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緊急事態発生!
しおりを挟むシャイナとのデートや部下達の乱入。有意義な仕事の話をしていたせいですっかり頭から抜け落ちていたが、ジークの本来の目的はレッドクリムゾン流の師であるアンジェリカからシャイナの弱点を聞き出す事だった。
しかし、この場にはシャイナ本人もいる。
これではダサい奴と思われるだろうし、勝てないから情報収集に必死なんですね~などと煽られでもしたらジークは間違いなく耐えられない。
ど、どうする?素直に話す訳にはいかんぞ!?
惚れた女の前では強く頼れる男でありたいというのがジークの信条だ。
「……実は闘技場の運営について闘剣士の意見を聞きたいと思っていたのだ!ハハハ…」
なので逃げた。
事情を知っていたディルとマリウスは天を仰ぎ、主人のヘタレに同情した。
「(まぁ、聞けないわな)」
「(我々はアンジェリカ手のひらの上で転がされていたようだね)」
その発言を聞いたシャイナはアンジェリカの方を向く。
「そうなんですか?叔母様」
「あー、うん。そんな感じさね」
実は呼び出すための口実をシャイナに伝えていないので、アンジェリカはジークの嘘に乗る事にした。
若い二人にデートさせようと計画していたが、この辺の話題までは考えていなかった。
ジークはアハハハと笑いながら、傷が治り次第アンジェリカを国王の前に連れて行ってやると決めた。
「闘技場の運営ですか?」
シャイナ側とジーク側の事情を何も知らない純粋なアランが会話に参加する。
暴飲暴食をしていたメイドは満足したようで、スヤスヤと眠ってしまった。
「そ、そうなんだ。今の闘技場で何か不満がないか現役選手の意見を聞きたい」
アンジェリカとマリウスやディルに目配せをして話を合わせるように圧をかけるジーク。
しっかりと伝わったようで三人は口を開いた。
「最近の闘技場は腑抜けたイメージがあるな」
「私もそう思うよ。質が落ちたような気がする」
「アタシはそうは思わないけど、世代が変わりつつあるんだよ。顔馴染みも多くが引退したしね」
アランからすれば闘技場にいる全ての闘剣士は自分より遥かに強い武人に見えるが、この国の頂点にいる彼等からすれば違うらしい。
「トップリーグも半数近くは余所から来た連中さね」
「十年前はガルベルト人の一強だったな。そのせいで中々アンジェリカが勝てなかったりしてたよな」
「化け物がゴロゴロしてからさね」
そんな怪物達も年には勝てずに引退。
戦争に勝ったガルベルトの強さの秘訣は闘技場という文化があるからだと広まり、各国から腕に自信のある連中が集まって来ている。
だがそれでも、平和になったせいか選手の質というのは下がっているのが現状だ。
「現役のチャンピオンなんてふらっと現れたからね」
「アイツがいなけりゃアタシの去年の成績はまだ良かったさね」
アンジェリカは今、第六位。
チャンピオンや第三位の選手に負け越して序列が下がってしまった。
今年こそはと巻き返しを!と臨んだが、先日の事件のせいで今シーズンは棒に振る事になる。
「やっぱり凄いなぁ」
アランは隣で涎を垂らして寝ているメイドを見る。
このおバカなメイドも元は闘剣士で後一歩でトップリーグ入りしそうだったという。
バカのくせにと眠るメイドの鼻を摘んだ。
「ディル様達も凄くお強いですけど、そのチャンピオンさんも凄く強いんですかね」
「そこは分からないわね」
トトリカの言葉にシャイナが答える。
「将軍や団長は役職上怪我をしたら困るから、ここ数年は闘技場で戦っていないの。だからトップリーグの選手級の実力がある……って所ね」
「代わりにアンタやジーク王子がチャンピオンに勝ってるから益々混戦さね」
国王からの推薦枠でシャイナとジークは闘技場のチャンピオンと戦い、勝利している。
だが、それも前の話。
「年下の嬢ちゃんや殿下にボロ負けして成績ガタ落ちしたからな」
「トップリーグの枠ギリギリにいるさね元チャンピオンは。今のチャンピオンはたった二年で全部を塗り潰したんだよ」
つまりは誰が一番強いのかがイマイチはっきりしていないのだ。
国王は論外として、今のチャンピオンか将軍のディルかシャイナかジークか。
「俺やアンジェリカはディルに勝てねぇからな」
「十回に一回は一本取っているよ」
「馬鹿野郎。今まで勝負した母数みて言えよ」
学生時代ならば良い勝負になったが、戦争が終わり平和になると中々に弛んでしまう。
それでもマリウスの実力が高いのは日々の化け物の取り押さえによるものだろう。
「となると、ディル様よりシャイナさんの方がお強いんですか?」
「それは周りが勝手に持て囃しているだけよ」
シャイナがため息を吐く。
確かに彼女はディルに模擬戦で勝利した経験がある。
しかしそれはたった一度のマグレだ。
「謙遜なさらずに」
「だってあの時は得意な武器でもなければ奥義すら使っていませんでしたよね?」
「流石に公爵家のご令嬢と、しかも学生相手に真剣で勝負するのは大人げないですから」
偶然の勝利を見た観衆が勝手に言いふらしただけ。その方が闘技場としても客を集める宣伝文句になるので否定はしないが、自分から話したり自慢する事も無い。
「おいディル。俺は手加減なんかされた覚えは無いんだか?」
「ジーク王子には陛下から殺す気で叩き潰せと厳命されていますので」
「あのクソ親父……」
大方、自分の息子が強くなればいい暇潰しになると思っているのだろう。
ジークは未だにディル相手に勝利した経験は無い。マリウスが相手なら勝つ事も無理では無いが余裕とはいかない。
オマケにシャイナにも負け続けているのでジークは自分に自信が無かった。
「(まぁ、それもそろそろ厳しいんだけどね)」
「(俺なんか師匠としての威厳を保つので必死だよ)」
シャイナ相手とジーク相手では力の入れようは違うのだが、それこそ大人げないので二人は口を閉じる。
「今年は誰が選ばれるのかしらね」
「連続で同じ奴を推薦しないからな。有名どころの貴族の子息か騎士団の実力者か?」
「それを聞いたら今のチャンピオンは怒るだろうさね。アイツは殿下やシャイナと戦わせろって言ってたから」
ジークとしてはそれでも構わないが、貴重な機会を何度も同じ人間が戦うのは忍びない。
チャンピオンとの戦いなんて全国民が憧れる試合なのだから多くの国民に挑んで欲しい。
ジークが望むのはシャイナへの勝利。ディルに拘るのはシャイナが勝った相手に自分が負けているのは悔しいという意地だ。
「さぞかしお強いんですねそのチャンピオンさんは」
「伯爵は闘剣に興味あるのか?」
「はい。僕だってガルベルト人ですから。ただ、僕自身がひ弱なのと金銭的な余裕も無くて中々観戦出来なかったんです」
唯一見たのがジーク対シャイナの決闘だった。
あの激しい戦いを見て以降アランも剣を握ってみたが、危ないといる理由でメイドに没収された。
それでもいつか、余裕が出来たら闘技場で試合を観戦したいのがアランの密かな夢だ。
「ふーん。だったら今から観に行くかい?」
「えっ!?」
「アタシが一緒なら選手の控室くらいまでは行けるさね。サインでもなんでもねだるといい」
「でも、そんな初対面の方に甘えるわけには……」
「なら、私も一緒に行くわよ。それなら問題ないかしら?」
行きたいけど必死に我慢しようとする幼いアラン。
そんな彼に母性をくすぐられた師弟が提案する。
シャイナはアランの事情を詳しく知っているのもあって王都に来たからには楽しい思い出を作ってもらいたいと考えた。
「今からなら今日のメイン試合には間に合うさね。さぁ、行くよ」
「ぼ、僕なんかが良いんでしょうか……?」
「はははっ。伯爵様、こういう時は大人に甘えていいんだぜ。それに伯爵様は公爵家のご令嬢からのお誘いを蹴っちまうのかい?」
「め、滅相も無いです!喜んでご一緒します!」
意地悪なマリウスからのフォローもあり、アランはシャイナ達と一緒に闘技場に行く事になった。
ついでにマリウスに王都を案内したりしたいと言う事になったのでこの場は解散する。
「トトリカさんもご一緒しましょ?」
「分かりました」
「なら私も「おいディル。貴様は俺と一緒に城に戻るぞ」……ど、どうして…」
アランから聞いた芋の生産についてや、今頃荒れ果てている城の片付けをしなくてはならない。
ジークの本音としてはシャイナとのデートを続けたかったが、こうも人が増えたらさっきまでのように気安く話したり出来ないし、大所帯になれば顔が割れているので騒ぎになる。
「それはいいけど、このメイドどうするんだよ。起きないんだが」
「メイドは多分、栄養を沢山蓄えて眠っているのでそう簡単には起きませんよ」
「冬眠中の熊みたいな生態してんなぁ……」
さも当たり前のようにメイドの変な習性を話すアランに困惑するマリウス。
メイドは夢の中でお菓子の家を食べ尽くしているのだが、それは誰も知らない。
「じゃあ、観光が終わるまで騎士団の詰所で預かっとくから帰りに引き取りに来てくれや」
「トトリカ達が来る前には仕事終わらせるから、私達も一緒に愛を囁きながら帰ろうか」
「よーし、行くぞー」
惚気るディルの耳を引っ張るジークとメイドを脇に抱えるマリウス。
二手に別れて一同は喫茶店を後にした。
なお、代金は将軍様と騎士団長の奢りになった。
ただ支払い金額の大半がメイドの注文だったのでアランはペコペコと頭を下げるのだった。
その日の夕方、シャイナ達は城に現れなかった。
騎士団は彼女達を捜索したが、王都内から影も形もなく消えて行方不明になった。
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