身近な人でさえ、簡単に嘘をつく。
クリス殿下の態度も最悪だった。愛はなくても、婚約者になった相手の性格や顔を否定する言葉ばかりをかけてくる。
さらに浮気相手が複数って……そんな婚約者なんていらない。
BLの世界を望んだけれど、こんな展開を望んだわけじゃない。
陽斗が死んだ時に、確かに『わかった』って言われたのを思い出した。
次の時に『手違いだった』とも言った。
期待して落とされるのは勘弁して欲しいから。愛されるなんて思ったら負けだ。
(生き残る方法が、きっとなんかある)
クリス殿下との婚約を、絶対に回避する。
「例えば……このまま病弱設定にして学園に通わない」
スペードニア王国で、上位貴族が王立学園に行かないのは不味い。
ヴィオレット侯爵家を守りたいなら、病弱設定はだめだ。
せいぜい、か弱いくらいは装って誘われないようにしよう。そもそも誘ってこないだろうけど。
「先に……誰かと婚約する?」
この世界で受け入れてもらえる顔でもない。相手ができるとも思えない。
「なら、笑う練習をしてみるとか……?」
笑いたいのに、ひきつってしまう。
すでに、悪い噂は広まってる。無理だな……。
他にどうしたらいいのかと、途方にくれた。
悪役令息なのだ。
今さら、笑い顔なんて怖がられるだけだ。
「一人で、生きる方が楽そう」
ジェラルドは、ヴィオレット侯爵家の嫡男で一人息子だ。
侯爵家を継ぐための、第二王子との婚姻だったけれど、養子を受け入れてもいいのではないだろうか?
愛のない婚姻になるよりも、三十過ぎたころに養子を迎える。
その提案も父上にしておこう。
ヴィオレット侯爵は、生涯にただ一人だけを愛した人だった。後妻もいない。
だから、ジェラルドは父上が大好きだった。
『らぶそな』のBLゲームの世界は、男性しかいない。
女性体が過去に消失したのは、彼女たちが精霊と女神の怒りを買ったから。
だから伴侶に選ばれた男性の体を、光の加護で子供を産めるようにする。
産む側を王配や王子の相手なら妃といい。母親と表現されるのは、子供を産む聖母として扱うからだ。
ジェラルドの母親は、出産してから体調をくずし、その後三年ほどで儚く生涯をとじた。ずっと亡くなった彼を想っている、父上のような人が、ジェラルドの理想の相手だ。
クリス殿下との婚約の打診は、侯爵家の総意で拒絶していい。王家が諦めてくれない時は、学園にいる間はとにかく保留だ。卒業すれば、断罪ルートから外れるはずだ。
学園に入るまでに三年あるから、ジェラルドも体を鍛えて、男らしくなるのもいい。
「そうだよ。抱く側……に。筋肉をつけたりしたら」
少し保留しよう。ゲームのビジュアルでも、ジェラルドは華奢なタイプだ。陽斗 もネコだった。抱く側には、なれそうになかった。
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