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バッドエンドルート~アーサー~
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「結構楽しかったわ。また誘ってあげるから次も来なさい」
「あの、またお手製のお菓子持ってきてくれると嬉しいです。―ソフィーが気に入ったみたいなので」
「ちょっと、アヴリル!余計なこと言うんじゃないの!」
ツンデレなソフィーと天然なところがあるアヴリルは気の置けない関係のようで、じゃれあっている二人が可愛くて、サーシャはつい忍び笑いを漏らしてしまった。
実年齢では自分のほうが歳下なのだが、前世の記憶があるためどうしても自分のほうが年上気分になってしまう。攻略対象候補にときめかないのも子供のように見てしまうからかもしれない。
(年齢だけが全てではないけど、せめて20代じゃないとしっくりこないかもしれないわ)
サーシャの嘘偽りのない本音は二人にしっかりと伝わったらしく、その後は他愛ない雑談に花が咲いた。貴族令嬢らしかぬサーシャの考え方や平民の暮らしなど二人には新鮮だったようで、質問などに答えていると、あっという間にお開きの時間となった。
ソフィーの見た目は悪役令嬢でツンデレっぽいところがとても可愛い女の子だし、アヴリルは清楚な妖精で口数は少ないが、人をよく見ていて外見以上にしっかりしている。攻略対象候補とその婚約者たちはとてもよく似合っていると思う。
そんな二人の間に割って入るようなヒロインはいらないのだ。
ソフィーとアヴリルと友好的な関係が築けたことを嬉しく思いながら、サーシャはそう確信していた。
「今日は随分とおとなしいな」
普段見せる笑顔とは違う、冷たい笑みにぞくりと肌が泡立った。怯えていることを悟られないよう沈黙を保っていると、探るような目を向けていたアーサーがテーブルの上に何かを無造作に載せた。
「………っ!それは……」
息を呑んだサーシャが思わず声を上げれば、アーサーはくすりと口の端を上げた。
「大事な形見なのだろう?これだけは残しておいてやろうと思ってな」
嫌な予感が急速に膨らんでいく。勇気を振り絞って顔を上げると嗜虐的な笑みが浮かんでいるのを見て、絶望感に視界がくらりと揺れる。
「……殿下は、何を——」
「名前で呼べと何度言えば分かるんだ?そんなに怯えているのに、本当に強情だな」
諭すように甘い声で告げながら、丁寧に何度もサーシャの髪を梳く手つきはとても優しいのにどこか不穏な気配が消えない。耐えきれずに俯くサーシャの額に口づけを落とされる。
(怖い……誰か、助けて……)
何が起きているか理解できていないのに、サーシャは目の前のアーサーが恐ろしくてたまらない。
「子爵家がどうなったか知りたくないか?」
その言葉に弾かれたように顔を上げると、アーサーは目を細めてサーシャを見下ろしている。
「……何をなさったのですか……アーサー様」
付け加えた言葉に満足したような表情を見せると、アーサーはサーシャの髪に指を滑らせながら事も無げに告げる。
「残念ながら子爵家は取り潰しとなった。帰る場所がなくなったのだから、安心してここにいるといい」
その原因が自分にあることは明らかだ。恐怖よりも怒りが強くなり、せめても抵抗としてアーサーを睨みつけるが、歪な笑みがますます深くなる。
「ああ、そんな顔もいいな。可哀そうな可愛いサーシャ、もっと色んな表情を見せてくれ。お前は俺だけのものだ」
「やっぱりお茶会の件が原因よね……」
悪夢にうなされて飛び起きたのは夜明け前だが、そのまま二度寝をする気になれずにサーシャは深いため息を吐いた。
不興を買ってしまったことで、逆に興味を持ってしまったようだ。普通に考えれば嫌われるはずなのに、好感度アップの要因がどこにあるのか分からない。よりによって婚約者のソフィーと仲良くなった後にこんな夢を見るとは思ってもいなかった。
(腹黒いところがあるとは思ってたがドSの気質まで持っているなんて……)
おまけに最高峰の権力者でもあるのだから、攻略対象の中で一番危険度が高いのはアーサーなのだろう。単純に面白そうな玩具として揶揄われるぐらいなら大した実害はないが、好感を持たれるとなると話は別だ。
関わり合いを避け、これ以上好感度を上げないように慎重に行動しなくてはならない。
(ヒロインがいなければ乙女ゲームの世界ってハッピーエンドで終わるんじゃないかしら?)
そんなことを思いつつ、ますますヒロイン脱却に向けて想いを強くするサーシャだった。
「あの、またお手製のお菓子持ってきてくれると嬉しいです。―ソフィーが気に入ったみたいなので」
「ちょっと、アヴリル!余計なこと言うんじゃないの!」
ツンデレなソフィーと天然なところがあるアヴリルは気の置けない関係のようで、じゃれあっている二人が可愛くて、サーシャはつい忍び笑いを漏らしてしまった。
実年齢では自分のほうが歳下なのだが、前世の記憶があるためどうしても自分のほうが年上気分になってしまう。攻略対象候補にときめかないのも子供のように見てしまうからかもしれない。
(年齢だけが全てではないけど、せめて20代じゃないとしっくりこないかもしれないわ)
サーシャの嘘偽りのない本音は二人にしっかりと伝わったらしく、その後は他愛ない雑談に花が咲いた。貴族令嬢らしかぬサーシャの考え方や平民の暮らしなど二人には新鮮だったようで、質問などに答えていると、あっという間にお開きの時間となった。
ソフィーの見た目は悪役令嬢でツンデレっぽいところがとても可愛い女の子だし、アヴリルは清楚な妖精で口数は少ないが、人をよく見ていて外見以上にしっかりしている。攻略対象候補とその婚約者たちはとてもよく似合っていると思う。
そんな二人の間に割って入るようなヒロインはいらないのだ。
ソフィーとアヴリルと友好的な関係が築けたことを嬉しく思いながら、サーシャはそう確信していた。
「今日は随分とおとなしいな」
普段見せる笑顔とは違う、冷たい笑みにぞくりと肌が泡立った。怯えていることを悟られないよう沈黙を保っていると、探るような目を向けていたアーサーがテーブルの上に何かを無造作に載せた。
「………っ!それは……」
息を呑んだサーシャが思わず声を上げれば、アーサーはくすりと口の端を上げた。
「大事な形見なのだろう?これだけは残しておいてやろうと思ってな」
嫌な予感が急速に膨らんでいく。勇気を振り絞って顔を上げると嗜虐的な笑みが浮かんでいるのを見て、絶望感に視界がくらりと揺れる。
「……殿下は、何を——」
「名前で呼べと何度言えば分かるんだ?そんなに怯えているのに、本当に強情だな」
諭すように甘い声で告げながら、丁寧に何度もサーシャの髪を梳く手つきはとても優しいのにどこか不穏な気配が消えない。耐えきれずに俯くサーシャの額に口づけを落とされる。
(怖い……誰か、助けて……)
何が起きているか理解できていないのに、サーシャは目の前のアーサーが恐ろしくてたまらない。
「子爵家がどうなったか知りたくないか?」
その言葉に弾かれたように顔を上げると、アーサーは目を細めてサーシャを見下ろしている。
「……何をなさったのですか……アーサー様」
付け加えた言葉に満足したような表情を見せると、アーサーはサーシャの髪に指を滑らせながら事も無げに告げる。
「残念ながら子爵家は取り潰しとなった。帰る場所がなくなったのだから、安心してここにいるといい」
その原因が自分にあることは明らかだ。恐怖よりも怒りが強くなり、せめても抵抗としてアーサーを睨みつけるが、歪な笑みがますます深くなる。
「ああ、そんな顔もいいな。可哀そうな可愛いサーシャ、もっと色んな表情を見せてくれ。お前は俺だけのものだ」
「やっぱりお茶会の件が原因よね……」
悪夢にうなされて飛び起きたのは夜明け前だが、そのまま二度寝をする気になれずにサーシャは深いため息を吐いた。
不興を買ってしまったことで、逆に興味を持ってしまったようだ。普通に考えれば嫌われるはずなのに、好感度アップの要因がどこにあるのか分からない。よりによって婚約者のソフィーと仲良くなった後にこんな夢を見るとは思ってもいなかった。
(腹黒いところがあるとは思ってたがドSの気質まで持っているなんて……)
おまけに最高峰の権力者でもあるのだから、攻略対象の中で一番危険度が高いのはアーサーなのだろう。単純に面白そうな玩具として揶揄われるぐらいなら大した実害はないが、好感を持たれるとなると話は別だ。
関わり合いを避け、これ以上好感度を上げないように慎重に行動しなくてはならない。
(ヒロインがいなければ乙女ゲームの世界ってハッピーエンドで終わるんじゃないかしら?)
そんなことを思いつつ、ますますヒロイン脱却に向けて想いを強くするサーシャだった。
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