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70. ヒュドラに襲われる王女と女騎士
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(カリーナ姫視点)
まったくこの国には常識という物がないのだろうか...。貴族が居らず、王子が農民の娘と結婚すると言っても誰も気にしない。魔族と人間が仲良く暮らしているだけでなく結婚までする。女王はドラゴンを使い魔としている、おまけに欠損した手足を復元出来る程の回復魔法を使うという。そう言えば女王様は空を飛べるという噂も聞いた。まあ、これは単なる噂だろう。そこまで出来たら人間じゃない。
そんなことを考えながら今日も馬車の旅は続く。開拓村(と言う名の町)を出発し、私達はアルトン山脈に沿った街道を北上する。今日はエルフの村に泊るらしい。これまでも沢山の魔族を見掛けたが、それでも通って来たのは人間の町や村だ。ある意味、初めて真の意味で魔族が支配する領域に入るといっても良い。
チナの話では、エルフは魔族の中で一番人口が多く、植物魔法を得意とし、それを生かして農業をしている人が多いらしい。今日宿泊する村は街道沿いなので旅人の為の宿屋があるが、基本的には宿場町ではなく農業を主体とする村とのことだ。エルフは全員が銀髪に灰色の目をしており、身長は人間と変わらない。スリムな体形で耳の先が尖っているのが特徴だ。
昼食は開拓村から持って来た弁当ですませ、暗くなる前に今日宿泊する村に着いた。宿屋の建物は今までと変わらないのだが、驚いたのはエルフの家だ。なんと生きた植物で出来ているらしい。どのようになっているのかは分からないが、蔦やアケビなどのつる性の植物が複雑に絡み合い家を作り上げている。これも植物魔法で作っているのだとか。
宿の前まで馬車で乗り付けると、いつもの様にドスモさんがやって来て、
「失礼します。」
と言ってバートを優しく抱きかかえて宿に運んでくれる。バートは恥ずかしそうにしているが嫌ではなさそうだ。
その日の夕食はもちろんエルフ料理だ。エルフ料理には色々な香辛料が使われておりピリ辛の味付けが特徴らしい。
「苦手な人も多いのですが、どうでしょうか? 逆に病みつきになるくらい好きになる人もいます。」
とチナが解説してくれる。恐る恐る口にいれると、確かに辛いが、単なる辛味ではなく奥行きがあり複雑な味だ。香りも食欲をそそる。私は気に入ったが、バートには会わなかった様だ。一口食べては水を飲んでいる。気を利かせたチナがバート用に別の料理を注文してくれる。おそらく辛くない料理なのだろう。バートは大きな体をしているのに辛い物が苦手なのか、何か可笑しい。
その夜、バートと同じ部屋で寝ていると、夜中に扉がドン、ドン、ドンと激しく叩かれた。同時にチナの声が聞こえて来る。
「バートさん、カリーナさん起きて下さい。ヒュドラの群が村に迫っています。宿泊客は直ちに避難するようにと村長から指示がありました。」
私が部屋の扉を開けると、チナとドスモさんが緊張した表情で立っていた。
「急いで準備してください。直ちに出発します。」
準備と言っても大して持ち物もない。寝間着から外出用の服に着かえるだけだ。手足を無くしたバートが着替えるのは大変だが、私とチナが手伝った。
宿から出ると、エルフの誰かが私達に何か叫び、チナが短く返事を返す。そのまま馬車に乗り込んだ私達は、街道に沿って来たに向かって走り出した。
「ヒュドラの群れはアルトン山脈の方向から村の方角に向かっているとのことです。村の人達で村に入れない様に足止めしているそうですが、いつまでもつか分からないと言っていました。」
山の方向を見ると、暗闇の中に幾つかのファイヤーボールが飛ぶのが見えた。あそこで戦っているらしい。
「私達も戦わなくて良いの?」
とチナに尋ねる。それに答えたのは馬車の外を走るドスモだった。
「ヒュドラに接近戦用の武器で立ち向かうのは危険だ。ヒュドラの血を浴びたらこちらがやられるからな。エルフなら植物魔法による足止めと、魔力変換の杖を使ってファイヤーボールでの遠距離攻撃ができる。今は任せるしかない。」
確かにその通りだろう、ヒュドラに剣で立ち向かったバートは手足を失った。
「でも、私はファイヤーボールを使えるわよ。」
「それでもだ、言葉が通じない嬢ちゃんがひとり加わっても混乱するだけだ。」
とドスモさんに返される。悔しいがその通りかもしれない。
村を出て私達は街道沿いに北に向かう。だが、村を出ると辺りは真っ暗だ。ランプの明かりではのろのろとしか進めない。私は、
「任せて。」
と言って光の球を打ち上げた。辺りが真昼の様に明るくなる。
「光魔法の光球よ、30分くらいはもつわ。」
と説明する。これならスピードが出せる。光球は30分くらいしか持たないが、消えれば次の光球を打ち上げればよい。私達は全速力で村から離れて北に向かう。だが、2時間くらい進み続けると流石に馬がへばってきた。少し休ませないと倒れるかもしれない。
その時100メートルくらい後方に、横の林からヒュドラの一群が躍り出た。
「しまった! 村を襲った他にも群がいたんだ。光球を目印にされた。」
とドスモが呟く。速く進める様にと打ち上げた光球だが、ヒュドラからも獲物がどこにいるか分かりやすかったと言う事か...。チナがしきりに馬に鞭を当てるが、へばっている馬はスピードを上げることが出来ない。
ヒュドラの群が距離を縮めて来る。これは不味いと考えた時ドスモが叫んだ。
「馬車を捨てよう。お嬢さん達は俺達が担いで走る。その方が速い。」
(バート視点)
「馬車を捨てよう。お嬢さん達は俺達が担いで走る。その方が速い。」
そう言いながら、走る馬車の扉を開け、ドスモが私に手を差し伸べる。他のふたりのオーガもひとりはカリーナ姫に、もう一人が御者台のチナに手を伸ばした。その後私達はオーガに一人ずつ抱かかえられてヒュドラから逃げる。私達を抱いているにも関わらずオーガは速い、少しずつヒュドラを引き離して行く。少しすると後を追いかけていたヒュドラが見えなくなった。それでもドスモ達は止まらない。すごいスタミナだと感心したが、しばらくして急停止する。前方にもヒュドラの群がいたのだ。
「くそ! 一体どれだけ居るんだ。こんなことありえんぞ。」
そう言いながらドスモは左の脇道に入る。他のオーガの護衛も後に続く。
「お嬢さん、光球を消せるか?」
少し脇道に入ったところで、ドスモがカリーナ姫に尋ねる。ヒュドラの数がここまで多いと光球で道を照らすのは返って不利だと判断した様だ。カリーナ姫が即座に光球を消去する。途端に辺りは真っ暗になって一寸先も見えない。ここでヒュドラをやり過ごそうという事だろう。私達はオーガの護衛に抱かかえられたまま時間の過ぎるのを待つ。だがしばらくしてカリーナ姫が警告を発した。
「ダメ、ヒュドラが脇道に入って来た。きっと匂いを辿っているのよ。」
それを聞いたドスモは即断した。
「お嬢さん、もう一度光球を頼む。皆、走るぞ!」
ドスモがそう叫び、カリーナ姫が再び打ち上げた光球の光を頼りに全速で走り出す。後ろを見るとカリーナ姫のいったとおりヒュドラの一群が追いかけて来る。探査魔法とかいう魔法で分かったのだろうか、10匹くらいの群れだ。
ドスモ達は全速で走ってくれるが、その内に道が細くなり遂に無くなった。目の前には深い谷が横たわっている。谷の底からはゴウゴウと勢いよく水が流れる音がする。これ以上先に進めない、万事休すだ。後ろを振り返るとヒュドラが近づいて来るのが見える。ドスモは、
「必ずお守りします。」
と言ってから私を地面に下ろした。他のオーガもドスモに従う。ここでヒュドラと戦うと決めたと分かった。ドスモが何か命令するとオーガ達が拳大の石を集め始める。投石に使うのだろう。
「お嬢さん、ファイヤーボールは撃てるか?」
とドスモがカリーナ姫に尋ねる。カリーナ姫が「もちろん」と答えると、
「小さいのに大したものだ。それなら助太刀を頼む、頼りにしてるぜ。」
と言った。投石にファイヤーボール、遠距離攻撃の手段だ。チナも投石に使う石を集め始めた。私だけが何も出来ない。
ヒュドラが30メートルくらいの距離に迫った時、ドスモの合図で攻撃が開始された。オーガの投石の威力はすごいもので、当たればヒュドラの頭部を粉砕する。カリーナ姫のファイヤーボールも同様だ。だが頭部以外に当たった場合は大したダメージにならない様だ。その上頭部はくねくねと動き周り命中させるのが難しい。ヒュドラは徐々に距離を縮めて来る。投石用に用意した石も残り少なくなった。カリーナ姫も必死にファイヤーボールを飛ばしているが、ファイヤーボールは連発出来ない。どうしても5秒くらいの間隔が必要らしい。
遂に投石用の石が尽きた。ドスモが地面に置いていた槍を手にする。ヒュドラの血を浴びるのを覚悟で接近戦をするつもりなのだろう。生き残っているヒュドラは3匹、ドスモ達オーガの護衛も3人、1対1で向かい合う。だがその時、背後の谷から大量の水が吹き上がり、ヒュドラの上空に3つの巨大な水球を形作る。水球はそのまま落下しヒュドラを包み込んだ。
「今よ! 長くはもたない。」
とカリーナ姫が叫ぶ。姫の水魔法だ。この状態ならヒュドラを傷つけても血が飛び散らない。おまけに頭も水に覆われているから酸も吐けないだろう。ドスモがオオオォォォォーーと叫びながら槍を突き出す。狙うはヒュドラの胴体、心臓だ。他のオーガもドスモに倣う。次の瞬間、3匹のヒュドラはドッという音と共に崩れ落ちた。
静寂が辺りを満たす。ドスモが振り返って、
「やりましたよ。」
と言ってにっこり笑う。最高に格好よく見えた。
「たすかったぜ、じょうちゃん。さいこうだ!」
とオーガのひとりが片言の人間の言葉でカリーナ姫に礼を言う。
「どう、見直した?」
とカリーナ姫は胸を張るが、次の瞬間オーガと目を合わせて笑い出した。笑いは伝染し、静寂が私達の笑い声にとって代わる。
この後、私達はこれ以上ヒュドラをおびき寄せない様に光球を消して暗闇の中で朝までじっとしていた。明るくなってから周りを警戒しながら元の街道に戻る。もちろん私はドスモさんに抱えられてだ。
まったくこの国には常識という物がないのだろうか...。貴族が居らず、王子が農民の娘と結婚すると言っても誰も気にしない。魔族と人間が仲良く暮らしているだけでなく結婚までする。女王はドラゴンを使い魔としている、おまけに欠損した手足を復元出来る程の回復魔法を使うという。そう言えば女王様は空を飛べるという噂も聞いた。まあ、これは単なる噂だろう。そこまで出来たら人間じゃない。
そんなことを考えながら今日も馬車の旅は続く。開拓村(と言う名の町)を出発し、私達はアルトン山脈に沿った街道を北上する。今日はエルフの村に泊るらしい。これまでも沢山の魔族を見掛けたが、それでも通って来たのは人間の町や村だ。ある意味、初めて真の意味で魔族が支配する領域に入るといっても良い。
チナの話では、エルフは魔族の中で一番人口が多く、植物魔法を得意とし、それを生かして農業をしている人が多いらしい。今日宿泊する村は街道沿いなので旅人の為の宿屋があるが、基本的には宿場町ではなく農業を主体とする村とのことだ。エルフは全員が銀髪に灰色の目をしており、身長は人間と変わらない。スリムな体形で耳の先が尖っているのが特徴だ。
昼食は開拓村から持って来た弁当ですませ、暗くなる前に今日宿泊する村に着いた。宿屋の建物は今までと変わらないのだが、驚いたのはエルフの家だ。なんと生きた植物で出来ているらしい。どのようになっているのかは分からないが、蔦やアケビなどのつる性の植物が複雑に絡み合い家を作り上げている。これも植物魔法で作っているのだとか。
宿の前まで馬車で乗り付けると、いつもの様にドスモさんがやって来て、
「失礼します。」
と言ってバートを優しく抱きかかえて宿に運んでくれる。バートは恥ずかしそうにしているが嫌ではなさそうだ。
その日の夕食はもちろんエルフ料理だ。エルフ料理には色々な香辛料が使われておりピリ辛の味付けが特徴らしい。
「苦手な人も多いのですが、どうでしょうか? 逆に病みつきになるくらい好きになる人もいます。」
とチナが解説してくれる。恐る恐る口にいれると、確かに辛いが、単なる辛味ではなく奥行きがあり複雑な味だ。香りも食欲をそそる。私は気に入ったが、バートには会わなかった様だ。一口食べては水を飲んでいる。気を利かせたチナがバート用に別の料理を注文してくれる。おそらく辛くない料理なのだろう。バートは大きな体をしているのに辛い物が苦手なのか、何か可笑しい。
その夜、バートと同じ部屋で寝ていると、夜中に扉がドン、ドン、ドンと激しく叩かれた。同時にチナの声が聞こえて来る。
「バートさん、カリーナさん起きて下さい。ヒュドラの群が村に迫っています。宿泊客は直ちに避難するようにと村長から指示がありました。」
私が部屋の扉を開けると、チナとドスモさんが緊張した表情で立っていた。
「急いで準備してください。直ちに出発します。」
準備と言っても大して持ち物もない。寝間着から外出用の服に着かえるだけだ。手足を無くしたバートが着替えるのは大変だが、私とチナが手伝った。
宿から出ると、エルフの誰かが私達に何か叫び、チナが短く返事を返す。そのまま馬車に乗り込んだ私達は、街道に沿って来たに向かって走り出した。
「ヒュドラの群れはアルトン山脈の方向から村の方角に向かっているとのことです。村の人達で村に入れない様に足止めしているそうですが、いつまでもつか分からないと言っていました。」
山の方向を見ると、暗闇の中に幾つかのファイヤーボールが飛ぶのが見えた。あそこで戦っているらしい。
「私達も戦わなくて良いの?」
とチナに尋ねる。それに答えたのは馬車の外を走るドスモだった。
「ヒュドラに接近戦用の武器で立ち向かうのは危険だ。ヒュドラの血を浴びたらこちらがやられるからな。エルフなら植物魔法による足止めと、魔力変換の杖を使ってファイヤーボールでの遠距離攻撃ができる。今は任せるしかない。」
確かにその通りだろう、ヒュドラに剣で立ち向かったバートは手足を失った。
「でも、私はファイヤーボールを使えるわよ。」
「それでもだ、言葉が通じない嬢ちゃんがひとり加わっても混乱するだけだ。」
とドスモさんに返される。悔しいがその通りかもしれない。
村を出て私達は街道沿いに北に向かう。だが、村を出ると辺りは真っ暗だ。ランプの明かりではのろのろとしか進めない。私は、
「任せて。」
と言って光の球を打ち上げた。辺りが真昼の様に明るくなる。
「光魔法の光球よ、30分くらいはもつわ。」
と説明する。これならスピードが出せる。光球は30分くらいしか持たないが、消えれば次の光球を打ち上げればよい。私達は全速力で村から離れて北に向かう。だが、2時間くらい進み続けると流石に馬がへばってきた。少し休ませないと倒れるかもしれない。
その時100メートルくらい後方に、横の林からヒュドラの一群が躍り出た。
「しまった! 村を襲った他にも群がいたんだ。光球を目印にされた。」
とドスモが呟く。速く進める様にと打ち上げた光球だが、ヒュドラからも獲物がどこにいるか分かりやすかったと言う事か...。チナがしきりに馬に鞭を当てるが、へばっている馬はスピードを上げることが出来ない。
ヒュドラの群が距離を縮めて来る。これは不味いと考えた時ドスモが叫んだ。
「馬車を捨てよう。お嬢さん達は俺達が担いで走る。その方が速い。」
(バート視点)
「馬車を捨てよう。お嬢さん達は俺達が担いで走る。その方が速い。」
そう言いながら、走る馬車の扉を開け、ドスモが私に手を差し伸べる。他のふたりのオーガもひとりはカリーナ姫に、もう一人が御者台のチナに手を伸ばした。その後私達はオーガに一人ずつ抱かかえられてヒュドラから逃げる。私達を抱いているにも関わらずオーガは速い、少しずつヒュドラを引き離して行く。少しすると後を追いかけていたヒュドラが見えなくなった。それでもドスモ達は止まらない。すごいスタミナだと感心したが、しばらくして急停止する。前方にもヒュドラの群がいたのだ。
「くそ! 一体どれだけ居るんだ。こんなことありえんぞ。」
そう言いながらドスモは左の脇道に入る。他のオーガの護衛も後に続く。
「お嬢さん、光球を消せるか?」
少し脇道に入ったところで、ドスモがカリーナ姫に尋ねる。ヒュドラの数がここまで多いと光球で道を照らすのは返って不利だと判断した様だ。カリーナ姫が即座に光球を消去する。途端に辺りは真っ暗になって一寸先も見えない。ここでヒュドラをやり過ごそうという事だろう。私達はオーガの護衛に抱かかえられたまま時間の過ぎるのを待つ。だがしばらくしてカリーナ姫が警告を発した。
「ダメ、ヒュドラが脇道に入って来た。きっと匂いを辿っているのよ。」
それを聞いたドスモは即断した。
「お嬢さん、もう一度光球を頼む。皆、走るぞ!」
ドスモがそう叫び、カリーナ姫が再び打ち上げた光球の光を頼りに全速で走り出す。後ろを見るとカリーナ姫のいったとおりヒュドラの一群が追いかけて来る。探査魔法とかいう魔法で分かったのだろうか、10匹くらいの群れだ。
ドスモ達は全速で走ってくれるが、その内に道が細くなり遂に無くなった。目の前には深い谷が横たわっている。谷の底からはゴウゴウと勢いよく水が流れる音がする。これ以上先に進めない、万事休すだ。後ろを振り返るとヒュドラが近づいて来るのが見える。ドスモは、
「必ずお守りします。」
と言ってから私を地面に下ろした。他のオーガもドスモに従う。ここでヒュドラと戦うと決めたと分かった。ドスモが何か命令するとオーガ達が拳大の石を集め始める。投石に使うのだろう。
「お嬢さん、ファイヤーボールは撃てるか?」
とドスモがカリーナ姫に尋ねる。カリーナ姫が「もちろん」と答えると、
「小さいのに大したものだ。それなら助太刀を頼む、頼りにしてるぜ。」
と言った。投石にファイヤーボール、遠距離攻撃の手段だ。チナも投石に使う石を集め始めた。私だけが何も出来ない。
ヒュドラが30メートルくらいの距離に迫った時、ドスモの合図で攻撃が開始された。オーガの投石の威力はすごいもので、当たればヒュドラの頭部を粉砕する。カリーナ姫のファイヤーボールも同様だ。だが頭部以外に当たった場合は大したダメージにならない様だ。その上頭部はくねくねと動き周り命中させるのが難しい。ヒュドラは徐々に距離を縮めて来る。投石用に用意した石も残り少なくなった。カリーナ姫も必死にファイヤーボールを飛ばしているが、ファイヤーボールは連発出来ない。どうしても5秒くらいの間隔が必要らしい。
遂に投石用の石が尽きた。ドスモが地面に置いていた槍を手にする。ヒュドラの血を浴びるのを覚悟で接近戦をするつもりなのだろう。生き残っているヒュドラは3匹、ドスモ達オーガの護衛も3人、1対1で向かい合う。だがその時、背後の谷から大量の水が吹き上がり、ヒュドラの上空に3つの巨大な水球を形作る。水球はそのまま落下しヒュドラを包み込んだ。
「今よ! 長くはもたない。」
とカリーナ姫が叫ぶ。姫の水魔法だ。この状態ならヒュドラを傷つけても血が飛び散らない。おまけに頭も水に覆われているから酸も吐けないだろう。ドスモがオオオォォォォーーと叫びながら槍を突き出す。狙うはヒュドラの胴体、心臓だ。他のオーガもドスモに倣う。次の瞬間、3匹のヒュドラはドッという音と共に崩れ落ちた。
静寂が辺りを満たす。ドスモが振り返って、
「やりましたよ。」
と言ってにっこり笑う。最高に格好よく見えた。
「たすかったぜ、じょうちゃん。さいこうだ!」
とオーガのひとりが片言の人間の言葉でカリーナ姫に礼を言う。
「どう、見直した?」
とカリーナ姫は胸を張るが、次の瞬間オーガと目を合わせて笑い出した。笑いは伝染し、静寂が私達の笑い声にとって代わる。
この後、私達はこれ以上ヒュドラをおびき寄せない様に光球を消して暗闇の中で朝までじっとしていた。明るくなってから周りを警戒しながら元の街道に戻る。もちろん私はドスモさんに抱えられてだ。
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