史上最恐の悪役令嬢には婚約破棄したい王子ですら敵わない!!そんな国の話。

天笠すいとん

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ちびっ子伯爵様とぶっ飛びメイド 3

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「それで、いかがなんですか伯爵様。もう期日は過ぎてんですよ?」
「今、必死で掻き集めている。少し、もう少しだけ待って欲しい」
「こっちは商売してんだ。しっかり期日を守らねぇならどうなるか理解してんですかね?」

 伯爵邸。
 その応接室でアランは頭を下げていた。
 目の前に座る態度の大きい人物は国を跨いでゴルドマネー銀行を経営しているガメッツ・ゴルドマネー。
 金にものを言わせた金色のスーツに、葉巻を咥えている中年の男だ。

「借りたのは先代とはいえ、新しい当主になったのなら借金は引き継がれます。何年も何年も返しきれずに利子で借金増えたのはそちらの責任だ」
「でも、いくらなんでもこの額は」
「あぁん?借用書にも記載されているし、元本はそちらにもお渡ししてますが?」

 貴族相手だというのにガメッツは遠慮が無い。
 この場では彼の方が貸したお金が返ってこない被害者で、アランは契約に違反しているのだ。

「こっちは写しを何枚も所持してますし?証拠が欲しいならいくらでも提出しますよ。契約は…まぁ、普通より利率が高いですが、そこは先代がどうしてもとお金が必要だからと納得してお借りいただいたんだ。文句あるなら法廷に行こうじゃねーか」

 強気な態度でアランを威圧するガメッツ。
 そんな態度に物申したいが、残念ながらアランに出来る事は謝って期日の延長を頼むだけだった。
 膨大な額の請求書が来た時は驚いたし、契約内容を確認しようとしたら保管してある筈の原本が見当たらなかった。それらしい書類のファイルはあったが、該当する場所は空白だった。
 一方でガメッツが持ってきた写しは、先代のイヤソンの血判とサインがきちんとある。紛れもない本物だった。

「支払いが無理なら早めに破産申告されて下さい。そうなればお家取り潰しになるでしょうがね。ガハハハ」

 貴族は国から領地を任されて運営している。
 その運営すら行き詰まれば地位は失われるし、国への甚大なダメージに繋がれば……最悪は処刑される。

「とりあえずは借金の担保になってる屋敷と周囲の土地の差し押さえはさせて貰いましょうか。伯爵様にはしばらく別の場所で執務をしてください」
「そ、そんな事は認められない!この屋敷の畑は新しい作物の実験場なんだ。何年もかけて改良を重ねて来た。収穫だってもうすぐ、」
「あぁん?それはテメェの都合だろ。差押えが嫌なら金を持って来い!!そうだなぁ……領地の税金を倍にしてウチに渡してくれればいいぜ」

 そんな事出来るわけない。
 それを分かっていながらガメッツはアランに提案をする。
 それ以外選択肢は無いと。
 ただでさえ経営の厳しい土地。このまま経済的な負担が増えれば飢え死にする領民すら出かねない。

「………屋敷を…」

 一度明け渡し、掻き集めたお金でまた取り返そうとアランが思った時だった。

「へいへい!メイドがお茶を持ってきたんだぞ」

 話し合いの場にいても邪魔だから庭で畑の手入れをするように言いつけてあったメイドが突入してきた。

「丁度いい。喉が渇いていたんだ」
「はい。煮えたぎった熱々のお茶だぞ!」
「ふざけんな!泡がブクブクしてんじゃねーか!!」

 ポコォっと音を立てている湯飲み。
 メイドは素手で触らずにオーブン用のミトンを使っていた。

「飲めば身体がポカポカするんだぞ?知らなかった?」
「飲んだら火傷するわ!加減ってもんがあるだろ!?」
「まぁまぁ。飲めば分かるんだぞ」
「だから飲めねぇってんだろ!おい、どうなってんだこのメイド!」

 湯飲みをグイグイと近づけて来るメイド。
 それを指差してガメッツは怒鳴り散らす。しかし、メイドの手は止まらない。

「ぐぐぐ……強い強い!馬鹿力かコイツ!?」
「失礼な!メイドは小麦袋を片手で二つしかもてないくらい貧弱だぞ!」
「五十キロじゃん!十分に怪力だろが!!」
「隙あり!」

 ガメッツがツッコミをした瞬間、メイドは勢いよく湯飲みを振った。

「ぎゃあああああああああああああ!?」

 全身に熱湯を被りのたうち回るガメッツ。

「あーあ、抵抗するから手が滑ったんだぞ」

 やれやれとメイドは一緒に持ってきたバケツの中身をガメッツにぶち撒ける。
 ……バケツも用意しているとか確信犯じゃないか…とアランは思った。

「こっちも熱湯じゃねぇか!あつい!あつい!あちぃ!!」

 じたばたと転がるガメッツ。
 怒っているのか火傷したのか、肌が真っ赤になっていた。

「お客様。今すぐ神父を呼んでくるんだぞ」
「勝手に殺すんじゃねぇ!なんなんだコイツ!?なんなの?馬鹿なの?」

 ガメッツの意見に対して、内心では深く同意するアランであった。
 一方のメイドは、どこから取り出したのかやかんを手に持っていた。当然のように煙が出ている。

「くそ!こんな場所にいられるか!」

 それを見たガメッツはずぶ濡れのまま持ってきたカバンを手にして走り去って行った。

「ーー大丈夫ですか坊ちゃん?」
「あの、靴下が濡れたんだけど」

 厄介な客人を追い返すために客室を水浸しにしてサムズアップするメイドに、アランは真顔で言った。













「はぁ。メイドのおかげで有耶無耶のうちに帰ってくれたけど、また来るよね」

 濡れた服のままだと風邪を引くので、アランはお風呂に入る事になった。
 城や公爵家とは違って、伯爵邸の浴室は大人一人がくつろぐスペースしかない。
 とはいえ、一般市民なら水浴びやシャワーしかないのでお湯に浸かれるのはちょっとした贅沢だったりする。
 最近はシャワーだけで、湯船には浸からなかったが、今日は既にメイドが準備をしていたので仕方ない。

「……応接室を濡らしたお湯ってまさかお風呂のか?」

 湯飲みにバケツにやかん。台所にある大きな鍋でも大量のお湯は沸かせないので、その説が有力だった。
 程よいお湯に包まれながらアランは今後について考える。

 借金はイヤソンが始めたある事業がきっかけだった。
 ガルベルト王国は戦争に強く、闘技場による盛り上がりや、豊富な鉱山による生産業は他国に負けない強みだ。
 しかし、そんな王国にも弱みがあった。それが食糧生産量だ。
 岩場が多く、農業に適した土地がそう多くはない。闘技場目当ての客は多いが移住して来るのは僅か。
 二十年近く前まで戦禍にいたのだ。仕方ないといえば仕方ない。
 国が主体となって未開の土地を開拓はしているが、作物を育てられる畑にするまでは時間がかかる。

 イヤソンはそんな問題を解決する為に芋の改良に着手した。
 少ない養分で多く生産でき、成長も早い。
 最初はとても食べれた物じゃないし、芽の部分に毒もあったらしいが、品種改良を進めるうちに甘味を持った現在の芋が誕生した。
 そこから更に、安定した生産の為の育て方。必要なノウハウを領民に教え、他所の土地と違って芋の栽培を進めてきた。

 アランはエルロンド領の甘い芋ならば砂糖の代わりに菓子の材料として使えるのではないかと考えた。
 そうなれば芋の価値は上がり、領地の特産品にもなるし、知名度が上がれば他所にも作り手が広がる。
 もう、他国から高値で食糧を輸入する必要だって無くなる。

「坊ちゃん?かなり長いですけど大丈夫かだぞ?」
「心配ない。ちょっと考えーー」

 領地の今後を心配していたアランの前にメイドが立っていた。

「お、お前っ!?」
「お背中お流しするんだぞ」

 勿論、裸では無く薄い服を着ていたが視線のやり場に困る。
 ってか、アランは全裸だ。

「出てけ!一人で洗える!」
「あー、坊ちゃんの坊ちゃんには興味ないから」
「下ネタ言うな!」

 タオルで下半身を隠して出ようとするが、メイドに肩を掴まれてしまう。
 太っていたが、体の大きかったガメッツと力比べして余裕のメイド。
 貧弱なアランはなす術もなく椅子に座らされた。

「な、なんのつもりだ!」

 メイドが石鹸を泡だてて、その手でアランの体を撫でる。
 普段はただのアーパーなメイドだが、人前に出しても恥ずかしくないだけの容姿なので妙にドギマギしてしまう。
 洋服をパージしただけでこの破壊力。年上のお姉さんと入浴という邪念が浮かび上がりそうになったので、頭を振って煩悩を鎮める。

「ーーメイド、知ってるんだぞ。坊ちゃんが伯爵様といつも一緒にお風呂入ってたの」

 ニコニコとアランを洗うメイドは上機嫌だった。

「男同士の裸の付き合いとか言って歌を歌ったり、二人揃ってのぼせるくらいまで政治や農業について語り合ったりしてたの。他にも坊ちゃんが悲しい時は伯爵様が相談に乗ったり」

 脳裏に蘇る思い出。
 体の弱いアランの為にとイヤソンは毎日入浴を欠かさず行わせた。
 仕事が忙しくても、必ず入浴の時間を設けてその日にあった事を話してくれた。
 病気になって弱って、寝たきりになる直前までアランは父と湯船に浸かっていた。

「坊ちゃん、伯爵様が死んでから湯船に浸からなくなったんだぞ。水浴びだけの日もあるし、メイドがいないとため息ばっか」

 アランはよく笑う子だった。
 新しく出来る事が増えるとイヤソンの元に駆け寄って自慢する子だった。

 いつからだろうか。他人に話しかけないようになったのは。

「メイドは伯爵様に拾われてから坊ちゃんと一緒にいた短い日々が一番楽しかったんだぞ。だから、今日からはメイドが伯爵様の代わりに毎日お風呂入るんだぞ」

 シャンプーで髪を洗うメイド。
 しかし、不器用で他人の髪を洗った経験なんて無いので下手くそだった。
 そのせいでシャンプーがアランの目に染みて涙を流した。
 ポタポタと涙を流す。泡をお湯で流しても次から次へと零れ落ちる。

「……お前なんかパパに比べたら下手っぴだ」
「うぐっ。そこはこれからに期待だぞ?」
「ーー約束だからな」
「約束約束。メイドと坊ちゃんの約束だぞ」

 差し出された小指と小指を結んで指切りする。
 嘘をついたら戦神様に斬られるという迷信がある。ガルベルトの風習だ。

「とりあえず洗い方を教えてやるから代われ」
「お?いや、メイドは背中を流すだけで……」
「前から思っていたけどメイドは臭い」
「ふぇ!?メイドちゃんと水浴びしてるぞ!」
「ーー冗談だよ」
「ほほぅ。メイド相手に嘘をつくなんて……こうしてやる!」
「アハハハハ!やめて、くすぐったい!」
「ここか?ここがええんか?だぞ」








 この後、湯冷めして風邪引きました。




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