令和百物語 ～妖怪小話～

伍拾伍 百足

　細長い体を引きずりながら、百足はうねうねと歩く。
　体を引きずった跡にはべっこりと凹みができ、百足が通ったのだと誰もがわかる。
　百本が足を地に降ろせば、アスファルトに穴があき、百足が通ったのだと誰もがわかる。
　
　数百メートルにも伸びる巨体は、突然町に現れて、全ての交通を妨げる。
　
　百足を見たら逃げろ。
　それが人間たちの共通認識。
　
　自動車を押し潰しながら、道路を進んでいく。
　そして、高層ビルの窓ごしに逃げ惑う人々を見つけると、一気に噛みつく。
　捕食する。
　一度の捕食で、数百人の人間を食べることができるので、高層ビルは百足にとって格好の餌なのだ。
　
　百足の牙が高層ビルの壁に刺さり、あいた穴から毒ガスが流れ込む。
　下の階へと逃げる人間たちは、毒ガスによって体の自由を奪われ、ばたばたと苦しそうにもがくことしかできない。
　これからの運命を知ってなお、逃げることができない。
　
　百足は、高層ビルの一部屋をそのまま引きずり出し、足の止まった人間ごと口の中へと放り込む。
　
　ガリガリガリ。
　
　ガリガリガリ。
　
　ガリガリガリ。
　
　噛み砕く。
　
　満腹になった百足は、町を去って森に向かう。
　穴を掘って、地中の中で眠るのだ。
　
　次に起きるのは、何年後か、何十年後か。
　
　できれば二度と目覚めるなと、人間は祈ることしかできない。