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第1章
プロローグ
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───15年前
「ロイド!待て!勝手に奥に進むな!!」
長身の男が、慌てて前を走る子供を追いかける。
天井が低いために走りにくい。
迷路のような場所。
ここは、地下迷宮の中だ。
本来なら有り得ない事が起きている。
5歳の子供を連れて迷宮に入ることなど、レベル等の問題ではなく正気の沙汰では無いからだ。
他人からみれば、人生に自暴自棄になって家族で死に場所でも探しに来たのか?と思うだろう。
ところが、この夫婦はいたって真面目に息子を連れてきた。
「ベルグ。見失わなようにね」
後ろから息ひとつ乱さず付いて来るのは、緩やかに波打つ腰までの長い髪を1つ結びにした美女だ。
ベルグ・ベルモンドは、この領内で有名なS級冒険者の1人だ。
双剣の使い手で、雷魔術を得意とする。
声をかけてきた美女の名前はマリナ・ベルモンド 。S級の魔術師である。
この2人より先を必死に走っているのは、息子のロイドだ。
まだ、5歳なのだが…予知を見る事があり今日絶対にここに連れて行って欲しいと2人に頭を下げたのだ。
3歳の頃から不思議な発言をしていたロイドの予言は、当たる。
マリナの血筋は、7~8歳頃まで予知夢を見る。成長とともにその力は無くなってしまうらしい。マリナ自身も、予知夢を見ていたそうだ。
翌日の天気を当てる程度のものから、命の危機を知らせるものまで子供の能力によりその差は出る。
ロイドは、そういう意味でも能力が高い子供だった為に、2人はダンジョンまで連れてきたようだ。最初に覚えた風魔術をかなり自由に使っている。足にまとわせ先頭を走る。
「大切な子が泣いている。行かなければ後悔する。必ずお父さん達を助けてくれる大切な子なんだ」
流石のベルグでも我が子を連れて行くべきかどうか迷うのも仕方がない。
大人でも命を落とし、帰って来れなくなることもある危険な場所なのだから。
召喚獣だろうか?それとも妖精だろうか?ベルグは根負けして、マリナに頼んで、ロイドに防御魔術を何重にもかけさせた。
「本当に心配性なんだから。ロイドなら、きっと大丈夫よ。いざとなったら、私と二人で地上に転移するから」
魔術で先にいる魔獣を澄まし顔で倒しているマリナは笑う。
その時、先を走るロイドが叫んだ。
「ここ!ここを壊して!お父さん!!」
ただの岩肌に小さな両手を当てて立ち止まっている。
ベルグが双剣に雷光を纏わせた。
「中の子に当たらないようにしてね!絶対だよ」
「分かった。ロイドは、マリナの所にいるんだ。マリナ。この岩の厚さは、俺の腕の長さ2つ分でいいか?」
ロイドがマリナの所に駆け寄り魔術結界の中に入った。
「そうね。その先に空洞があるわ。こっちも、防御壁出来てるから…ぶっ壊し…じゃなくて。穴を開けて大丈夫よ」
妖艶に笑いながら、その魔力が高まっていく。
「分かった」
ベルグが、瞬時にロイドの指示した場所に移動して双剣を振るった。
光線が走り、亀裂が入っていく。
大きな音とともに、岩が崩れすき間が出来た。
ロイドが、慌てて結界を出て行こうとする。短めのローブの裾をマリナが掴んだ。
「待って。これ以上壊れない様に魔術で固定するから。中の子を護るためにも、もう少しだけ待って」
マリナが魔法陣を描き、そこから植物の蔦が伸びて入口が塞がらないように岩肌を緑で覆う。
それを目視したロイドは、すぐにでも飛び出しそうな勢いでマリナに尋ねた。
「行ってもいい?」
「ええ」
その言葉を聞いて、急ぎ中に走りこんで行った。
「大丈夫。サーチに嫌な魔力は、かからなかったから」
「マリナには、恐れ入るよ」
そう言いながら、ベルグも中へ入って行く。
2人が中に入ると、ロイドの背中越しに紫銀色の髪色が見えた。
「妖精か?スミレうさぎにしては、大きいな」
「この色……まさか、ね」
2人してロイドが抱きしめている物の正体を確認しに行く。
「か、可愛い子!!3歳くらいかしら?」
マリナが興奮して顔を覗き込んだ。
その声に驚いたのか顔の向きが変わった。頬に涙の跡が見える。
大きく見開いた宝石の様な青い瞳に見つめられる。
「だれ?」
か細い声が聞こえた。小さな手がギュッとロイドのローブを握り締める。
「妖精なんて、初めてみたが…美しいな」
ベルグも驚いてそう言った。
「妖精じゃないって。周りの子達が言ってる。護って欲しいって。この子の名前…ライラ…?よく聞き取れないよ。
ライラでいい?エーベルハルト?」
マリナの顔が一瞬強ばる。
「エーベルハルトって…護るって嘘」
その呟きにロイドとライラは、キュッとくっついた。
「嫌だ!連れて帰る!!ライラは僕が護るもん!」
「──おいてかないで」涙が頬を伝う。
ベルグがマリナの顔をジッと見つめる。
マリナが、笑った。
「──エーベルハルトは駄目。今日からライラ・ベルモンドよ。
護る為には、髪の色も…出来れば性別も隠そうね。ライラが身を守れるように育つまで」
「女の子にするの?可哀想じゃないの?」
「この子には、敵がいっぱいいると思うの。こんな場所に隠されてるくらいだもの。
ロイドも協力してくれる?ライラを護る為に必要な嘘をつくわ。出来なければ連れて帰れない」
ロイドが、ライラの潤んだ瞳を袖で優しく拭き取り、自身の顔は雑に拭った。
「わ、分かった!僕も強くなってライラをずっと護る!」
嬉しそうに抱き合う2人を見ながらベルグが小声でマリナに尋ねる。
「いいのか?」
「ロイドが、私達に必要な子って言うんだもの。後は全力で護るだけよ」
「そうだな」
「きっと、必然の出会いなのよ」
こうしてロイドの妹として、ライラは家族の一員となった。
「ロイド!待て!勝手に奥に進むな!!」
長身の男が、慌てて前を走る子供を追いかける。
天井が低いために走りにくい。
迷路のような場所。
ここは、地下迷宮の中だ。
本来なら有り得ない事が起きている。
5歳の子供を連れて迷宮に入ることなど、レベル等の問題ではなく正気の沙汰では無いからだ。
他人からみれば、人生に自暴自棄になって家族で死に場所でも探しに来たのか?と思うだろう。
ところが、この夫婦はいたって真面目に息子を連れてきた。
「ベルグ。見失わなようにね」
後ろから息ひとつ乱さず付いて来るのは、緩やかに波打つ腰までの長い髪を1つ結びにした美女だ。
ベルグ・ベルモンドは、この領内で有名なS級冒険者の1人だ。
双剣の使い手で、雷魔術を得意とする。
声をかけてきた美女の名前はマリナ・ベルモンド 。S級の魔術師である。
この2人より先を必死に走っているのは、息子のロイドだ。
まだ、5歳なのだが…予知を見る事があり今日絶対にここに連れて行って欲しいと2人に頭を下げたのだ。
3歳の頃から不思議な発言をしていたロイドの予言は、当たる。
マリナの血筋は、7~8歳頃まで予知夢を見る。成長とともにその力は無くなってしまうらしい。マリナ自身も、予知夢を見ていたそうだ。
翌日の天気を当てる程度のものから、命の危機を知らせるものまで子供の能力によりその差は出る。
ロイドは、そういう意味でも能力が高い子供だった為に、2人はダンジョンまで連れてきたようだ。最初に覚えた風魔術をかなり自由に使っている。足にまとわせ先頭を走る。
「大切な子が泣いている。行かなければ後悔する。必ずお父さん達を助けてくれる大切な子なんだ」
流石のベルグでも我が子を連れて行くべきかどうか迷うのも仕方がない。
大人でも命を落とし、帰って来れなくなることもある危険な場所なのだから。
召喚獣だろうか?それとも妖精だろうか?ベルグは根負けして、マリナに頼んで、ロイドに防御魔術を何重にもかけさせた。
「本当に心配性なんだから。ロイドなら、きっと大丈夫よ。いざとなったら、私と二人で地上に転移するから」
魔術で先にいる魔獣を澄まし顔で倒しているマリナは笑う。
その時、先を走るロイドが叫んだ。
「ここ!ここを壊して!お父さん!!」
ただの岩肌に小さな両手を当てて立ち止まっている。
ベルグが双剣に雷光を纏わせた。
「中の子に当たらないようにしてね!絶対だよ」
「分かった。ロイドは、マリナの所にいるんだ。マリナ。この岩の厚さは、俺の腕の長さ2つ分でいいか?」
ロイドがマリナの所に駆け寄り魔術結界の中に入った。
「そうね。その先に空洞があるわ。こっちも、防御壁出来てるから…ぶっ壊し…じゃなくて。穴を開けて大丈夫よ」
妖艶に笑いながら、その魔力が高まっていく。
「分かった」
ベルグが、瞬時にロイドの指示した場所に移動して双剣を振るった。
光線が走り、亀裂が入っていく。
大きな音とともに、岩が崩れすき間が出来た。
ロイドが、慌てて結界を出て行こうとする。短めのローブの裾をマリナが掴んだ。
「待って。これ以上壊れない様に魔術で固定するから。中の子を護るためにも、もう少しだけ待って」
マリナが魔法陣を描き、そこから植物の蔦が伸びて入口が塞がらないように岩肌を緑で覆う。
それを目視したロイドは、すぐにでも飛び出しそうな勢いでマリナに尋ねた。
「行ってもいい?」
「ええ」
その言葉を聞いて、急ぎ中に走りこんで行った。
「大丈夫。サーチに嫌な魔力は、かからなかったから」
「マリナには、恐れ入るよ」
そう言いながら、ベルグも中へ入って行く。
2人が中に入ると、ロイドの背中越しに紫銀色の髪色が見えた。
「妖精か?スミレうさぎにしては、大きいな」
「この色……まさか、ね」
2人してロイドが抱きしめている物の正体を確認しに行く。
「か、可愛い子!!3歳くらいかしら?」
マリナが興奮して顔を覗き込んだ。
その声に驚いたのか顔の向きが変わった。頬に涙の跡が見える。
大きく見開いた宝石の様な青い瞳に見つめられる。
「だれ?」
か細い声が聞こえた。小さな手がギュッとロイドのローブを握り締める。
「妖精なんて、初めてみたが…美しいな」
ベルグも驚いてそう言った。
「妖精じゃないって。周りの子達が言ってる。護って欲しいって。この子の名前…ライラ…?よく聞き取れないよ。
ライラでいい?エーベルハルト?」
マリナの顔が一瞬強ばる。
「エーベルハルトって…護るって嘘」
その呟きにロイドとライラは、キュッとくっついた。
「嫌だ!連れて帰る!!ライラは僕が護るもん!」
「──おいてかないで」涙が頬を伝う。
ベルグがマリナの顔をジッと見つめる。
マリナが、笑った。
「──エーベルハルトは駄目。今日からライラ・ベルモンドよ。
護る為には、髪の色も…出来れば性別も隠そうね。ライラが身を守れるように育つまで」
「女の子にするの?可哀想じゃないの?」
「この子には、敵がいっぱいいると思うの。こんな場所に隠されてるくらいだもの。
ロイドも協力してくれる?ライラを護る為に必要な嘘をつくわ。出来なければ連れて帰れない」
ロイドが、ライラの潤んだ瞳を袖で優しく拭き取り、自身の顔は雑に拭った。
「わ、分かった!僕も強くなってライラをずっと護る!」
嬉しそうに抱き合う2人を見ながらベルグが小声でマリナに尋ねる。
「いいのか?」
「ロイドが、私達に必要な子って言うんだもの。後は全力で護るだけよ」
「そうだな」
「きっと、必然の出会いなのよ」
こうしてロイドの妹として、ライラは家族の一員となった。
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