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5 ユージーン殿下のお気に入り
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今日は王宮魔法師の制服を着ていた。すごく格好良くて、ドキドキが止まらない。しばらく床に座り込んでいた。
「はああ」
息を吐いて、鎮まれ心臓と胸に手をあてる。
「だめだ。魔法書でも読んで気を紛らわせないと……。あ、急ぎの報告書もあったのに、読んでる場合じゃない。それを先に終わらせてって……ほんと毎回、緊張してどうするんだよ」
執務の優先の確認、護衛などの予定、そして一年以上経った今でも、テロ事件の定期的な進捗報告のためにエルドレッド様が来る。
裏で仕組んだ者がいるはずらしいけど、そこにたどり着けないらしい。
レティスの喪が明けてしまったので、うやむやにされるだろうと殿下は言っていた。王女殿下の魔力暴走で、魔法師が死んでしまった事実が大き過ぎた。
まあ、混乱するよね。発情したオメガに、会場はめちゃくちゃ。攻撃を受け倒れた二人がボロボロになっていたわけだしね。
しばらくして、ドアの開閉音がした。
こちらの部屋の前で足音が止まり、トンと音がして「ラシェル」とユージーン殿下の声がする。
「はい」
「話があるからこっちにきて」
テーブルのティーカップの中身が、二つとも空になっていた。良かった、飲んでくれたんだと、トレイに乗せて小さなワゴンの上におく。
「ん。とりあえず、あとで片付けたらいいから。座って」
「わかりました」
「ラシェル……ちょっと面倒なことになってね」
「──面倒なことですか?」
「君の実力を疑う者がいるんだ」
それはそうだ、犯人かもと思われているオメガ。ただ魔塔の中は実力主義だから、王宮魔法師に合格するとか、属性の適正とかで仕事をすると認めてもらいやすい。ただ試験はまだ先だった。
いちばん厄介なのは、ユージーン殿下のお気に入りの噂だと思う。
「そうですよね」
「オメガが色目を使ってるなんて噂もあるし……ね」
「──すみません。僕のせいで」
「そこでだ。私も君の教育をしたいのだが、王族としての執務もあるから時間が取れない。一番の適役に頼むことにしたんだ。君は嫌かもしれないけど」
「適役ですか?」
「エルドレッドだよ」
「はぁ? い、いえ……失礼な言い方してすみません」
「まあ。そうなるよね。あいつは、オメガ嫌いで知れ渡ってるだろ? しかも大切な部下を失って……さらにラシェルに対して、敵意丸出し。逆にビシバシ指導されたらいいんじゃないかと思ってさ。だからと言って、君を追い出すような、理不尽なことをするような奴じゃないからね」
殿下は少し困ったように笑った。長い足を組み替えて姿勢を正した。
「魔法の教え方は、最高に上手いんだ。エルドレッドの指導のもと、王宮魔法師の試験を受けてほしい。それと、夜会に参加できるようにマナーを私が教える。ダンスとかも、今後必要になるだろうから」
「魔法はブラックアイド小侯爵様で、マナーとダンスはユージーン殿下から? そんなの恐れ多いです」
「君が頑張ってるのを知ってるよ。悪評を覆すくらいにならないとだめだ。君の義兄とあの時の夜会の参加者が、また噂を流し始めた。俺はそれが許せないからね」
「小侯爵様は、僕に教えるなんて嫌でしょう?」
「あいつは別の噂に、怒っているんだ」
「別のですか?」
「君の耳にもいずれ入るだろう。レティスがベータだったのは知ってるよね? そのレティスが、エルドレッドを陥れようと発情テロに関わっていたと噂が広がっている。ありえない」
なぜ、そんな話になっているのか。
驚きすぎて、言葉が出てこなかった。
「はああ」
息を吐いて、鎮まれ心臓と胸に手をあてる。
「だめだ。魔法書でも読んで気を紛らわせないと……。あ、急ぎの報告書もあったのに、読んでる場合じゃない。それを先に終わらせてって……ほんと毎回、緊張してどうするんだよ」
執務の優先の確認、護衛などの予定、そして一年以上経った今でも、テロ事件の定期的な進捗報告のためにエルドレッド様が来る。
裏で仕組んだ者がいるはずらしいけど、そこにたどり着けないらしい。
レティスの喪が明けてしまったので、うやむやにされるだろうと殿下は言っていた。王女殿下の魔力暴走で、魔法師が死んでしまった事実が大き過ぎた。
まあ、混乱するよね。発情したオメガに、会場はめちゃくちゃ。攻撃を受け倒れた二人がボロボロになっていたわけだしね。
しばらくして、ドアの開閉音がした。
こちらの部屋の前で足音が止まり、トンと音がして「ラシェル」とユージーン殿下の声がする。
「はい」
「話があるからこっちにきて」
テーブルのティーカップの中身が、二つとも空になっていた。良かった、飲んでくれたんだと、トレイに乗せて小さなワゴンの上におく。
「ん。とりあえず、あとで片付けたらいいから。座って」
「わかりました」
「ラシェル……ちょっと面倒なことになってね」
「──面倒なことですか?」
「君の実力を疑う者がいるんだ」
それはそうだ、犯人かもと思われているオメガ。ただ魔塔の中は実力主義だから、王宮魔法師に合格するとか、属性の適正とかで仕事をすると認めてもらいやすい。ただ試験はまだ先だった。
いちばん厄介なのは、ユージーン殿下のお気に入りの噂だと思う。
「そうですよね」
「オメガが色目を使ってるなんて噂もあるし……ね」
「──すみません。僕のせいで」
「そこでだ。私も君の教育をしたいのだが、王族としての執務もあるから時間が取れない。一番の適役に頼むことにしたんだ。君は嫌かもしれないけど」
「適役ですか?」
「エルドレッドだよ」
「はぁ? い、いえ……失礼な言い方してすみません」
「まあ。そうなるよね。あいつは、オメガ嫌いで知れ渡ってるだろ? しかも大切な部下を失って……さらにラシェルに対して、敵意丸出し。逆にビシバシ指導されたらいいんじゃないかと思ってさ。だからと言って、君を追い出すような、理不尽なことをするような奴じゃないからね」
殿下は少し困ったように笑った。長い足を組み替えて姿勢を正した。
「魔法の教え方は、最高に上手いんだ。エルドレッドの指導のもと、王宮魔法師の試験を受けてほしい。それと、夜会に参加できるようにマナーを私が教える。ダンスとかも、今後必要になるだろうから」
「魔法はブラックアイド小侯爵様で、マナーとダンスはユージーン殿下から? そんなの恐れ多いです」
「君が頑張ってるのを知ってるよ。悪評を覆すくらいにならないとだめだ。君の義兄とあの時の夜会の参加者が、また噂を流し始めた。俺はそれが許せないからね」
「小侯爵様は、僕に教えるなんて嫌でしょう?」
「あいつは別の噂に、怒っているんだ」
「別のですか?」
「君の耳にもいずれ入るだろう。レティスがベータだったのは知ってるよね? そのレティスが、エルドレッドを陥れようと発情テロに関わっていたと噂が広がっている。ありえない」
なぜ、そんな話になっているのか。
驚きすぎて、言葉が出てこなかった。
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