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ちびっ子伯爵様とぶっ飛びメイド 2
しおりを挟む「来るんじゃなかった……」
華やかなパーティー会場で一人、アランは呟いた。
自分がいかに場違いかを目の当たりにしてしまった。
飲み物はお酒ばかりでまだ成人をしていないアランが飲めそうなものは水だけだし、テーブルの上の料理を取ろうにも背が届かない。
音楽家達の演奏に合わせてダンスをする男女がいるが、アランはそういう経験も無いし、同じくらいの背丈の女性もいない。
(まだメイドと一緒にいた方が楽だったかも)
弱音を吐くが、当のメイドは他の使用人達と別室待機しているらしい。
なんでもそちらは簡素な食事と、貴族の子供達が遊んでいるのを監視する仕事だとか。
いつの間にか領地の子供達と仲良くなって泥んこまみれきなるメイドにお似合いの役割だ。
「あら、あなたも一人?」
ポツンと立ちつくしていたアランに声をかけたのは真っ赤なドレスの美しい女性だった。
鋭い顔つきに燃えるような鮮やかな紅い瞳。信仰されている戦女神に似た雰囲気の持ち主だ。
「えっと、はい……」
なんだが凄そうな人に声をかけられたと思うアランだったが、生憎と当主陣の名前もかろうじてしか覚えていない彼は女性が誰かを知らない。
その美しさと、全身から発する不機嫌オーラに誰もが近寄りがたい彼女はシャイナ・レッドクリムゾン。
別に悪い人じゃないし、なんなら王子であるジークより絶大な人気を男女、年齢問わずに誇るのだが、ファン達は声をかけづらい。
でもそれが逆にいい!との評判だが、アランはただ話しかけられたので答えるだけだった。
「ここは招待された貴族達が集まる大広間よ。あなたは迷子?」
シャイナからしたら誰か親を探して入って来たのかと心配したのだが、アランはその質問にむむむ、っと頬を膨らませた。
「まだ子供ですが、僕はエルロンド家の当主です。ちゃんと招待されてこの場にいるのです」
こんな子が当主?とシャイナは首を傾げたが、そういえばちょっと前に父であるレッドクリムゾン公爵が話をしていたような気がする。
エルロンド家……どこかの伯爵が小さい子供になったから祝いの品を贈ろうにも何を選ぶか悩むと。
ジークとの婚約の件もそうだが公爵は色々と鼻が効くのでまたお金絡みで顔を売っておこうという考えなのだろう。
しかし、小さいとは背もそうだが、年齢もだったのか。
シャイナは自分と同年代くらいをイメージしていたが、随分と可愛らしい伯爵様もいたものだと思った。
「それは失礼しましたエルロンド伯爵様。私は騎士育成学校に通っていて情報に乏しかったので」
最低限の情報は学校内での会話のネタになるので知っているが、シャイナとしては一番気になるのは王子の周囲の女性関連と闘技場の人気戦士だ。
田舎にいる伯爵家の事情なんて気にもしていなかった。
「女性であの学校に……お強いんですね」
「いえ。まだまだ精進中ですよ」
負ける訳にはいかない理由がある。
闘技場の試合にお忍びで参加して、現役の戦士達を薙ぎ倒し、訓練と偽って本職の騎士達をボコボコにしているが嘘じゃない。
シャイナが自信を持てるのは将軍や騎士団長との勝負に勝ってジークが折れるその時である。
「伯爵様は学校には入学されないのですか?」
「僕は身体が弱いので。でも、勉強なら既に学校で習う範囲は理解済みです!」
先代当主のイヤソンが屋敷にいる事が多かった理由の一つにアランの病弱さがあった。
アランの母も丈夫と言える人ではなく出産と共に亡くなったので、イヤソンは息子だけは同じ目に合わないようにと他の貴族からの誘いも断って家に居た。
成長していく内に病弱さは薄れてきたが、剣を振り回したり全力疾走を長時間出来るような身体では無い。
代わりに父親の手伝いや本を読むのが趣味だったので学校に通う必要もないまま当主を継いだ。
「でも、闘技場の戦士達や騎士の方々には憧れていますし、カッコイイと思うんです。仕事に追われていますがいつか闘技場で一番の試合を見に行くのが今の僕の夢なんですよ」
「その夢が叶うと良いですわね」
大人ぶった話し方と、貴族であろうとする姿勢から子供っぽい言動が溢れでるのを見てシャイナは微笑ましい気持ちになった。
後で父に伯爵様へ贈るのは闘技場の観戦チケットが良いと伝えておこう。
「そうだ伯爵様。まだ呼び出した張本人も来てませんし、今のうちに別室からお飲み物とお食事を用意させましょうか。ここにあるのは大人向けの味付けで伯爵様のお口には合わないと思いますわ」
テーブルの上にあるのは辛みや味のとても濃ゆい料理ばかりだ。
酒のつまみには丁度いいが、シャイナも酒は嗜む程度なので甘いお菓子の一つや二つは欲しかった。
「良ければご一緒しますから少しこの場を離れません?」
「いいんですか!?……実はお腹が減っていて何か食べないと腹の虫が……」
ぐう~っと空腹を主張するお腹を押さえるアラン。
ふふふ、と堪えきれなくなって笑うシャイナと、そのシャイナの笑顔に見惚れて付き添いの夫人からビンタを頂戴する殿方が続出した。
「それは大変。早く行きましょうか」
「はい!」
迷子にならないようにアランの手を握ってシャイナは会場を一時退出した。
もしも自分に子供が出来たらこうやって手を引いて歩くのが楽しみだとも感じた。
「あれ?坊ひゃんらないれすか?」
「口に食べ物を含んだまま喋るな。行儀が悪いぞ」
城に不慣れなアランをシャイナが案内しながら使用人や子供達への料理を用意してある部屋に辿り着くと、当家のメイドが口周りを汚していた。
「偉い人の話ってもう終わった?」
「まだだ。僕はこちらのご令嬢からのお誘いでこっちの料理をつまみに来たんだ」
「伯爵家様のメイドですね。あちらは大人向けの味付けが多かったので」
手を繋がれている間はもじもじと大人しかったアランがタオルでメイドの口元を拭う。
主従としてはどうなの?と思ったが、リラックスしてされるがままのメイドと怒りながらも甲斐甲斐しく世話する姿にほっこりした。
迎えがこなくてイライラした気分もこれで少しは癒されるというものだ。ジーク許すまじ。
「メイドはそっちのが良かった。こっちはもう全種類食べ尽くして飽きてきたんだぞ」
「お前ってやつは……もういいや」
あくまでメインは貴族達なのに遠慮なく皿を空にするメイドの姿が簡単に思い浮かぶ。
これも自分がメイドから離れたせいだとアランは後悔した。
「ところで坊ちゃん。このとんでもねー美女は誰?坊ちゃんの新しい女?」
「んなわけあるか!!」
そもそも今までに女性との関わりが無いのはメイドが一番知っているはずなのに何を言っているんだ。あと、とても失礼。
メイドを怒鳴りつけて指差した手を下げさせる。
「自己紹介がまだでしたね。私はシャイナ。シャイナ・レッドクリムゾンですわ伯爵様」
その名を聞いた瞬間にアランは血の気が引いた。
今サラッと公爵家の名前が出なかったか?と。
「こ、公爵家のご令嬢だとは知らずにご無礼を!!本当に申し訳ございません!」
「そうだそうだ。無礼だぞ坊ちゃん」
「お・ま・えも一緒に謝れ!」
背伸びしてメイドの頭部を掴んで下げさせる。
令嬢とはいえ、当主である公爵に告げ口でもされたら風前の灯火状態のエルロンド家なんて消し飛んでしまう。
「いえ、お気になさらずに。私も暇をしていたから声をかけただけです。それに今日は無礼講の場ですから」
「坊ちゃん。人間の器で負けてるんだぞ」
「分かってるよ!あと、まだ食うかお前は!」
いつの間にかメイドが手にしていたチキンを取り上げる。
ついでに一口食べると、皮がパリパリしていて身も柔らかかった。味付けも子供向けで胡椒が辛くない。
「しっかし、シャイナ様はどっかで会った覚えがあるんだぞ?」
「私もあなたを見かけた記憶が……」
記憶の隅で既視感を感じる二人。
しかし、こんなにも特徴のある相手を忘れるのはメイドはともかくシャイナはありえない。
だとすれば他人の空似か?
「馬鹿言うな。メイドみたいなのが公爵家のご令嬢と会う機会なんて無いだろう。僕だって今日初めてお会いしたんだぞ」
「それもそうだね。気のせいでしたお嬢様」
「えぇ。私も気のせいだったかもしれないわね」
引っかかる所はあったが、すぐに出てこないという事は大した事がなかった。
メイドとシャイナは思い出すのをやめた。
「美味しいなぁ。でも、早く料理を食べて戻らないと王子が来ちゃうかもしれない。シャイナ様、急ぎましょう」
「あんなの待たせてもいいですけど、伯爵様は事情が違いますものね。分かりましたわ」
「じゃ、メイドは容器に詰めるんだぞ。これで明日も豪華なメシだぞ」
余計なことを漏らしたメイドの口を食べかけのチキンで塞ぐ。
料理人や他の人には聞かれていなくて安心したが、やっぱりこのメイドから離れるのは心臓に悪い。
舞踏会の会場に連れて行って壁際に立たせておこうと思ったアランだった。
余談だが、この後に婚約破棄を叩きつけられたシャイナを見て周囲が悪役令嬢だと話すのを聞いたアランは開いた口が塞がらなかったという。
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