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61話 取るべき手立て
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ええい、腹立たしい。帝国ではハンデラ・ルベンヘッテの勢力が急落していると伝え聞く。ボイディア・カンドラスとの連絡が取れないのも無関係ではあるまい。
ただ計画の変更を余儀なくされるとは言え、これは絶好の機会でもある。いま戦争を起こせば帝国に対する勝利だけでなく、新生シャナン統一王朝にとって厄介なルベンヘッテ一派の粛清も可能なのだ。まさに一石二鳥。それを、みすみす見過ごすというのか。
十名ほどの貴族議員を引き連れて議事堂から渡り廊下を通り王宮へと足を運べば、長槍を携えた衛士が二人立ちはだかる。
「どういうつもりか! 我ら議員連盟はロンダリア王に面会するためまかり越したのだ、貴様らに用などない! 下がれ!」
以前なら私の一喝で衛士どもは腰砕けになったはず。だが、いま目の前の衛士は一歩も引く様子がない。おのれ腹立たしい。
「首を撥ねられたいか!」
私が腰の剣に手をかけたとき。
「おやめなされ、アイメン卿」
衛士の後ろから姿を現したのは白髪の内務大臣、キンゴル侯爵サンザルド・ダナ。
「ここはすでに王宮の敷地内。いかな御貴殿とて剣を抜けば、謀反の意思ありと見做されますぞ。それに、いま王宮に王はおわさぬ」
「ロンダリア王がおられぬだと。どういうことだ、いったいどこへ」
私が剣から手を離すのを確認して、キンゴル侯爵は前に出た。
「よろしければご案内しよう」
王宮から馬車で三十分というところか。到着したのは山の麓の村はずれ。この辺りは王家の直轄地だったはず。こんなところで何をしているというのか。馬車を降り訝しんでいた私の耳に聞こえる機械的な連続音、そして漂ってくる火薬らしき匂い。
二人の護衛を連れサンザルド・ダナの案内で森の小道を進めば、不意に開けた場所に出た。
そこに並ぶ背中は左からエブンド・ハースガルド、ロンダリア王、ホポイ・グリムナント、そして先般子爵に取り立てられたばかりの宮廷占術師、タクミ・カワヤか。占い師がこちらを笑顔で振り返る。
「やあ、いらっしゃいましたねドルード公爵閣下」
この、平民上がりが馴れ馴れしい。私がにらみつけたそのとき、また雷鳴のような連続音が。
見ればロンダリア王たちの向こう側で十数人の兵が銃を構えている。銃、なのだろう。見慣れた火縄銃とはまるで違うが、その姿形は銃としか見えない。
いや、形だけではない。私は気付いた。さっきから聞こえているこの連続音が銃声なのだと。まったくもって信じがたいことだが、ここにある奇妙な形の銃は何発も連続して弾を撃ち出せるらしい。それが数十丁ある。
銃を構える兵士たちのさらに遠く離れた向こうには、板で作られた的が見える。的だった物と言うべきか。すでに穴だらけのボロボロになっていたそれらは、繰り返される銃撃に震えていた。
無数の銃弾は的を貫通し、背後にある崖をえぐっている。立ち上る土煙の濃さに私は戦慄した。もしこの銃弾一発一発が火縄銃と同等の破壊力を持っているとしたら。この集団に対抗するには、何人の銃兵を揃えなければならないのかと。
占い師は言う。
「ドルード公爵閣下は軍事にお詳しいようですから、余計な説明は不要でしょう。いまロンダリア王は最新式の自動小銃を百丁以上保有しています。銃兵の移行訓練もご覧の通り順調です」
「……何が言いたい、この」
「平民上がりの下賤な輩が、ですか? まあ僕に対する評価がどうであれ、無意味なことはなさらない方がいいですよ」
「無意味とはどういう意味だ! 貴様、誰に向かって口を」
そう言いかけた私を、ロンダリア王が振り返った。
「ドルード公。貴殿こそ誰の前にいるのかを理解しているのか」
いつの間にか銃声は止んでいる。王の向こう側で、銃を構えてこちらを向いている兵士たちが目に入った。二人の護衛が私の前に回り込んだが、明らかに多勢に無勢。迂闊だった。いま、王の声一つで私の運命が決まる。
占い師は微笑みを浮かべて一歩こちらに近付いた。
「ドルード公爵閣下、いい加減にご理解ください。あなたの時代は終わったのです」
「黙れ! その占い師を盾にしろ!」
私の命により二人の護衛はタクミ・カワヤに飛びかかった。身の程知らずの間抜けなヤツめ! せいぜい後悔するがいい!
だが、私の護衛たちは簡単に打ち倒されてしまった。そこに立っている大柄な若い男は誰だ。まさか二人を相手にこうも容易く。
男の背後からひょっこり顔を出した占い師がニッと笑った。
「ありがとうタルドマン、助かったよ」
いかん、これはいかん。何とか逃げなければ。逃げのびて体勢を立て直し、それから、それから……それからどうすればいい。この期に及んで何ができる。
ドルード領内の軍を動かし王都に攻め入れば。それは謀反だ。大儀はロンダリア王にある。いや、それでも王を倒せれば。倒せるか? この新型銃百丁だけではない、グリムナントの軍も動くのだ。ただちに内戦勃発だ。いま内戦を起こせば、帝国に主導権を渡すことになる。ハンデラ・ルベンヘッテも息を吹き返すかも知れない。
何もかもが悪い方へと傾いて行く。どうすれば挽回できる。いかにすればこの窮地を脱出できるのだ。何か手があるはずだ。何か手が。
「何とかしたいですか、この状況を」
占い師は平然と近付いてくる。その後ろにタルドマンとかいう若い男が付き従っていた。
「ドルード公爵閣下にオススメの『いま取るべき手立て』というヤツがございます。聞きたいですか?」
「な、何だそれは」
「簡単ですよ。ロンダリア王に忠誠を誓うだけですから」
カッと頭に血が上る。この小僧、言うに事欠いて。
「ふざけるな、私は元より王に忠誠を」
「ならもう一度誓ってください。いますぐ、この場で」
占い師は笑う。まるで悪魔の誘いのように。
「大丈夫です。いまなら他の貴族は見ていません。陛下に臣従の礼を取ってください」
「それを、貴様に、貴様などに指図されて私が、このアイメン・ザイメンが膝を屈すると思うのか!」
「思いますよ。あなたにはもう他に何もできませんから。あ、言っておきますが怒ったフリして一人で歩き去ろうなんて考えないでくださいね。そうなった場合」
一瞬、タクミ・カワヤは真剣な顔を見せた。
「あなたはこの森から生きて出られませんので」
おのれ! おのれおのれおのれ! 森の中に兵を隠しているということか。この私を銃で脅すということか。このシャナン王国に並ぶ者なしと言われたアイメン・ザイメンを、こんな小僧どもが脅すというのか! こんな平民上がりの出自卑しき小僧が!
ええい、もう我慢ならん。
私は背を向けて猛然と走り出した。兵が隠してあったとしても構うものか。この私に、ザイメン家当主たるこの私に銃を撃てるというのなら撃ってみるがいい。そもそもこんな小さな森、走り抜ければあっという間だ。馬車にさえたどり着ければこっちのもの。
森の小道は一本道、迷う心配などない。ここを一気に走り抜けてしまえば、走り抜けて……ん? どういうことだ、なぜ迷う。道はどこだ。馬車はどこだ。
「さあ、どこでしょうねえ」
その声に振り返れば、何だコイツは、長い赤髪の女が立っている。黒い軍服の上に白い服を羽織った、背の高い女が。肩に銃を担いで。
「ちょっと道からは外れていただきました」
「何だ貴様は」
「私が誰かをあなたが知る必要はないんですよ、ドルード公爵様。どうか簡単な質問に答えていただければ」
「質問、だと」
女はニンマリと笑って私にたずねた。
「ボイディア・カンドラスは愚か者ですよね?」
ただ計画の変更を余儀なくされるとは言え、これは絶好の機会でもある。いま戦争を起こせば帝国に対する勝利だけでなく、新生シャナン統一王朝にとって厄介なルベンヘッテ一派の粛清も可能なのだ。まさに一石二鳥。それを、みすみす見過ごすというのか。
十名ほどの貴族議員を引き連れて議事堂から渡り廊下を通り王宮へと足を運べば、長槍を携えた衛士が二人立ちはだかる。
「どういうつもりか! 我ら議員連盟はロンダリア王に面会するためまかり越したのだ、貴様らに用などない! 下がれ!」
以前なら私の一喝で衛士どもは腰砕けになったはず。だが、いま目の前の衛士は一歩も引く様子がない。おのれ腹立たしい。
「首を撥ねられたいか!」
私が腰の剣に手をかけたとき。
「おやめなされ、アイメン卿」
衛士の後ろから姿を現したのは白髪の内務大臣、キンゴル侯爵サンザルド・ダナ。
「ここはすでに王宮の敷地内。いかな御貴殿とて剣を抜けば、謀反の意思ありと見做されますぞ。それに、いま王宮に王はおわさぬ」
「ロンダリア王がおられぬだと。どういうことだ、いったいどこへ」
私が剣から手を離すのを確認して、キンゴル侯爵は前に出た。
「よろしければご案内しよう」
王宮から馬車で三十分というところか。到着したのは山の麓の村はずれ。この辺りは王家の直轄地だったはず。こんなところで何をしているというのか。馬車を降り訝しんでいた私の耳に聞こえる機械的な連続音、そして漂ってくる火薬らしき匂い。
二人の護衛を連れサンザルド・ダナの案内で森の小道を進めば、不意に開けた場所に出た。
そこに並ぶ背中は左からエブンド・ハースガルド、ロンダリア王、ホポイ・グリムナント、そして先般子爵に取り立てられたばかりの宮廷占術師、タクミ・カワヤか。占い師がこちらを笑顔で振り返る。
「やあ、いらっしゃいましたねドルード公爵閣下」
この、平民上がりが馴れ馴れしい。私がにらみつけたそのとき、また雷鳴のような連続音が。
見ればロンダリア王たちの向こう側で十数人の兵が銃を構えている。銃、なのだろう。見慣れた火縄銃とはまるで違うが、その姿形は銃としか見えない。
いや、形だけではない。私は気付いた。さっきから聞こえているこの連続音が銃声なのだと。まったくもって信じがたいことだが、ここにある奇妙な形の銃は何発も連続して弾を撃ち出せるらしい。それが数十丁ある。
銃を構える兵士たちのさらに遠く離れた向こうには、板で作られた的が見える。的だった物と言うべきか。すでに穴だらけのボロボロになっていたそれらは、繰り返される銃撃に震えていた。
無数の銃弾は的を貫通し、背後にある崖をえぐっている。立ち上る土煙の濃さに私は戦慄した。もしこの銃弾一発一発が火縄銃と同等の破壊力を持っているとしたら。この集団に対抗するには、何人の銃兵を揃えなければならないのかと。
占い師は言う。
「ドルード公爵閣下は軍事にお詳しいようですから、余計な説明は不要でしょう。いまロンダリア王は最新式の自動小銃を百丁以上保有しています。銃兵の移行訓練もご覧の通り順調です」
「……何が言いたい、この」
「平民上がりの下賤な輩が、ですか? まあ僕に対する評価がどうであれ、無意味なことはなさらない方がいいですよ」
「無意味とはどういう意味だ! 貴様、誰に向かって口を」
そう言いかけた私を、ロンダリア王が振り返った。
「ドルード公。貴殿こそ誰の前にいるのかを理解しているのか」
いつの間にか銃声は止んでいる。王の向こう側で、銃を構えてこちらを向いている兵士たちが目に入った。二人の護衛が私の前に回り込んだが、明らかに多勢に無勢。迂闊だった。いま、王の声一つで私の運命が決まる。
占い師は微笑みを浮かべて一歩こちらに近付いた。
「ドルード公爵閣下、いい加減にご理解ください。あなたの時代は終わったのです」
「黙れ! その占い師を盾にしろ!」
私の命により二人の護衛はタクミ・カワヤに飛びかかった。身の程知らずの間抜けなヤツめ! せいぜい後悔するがいい!
だが、私の護衛たちは簡単に打ち倒されてしまった。そこに立っている大柄な若い男は誰だ。まさか二人を相手にこうも容易く。
男の背後からひょっこり顔を出した占い師がニッと笑った。
「ありがとうタルドマン、助かったよ」
いかん、これはいかん。何とか逃げなければ。逃げのびて体勢を立て直し、それから、それから……それからどうすればいい。この期に及んで何ができる。
ドルード領内の軍を動かし王都に攻め入れば。それは謀反だ。大儀はロンダリア王にある。いや、それでも王を倒せれば。倒せるか? この新型銃百丁だけではない、グリムナントの軍も動くのだ。ただちに内戦勃発だ。いま内戦を起こせば、帝国に主導権を渡すことになる。ハンデラ・ルベンヘッテも息を吹き返すかも知れない。
何もかもが悪い方へと傾いて行く。どうすれば挽回できる。いかにすればこの窮地を脱出できるのだ。何か手があるはずだ。何か手が。
「何とかしたいですか、この状況を」
占い師は平然と近付いてくる。その後ろにタルドマンとかいう若い男が付き従っていた。
「ドルード公爵閣下にオススメの『いま取るべき手立て』というヤツがございます。聞きたいですか?」
「な、何だそれは」
「簡単ですよ。ロンダリア王に忠誠を誓うだけですから」
カッと頭に血が上る。この小僧、言うに事欠いて。
「ふざけるな、私は元より王に忠誠を」
「ならもう一度誓ってください。いますぐ、この場で」
占い師は笑う。まるで悪魔の誘いのように。
「大丈夫です。いまなら他の貴族は見ていません。陛下に臣従の礼を取ってください」
「それを、貴様に、貴様などに指図されて私が、このアイメン・ザイメンが膝を屈すると思うのか!」
「思いますよ。あなたにはもう他に何もできませんから。あ、言っておきますが怒ったフリして一人で歩き去ろうなんて考えないでくださいね。そうなった場合」
一瞬、タクミ・カワヤは真剣な顔を見せた。
「あなたはこの森から生きて出られませんので」
おのれ! おのれおのれおのれ! 森の中に兵を隠しているということか。この私を銃で脅すということか。このシャナン王国に並ぶ者なしと言われたアイメン・ザイメンを、こんな小僧どもが脅すというのか! こんな平民上がりの出自卑しき小僧が!
ええい、もう我慢ならん。
私は背を向けて猛然と走り出した。兵が隠してあったとしても構うものか。この私に、ザイメン家当主たるこの私に銃を撃てるというのなら撃ってみるがいい。そもそもこんな小さな森、走り抜ければあっという間だ。馬車にさえたどり着ければこっちのもの。
森の小道は一本道、迷う心配などない。ここを一気に走り抜けてしまえば、走り抜けて……ん? どういうことだ、なぜ迷う。道はどこだ。馬車はどこだ。
「さあ、どこでしょうねえ」
その声に振り返れば、何だコイツは、長い赤髪の女が立っている。黒い軍服の上に白い服を羽織った、背の高い女が。肩に銃を担いで。
「ちょっと道からは外れていただきました」
「何だ貴様は」
「私が誰かをあなたが知る必要はないんですよ、ドルード公爵様。どうか簡単な質問に答えていただければ」
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