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3.婚約者……?
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沈黙が続いている。
ここは、ヴィオレット侯爵の執務室だ。
極秘ということで、父上の補佐をしている家令も、メイドも下がっていて、広く重厚な雰囲気の執務室には三人だけ。
「で、どういうことか教えて欲しいのだけどメイナード。いつの間に二人はそんな関係になったんだい?」
「父上、あの違うんです」
「ジェラルド。今、確認しているのは、メイナードにだよ」
「ジェラルド様と、婚約をさせてください」
「そんなこと、軽々しく言える立場じゃないよね? そこはどうなの?」
銀糸の髪は、ジェラルドとは違いゆるいウエーブがかっている。だから、雰囲気がずっと柔らかい人だったのに。今日は恐ろしく怖い。
やっぱり、悪役の父親だ。冷酷な雰囲気は、遺伝なのだと理解した。
「ですから、父上違うんです。仮というか偽装で。メイナードも。ほら、ちゃんと言って。婚約者候補の振りって話だって」
「ジェラルド様」
「ルド。きちんと説明してくれる?」
「理由なのですが。僕は王家のクリス様に嫌われているのに、婚約者候補から外れていません。会うと嫌味を言い続けられて。僕の顔が嫌いで、笑い顔も気持ちが悪いと。それに同調する令息も多くて、何度も泣いてきました」
これを伝えるのは辛い。行きたくないと言ったこともある。侯爵家の嫡男として友人を作るいい機会だからと、父上には割と積極的に、参加するように声をかけられていた。
「──ルド。それは本当か? ルドの顔は、亡き妻に似て美しい。瞳は宝石眼で、サファイアの輝きは、精霊に愛されるほどの美しい瞳だ。笑顔を馬鹿にするようなことを言うなんて。子供同士のことだと報告を受けていたんだ……」
ミシッ。ビキッ……。
室内にラップ音のような、心霊現象が起きている。
ガラスにヒビが入り、壁に飾っている絵の額が揺れる。
「ち、父上?」
「ヴィオレット侯爵様。魔力を抑えて下さい」
冷静に、とメイナードが発言した。
「あ、ああ。すまない。陛下側からは、クリス殿下が、ジェラルドの美しさに、緊張して少しだけ気を引くように意地悪く言うと聞いていた。好きな子に意地悪するという……子供じみた行為だが。そうか、顔が嫌いだと言ったのか。そうか……あのクソガキ……」
「言えなくて、ごめんなさい」
「メイナードとは、学園を卒業するまでの偽装なんだな?」
「そうです。従者兼、ヴィオレット侯爵家の婚約者候補なら、メイナードのことも守れると思います。あの、あくまで候補です」
そもそも、メイナードが言い出したことだ。クリス殿下を拒絶する理由を明確にするために、自分を使って欲しい。そう言ってくれたのだ。
その、すごい迫力で、仮でもいいから……ジェラルドから助けられた恩返しみたいなものだって。
距離をおくはずが、こんなことになってしまった。
断罪ルートを考えたら、手を取ってしまったけど。
もちろん、彼を婚約者にする気はない。メイナードが貴族だとしても、身分を隠している以上、攻略対象者より身分が低い扱いを受けてしまう。
殿下はともかく……他の攻略対象者からは、ジェラルドの実家であるヴィオレット侯爵家の名前が有効なはずだ。
お互いを守るための、婚約者候補という立場なのだけど。
仮の婚約者にまで、仕立てあげてしまうのは、メイナードを巻き込み過ぎだ。
「あのクソガキからの婚約は阻止する。それはヴィオレット侯爵家としてきちんと断るから大丈夫だ。だが、メイナードと婚約を仮でもするなら、学園での出会う機会を失うよ? 学園での出会いは一生ものだ。私が彼と出会ったのも学園なんだ。それでもいいのかい? 婚約者を探すのではなく、友人から発展することだってあるのに」
「僕は、一人できちんと立って生きていきたいんです。頼ることなく自分の力で、ヴィオレット侯爵家を支えたいです」
「ルドは、まだ十三歳だよ? これから誰かに出会って」
「ヴィオレット侯爵家の子息は僕だけです。だから、兄弟に頼ることもできません。父上の歳くらいまで頑張って、その後は優秀な親戚筋から養子を迎えるか、考えます」
「いや、早まらなくていいんだ。ルドどうしてそんなことを言うんだ」
「恋愛に向いてないんです。令息同士の交流会でさえ上手くできません。もう、傷つくの嫌なんです。僕の顔……皆怖いって言うんですよ。まだ上手く躱せなくて情けないです。父上、もう交流会の参加を止めてもいいですか? 嫌われたままでいいので。大人になったら……少しはマシな交流できるんじゃないかって……それまでは、ごめんなさい」
これは、陽斗の気持ちではなく、ジェラルドが受けてきた傷だ。すでに深く心に刻まれている。上手く笑えなくなったままなのだから。
ここは、ヴィオレット侯爵の執務室だ。
極秘ということで、父上の補佐をしている家令も、メイドも下がっていて、広く重厚な雰囲気の執務室には三人だけ。
「で、どういうことか教えて欲しいのだけどメイナード。いつの間に二人はそんな関係になったんだい?」
「父上、あの違うんです」
「ジェラルド。今、確認しているのは、メイナードにだよ」
「ジェラルド様と、婚約をさせてください」
「そんなこと、軽々しく言える立場じゃないよね? そこはどうなの?」
銀糸の髪は、ジェラルドとは違いゆるいウエーブがかっている。だから、雰囲気がずっと柔らかい人だったのに。今日は恐ろしく怖い。
やっぱり、悪役の父親だ。冷酷な雰囲気は、遺伝なのだと理解した。
「ですから、父上違うんです。仮というか偽装で。メイナードも。ほら、ちゃんと言って。婚約者候補の振りって話だって」
「ジェラルド様」
「ルド。きちんと説明してくれる?」
「理由なのですが。僕は王家のクリス様に嫌われているのに、婚約者候補から外れていません。会うと嫌味を言い続けられて。僕の顔が嫌いで、笑い顔も気持ちが悪いと。それに同調する令息も多くて、何度も泣いてきました」
これを伝えるのは辛い。行きたくないと言ったこともある。侯爵家の嫡男として友人を作るいい機会だからと、父上には割と積極的に、参加するように声をかけられていた。
「──ルド。それは本当か? ルドの顔は、亡き妻に似て美しい。瞳は宝石眼で、サファイアの輝きは、精霊に愛されるほどの美しい瞳だ。笑顔を馬鹿にするようなことを言うなんて。子供同士のことだと報告を受けていたんだ……」
ミシッ。ビキッ……。
室内にラップ音のような、心霊現象が起きている。
ガラスにヒビが入り、壁に飾っている絵の額が揺れる。
「ち、父上?」
「ヴィオレット侯爵様。魔力を抑えて下さい」
冷静に、とメイナードが発言した。
「あ、ああ。すまない。陛下側からは、クリス殿下が、ジェラルドの美しさに、緊張して少しだけ気を引くように意地悪く言うと聞いていた。好きな子に意地悪するという……子供じみた行為だが。そうか、顔が嫌いだと言ったのか。そうか……あのクソガキ……」
「言えなくて、ごめんなさい」
「メイナードとは、学園を卒業するまでの偽装なんだな?」
「そうです。従者兼、ヴィオレット侯爵家の婚約者候補なら、メイナードのことも守れると思います。あの、あくまで候補です」
そもそも、メイナードが言い出したことだ。クリス殿下を拒絶する理由を明確にするために、自分を使って欲しい。そう言ってくれたのだ。
その、すごい迫力で、仮でもいいから……ジェラルドから助けられた恩返しみたいなものだって。
距離をおくはずが、こんなことになってしまった。
断罪ルートを考えたら、手を取ってしまったけど。
もちろん、彼を婚約者にする気はない。メイナードが貴族だとしても、身分を隠している以上、攻略対象者より身分が低い扱いを受けてしまう。
殿下はともかく……他の攻略対象者からは、ジェラルドの実家であるヴィオレット侯爵家の名前が有効なはずだ。
お互いを守るための、婚約者候補という立場なのだけど。
仮の婚約者にまで、仕立てあげてしまうのは、メイナードを巻き込み過ぎだ。
「あのクソガキからの婚約は阻止する。それはヴィオレット侯爵家としてきちんと断るから大丈夫だ。だが、メイナードと婚約を仮でもするなら、学園での出会う機会を失うよ? 学園での出会いは一生ものだ。私が彼と出会ったのも学園なんだ。それでもいいのかい? 婚約者を探すのではなく、友人から発展することだってあるのに」
「僕は、一人できちんと立って生きていきたいんです。頼ることなく自分の力で、ヴィオレット侯爵家を支えたいです」
「ルドは、まだ十三歳だよ? これから誰かに出会って」
「ヴィオレット侯爵家の子息は僕だけです。だから、兄弟に頼ることもできません。父上の歳くらいまで頑張って、その後は優秀な親戚筋から養子を迎えるか、考えます」
「いや、早まらなくていいんだ。ルドどうしてそんなことを言うんだ」
「恋愛に向いてないんです。令息同士の交流会でさえ上手くできません。もう、傷つくの嫌なんです。僕の顔……皆怖いって言うんですよ。まだ上手く躱せなくて情けないです。父上、もう交流会の参加を止めてもいいですか? 嫌われたままでいいので。大人になったら……少しはマシな交流できるんじゃないかって……それまでは、ごめんなさい」
これは、陽斗の気持ちではなく、ジェラルドが受けてきた傷だ。すでに深く心に刻まれている。上手く笑えなくなったままなのだから。
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