純白の少女と烈火の令嬢と……

はの

文字の大きさ
24 / 37

24

しおりを挟む
「ルビー様の考えが正しく、今のダイヤモンドさんの正体が世界の人間の転生した姿だとしましょう。そのうえで、ダイヤモンドさんを救うため、私は何を協力できるのでしょうか?」
 
 冷酷なサファイア・インディゴの脳は、ルビーの言葉を聞いてなお、冷静に言葉を回す。
 
「はい。協力していただきたいことは二つ。一つは、インディゴ家の持つ書物に、転生に関する情報がないか探していただきたいのです」
 
「なるほど。わかりました」
 
 書物とは、人類の知識と歴史を記録する宝物だ。
 特に、印刷技術のない時代において、書物とは富裕層のみが所有できる高価な物だ。
 つまり、知識は独占される。
 王族や公爵家が独占している知識の量は、莫大だ。
 
 ルビーが調べた限り、スカーレット家の持つ書物に転生の情報はなかった。
 しかし、インディゴ家が持つ書物に存在する可能性はある。
 ルビーは、外の知識に転生の知識を求めた。
 サファイアにとっても、納得の頼みだ。
 
「そしてもう一つは、エメラルド様の謹慎を解くために、口添えをお願いしたいのです」
 
「エメラルド様を?」
 
 しかし、二つ目は、サファイアも首を傾げるものだった。
 
「はい」
 
「何故でしょう? エメラルド様の行いは、私も噂で聞いております。ダイヤモンドさんの告発によって、謹慎状態にあることも。エヴァーグリーン家の持つ書物を閲覧したければ、エメラルド様の謹慎を解くよりも、エメラルド様の兄であるペリドット様に頼む方が早いかと思います」
 
 サファイアの言葉は正しい。
 ペリドットは、エメラルドがルビーを陥れようとした件で、ルビーに対して借りを感じている認識である。
 それゆえ、便宜を図る可能性は非常に高い。
 
 が、ルビーの狙いは、別にあった。
 
「エヴァーグリーン家の書物を閲覧したいのもありますが、目的は悪役令嬢を三人揃えることです」
 
「何故?」
 
「ごめんなさい。ほとんど勘で根拠はないんですけど、ダイヤを相手にするならば三人が必要だと、そう感じたんです。同じ世界に、三人の悪役令嬢が転生していることは、きっと何か意味があると思うの」
 
「ルビー様の考えは、わかりました」
 
 勘とは、過去に見聞きした情報と経験の蓄積から生まれる。
 たとえ、記憶の中に残っていようといまいと。
 ルビー自身の記憶にはないが、ルビーの提案は純白の少女シリーズの噂に起因する。
 烈火の令嬢、静水の令嬢、暴緑の令嬢のすべてをクリアしたプレイヤーのみがプレイできる幻のシナリオがあり、ダイヤモンドは三人の悪役令嬢と同時に敵対すると言う噂。
 噂上のシナリオでは、ダイヤモンドは三人同時を相手にすると単独で勝つことができず、仲間を募ってクリアを目指した。
 もっとも、事実として幻のシナリオが表舞台に現れることはなく、噂は噂のまま消えていった。
 当然、ルビーの頭の中からも、数ある噂の一つとして埋もれて消えた。
 
 ルビーの依頼は、埋もれて消えた噂の残骸、『ダイヤモンドは三人同時を相手にすると単独で勝つことができない』という記憶にない一文からにじみ出たもの。
 正気であれば、首を縦に振り様がない提案。
 
「もしもダイヤモンドさんと戦う場合、私も理由はないですが三人が揃っていた方がいい気がしました。エメラルド様の件もわかりました。ご協力させていただきます」
 
「ありがとうございます、サファイア様!」
 
 が、サファイアもまた、埋もれて消えた噂の残骸がこびりつく程度には、純白の少女シリーズをやりこんだ人種。
 正気のまま、首を縦に振った。
 
「インディゴ家にある書物については、この後すぐにでも人を呼んで探させます。しかし、エメラルド様の謹慎の解除については、当事者でない私だけの力ではおそらく難しいでしょう。せめて、オニキス様の力は必要になるかと」
 
「……そう、よね」
 
 ルビーは、サファイアという協力者を得た。
 壁を一つ越えた。
 が、壁の後ろには、次の壁が待っているのが世の常である。
 
 オニキスの協力を得るという、次の壁が。
 
 そもそも、エメラルドとネールの謹慎は、当事者であるダイヤモンドの訴えによるものである。
 にも関わらず、公爵家とは言え部外者の人間二人が取り消しを求めたところで、謹慎が解除される可能性は低い。
 もし謹慎を解除できる人間がいるとすれば二人だけ。
 一人は当事者であるダイヤモンド。
 もう一人が、ダイヤモンドの婚約者であり王族でもあるオニキス。
 ダイヤモンドの婚約者という立場を使えば、オニキスの声はダイヤモンドの身内としての声になり、すぐの謹慎解除にはならないだろうが、謹慎期間短縮程度の便宜を図ってもらえる可能性は高い。
 
「問題は」
 
「わかっています。オニキス様の協力を得るため、オニキス様へどうやってダイヤモンドの豹変の理由を伝えるか、ですよね」
 
 サファイアは転生者だ。
 それゆえ、ダイヤモンドの豹変と転生を結び付けて説明することは、難しくない。
 が、転生者でないオニキスに対し、ダイヤモンドの豹変と転生を結び付けて説明することは、とても難しい。
 なにより、何故ルビーが転生のことを知っているか問われた際、ルビー自身が転生者であることが白日の下にさらされる可能性があった。
 
 もしも、ルビーが転生者だと知られれば、本来のルビー・スカーレットとは別人だと知られれば、ルビーはどうなってしまうのか。
 オニキスは、何を感じるか。
 トパーズは、何を感じるか。
 最悪の想像をし、ルビーは恐怖で体をぶるりと震わせた。
 共鳴するように、サファイアも体をぶるりと震わせた。
 
 ルビーが一つ目の協力として、転生に関する書物を求めたのは、オニキスへ説明する際の理由付けのためでもあった。
 
「と、とにかく、まずは先生に言ってみましょう」
 
「そうですね。駄目もとではありますが、公爵家の人間の声として考慮される可能性はありますものね。先生たちの反応も、見えるでしょうし」
 
 悩んだ末、ルビーとサファイアは結論を後回しにした。
 まずは、できることから。
 
 ルビーとサファイアが部屋を出ると、すぐに二人の使用人が近寄ってくる。
 サファイアはすぐ、自身の使用人に転生に関する書物を探すよう指示をする。
 そして、ルビーとサファイアは、その足で職員室へと向かう。
 ルビーの使用人であるルベライトも、その後ろをついて歩く。
 
 とうに日も沈み、教師たちはとっくに帰宅した可能性は高い。
 ルビーとサファイアの行動は、無駄に終わる可能性が高い。
 それでも体が動いたのは、何かをしていないと先の恐怖が体に纏わりついてくるからだ。
 
 そして、この無駄に終わる可能性が高い行動は、正解だった。
 
「あら?」
 
 パチリ。
 パチリ。
 
 三人の足音しか響かない魔法学院の廊下に、何かが燃える音がしていた。
 
 消灯を終えて真っ暗なはずの廊下も、窓の外から入ってくる赤い光で照らされて、夕陽さながらの色味を帯びている。
 
「なにかしら?」
 
「わかりません」
 
 ルビーとサファイアの二人は窓へと近づき、その正体を覗き込む。
 
「……っ!?」
 
 視線の先には、炎が暴れ回る焼却炉と、炎の光に照らされて不気味な笑みを浮かべるダイヤモンドがいた。
 
 パチリ。
 パチリ。
 
「いった、何を燃やして……ルビー様!?」
 
 瞬間、ルビーは走った。
 外へ。
 ダイヤモンドの元へ。
 
 
 
 
 
 
「ダイヤ!!」
 
「……これはルビー様。どうなさいましたか?」
 
「貴女、何を燃やして……うっ!?」
 
 近づけば近づくほど、ルビーの鼻には悪臭がこびりついていく。
 ルビーが今まで嗅いだことないような、しかし細胞レベルで拒絶をするような強烈な臭い。
 ルビーは鼻をつまみながら、慎重にダイヤモンドへと近づいていく。
 後から追いついたサファイアとルベライトも、ルビー同様、悪臭に顔をしかめてその場に立ち尽くす。
 
「これは一体何事だ?」
 
 また、燃える炎に不可解を感じて焼却炉へとやってきたのは、ルビーたちだけではなかった。
 オニキスがサファイアの背後から走って近づき、焼却炉の前に立っているダイヤモンドを確認するとさらに速度を上げた。
 立ち尽くすサファイアを抜き、慎重に近づいていくルビーの横に並んだ。
 
 ルビーとオニキスの立った場所は、丁度ダイヤモンドの表情と、焼却炉の中身がよく見える場所だった。
 
「……人?」
 
 焼却炉の中で、炎に包まれる焼死体が笑っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

私が……王太子……のはずだったのに??

#Daki-Makura
ファンタジー
最愛と朝を迎えたら……城下が騒がしい……?? 一体……何が起きているのか……??

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...