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悪役令嬢がかわいい
しおりを挟むな、なんなんだコレは。
夢か幻か現実なのかが分からずに俺はただ流れに身を任せていた。
「このままだといつまで進まないわ。早くいきましょ」
「あ、あぁ」
串焼きの店主にからかわれた後、他にもいくつかの出店を俺達は回った。
輪投げや的当てなどもあり、俺は童心に帰って遊んでいたのだが、予定の時間をすっかり忘れて夢中になっていた。
次はどの出店に行くか悩んでいるといきなりシャイナが俺の手を掴んで歩き出したのだ。
コイツからすればいつまでも遊んでいた俺に腹が立ったのだろうが、そのせいで何が起きているのか気づいていない。
そう、俺はシャイナと手を繋いでいる。
恋人のそれではなく、母が手のかかる子を引っ張るような形だが手を繋いでいる。
……手汗とか大丈夫だろうか?汚く無いか俺?ってか、シャイナの手が細くて小さい。コレで剣握って戦っているのか?
雑念と煩悩に塗れたまま俺はなすがまま。されるがままに道を進む。
串焼きの時といい、この状況といい、今日のシャイナは何か変だ。
何が……何が原因なんだ?
いつも俺とシャイナはピリピリしていて、事あるごとに剣を交えようと……っ!?
「おいシャイナ!剣はどうした!?」
「置いて来ましたが!」
「なっ!?」
違和感の正体はシャイナの腰。
剣帯が無い。いつもそこにあるはずの剣が無いのだ。
「何故剣を持っていない!」
「だって、道を案内するのに不必要では?」
「あっ。そうか」
……そうだった。
今日のシャイナは休日に師匠であるアンジェリカの元へ俺を送り届けるのが仕事。剣を持つ必要が無い。
そもそも普段の社交の場でも剣は持っていない。
「だが、最近は物騒な事件もあった。自衛の為に持ち歩く必要があるんじゃないか?」
「それはそうですけど、今日は大丈夫なのでは?」
「何故そう言い切れる」
俺の問いに対してシャイナはごく普段に答えた。
「だって何かあればジークが守ってくれるでしょ?」
それだけ言うと再び前を見て歩き出す。
俺はその一言が堪らなく嬉しかった。
シャイナは緊張していた。
それはもう普段なら王都を歩く際に必ず持っている剣を忘れるくらいには。
ジークはシャイナの様子が変だと思っていたが、その予想は当たっている。
今の彼女は頭の中がテンパって普段のツンツンした態度を忘れてしまうくらいに緊張していた。
そのせいで一周回って素に近いくらい自然体になっている。
普段から人前に立つシャイナは貴族としての仮面を被っている。
それに面倒ではあるが人気者だと自覚しているので期待を裏切らないように見栄を張っている。
それが重なる事でパーフェクト無愛想美人になっているが、中身はお年頃の少女。
アンジェリカとは違い、早い内から自分の気持ちを自覚している分デートによるダメージは深刻だった。
だからこそあっさりと言ってしまったのだ。
『だって何かあればジークが守ってくれるでしょ?』
その発言をして歩きながら思った。
もしかして今、私はとんでもない事を言ったのでは?
限界を超えて出てしまった言葉のおかげでシャイナの頭の中は更に一周して普段通りになった。
すると思い出す。
今日一日、自分が何をしているか。
「っ~!!!!」
自覚するともう止まらない。
羞恥で顔が真っ赤になり、汗が吹き出る。
握っている手も思わず手放してしま……離れていない。
むしろ逃がさないとばかりにジークの方から握っている。
この時、二人の間には逆転が起きた。
「おっと。危ないぞ」
混乱して視野が狭くなっていたシャイナが思わず他の通行人とぶつかりそうになる。
すると、ジークが肩を抱き寄せた。
おかげで通行人もシャイナも衝突せずにやり過ごす事が出来た。
問題はシャイナがジークの体に抱きつくような姿勢になった事。
「っ!?」
顔を上げるとすぐ目の前に端正なジークの顔があり、心配そうにシャイナを見ていた。
整った顔立ちは同年代の少女達から黄色い歓声を浴びるわけだと納得するくらいカッコよく、変装をしていても隠し切れていないオーラがある。
「らしくないな。気をつけろよ」
「……は、はぃ…」
心臓が高鳴り、息が苦しくなる。
あぁ、やっぱり私はこの人が好きなんだとシャイナは再確認した。
抱きついている今の姿勢で目を閉じれば彼は応えてくれるのか?
そんな思いが湧き上がる。
でも、拒絶されてしまったら……。
「あ!見てくださいご主人様!あそこに白昼堂々とイチャつくカップルがいるぞ!うらやま!」
「指差すなよ馬鹿メイド!」
何か聞き覚えのある声がした。
ゆっくりと声がした方を振り向くと、そこには小さな少年と水色の髪にカチューシャをしたメイド服の少女がいた。
「ごめんなさい。うちの馬鹿メイドが邪魔をしてしまって」
「しっかり謝ろうなご主人様」
「お前も頭を下げるんだよ!!」
わーわーと漫才をする二人組にシャイナは見覚えがあった。
というか、知り合いだった。
幼きエルロンド伯爵家当主のアランとそのメイド。
ジークとの決闘前にパワーファイターとの戦い方を学ぶため、特訓相手をしてもらった。
その報酬として父親であるレッドクリムゾン公爵が後見人となり、新事業について話を進めていたはず。
「騎士見習いの学生さんですね。その、デートの邪魔でしたね」
「いいえ。全然構いません。それじゃあ失礼しますね」
ここに居ては不味い。
そう思ったシャイナはジークの手を引いてこの場から離れようとしたが、続くメイドの一言で足が止まった。
「バイバーイ!真っ赤かお嬢様!!また王子倒す秘密の特訓しような!」
「メイド。口に出したらそれは秘密じゃないだろ。……というより今なんて言った!?真っ赤かってシャイナさん!?」
元気よく手を振る水色駄メイドと、目の前にいるイチャつくカップルの片割れがお世話になっている恩人だとしり驚く伯爵様。
空気というのが全く読めないチビスケ主従の漫才に頭が痛くなりながらシャイナは隣を見る。
「ほぅ。どういう特訓なのか教えてもらおうか。なぁ、シャイナ?」
「おっそいねぇあの子ら」
「なぁ、思ったんだが殿下に嘘ついてまでお前とデートしてるってバレたら俺は殺されるんじゃないのか?」
「今更気づいたのかい?馬鹿だねアンタ」
「テメェ、騙しやがったなアンジェリカ!!」
「はっ。騙される方が悪いのさね!」
「なんですか彼らは!シャイナさんの邪魔をするなんて許せないですね。ここは穏便にご退場してもらうしかありません」
「おーっと。懐かしい前の職場の制服まで持ち出して何をしているんだい?ハニー」
「っ!?ディル様ぁ!?どうしてここに……」
「陛下の機嫌が悪くてね。避難場所を探していたら君の気配を感じたから声かけたのだが」
「ここ民家の屋上ですよ!どうやってここまで!?」
「ジャンプしたらどうにかなった。私がこの場にいるのに驚くのはわかるけど、君こそどうしてここに?そのフック付きロープは何かな?」
「はわわわ……」
役者は揃った。
これよりガルベルト最後の日を始めよう。
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