史上最恐の悪役令嬢には婚約破棄したい王子ですら敵わない!!そんな国の話。

天笠すいとん

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ラブラブ喫茶『カップリング』

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「……それで?どうして貴様らがいるんだ」

 冷たい目をしたジーク・ガルベルトの前に肩身の狭い思いで座る成人男性が二人。
 一般人からすれば屈強な男が少年に頭があがらない様子が滑稽に見えるだろう。
 しかし、この少年こそ次期国王に指名されている王子であり、二人が仕えるべき相手だ。

 先に口を開いたのは騎士団の制服ではなく、ラフな格好のマリウスだった。

「俺はアンジェリカに嵌められたんですよ。殿下との話が終わればデートするからって言われて。そしたら殿下とシャイナ嬢ちゃんと一緒に食事するとか急に言われて……」
「野暮用とは恋人との逢瀬か。主人を騙してまでするデートは楽しいか?」
「ぶっちゃけ殿下も嬢ちゃんとラブラブデートとかしていい思いしたんじゃ…待って!!剣に手を伸ばさないで!ここ店内ですから!!」

 後日、副団長に説教をさせて騎士団長宛ての書類仕事を倍増させてやろうと考えて、とりあえずジークは剣から手を離した。
 次はいつの間にか妻を引き連れて合流してきた将軍の番だ。

「ディル。貴様には俺の代理を任せた筈では?それがどうして夫婦揃ってここにいる?」
「いや~、私にはちゃんとした事情がありましてね」
「言ってみろ」

 将軍であるディルの言い分はこうだ。
 エルロンド伯爵との会食は城で行われる予定だったのだが、今日に限って国王の機嫌が悪くなっていた。
 このままでは城内が大混乱して国王捕獲作戦が実行されるだろう。
 そうすると指名されるのはディル。しかし、マリウスもジークも不在では負担は大きい。
 なので普段は田舎に住んでいるエルロンド伯爵に王都を案内しながら会食出来そうな店を探していた。

 そこまでは許せる。
 なお、国王を止めるために散った兵士達に労いの言葉をかけ、修繕費を見積もる財務卿に胃薬をプレゼントしようとジークは思った。

「そして私は王都の街を歩いていると最愛の妻の気配を感じましてね。シャイナちゃんに目的地を聞いたら最近有名の喫茶店に行くというのでトトリカも同伴させました」
「ごめんなさい!うちの旦那様がご迷惑をおかけしてごめんなさい!!」

 隣のテーブルでシャイナ達と話をしていたトトリカ・マックイーンが頭を下げる。
 彼女はシャイナとジークを尾行していたというが、それは二人を心配しての事だったので怒るに怒れない。
 むしろ尾行に気付けなかったのが悔しいくらいだった。

「まぁ、いいじゃないさね。賑やかで楽しそうじゃないかい」
「おいアンジェリカ。貴様が俺を騙して嵌めた事は許さないからな」
「へっ。まさかアタシを脅そうってんじゃないだろうね?」
「……城に招待してやるからな。父上の相手をしてもらうぞ」
「申し訳ありませんでした王子様。それだけは勘弁してください!!」

 綺麗に頭をテーブルにつけて謝罪するアンジェリカ。
 そこには普段の粗暴な振る舞いもない。

 何も知らない者であれば国王と面会して手合わせをするのは一生の誉であるが、事情を知る者からすれば猛獣の檻の中におもちゃとして投げ捨てられるような扱いだった。
 元貴族のアンジェリカは後者だ。

「ご主人様!ここケーキがいっぱいあるんだぞ!」
「本当だぁ……最近は芋で食い繋いでいたからお菓子が食べられるなんて夢みたいだ!」

 関係者のどんよりした雰囲気とは違い、一箇所だけ盛り上がっているエルロンド伯爵コンビ。
 何やら悲しい懐事情が聞こえてきたので彼らの分は割り勘で支払おうと大貴族達は思った。
 そもそも彼らは被害者であり、メイドの余計な一言があったとはいえ仕事で来ているのだ。

「この後の行動は各自に任せるが、まずは仕事を優先するぞ」










「ジーク王子。ありがとうございました」
「いやいや。こちらこそ礼を言う。おかげで今後の食糧問題について大きく前進しそうだ」

 王子を前にし、緊張しながらもアラン・エルロンドは新品種の芋について説明を終えた。
 資料も丁寧に纏められていて、ジークは満足した。
 まだまだ幼い身でこれだけしっかりしているならば将来は有望だと感じたからだ。

「闘剣が人気なのはいいが他所からの移民も増えていて悩んでいたのだ。渡りに船だった」
「僕はパパのーーー先代のエルロンド伯爵の研究をまとめただけです。大したことはしていません」
「謙遜するな。きちんと引き継ぎ、形にしたのはお前の力だ。国が全力で支援する事を王子として誓おう」
「……ありがとうございます……」

 やっと今までの努力が認められた気がしてアランは目頭が熱くなった。
 父が生涯をかけた研究が報われたのだ。

「なぁなぁ、あの王子様って実は有能?」
「そうよ。私に対する態度や闘剣については褒められたものじゃないけど、執務についてはしっかりしているのよジークは」

 山盛りのケーキをムシャムシャと遠慮なく食べながら不敬な事を言うメイド。
 そんなメイドに説明をする公爵令嬢の言葉にはどこか棘があった。

「聞こえているぞシャイナ。あとそこで笑っている男二人は覚悟しておけ」
「ちょ、ディルのせいだぞ!」
「マリウスも同罪だよ」

 初対面なメイドや関わりの薄いトトリカならば許してやるが、兄のような存在であるディルとマリウスには慈悲は無い。
 せいぜい強くなるための経験値として食い潰してやる。

「皆さん。騒いでいたら他のお客様の迷惑になりますよ」
「その心配は無いさね。顔が割れてるアタシらが入った時点で貸し切りだよ」

 アンジェリカの言う通り、店内にはジーク達と従業員以外は人がいなかった。
 変装しているとはいえ、立ち振る舞いやオーラで高貴な方だとは分かっていたし、マリウスやディルまでいるとやんごとなきお方だと店側が気を利かせたのだ。

 のちに著名人のサインが沢山あると話題になり、この店は更に繁盛するのだが、今は関係ない。

「ご主人様。次はどれ食べる?」
「まだ食べるのかよこのメイド。胃袋どうなってんの?」
「それは僕が知りたいです…」

 マリウスの疑問にアランも同意した。
 既にメイドの前には空の皿が積み重なって塔を形成している。
 マリウスは財布の中を心配したが、ディルやジークは余裕だった。
 もう一人、休業中で収入の無いアンジェリカも不安になったが、いざとなれば姪に頼ろうと考えた。

「しかしメニューが豊富だな。独特な名前が多いようだが……」
「【ラブラブ♡オムライス】【エターナルラブジュース】【初めてのキスを思い出すレモンケーキ】って読むだけで恥ずかしいぜ」

 ジークとマリウスは手に取ったメニュー表に渋い顔をする。

「二人は知らないのかな?ここはラブラブ喫茶『カップリング』といって恋人同士や夫婦でしか入店出来ないんだよ」
「なんだそれは……」
「なんでもここで料理を食べると永遠にラブラブでいられるとかなんとか」
「そこ曖昧だとダメだろ」

 それからどうしてディルが詳しいのか気になるが、おおかた妻とイチャイチャする口実を探していたら行き着いたとかだろう。
 ちなみにアンジェリカは同じ女性闘剣士仲間から聞いてマリウスを誘った。

「つまりメイドとご主人様はカップル?」
「そ、そんなんじゃない!僕とお前は主従だよ!」
「そういうプレイだとメイドは納得しておこう」
「事実だっつーの!」

 机をバンバンと叩く小さい伯爵様を落ち着かせながらジークはふとシャイナを見る。

 この場にいるという事は俺とシャイナもそういう風に見られているのだな?
 婚約者だから事実なんだが、このような恋人っぽい事はしてこなかった。
 でかしたぞアンジェリカ。ここを集合場所にしたのは褒めてやる。

 ジークのアンジェリカへの好感度がちょっと上がった。

「ならばご主人!メイド達もあちらみたいにラブラブしてジュース飲もうぜ!」
「話を聞いてくれよメイド!本当に今日はテンション高過ぎるぞ!」

 暴走が止まらないメイドに振り回されながらアランはあちらと指差された方に目をやる。

「美味しいねトトリカ」
「そうですけど、ちょっと顔が近いです……恥ずかしい」

 将軍様はお嫁さんと二又に分かれているストローで楽しそうにドリンクを飲んでいる。
 ラブラブで胸焼けしそうな光景からアランは目を逸らすと話題を変えるためにジークに話を振る。

「ところで、ジーク王子はそちらのアンジェリカさんと何のお話をしに来たんですか?」
「「あ、忘れてた」」

 綺麗にアンジェリカとジークの声が重なり、シャイナは溜め息を吐くのだった。










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