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終幕
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チャレンジ十一日目。
今日のキャプテンの指示は、どうなんだろう。これはどうなんだろう。本当にキャプテンの指示なんだろうか。
こんなこと、私に出来る訳がない。こんなことをしたら、大変なことになる。
でも。だけど。
だけど。
だけど、やろう。
だって悪魔を見るんだ。決めたんだ。
そのために必要な事なら、何だってやれなきゃ。
怖がっちゃいけない。勇気を持つんだ。もっと勇気を持つんだ。やれる、私ならやれる、やれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれる!
絶対にやれる。やれるんだ。
よし、台所に行こう。
◆ ◆ ◆
朝。笹桑もフォックスもいない朝。やっと静かな朝だ。長かった。苦しかった。だがもうそれは過去の話。俺は事務所で思いっきり伸びをした。ソファに腰を下ろし、タバコを咥えた。ライターをのんびりと探し、静かに火を点ける。まだ午前七時前。篠生幸夫の元に行くのは九時過ぎでいいだろう。
三百万。顔が自然とニヤけてくる。海崎惣五郎から分捕った二百万と合わせて五百万。一年は余裕で遊んで暮らせる金額だ。そんだけあれば、次の強請りネタを捜すために、じっくり時間をかけられる。やっぱり金があると物事はいい方向に循環するな。
しかし延々とニヤニヤ笑っていても仕方ない。とりあえずジローを起こして飯を食わせるか。だがそのとき。
インターホンのチャイムが鳴った。鳴った。鳴った鳴った鳴った鳴った。
ドアに走った。誰が鳴らしているのかなど、モニターを見るまでもない。
「うっせえぞ笹桑ぁっ!」
叩きつけるようにドアを開けたそこに立っていたのは、金髪の団子頭。フォックスだ。
「あ」
「いや、すまん」
申し訳なさそうなフォックスの後ろから、赤髪のデカい女が飛び出した。
「おっはようございまーす!」
俺は舌打ちをし、大きなため息をついて見せた。
「あれ、五味さんイラついてるっすか?」
キョトンとした顔の笹桑に、さらにイラつく。
「当たり前だ。いったい何の用だよ」
「いや、先輩が五味さんに話があるっていうもんで、連れて来たんすよ」
「俺には話なんぞねえよ。あの件はもう終わったろうが」
「すまん、五味。入っていいか」
フォックスが真剣な目で見つめる。ドアを閉めてやろうかと思ったが、意地でも入ってきそうな顔だ。ああ、面倒くせえ。
「すぐ出て行けよ」
そうなるように願いつつ、二人を事務所に入れた。
ジローの前にカレーを置いて、ソファに腰を下ろした。タバコを灰皿でもみ消し、新しいタバコを咥える。ライターで火を点け、向かいに座るフォックスに目をやった。
「で。何だよ話って」
カレーをむさぼり食うジローをしばらく見た後、フォックスは心の整理がついた顔で俺を見つめた。
「篠生幸夫の件、警察に任せる気はないか」
「ないね」
即答した。
「俺のやることに口は出さない。そういう約束だったはずだが」
「わかってる。だが、この件は大きすぎる。社会に与える影響を考えてみてくれ」
「んなことは俺の知ったこっちゃねえ」
そう言い切って天井に向かって煙を吐く。だがフォックスは食い下がる。
「篠生幸夫には法的制裁が加えられるべきだ」
「だから何だ」
「捜査に協力してくれれば、県警から金一封が出る」
「本気で言ってるのか。そんなはした金で飯が食えると思ってんのかよ」
「篠生幸夫を捕まえなければ、自殺サイトで死ぬ人間がまだ出るかも知れない」
「そうかい、そりゃ大変だな」
俺は上着を手に立ち上がった。もう限界だ。ジローはカレーを食べ終わっている。
「ジロー立て。歩け。行くぞ」
ジローが立ち上がる。フォックスも立ち上がった。
「待て、何処に行くんだ」
「ここにいたけりゃ勝手にしろ。俺は忙しいんだ」
そして玄関のドアを開けた。
階段を下り、歩道を横切る。路肩に銀色のクラウンが停まっている。とりあえず何処かで朝飯を食うか。そう思いながらクラウンのドアに手をかけた。その腕を後ろからつかむのは、フォックスの手。
「待て五味。まだ話は終わっていない」
「うっせえな」
怒鳴りながら振り返った。そのときまで気付かなかった。すぐそばに、人が立っていることに。制服姿。女子高生だろうか。どこかで見覚えのある制服。その右手が振り上げられた。朝の陽光にその先端がきらめく。逆手に握られているのは、包丁。それはスローモーションのように、俺に向かって振り下ろされた。
だが包丁は、空中で止まった。白いリストバンドを巻いた細い手首をつかまえているのは、ジロー。
そして世界はスピードを取り戻す。フォックスが女子高生の右手をねじり上げた。包丁が地面に落ちる。それをつま先で蹴り飛ばし、フォックスは相手を地面に押しつけた。
「どういうつもりだ! 何をしてるのかわかってるのか!」
「痛い! だって、キャプテンが、痛い!」
その一言で、こいつの言わんとしていることがわかった。ああ、なるほど。そういうことなのか。俺はしゃがみ込むと、女子高生に顔を近づける。
「おい、おまえ」そして次の俺の言葉に、暴れていた女子高生の動きが止まった。「悪魔が見たいか」
「え……」
「悪魔の見方を教えてやろうか」
「何で、それを」
押さえつけられながら、女子高生が顔を上げる。目の下にクマが濃い。疲れ切った顔。その絶望に満ちた表情の中で、ただ瞳だけが希望を探してキラキラと輝いている。
「おまえには勇気がある。度胸がある。凄いな。だから悪魔の見方を教えてやるよ」
俺は満面の笑みを浮かべた。
「悪魔を見たくないと思え。悪魔なんて死んでも見たくないと心の底から思え。そうすりゃ向こうからスキップで姿を見せに来やがる。悪魔ってのはそんな連中なんだよ」
その後、女子高生がどんな顔をしたのかは知らない。俺は背を向けて立ち上がった。
「ジロー、車に乗れ」
急いでクラウンに乗り込むと、エンジンをかける。篠生幸夫だ。ヤツが悪魔の羽根を使って、俺を殺せとあのガキに命じたに違いない。だからガキとオカルトは大嫌いなんだ。
クソ野郎、タダじゃ置かねえ。アクセルを踏み込むと、後輪がホイルスピンを起こしてスキル音を上げる。そしてクラウンは、弾丸のように道路に飛び出した。
しかし、俺のクラウンが篠生幸夫の家に到着することはなかった。その建物の前には警察車両が並び、規制線が張られていたからだ。規制線の外側には報道記者やカメラが並び、さらに外側には野次馬が詰めかけ、口々に話している。
――無理心中ですって
――ほら、奥さんアレだったから
――お姉さんが見つけたそうよ
その場にへたり込みそうになる身体をなんとか支えた。おいおい、マジかよ。勘弁してくれよ。三百万だぞ。いや、さっきの分を合わせて四百万にしてやろうと思っていたのに。
ああ畜生、昨日の時点で無理矢理にでも半金を払わせておくべきだった。何で余裕こいちまったんだ、俺は。自分の頭をぶん殴ってやりたくなったが、他人の見ている前ではそうも行かない。フラフラになりながら、何とかクラウンに戻った。その後、事務所までどうやって帰って来たのかはよく覚えていない。
テレビが点いていた。俺は事務所のソファに座って観ているらしい。映っているのは見覚えがある建物。篠生メンタルクリニック。そうか、ワイドショーが食いついたのか。次に映ったのは海崎志保の写真。さらには海崎惣五郎の写真もあった。ああ、そういうことか。おそらく長畑房江の仕業だ。あいつが全部喋りやがったんだ。
これでもう、手を出せない。このヤマは俺の手の届かない場所に行ってしまった。最後の最後に詰め切れなかった。すべて終わりだ、おじゃんだ、おしまいだ。俺は目を閉じた。
◆ ◆ ◆
瞬く間に三ヶ月が過ぎた。年が明けて一月の寒いある朝、俺はジローを連れてクラウンを下りた。久しぶりの芦則精神科。今日は休診じゃないはずだ。
相変わらず待合室には人がいない。片隅にはまだ鏡餅が置かれている。受付を済ませると、すぐ名前が呼ばれた。
「随分久しぶりだな。もうわしには用がないのかと思っとったんだが」
あれ以来の芦則医師は、やはり顔がデカくて体が小さかった。髪とチョビひげがちょっと薄くなったようにも思う。俺はジローを椅子に座らせると、手に持った赤いハードカバーの書籍を芦則の机に置いた。
「何だ、今日は賄賂はなしか」
芦則は本を手にして眺めた。その表紙には、かすれた金色の文字でこう書いてある。
ガス燈効果の理論と実践 芦則佐太郎著
「知り合いに、いろんなマニアがいましてね。先生の名前で調べてもらったら、古書店マニアが見つけてくれました」
俺がそう言うと、芦則は懐かしそうな顔で本を見つめながら笑った。
「こんな古い本を。ネットにも情報はないはずなのに、よく見つけたな」
「四十年ほど前ですか」
「そうだな。二千部しか刷られなかったが、まあいまとなっては良い思い出だよ」
「先生はガスライティングの専門家だったんですね」
本を開いた老医師は、保存状態の良さに驚いたようだった。
「そう呼ばれるのはくすぐったいが、こんな本を書く程度の知識はあったな」
「それは謙遜でしょう。酒屋の親父が言ってましたよ。四十年ほど前にこの診療所を建てた頃は、遠くから患者がやって来て繁盛してたってね」
「ああ、そうだったかも知れん」
愛おしげにページをめくって行く。
「篠生幸夫を殺したのは、先生ですか」
俺の問いに、芦則の手は止まる。だが驚いた様子はない。
「まさか。そんな面倒臭いことはせんよ」
「では何をしたんです」
「簡単なアドバイスをしただけだ。考えたのも決断したのも、篠生幸夫自身。それだけだよ」
芦則は少し寂しげに微笑んだ。
「それがどういう結果になるか知っていて、アドバイスしたんですよね」
「さあ、どうだったかな」
「先生は、篠生幸夫にガスライティングを仕掛けていた訳だ」
「おまえさんはどう考えておるね」
ああ、タバコが吸いたい。そう思いながら俺は話し始めた。
「たぶん五十年ほど前だ。先生がまだ学生だった頃、海崎惣五郎と肥田久子、そして先生の三人の間に『何か』があった。先生は海崎惣五郎を憎んだ。だがそのときは、具体的な行動に出られなかったんだ。勇気がなかったのかも知れない」
芦則はうなずいた。
「そうだな。『何か』は確かにあった。それは肥田久子を深く傷つけ、若かったわしをも傷つけた。わしは海崎惣五郎を憎んだ。恨んだ。殺してやろうと真剣に考えた。それは事実だ。そして勇気がなかったのも間違いない」
芦則は本を閉じた。俺は続けた。
「そこから二十年ほどが経った頃、先生は篠生幸夫の存在を知った。そこで海崎惣五郎の愛人だった彼にガスライティングを仕掛け、復讐者に仕立て上げた。いつでも復讐を実行できるように備えた訳だ。ところがこのときも、先生はそれ以上動かなかった」
芦則はまた一つうなずく。寂しげに。悲しげに。
「悲しいかな、そして幸いなるかな、人間とは忘却する生き物なのだ。愛していたという記憶、憎んでいたという記憶は残り続けるが、それらの感情は時間の経過と共に薄れて行く。あの日、自らの心に深く刻んだはずの痛みは、もはや感じ取ることは出来ない。復讐するには時間が経ち過ぎてしまっていたのだな」
「そしてそこから、さらに三十年ほどが経ったある日、篠生幸夫が海崎志保と出会った。それを知ったことで、先生の中で何かが変わった。その結果、とうとう先生は重い腰を上げ、海崎惣五郎への復讐を実行することに決めた。流れとしてはそんなところですかね。復讐譚にしては何とも気の長い話ですが」
「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり、か」
「聞いたことありますね。何でしたっけ、それ」
「織田信長が好んで舞ったとされる『敦盛』の一節だ。要は人の世界の五十年など、夢幻のごとき一瞬であるということだよ」
「一瞬だから記憶も戻って来たと」
芦則は小さく笑った。
「ならば良かったのだがな。やはり五十年は、長すぎる一瞬だった。もはや篠生幸夫が海崎志保に出会ったそのときには、海崎に復讐する理由など何も見つからなかった。わしの中には、もう何もなかったのだよ。つまり、何も変わりはしなかった。だがそれでも、わしは復讐を選んだ。それは切っ掛け、動機付けが欲しかったからだ」
芦則は本を机に置き、その表面を優しくなでた。
「もしかしたら、怖かったのかも知れんな」
「怖い?」
「自分の知識が、能力が、誰にも知られぬまま世界から消え去ることが。学究の徒の一人として生きたこの人生は、こんな無価値に終わるものであったのか、とな」
芦則は右腕を上げると、その脇腹を左手でポンポンと叩いた。
「肝臓にガンが出来とるのだ。あちこちに転移しておってな、もう助からん」
「ああなるほどね、イタチの最後っ屁ってヤツですか」
すると芦則は小さく吹き出した。
「面白いことを言うな、おまえさんは。まあそうだ。たぶんそうなのだろう。わしは海崎惣五郎を破滅させることによって、世の中に対して最後っ屁をかましたかったのだ」
そう言う芦則の顔は、しかし満足げではなかった。まだ悲しげと言った方が正確だったかも知れない。
「……それで、どうする。わしを警察に突き出すか。それとも強請るかね」
俺は頭をかいた。どうやらこっちの商売のことも知っているらしい。篠生から聞いたか。
「どうしましょうかね。先生は家族がいましたっけ」
「おらんよ。わしは独り身、天涯孤独だ。しかも、もうすぐ死ぬ。脅迫するのは難しいぞ」
芦則は楽しそうに笑った。確かに、守る物がない人間を強請るのは難しい。俺は一つため息をついた。
「ま、仕方ないですな。先生を強請るのは諦めましょう。海崎惣五郎ならあと二、三回強請れるでしょうしね」
「それは大変愉快な話だ。しかし」
芦則は椅子から下りた。そして部屋の隅にあるキャビネットの前に行くと、小さな扉を開き、何かを取り出した。机の上に置いたそれは、紙帯がついた百万円の札束が二つ。
「これを持って行くといい」
「これは?」
「わしが死んだ後、この診療所を解体するために残しておいた金の一部だ。だがこんな小さな診療所の解体など、そう何百万もかからんだろう。無闇に金を残しておいても意味がない。受付の東崎さんに遺す金は別に取ってあるしな、これはおまえさんにやろう。わしのところにまでたどり着いた賞金だと思えばいい」
「はあ」
俺はいま間抜けな顔をしてるんだろうな、と思った。
「その代わり、海崎惣五郎にはもう手を出すな。アレは追い詰められれば何をするかわからん男だ。おまえさんがケガをしたら、この坊やが悲しむだろう」
ジローは反応しない。ただ膝を抱えて遠い何処かを見つめている。
「悲しみますかね」
「悲しむとも。そういうもんだ」
出来れば、あと百万ほど上乗せしてもらいたいのが正直なところなのだが、芦則の機嫌を損ねてしまっては丸損だ。ここは素直に受け取っておこう。海崎惣五郎を強請るというのは、単なる口からデマカセである。しかし、それはもういいだろう。
「じゃ、有り難く」
俺が札束に手を伸ばすと、それを芦則がそっと押さえた。
「ところで、おまえさんに頼みがあるんだが」
「はあ?」
そして二ヶ月ほど後、三月も末近くの暖かい日、芦則佐太郎は病院で息を引き取った。誰にも看取られぬ、静かで寂しい死であったという。
海崎惣五郎は過去のセクハラを追求され、海蜃館大学の総長の座を追われた。県警は谷野孝太郎に本木崎才蔵の情報を渡したのが惣五郎だと見て、捜査の網を縮めている。だが現時点においては、いまだ逮捕されることもなく、時折ワイドショーなどに顔を出して意気軒昂なところを見せている。とは言え、海崎志保の死は相当堪えたようで、車椅子の生活が続いている模様。
肥田久子は沈黙を守っている。海崎志保の死に関連して、再び一部のマスコミに取り上げられたりもしたが、過去に何があったのかは語られぬままだ。まあ、語ったところでいまさら興味などないのだが。
悪魔の羽根は活動を停止しているらしい。メアドを登録しても、返信はないそうだ。もっとも自殺サイトは他にもある。そういう意味では、世界は何も変わっちゃいない。
青空を風が走り、桜並木に喪服の黒い列が並ぶ。芦則佐太郎の葬儀は俺が取り仕切った。面倒臭いが、約束だし仕方ない。どうせ式の大半は葬儀屋が進める。俺は喪主もどきの役割を演じればいい。そう思って気楽に引き受けたのだが、ちょっとした誤算があった。
弔問客は引きも切らず、香典袋は山のように積み上がった。挨拶しても挨拶してもキリがない。まさかあのチョビひげ爺さんに、こんなに人徳があったとは思ってもみなかった。
しかし、これは俺にとって嬉しい誤算だ。何せこの香典のうち、葬式代にかかった金額を除いた分を、受付のデカくて丸い看護師、東崎善美と折半することになっているのだから。香典返しなど知ったことか。どうせ俺の身内じゃない。
せいぜい頑張って立派な葬式にしてやろう。たまにはこういう金儲けも悪くはない。いまさら何をどうしたところで、あの爺さんは地獄行きに決まってるんだろうが、まあこれが故・芦則佐太郎に出来る最後の功徳ってヤツだ。
もちろん、俺は天国や地獄なんぞ信じちゃいない。ガキとオカルトは大嫌いなもんでな。
今日のキャプテンの指示は、どうなんだろう。これはどうなんだろう。本当にキャプテンの指示なんだろうか。
こんなこと、私に出来る訳がない。こんなことをしたら、大変なことになる。
でも。だけど。
だけど。
だけど、やろう。
だって悪魔を見るんだ。決めたんだ。
そのために必要な事なら、何だってやれなきゃ。
怖がっちゃいけない。勇気を持つんだ。もっと勇気を持つんだ。やれる、私ならやれる、やれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれるやれる!
絶対にやれる。やれるんだ。
よし、台所に行こう。
◆ ◆ ◆
朝。笹桑もフォックスもいない朝。やっと静かな朝だ。長かった。苦しかった。だがもうそれは過去の話。俺は事務所で思いっきり伸びをした。ソファに腰を下ろし、タバコを咥えた。ライターをのんびりと探し、静かに火を点ける。まだ午前七時前。篠生幸夫の元に行くのは九時過ぎでいいだろう。
三百万。顔が自然とニヤけてくる。海崎惣五郎から分捕った二百万と合わせて五百万。一年は余裕で遊んで暮らせる金額だ。そんだけあれば、次の強請りネタを捜すために、じっくり時間をかけられる。やっぱり金があると物事はいい方向に循環するな。
しかし延々とニヤニヤ笑っていても仕方ない。とりあえずジローを起こして飯を食わせるか。だがそのとき。
インターホンのチャイムが鳴った。鳴った。鳴った鳴った鳴った鳴った。
ドアに走った。誰が鳴らしているのかなど、モニターを見るまでもない。
「うっせえぞ笹桑ぁっ!」
叩きつけるようにドアを開けたそこに立っていたのは、金髪の団子頭。フォックスだ。
「あ」
「いや、すまん」
申し訳なさそうなフォックスの後ろから、赤髪のデカい女が飛び出した。
「おっはようございまーす!」
俺は舌打ちをし、大きなため息をついて見せた。
「あれ、五味さんイラついてるっすか?」
キョトンとした顔の笹桑に、さらにイラつく。
「当たり前だ。いったい何の用だよ」
「いや、先輩が五味さんに話があるっていうもんで、連れて来たんすよ」
「俺には話なんぞねえよ。あの件はもう終わったろうが」
「すまん、五味。入っていいか」
フォックスが真剣な目で見つめる。ドアを閉めてやろうかと思ったが、意地でも入ってきそうな顔だ。ああ、面倒くせえ。
「すぐ出て行けよ」
そうなるように願いつつ、二人を事務所に入れた。
ジローの前にカレーを置いて、ソファに腰を下ろした。タバコを灰皿でもみ消し、新しいタバコを咥える。ライターで火を点け、向かいに座るフォックスに目をやった。
「で。何だよ話って」
カレーをむさぼり食うジローをしばらく見た後、フォックスは心の整理がついた顔で俺を見つめた。
「篠生幸夫の件、警察に任せる気はないか」
「ないね」
即答した。
「俺のやることに口は出さない。そういう約束だったはずだが」
「わかってる。だが、この件は大きすぎる。社会に与える影響を考えてみてくれ」
「んなことは俺の知ったこっちゃねえ」
そう言い切って天井に向かって煙を吐く。だがフォックスは食い下がる。
「篠生幸夫には法的制裁が加えられるべきだ」
「だから何だ」
「捜査に協力してくれれば、県警から金一封が出る」
「本気で言ってるのか。そんなはした金で飯が食えると思ってんのかよ」
「篠生幸夫を捕まえなければ、自殺サイトで死ぬ人間がまだ出るかも知れない」
「そうかい、そりゃ大変だな」
俺は上着を手に立ち上がった。もう限界だ。ジローはカレーを食べ終わっている。
「ジロー立て。歩け。行くぞ」
ジローが立ち上がる。フォックスも立ち上がった。
「待て、何処に行くんだ」
「ここにいたけりゃ勝手にしろ。俺は忙しいんだ」
そして玄関のドアを開けた。
階段を下り、歩道を横切る。路肩に銀色のクラウンが停まっている。とりあえず何処かで朝飯を食うか。そう思いながらクラウンのドアに手をかけた。その腕を後ろからつかむのは、フォックスの手。
「待て五味。まだ話は終わっていない」
「うっせえな」
怒鳴りながら振り返った。そのときまで気付かなかった。すぐそばに、人が立っていることに。制服姿。女子高生だろうか。どこかで見覚えのある制服。その右手が振り上げられた。朝の陽光にその先端がきらめく。逆手に握られているのは、包丁。それはスローモーションのように、俺に向かって振り下ろされた。
だが包丁は、空中で止まった。白いリストバンドを巻いた細い手首をつかまえているのは、ジロー。
そして世界はスピードを取り戻す。フォックスが女子高生の右手をねじり上げた。包丁が地面に落ちる。それをつま先で蹴り飛ばし、フォックスは相手を地面に押しつけた。
「どういうつもりだ! 何をしてるのかわかってるのか!」
「痛い! だって、キャプテンが、痛い!」
その一言で、こいつの言わんとしていることがわかった。ああ、なるほど。そういうことなのか。俺はしゃがみ込むと、女子高生に顔を近づける。
「おい、おまえ」そして次の俺の言葉に、暴れていた女子高生の動きが止まった。「悪魔が見たいか」
「え……」
「悪魔の見方を教えてやろうか」
「何で、それを」
押さえつけられながら、女子高生が顔を上げる。目の下にクマが濃い。疲れ切った顔。その絶望に満ちた表情の中で、ただ瞳だけが希望を探してキラキラと輝いている。
「おまえには勇気がある。度胸がある。凄いな。だから悪魔の見方を教えてやるよ」
俺は満面の笑みを浮かべた。
「悪魔を見たくないと思え。悪魔なんて死んでも見たくないと心の底から思え。そうすりゃ向こうからスキップで姿を見せに来やがる。悪魔ってのはそんな連中なんだよ」
その後、女子高生がどんな顔をしたのかは知らない。俺は背を向けて立ち上がった。
「ジロー、車に乗れ」
急いでクラウンに乗り込むと、エンジンをかける。篠生幸夫だ。ヤツが悪魔の羽根を使って、俺を殺せとあのガキに命じたに違いない。だからガキとオカルトは大嫌いなんだ。
クソ野郎、タダじゃ置かねえ。アクセルを踏み込むと、後輪がホイルスピンを起こしてスキル音を上げる。そしてクラウンは、弾丸のように道路に飛び出した。
しかし、俺のクラウンが篠生幸夫の家に到着することはなかった。その建物の前には警察車両が並び、規制線が張られていたからだ。規制線の外側には報道記者やカメラが並び、さらに外側には野次馬が詰めかけ、口々に話している。
――無理心中ですって
――ほら、奥さんアレだったから
――お姉さんが見つけたそうよ
その場にへたり込みそうになる身体をなんとか支えた。おいおい、マジかよ。勘弁してくれよ。三百万だぞ。いや、さっきの分を合わせて四百万にしてやろうと思っていたのに。
ああ畜生、昨日の時点で無理矢理にでも半金を払わせておくべきだった。何で余裕こいちまったんだ、俺は。自分の頭をぶん殴ってやりたくなったが、他人の見ている前ではそうも行かない。フラフラになりながら、何とかクラウンに戻った。その後、事務所までどうやって帰って来たのかはよく覚えていない。
テレビが点いていた。俺は事務所のソファに座って観ているらしい。映っているのは見覚えがある建物。篠生メンタルクリニック。そうか、ワイドショーが食いついたのか。次に映ったのは海崎志保の写真。さらには海崎惣五郎の写真もあった。ああ、そういうことか。おそらく長畑房江の仕業だ。あいつが全部喋りやがったんだ。
これでもう、手を出せない。このヤマは俺の手の届かない場所に行ってしまった。最後の最後に詰め切れなかった。すべて終わりだ、おじゃんだ、おしまいだ。俺は目を閉じた。
◆ ◆ ◆
瞬く間に三ヶ月が過ぎた。年が明けて一月の寒いある朝、俺はジローを連れてクラウンを下りた。久しぶりの芦則精神科。今日は休診じゃないはずだ。
相変わらず待合室には人がいない。片隅にはまだ鏡餅が置かれている。受付を済ませると、すぐ名前が呼ばれた。
「随分久しぶりだな。もうわしには用がないのかと思っとったんだが」
あれ以来の芦則医師は、やはり顔がデカくて体が小さかった。髪とチョビひげがちょっと薄くなったようにも思う。俺はジローを椅子に座らせると、手に持った赤いハードカバーの書籍を芦則の机に置いた。
「何だ、今日は賄賂はなしか」
芦則は本を手にして眺めた。その表紙には、かすれた金色の文字でこう書いてある。
ガス燈効果の理論と実践 芦則佐太郎著
「知り合いに、いろんなマニアがいましてね。先生の名前で調べてもらったら、古書店マニアが見つけてくれました」
俺がそう言うと、芦則は懐かしそうな顔で本を見つめながら笑った。
「こんな古い本を。ネットにも情報はないはずなのに、よく見つけたな」
「四十年ほど前ですか」
「そうだな。二千部しか刷られなかったが、まあいまとなっては良い思い出だよ」
「先生はガスライティングの専門家だったんですね」
本を開いた老医師は、保存状態の良さに驚いたようだった。
「そう呼ばれるのはくすぐったいが、こんな本を書く程度の知識はあったな」
「それは謙遜でしょう。酒屋の親父が言ってましたよ。四十年ほど前にこの診療所を建てた頃は、遠くから患者がやって来て繁盛してたってね」
「ああ、そうだったかも知れん」
愛おしげにページをめくって行く。
「篠生幸夫を殺したのは、先生ですか」
俺の問いに、芦則の手は止まる。だが驚いた様子はない。
「まさか。そんな面倒臭いことはせんよ」
「では何をしたんです」
「簡単なアドバイスをしただけだ。考えたのも決断したのも、篠生幸夫自身。それだけだよ」
芦則は少し寂しげに微笑んだ。
「それがどういう結果になるか知っていて、アドバイスしたんですよね」
「さあ、どうだったかな」
「先生は、篠生幸夫にガスライティングを仕掛けていた訳だ」
「おまえさんはどう考えておるね」
ああ、タバコが吸いたい。そう思いながら俺は話し始めた。
「たぶん五十年ほど前だ。先生がまだ学生だった頃、海崎惣五郎と肥田久子、そして先生の三人の間に『何か』があった。先生は海崎惣五郎を憎んだ。だがそのときは、具体的な行動に出られなかったんだ。勇気がなかったのかも知れない」
芦則はうなずいた。
「そうだな。『何か』は確かにあった。それは肥田久子を深く傷つけ、若かったわしをも傷つけた。わしは海崎惣五郎を憎んだ。恨んだ。殺してやろうと真剣に考えた。それは事実だ。そして勇気がなかったのも間違いない」
芦則は本を閉じた。俺は続けた。
「そこから二十年ほどが経った頃、先生は篠生幸夫の存在を知った。そこで海崎惣五郎の愛人だった彼にガスライティングを仕掛け、復讐者に仕立て上げた。いつでも復讐を実行できるように備えた訳だ。ところがこのときも、先生はそれ以上動かなかった」
芦則はまた一つうなずく。寂しげに。悲しげに。
「悲しいかな、そして幸いなるかな、人間とは忘却する生き物なのだ。愛していたという記憶、憎んでいたという記憶は残り続けるが、それらの感情は時間の経過と共に薄れて行く。あの日、自らの心に深く刻んだはずの痛みは、もはや感じ取ることは出来ない。復讐するには時間が経ち過ぎてしまっていたのだな」
「そしてそこから、さらに三十年ほどが経ったある日、篠生幸夫が海崎志保と出会った。それを知ったことで、先生の中で何かが変わった。その結果、とうとう先生は重い腰を上げ、海崎惣五郎への復讐を実行することに決めた。流れとしてはそんなところですかね。復讐譚にしては何とも気の長い話ですが」
「人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻のごとくなり、か」
「聞いたことありますね。何でしたっけ、それ」
「織田信長が好んで舞ったとされる『敦盛』の一節だ。要は人の世界の五十年など、夢幻のごとき一瞬であるということだよ」
「一瞬だから記憶も戻って来たと」
芦則は小さく笑った。
「ならば良かったのだがな。やはり五十年は、長すぎる一瞬だった。もはや篠生幸夫が海崎志保に出会ったそのときには、海崎に復讐する理由など何も見つからなかった。わしの中には、もう何もなかったのだよ。つまり、何も変わりはしなかった。だがそれでも、わしは復讐を選んだ。それは切っ掛け、動機付けが欲しかったからだ」
芦則は本を机に置き、その表面を優しくなでた。
「もしかしたら、怖かったのかも知れんな」
「怖い?」
「自分の知識が、能力が、誰にも知られぬまま世界から消え去ることが。学究の徒の一人として生きたこの人生は、こんな無価値に終わるものであったのか、とな」
芦則は右腕を上げると、その脇腹を左手でポンポンと叩いた。
「肝臓にガンが出来とるのだ。あちこちに転移しておってな、もう助からん」
「ああなるほどね、イタチの最後っ屁ってヤツですか」
すると芦則は小さく吹き出した。
「面白いことを言うな、おまえさんは。まあそうだ。たぶんそうなのだろう。わしは海崎惣五郎を破滅させることによって、世の中に対して最後っ屁をかましたかったのだ」
そう言う芦則の顔は、しかし満足げではなかった。まだ悲しげと言った方が正確だったかも知れない。
「……それで、どうする。わしを警察に突き出すか。それとも強請るかね」
俺は頭をかいた。どうやらこっちの商売のことも知っているらしい。篠生から聞いたか。
「どうしましょうかね。先生は家族がいましたっけ」
「おらんよ。わしは独り身、天涯孤独だ。しかも、もうすぐ死ぬ。脅迫するのは難しいぞ」
芦則は楽しそうに笑った。確かに、守る物がない人間を強請るのは難しい。俺は一つため息をついた。
「ま、仕方ないですな。先生を強請るのは諦めましょう。海崎惣五郎ならあと二、三回強請れるでしょうしね」
「それは大変愉快な話だ。しかし」
芦則は椅子から下りた。そして部屋の隅にあるキャビネットの前に行くと、小さな扉を開き、何かを取り出した。机の上に置いたそれは、紙帯がついた百万円の札束が二つ。
「これを持って行くといい」
「これは?」
「わしが死んだ後、この診療所を解体するために残しておいた金の一部だ。だがこんな小さな診療所の解体など、そう何百万もかからんだろう。無闇に金を残しておいても意味がない。受付の東崎さんに遺す金は別に取ってあるしな、これはおまえさんにやろう。わしのところにまでたどり着いた賞金だと思えばいい」
「はあ」
俺はいま間抜けな顔をしてるんだろうな、と思った。
「その代わり、海崎惣五郎にはもう手を出すな。アレは追い詰められれば何をするかわからん男だ。おまえさんがケガをしたら、この坊やが悲しむだろう」
ジローは反応しない。ただ膝を抱えて遠い何処かを見つめている。
「悲しみますかね」
「悲しむとも。そういうもんだ」
出来れば、あと百万ほど上乗せしてもらいたいのが正直なところなのだが、芦則の機嫌を損ねてしまっては丸損だ。ここは素直に受け取っておこう。海崎惣五郎を強請るというのは、単なる口からデマカセである。しかし、それはもういいだろう。
「じゃ、有り難く」
俺が札束に手を伸ばすと、それを芦則がそっと押さえた。
「ところで、おまえさんに頼みがあるんだが」
「はあ?」
そして二ヶ月ほど後、三月も末近くの暖かい日、芦則佐太郎は病院で息を引き取った。誰にも看取られぬ、静かで寂しい死であったという。
海崎惣五郎は過去のセクハラを追求され、海蜃館大学の総長の座を追われた。県警は谷野孝太郎に本木崎才蔵の情報を渡したのが惣五郎だと見て、捜査の網を縮めている。だが現時点においては、いまだ逮捕されることもなく、時折ワイドショーなどに顔を出して意気軒昂なところを見せている。とは言え、海崎志保の死は相当堪えたようで、車椅子の生活が続いている模様。
肥田久子は沈黙を守っている。海崎志保の死に関連して、再び一部のマスコミに取り上げられたりもしたが、過去に何があったのかは語られぬままだ。まあ、語ったところでいまさら興味などないのだが。
悪魔の羽根は活動を停止しているらしい。メアドを登録しても、返信はないそうだ。もっとも自殺サイトは他にもある。そういう意味では、世界は何も変わっちゃいない。
青空を風が走り、桜並木に喪服の黒い列が並ぶ。芦則佐太郎の葬儀は俺が取り仕切った。面倒臭いが、約束だし仕方ない。どうせ式の大半は葬儀屋が進める。俺は喪主もどきの役割を演じればいい。そう思って気楽に引き受けたのだが、ちょっとした誤算があった。
弔問客は引きも切らず、香典袋は山のように積み上がった。挨拶しても挨拶してもキリがない。まさかあのチョビひげ爺さんに、こんなに人徳があったとは思ってもみなかった。
しかし、これは俺にとって嬉しい誤算だ。何せこの香典のうち、葬式代にかかった金額を除いた分を、受付のデカくて丸い看護師、東崎善美と折半することになっているのだから。香典返しなど知ったことか。どうせ俺の身内じゃない。
せいぜい頑張って立派な葬式にしてやろう。たまにはこういう金儲けも悪くはない。いまさら何をどうしたところで、あの爺さんは地獄行きに決まってるんだろうが、まあこれが故・芦則佐太郎に出来る最後の功徳ってヤツだ。
もちろん、俺は天国や地獄なんぞ信じちゃいない。ガキとオカルトは大嫌いなもんでな。
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