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紅雨(こうう)
しおりを挟む瞼に恵みの一粒が落ちる。
切望した水神が暗い白壁に舞い降りるのは実に十月ぶりだった。耳に心地よい音に包まれる。今目を覚ましている者はきっと、歓喜の意を以て空を見上げていることだろう。
唇にあたる冷たさに湿った笑いが出た。
昨年の夏から続く大旱魃で民は困窮し、飢餓で多くの死者をだした。年貢と関税を回収できない領主たちの反乱が各地で相次ぎ、いずれも鎮圧し事を大きくしないことはできたが、国は着実に消耗し、弱体化しつつあった。地方の監察からは納入期限に対する直談判の書状が届き、毎日認可しているが追いつかない。街下壁の周りに散乱する死体の処理も膨大になり、城内の官吏にも相当な負荷が掛かっている。城の備蓄倉庫はとうに解放し一部を街下へ流してはいたが到底その程度で緩和するわけもなくすぐに困窮した。海向こうの外交国へ物資の支援に関して使者は出したが、伝令も帰還も叶わなかった。このまま旱魃が長引けは、今年の夏は越せない。
そう、誰もが覚悟した春だった。
かつては絢爛に四季折々の花が咲いていた内庭は荒れ果て、もはやみる影もなくなっていたが、その乾いた土地に数箇所生えている雑草に、雨粒がひたひたと垂れている。ヒビが入り土埃しか吹かなかった土壌の色が、どんどん濃くなってゆく。
ああ、そうか。
天はこの日を待っていた。
穿たれた腹を押さえる手に力をいれて、蒼天は濡れた夜着をひきずって歩いた。誰もいない廊下には等間隔に並べられた小さな松明が灯っている。それが吹き込む微風と雨で燃色を弱めていた。侘びしい夜の静寂でさえ、今日この時を演出している。
暗闇の中で極限に押さえ込まれた殺気に気づいたとき、身体は命の危険を避けるよりもその事実をただ受け止めるだけだった。思惑も真意も最早どうでもよかった。蒼天はそれが誰の気配かわかっていた。雨が降ったと歓喜の声が上がる中、慌ただしく動き回る足音と怒声、あらゆるところで上がる破壊の音が煩わしい。
遂行を阻まなかったのは、いつか追放した城付き祈祷師の言葉を覚えていたからだ。それは呪いのような予言、あるいは願望。しかしその信用するには値しなかった言葉が現実になったのだ。祈祷師は確かに未来を言い当てていた。
この国の終わりを。
否、この国を統べるものの最後を。
やっとたどり着いた自室の扉を押し開ける。光はひとつもなかった。蒼天はゆっくり中へ進む。羽織が絨毯にこすれる音が無機質に響いた。
「律儀に待っていたのか?……比綺」
暗闇に声をかけると、ひらとなにかが漂う。やがて小さな高音とともにひとつの光が淡く誕生した。部屋の奥、書棚の前に背の高い男が立っている。手には箱火が灯り、その端正な顔を照らしていた。黒い髪、深い深い濃緑の瞳がちらちらと光に揺れて分かるようになってくる。
「よくわかりましたね」
「少し前に感じた気配とよく似ていたからな」
「教えてください」
「なにを」
「玉璽はどこに」
「もう手に入れてるだろう?」
「あなただけに受け継がれた指輪のほうがまだです。わたしが知っている場所にはなかった。隠し場所を教えてください」
比綺の声は低く冴えていた。
蒼天は問いに答えず、足を前に進める。くしゃり、となにかを踏みつけた。散乱した紙面と書籍が足の踏み場もない程散乱している。男が灯す光はとても微量ではあったが、この部屋の状態は安易に理解できた。
「お前らしくないな」
八年の間、比綺は蒼天に付き従ってきた。護衛を兼ねた側仕え。蒼天の一番近くで様々な雑用をこなしてきた有能な男だ。最難関の帝都官吏登用試験を主席で合格。その性は冷静沈着。小さい頃舞踊を心得ていたため、身のこなしも華麗としか言いようがなく、剣術にも秀でていた。禁軍に配置してもいいくらい腕が立つので直属の近衛にと、前王が息子に与えたものだった。年は六つ離れている。
わずか十八という若年で王位を継いだ蒼天にとって、祀り事から教学まで補佐してくれるこの男は信頼に足る人物だった。横暴ともいえる政策を朝議会で宣言したときも、反対官吏たちを諭すよう動き、蒼天の案を通して政策を実行してきた。どんな分野にも対応できるその知識と頭脳に、他の官吏からも一目おかれていた。
蒼天にとってこの世界に意味のある人間は二人しかいない。
そしてそのひとりが、目の前で冷ややかに佇むこの男だった。
「あなたは、なぜ今まで気づかないふりなどしていたんですか」
「なんのことだ」
「わたしのことも、今日の計画のことも……」
「俺にどうして欲しかったんだ?お前が裏切ったなら、それは、それまでのことだ」
「そんなわけが………」
「先にお前が殺されたかったのか?」
蒼天は更に近づいた。比綺は一歩後退し、うしろに手を回す。取り出したのは黒い短剣。鈍く光を反射したそれには錆びた鉄の匂いが染み着いていた。蒼天は口元に笑みを浮かべながら、しかし歩みを止めなかった。
比綺が短剣を払う。小さな赤い玉が飛び散った。はらりと蒼天の胸がはだける。一本の切り傷が横に走り、鮮血が白い肌を流れていく。
蒼天は状況に不釣り合いな笑みを浮かべて比綺に手をのばした。
「聞きたいのは俺のほうだ。なぜさっき、一太刀で殺さなかった?」
拒まなかったのに。微塵も避ける気はなかったのだ。
比綺の喉がひくりとなる。蒼天は比綺の短剣に手を伸ばし、持つ手ごと胸に引き寄せる。
「やるなら、ここを刺せ」
教えたのは左の胸。
蒼天はさきほどなぜ自分が即死にならなかったのか、その理由を知っている。比綺が先程から喉元を震わせて発している声色が全てを物語っている。
しかしそれでは駄目だ。
「できないのか、おまえも所詮英雄きどりの愚鈍な男か」
耳元に顔をよせて吐いた言葉に、比綺は黙って唇をかんだ。整った顔が厳しく更に暗くなっていく。それが蒼天の興味をそそり、そのまま舌で比綺の無防備な首を舐めあげた。
「っ!!」
激しい拒絶とともに蒼天は突き飛ばされて紙の群れの中に倒れ込んだ。衝撃と反動の痛み。両手で腹を押さえて蒼天は痛みに耐えた。荒い呼吸で上下する胸もひりひりと熱い。
比綺が近寄り見下ろしてくる。瞳には軽蔑の色を含んでいるのが見てとれた。
「玉璽はどこですか」
「そんなにほしいのか」
「あなたには、もう時間がないはずだ」
比綺の視線は赤く染まる夜着に注がれていた。
蒼天の口を割らなければ、王位継承の証の在処を永遠に失ってしまう。その焦りからか、比綺の額には滅多にみることがない汗が湧き上がっていた。
「だったら、俺を犯せ」
喘鳴する息に載せて放たれた命令に、比綺は絶句する。その様子を楽しげにみるのは、死の縁をさ迷う若き王のほうだった。
「これは勅命だ。俺を抱け。そうしたら玉璽の場所を教える」
信じられない。
比綺はそんな目をした。
しかしこの愚かにして最悪な言葉に比綺が逆らえないことは、この八年間をともに生きた蒼天にはわかった上でのことだった。
ましてや、この謀反を企てた者たちの最大の目的は、蒼天だけが知り得る指輪の在処。王位継承の公正と秩序を保つために必要なものであり、国王の暗殺と両天秤に掛けられるものだからだ。
比綺の短剣を持つ手が震えている。
明確な怒りと躊躇いは、まっすぐ蒼天に向けられた。だが、迷いを振り払うかのように一度きつく瞳を閉じてから、比綺は短剣の柄を握りしめた。
箱火を寝台の横に置くと、比綺は蒼天の胸ぐらを掴んで引き立たせ、寝具の上に乱暴に投げた。また蒼天が痛みに呻く。爪をたてて腹を抑える手首を強引に掴み頭の上で縫い止めて、比綺は雨に濡れて血で湿った夜着を一気に引き裂いた。生地の悲鳴が部屋にこだまする。現れた白いすべらかな象牙肌がほのかな灯りに照らされて、真珠のように輝く。しかしその胸には横一線に新しい傷が走り、左脇の腹は血で汚れていた。
「なぁ、後生に教えてくれないか?なんで、さっき殺さなかったんだ」
蒼天の心底の疑問に比綺は答えなかった。
きつく握りしめていた短剣を寝台に突き刺し両手を使えるようにすると、蒼天の露わになった腰に手を添える。感情を許すまいと顔の筋肉を固くしたまま、蒼天の体にその長い指を這わせた。幾筋もの血のあとをなぞり、汚れた指を血の気の失せた唇の中に入れる。蒼天は笑みを浮かべてそれを口に含み、舌を絡めた。ぴくりと微かに反応した指は、されるまま蒼天の舌に愛撫された。唾液と赤がまざったそれは、やがて下半身に降りていく。
乾いた、声にならない吐息が発せられる。無慈悲に突き込まれた指は乱暴に蒼天の中をかき混ぜた。
蒼天は自分のからだがある男を思い出しているのを実感した。
もう何年もそこを使う経験はしていなかった。しかし与えられる刺激に脳髄がくらくらし、下腹に痛みとは違う感覚が集まってくる。
比綺は反応を示しはじめた蒼天の中心にちらりと視線を向けたが、その後もただ、作業的に後ろの穴を突き中を押し広げながら、冷たい目で蒼天を見下ろした。もどかしい刺激が続く。蒼天は手をのばし、比綺の上着の襟を掴んで引っ張った。
「早く、……入れろ」
その言葉に比綺は指を抜いて、前を寛げた。蒼天の片足を持ち上げて開かせると、入り口のあたりを数回撫でてそのまま貫ぬく。
容赦がなかった。
激しく揺さぶって蒼天を追い上げながら、比綺はずっと乱れる王の痴態から目を逸らさない。蒼天の体が熱を帯びる。
律動で体が揺れるたびに痛みが走り、腹から血が流れた。触られることがないまま屹立した中心は、痛みと快楽に翻弄される主の代わりに淫靡な涙を流している。自ら擦って慰めようとした蒼天の手を、比綺は掴み取って頭の上に押さえつけた。
「……離せ!」
蒼天は苦しそうに喘ぐ。比綺の余裕のない呼吸と、肌のこすり合わさる音で耳がおかしくなりそうだった。もっと愉悦を感じたいのに、手は拘束されて自由にならない。荒々しく突かれている部分だけが鮮明で、そこにしか集中できない。やがて内部が痙攣しはじめた。敏感な内壁を擦られて、蒼天はのけぞった。頭の上の布を握りしめて絶頂を耐える。
「なぜ、逃げなかったんです」
荒くなった息を必死に落ち着けようとしながら、比綺は言葉を絞り出した。
蒼天は気づき、自分よりも苦しく悶えながら悔しそうに歪む比綺の顔を見つめる。
「わかっていたくせに!なぜ、わたしをそばに置き続けたんですか!」
悲痛に声をあげながら、それでも比綺は穿つことをやめはしなかった。体ごと思いをぶつけられている気がして、蒼天はなんともいえない気持ちになる。
このまま死ぬなら、それでいいと思った。
愛した男に似ている従者。
反軍組織に組する工作員。
裏切られたという感情はもとから有りはしなかった。
この男がそばにいなければ、きっと。
即位して二年でこの国は滅んでいたに違いない。
蒼天にとって、典需の死んだ日から世界はないも当然だった。
「わたしは、あの人とは違うんです。あなたを愛してなんかいないんですよ」
「………あっ、あぁ!ひ、きっ!」
限界が来た。熱いものが蒼天の中になだれ込んでくる。腹の上を流れるのは血なのか白濁なのかもう区別はつかなかった。ふたりぶんの荒い息づかいが暗闇に漂う。蒼天はまさに血の気の失せた死人のような顔色で、それでも満足そうに口角をあげて比綺を見上げた。意識を保つことが困難になってきたのを如実に感じて、蒼天の金色の眼球がゆらゆらと彷徨う。
「ひ…き……」
蒼天は虚空に手を伸ばす。
比綺はすぐ近くにいるのだが、蒼天にはもう顔を鮮明に認識することができなかった。達する自分を見つめ続けたあの深い緑色の瞳が脳裏に焼き付いて離れない。
比綺は思わずその手を取る。
暖かいそれを感じて、蒼天はうつろな目のまま、睫毛を震わせて微笑んだ。
「蒼天……さま……」
比綺の口をついてでたのは従者として何回も紡いだ畏敬の言葉だった。
国に対する執着がないことに気づきながら、それでもずっと側で蒼天の行き先を案じていた保護者のような胸中。
それを一体なんと呼ぶ感情なのか、比綺は知らない。
「……比綺。玉璽の場所を教えてやる……」
呼吸が苦しくなって、蒼天は浅い息を繰り返しながら、比綺との交換条件を果たそうとする。掴まれた比綺の手を握り返して、蒼天は、それを自分の腹に導いた。闇夜に紛れて害されたその刺し傷の、反対側。そこには比綺が仕えるより以前からある傷跡があった。即位前の暗殺未遂事件のときについた傷跡だと聞かされていた。導かれた先の縫い跡をなぞる比綺の指はずっと震えていた。
「……ここだ……」
「なんで……」
城中をどんなに探しても見つかるわけがなかった。
玉璽は、あの指輪は、蒼天を手にかけなければ見つからない所にあったのだから。
「どうして!どうしてわたしにこんなことさせるんですか、蒼天!」
「さぁ、……なぜ、だろうな……」
笑みを浮かべたまま、蒼天の手からみるみる力が抜けていく。比綺は腹の傷口を震える手で塞ぎながら狼狽した。
「蒼天?!……蒼天……!!」
「あぁ……典需に、呼ばれている……みたい、だ……」
蒼天の見えない視界には、かつての最愛が映っていた。
耳には自分の名前を呼ぶ比綺の声が聞こえる。
典需が死んだ次の年に蒼天は即位した。己の近くにいるのは典需だと信じて疑わなかった。彼のいない世界などに興味はない。彼のいない国の行く末など知ったことではない。早く滅びて仕舞えばよかったのに。
なにもかもに絶望して荒廃していた蒼天の前に、あの青年が現れてから。共に過ごす時間の中で、いつから湧いた感情なのかわからない。
名前をつけるとしたら、たぶん、執着なのだろう。
どちらにせよ死ぬ命運なのだとしたら、比綺に殺されたいと。
思うようになったからこそ。
『生きる意味を亡くした哀れな王よ。あなたの最後は恵みの雨と引き換えにやってくる。拒めば無意味で残酷な木偶と成り果て、受け入れれば、あなたの望む死が訪れるでしょう』
蒼天の息は事切れた。
あっけなく、あまりに静かに、死は訪れた。比綺は慟哭し、なんの反応も示さなくなった体を犯し続けた。生き返れというかのように激しく貫いても振動が伝わるだけで、少し前まで怪しく蠢いていた主の姿は戻ってきはしなかった。一気に虚脱感に襲われる。次いでこの世で初めて味わう恐怖がせり上がってきた。比綺はうっすらと開いたままの蒼天の瞼に唇を落とし、目を瞑らせてから、冷たくなった体を抱きしめた。しばらくすると比綺は蒼天の身体から離れ、震え続ける指で短剣を掴み戻す。そしてそれを蒼天が教えてくれた部位に突き立てた。刺した場所に指を突き入れて、引っかかる内臓をひきずりだす。こみ上げてくる吐き気に耐えながら、何度も指をいれてかきまぜた。やがて指の先が小さな固いものに触れ、すぐにそれを取り出した。
血色の合間に光る小さな青磁。
ほしかったものを手に入れたとき、比綺は自分がまだずっと泣き続けていることに気がついた。指だけでなく、身体はずっと震えていて落ち着きを取り戻すことができない。指輪と、蒼天の肌に涙がぽたぽたと落ちている。比綺は、固く冷たい蒼天の手を取り、自分の頬に当てた。きつくきつく握りしめて、少し前まであった温もりを思い出して、また涙した。
だが、回廊のほうから響いてきた悲鳴と怒号の近さに一気に身体に緊張が戻る。比綺は置いてあった箱火を手で払い落とした。地面に散らばった紙に引火した炎がだんだん大きくなっていく。
そうしてもう一度、寝台で眠る蒼天に近づき、顔を寄せた。
耳元でつぶやいた比綺の言葉は蒼天には届かない。
外はいつの間にか大雨になっていた。
おわり
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