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6 終章
4 罰
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「───今更?」
恐ろしい程の凍えた空気を纏い、黒神がこちらを見つめてきた。
言葉に詰まる。
あの時、反対されたんだ。黒神に。
「騙すように連れてきた者を伴侶にするなど──逃げ場のない子なのだろう?」
「ああ。だからこそ私の物にするんだ。その方が生きやすいじゃないか」
「前に、伴侶の候補がいると言ったじゃないか。その子はどうするんだ?」
「何も。傍に居られれば満足そうだ時々相手をしてやればいいだろう?」
「──2人とも傷つく。ちゃんと対応してやれ」
うるさい。私の領内の事だ。私の好きにする。お前に説教などされたくない。
堅苦しい。ああ、お前みたいな綺麗事だらけの堅苦しい奴。少し記憶でも無くせば融通が効くようになるんじゃないか?
───禁忌の泉の水を酒に混ぜたらどうなるだろう。罰を与える時、恩赦として飲ませるんだ。苦しまずに堕天化出来る。私達に、効くだろうか?まぁ、一時でも面白いな。
「分かった。ちゃんと考えるよ。ただ今日は、いい酒がある。久々に黒神も飲んでくれ」
一通りのやり取りを思い出した。
「あれは、酒の席の事だろ?」
「そうか。その結果、俺を下界に堕としただろう?記憶が欠けたままね」
「いや、私達の時間から行けば、ほんの少しだけだ。冗談だった。ほら、今はお前の言う通りだよ。一人に決めたんだ」
「そうだな。俺もおかげで最愛を見つけたから、感謝しかない」
「最愛を見つけた?」
「───おいで、ユラ」
傍に黒衣の者が並ぶ。そして、顔を隠していたベールをゆっくりと下げた。
黒い猫耳と、黒い長い髪。瞳だけは、琥珀だ。
「ユラは、処分したはずだ!」
その声に驚いて黒髪のユラが黒神に抱きついた。少し震えている。大切そうに黒神が抱きかかえた。
「お前が手にかけようとしたのは、アキだよ。ユラにつけた花の印を消させる為に身代わりになってくれたんだ。アキにとっては全てアルルの為だが」
アルルが崩れ落ちそうになる。それを支えたのは、他でもないアキだ。
「アキ、アキ、悪かった。私が、アキを苦しめた。生きててくれて良かった。もう、どんな罪でも受け入れます。アキを返して欲しいのです。大切な友なんです。私を心から支えてくれた大切な家族だから──もう、伴侶になんて望みません。アキを返して下さい」
アルルが、アキに抱きついて泣き始めた。なぜ?アルルが私から離れていくんだ。嫌だ。お前は、ずっと私の傍にいたじゃないか!
「アルル……私は!お前を失いたくない」
「いいえ。私が、ユラ様に嫉妬したのです。だから、アキに頼んだのです。美しい白銀の様な髪を黒く染めさせたのです!」
アルルは、もうぐちゃぐちゃに泣き、喚きそして……アキに支えられている。
「ラティア、お前が招いた結果だよ」
「黒神。すまない。ユラは、お前の伴侶なのだろう?もう手は出さない。だから、アルルにアキを返して欲しい。それから、私もすまなかった。ほんとに冗談だったんだ」
赤神が傍に来た。
「ラティア。駄目だ。俺達のルールがあるはずだ。俺達の力はほぼ同じだからこそ、誰かに力を貸すことも、騙し討ちのようなことをすることも禁忌だ。代替わりをするべきだ」
「代替わり……だが、まだ伴侶も後継もいないんだ。月華領の皆が!」
神が居なくなれば、領は一度解体されてしまう。私の大切なもの達の居場所がなくなるなど……
「黒神!頼む。代替わりはまだ無理だ。他の罰はないか?頼む、他の事なら何でもする」
「───ないな」
「黒神!」
「───俺は、新しい名を貰ったんだ。ガイアだ。だから……ガイア・グレースと名乗るよ。お前が黒神としての俺にした事は忘れてやる。代替わりは、要求しない。だから、変わりにお前にぴったりの仕事を頼む」
「──なんだ?」
一体何をしろと……?
「ラティアの見た目がいちばん効果あると思うんだ」
「どういう意味だ?」
「世話になった世界が、獣人を奴隷扱いにするんだ。神として王家を説得して来てくれ」
「は?」
「俺は、この通り黒いからな……あちらの人間と見た目があまり変わらないんだ。ラティアなら神々しさが出るから。奴隷達を解放しなければ……災害を起こすとかやって来てくれ」
何を言ってるんだ?
「黒神……変わったな?神の力を行使とか反対だっただろう?」
「──たくさんの獣人が奴隷扱いだ。皆同じ生命なんだ。人間はすぐに見た目で差別をする。ならば、神の怒りに触れれば人間の方を奴隷にすると言えば、保身の為に変わるだろ?奴隷になりたくないと思わせて欲しい。お前はそう言う威厳があるからな」
「ラティア様。どうか、皆を助けて下さい。それから、アルル様をお願いします。私の事を大切にして下さったんです。ずっとご迷惑をかけてて……嫌な思いばかりさせたんです。お2人に幸せになって欲しいのです」
ユラまで、下界の事を心配するのか?
「黒神が、それで許すんだ。少し下界を良くして来たらいい」
青神が、少し笑っている。
ああ。私の負けだ。お前の言うことが正しいよ。
「──分かった。なら、アルル……アキと待っててくれないか?片付いたら、お前を伴侶にしたい。お前の献身に気付くのが遅くてすまない。私はお前を伴侶にしたい」
アルルが、ただただ子供の様に泣いていた。アキが、私の傍にアルルを連れてきた。思わず抱きしめる。
私は、愛しいと言う気持ちに初めて気がついたんだ。
恐ろしい程の凍えた空気を纏い、黒神がこちらを見つめてきた。
言葉に詰まる。
あの時、反対されたんだ。黒神に。
「騙すように連れてきた者を伴侶にするなど──逃げ場のない子なのだろう?」
「ああ。だからこそ私の物にするんだ。その方が生きやすいじゃないか」
「前に、伴侶の候補がいると言ったじゃないか。その子はどうするんだ?」
「何も。傍に居られれば満足そうだ時々相手をしてやればいいだろう?」
「──2人とも傷つく。ちゃんと対応してやれ」
うるさい。私の領内の事だ。私の好きにする。お前に説教などされたくない。
堅苦しい。ああ、お前みたいな綺麗事だらけの堅苦しい奴。少し記憶でも無くせば融通が効くようになるんじゃないか?
───禁忌の泉の水を酒に混ぜたらどうなるだろう。罰を与える時、恩赦として飲ませるんだ。苦しまずに堕天化出来る。私達に、効くだろうか?まぁ、一時でも面白いな。
「分かった。ちゃんと考えるよ。ただ今日は、いい酒がある。久々に黒神も飲んでくれ」
一通りのやり取りを思い出した。
「あれは、酒の席の事だろ?」
「そうか。その結果、俺を下界に堕としただろう?記憶が欠けたままね」
「いや、私達の時間から行けば、ほんの少しだけだ。冗談だった。ほら、今はお前の言う通りだよ。一人に決めたんだ」
「そうだな。俺もおかげで最愛を見つけたから、感謝しかない」
「最愛を見つけた?」
「───おいで、ユラ」
傍に黒衣の者が並ぶ。そして、顔を隠していたベールをゆっくりと下げた。
黒い猫耳と、黒い長い髪。瞳だけは、琥珀だ。
「ユラは、処分したはずだ!」
その声に驚いて黒髪のユラが黒神に抱きついた。少し震えている。大切そうに黒神が抱きかかえた。
「お前が手にかけようとしたのは、アキだよ。ユラにつけた花の印を消させる為に身代わりになってくれたんだ。アキにとっては全てアルルの為だが」
アルルが崩れ落ちそうになる。それを支えたのは、他でもないアキだ。
「アキ、アキ、悪かった。私が、アキを苦しめた。生きててくれて良かった。もう、どんな罪でも受け入れます。アキを返して欲しいのです。大切な友なんです。私を心から支えてくれた大切な家族だから──もう、伴侶になんて望みません。アキを返して下さい」
アルルが、アキに抱きついて泣き始めた。なぜ?アルルが私から離れていくんだ。嫌だ。お前は、ずっと私の傍にいたじゃないか!
「アルル……私は!お前を失いたくない」
「いいえ。私が、ユラ様に嫉妬したのです。だから、アキに頼んだのです。美しい白銀の様な髪を黒く染めさせたのです!」
アルルは、もうぐちゃぐちゃに泣き、喚きそして……アキに支えられている。
「ラティア、お前が招いた結果だよ」
「黒神。すまない。ユラは、お前の伴侶なのだろう?もう手は出さない。だから、アルルにアキを返して欲しい。それから、私もすまなかった。ほんとに冗談だったんだ」
赤神が傍に来た。
「ラティア。駄目だ。俺達のルールがあるはずだ。俺達の力はほぼ同じだからこそ、誰かに力を貸すことも、騙し討ちのようなことをすることも禁忌だ。代替わりをするべきだ」
「代替わり……だが、まだ伴侶も後継もいないんだ。月華領の皆が!」
神が居なくなれば、領は一度解体されてしまう。私の大切なもの達の居場所がなくなるなど……
「黒神!頼む。代替わりはまだ無理だ。他の罰はないか?頼む、他の事なら何でもする」
「───ないな」
「黒神!」
「───俺は、新しい名を貰ったんだ。ガイアだ。だから……ガイア・グレースと名乗るよ。お前が黒神としての俺にした事は忘れてやる。代替わりは、要求しない。だから、変わりにお前にぴったりの仕事を頼む」
「──なんだ?」
一体何をしろと……?
「ラティアの見た目がいちばん効果あると思うんだ」
「どういう意味だ?」
「世話になった世界が、獣人を奴隷扱いにするんだ。神として王家を説得して来てくれ」
「は?」
「俺は、この通り黒いからな……あちらの人間と見た目があまり変わらないんだ。ラティアなら神々しさが出るから。奴隷達を解放しなければ……災害を起こすとかやって来てくれ」
何を言ってるんだ?
「黒神……変わったな?神の力を行使とか反対だっただろう?」
「──たくさんの獣人が奴隷扱いだ。皆同じ生命なんだ。人間はすぐに見た目で差別をする。ならば、神の怒りに触れれば人間の方を奴隷にすると言えば、保身の為に変わるだろ?奴隷になりたくないと思わせて欲しい。お前はそう言う威厳があるからな」
「ラティア様。どうか、皆を助けて下さい。それから、アルル様をお願いします。私の事を大切にして下さったんです。ずっとご迷惑をかけてて……嫌な思いばかりさせたんです。お2人に幸せになって欲しいのです」
ユラまで、下界の事を心配するのか?
「黒神が、それで許すんだ。少し下界を良くして来たらいい」
青神が、少し笑っている。
ああ。私の負けだ。お前の言うことが正しいよ。
「──分かった。なら、アルル……アキと待っててくれないか?片付いたら、お前を伴侶にしたい。お前の献身に気付くのが遅くてすまない。私はお前を伴侶にしたい」
アルルが、ただただ子供の様に泣いていた。アキが、私の傍にアルルを連れてきた。思わず抱きしめる。
私は、愛しいと言う気持ちに初めて気がついたんだ。
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