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25. マリアさん
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「大丈夫か? 今すぐ縄を切ってやるからな。」
マークが祭壇で縛られている黒髪の女性に声を掛ける。
そうだ、アーシャ様でなくても生贄にされそうになっていた女性を助けないという選択肢はない。僕は改めてそちらに目を向けた。女性は祭壇の上に仰向けに寝かされ、手足をそれぞれ杭に縛り付けられている。歳は僕達より少し上だろうか。アーシャ様と同じ黒髪に黒目だが、整った顔つきは彫が深く、アーシャ様と違ってかわいいと言うより美人と言った方が良い。さっきの大男は奴隷と言っていたが、着ている服は上質のもので奴隷というイメージではない。神の生贄に捧げるのだから襤褸を着せておくわけにいかなかったのかもしれないが。
「勇者様、助けて頂きありがとうございます。勇者様が来て下さらなければ、今夜月の出と共に生贄として首を切り落とされるところでございました。」
手足を杭に固定していた縄を切ってもらった女性は、マークに向かって拝む様な姿勢でこう口にした。
「勇者って.....?」
「ご自覚が無いのですか!? 貴方様は伝説の勇者様に間違いありません。勇者様は国の危機に竜に乗って現れ苦難に喘ぐ国民を救って下さる救世主です。金色の光と共に現れると伝えられています。御髪の色、後ろに従えておられる竜、何よりあれだけの軍隊をたったひとりで退けられるなど勇者様以外考えられません。」
「俺達は聖なる山の神の命であるお方をお探しているだけだ。悪いが君の言う勇者ではない。」
「俺達でございますか?」
そう言った女性の視線が初めて僕を捕らえるが、すぐにマークに戻った。気にするほどの者ではないと判断した様だ。
「申し遅れました、私は今は無きモンコール王国の第3王女マリアンローズと申します。只今より勇者様の忠実な僕でございます。どうかマリアとお呼び下さい。」
マリアさんがマークを見つめながらうっとりとしたように言う。これは鈍いと自覚している僕でも分かる。マークに一目惚れした様だ。マリアさんは僕達より年上の様だけど、マークは背が高い分実年齢より年上に見える。あんな状況から助けられたら、マリアさんでなくても恋心を抱いても不思議ではない。
「俺はマークだ。マリアさん、さっきも言った様に俺は勇者ではないよ。だけど君を安全な所まで送って行くくらいはさせてもらう。いいよな? シロム。」
「も、もちろん」
いきなりこちらに振られたので慌てて答える。当然こんな場所にひとりで残すわけにはいかない。
「そんな.....。マーク様はご自覚が無いだけでございます。是非私達の村にお越し下さい。姉も礼を述べたいと言うと思います。」
「その村にはマリアさんの姉さんが居られるんだな。それではそこまで送って行こう。村の場所は分かるかい?」
「残念ながら....。ですが方向だけは分かります。」
「話は変わるが、俺達は俺達と同じくらいの歳の少女を探しているんだ。昨夜から行方不明なんだ。ここに来た可能性があるのだけど何か知らないか。」
「そうでございますか。私は数日前からこの祭壇の傍で縛られておりましたが、そのような少女は見ておりません。」
「そうか....ありがとう。」
またしても手掛かりなしだ。そうなると次にどこに行けば良いのか分からない....。
<< シロム。出発するなら急いだ方が良いぞ、ここで夜を明かすわけにはゆかん。夜になったらさっきの奴らが闇にまぎれて襲って来るかもしれんからな。>>
「マーク、日が暮れる前に出発しよう。」
「そうだな。マリアさん。これからこのドラゴン、いや、竜に乗って村まで送る。空を飛ぶのは初めてだろうけど、しっかり捕まっていれば大丈夫だ。」
マークはそう言って、マリアさんの手を取ってドラゴニウスさんの翼を登って行く。僕も後に続いた。ドラゴニウスさんの背中には、マークが先頭にその後にマリアさん、僕の順で座る。
「マ、マリアさん、僕はシロムと言います。村の方向を教えてもらえますか?」
僕がそう口にすると、マリアさんが鋭い目でこちらを振り返った。
「マリアは親しい方だけが呼ぶ名です。貴方はマリアンローズと呼んでください。」
「し、失礼しました......マリアンローズさん。」
「それなら俺もマリアンローズと呼ばせてもらうよ。さっき会ったばかりで親しいわけでは無いからね。」
途端にマークが非難を込めた口調で言う。それを聞いたマリアさんは意外なほど慌てた表情になる。
「そんな、マーク様は特別でございます。」
「そんなことは無いさ。俺とシロムは同じだよ。マリアンローズさん。」
「........分かりました。シロムさん、どうかマリアとお呼び下さい。」
僕に向かってそう言うが目が怖い.....。
「ありがとうございます。それで村の方向は分かりますか?」
マリアさんがひとつの方向を指さす。それを僕がドラゴニウスさんに伝えると翼を羽ばたかせて離陸する。経験上離陸時には大きく揺れると分かったので、僕は必死にドラゴニウスさんの背中にしがみついた。マリアさんは
「キャーッ」
と悲鳴を上げてマークにしがみ付く。勝手にやってくれという気分になった。
日暮れが迫った空をドラゴニウスさんが駆ける。マリアさんは空を飛ぶという初めての経験に興奮している様だ。相変わらずマークにしがみつきながら、
「すごい、なんて速いのでしょう。もう森林地帯を抜けましたわ。馬車で丸1日かかったと言うのに。」
などと口にして盛んに感動している様だ。
「マリアさんはどうしてあんなところにいたのかな? 奴隷と言われていたけど。」
しばらくしてマークが質問を投げかける。
「マーク様、どうかマリアと呼び捨てにしてください。」
今度はマークに呼び捨てにするように言い始めた、どうやら僕とマークで差を付けたい様だ。
「その内にね。ところで質問には答えてもらえるのかな? 言い難いのなら構わないけど。」
「もちろんですわ。先ほどお話しました様に。私はモンコール王国の第3王女です。もっとも国は5年ほど前にガニマール帝国に滅ぼされました。王族で生き残ったのは私と姉のふたりだけ。私達はかつての乳母の実家を頼り隠れ住んでおりました。ですが最近になって元モンコール王国の家臣たちがガニマール帝国に対して独立戦争を企てていると聞き、姉の反対を押し切って反乱軍に加わったのです。
先月反乱軍はガニマール帝国軍と国の独立を賭けて戦いましたが、武運拙く破れてしまい私はガニマール軍の捕虜となりました。奴らは私を王族と知りながら戦争奴隷とし、その上異教の神への生贄としようとしたのです。おそらく高貴な血筋の私なら良い生贄になると考えたのでしょう。」
なるほどそう言う事か....。それで伝説の勇者であるマークが自分達の国の再興を成し遂げてくれることを期待しているわけだ。
*****************
「あれです! あの村に姉がいます。」
それからしばらくしてマリアさんが叫んだ。もう日暮れだが何とか日が残っているうち到着できた。以外に近く感じるが、それはドラゴニウスさんに運んでもらったからだろう。馬車でなら何日もかかる距離だと思う。
<< ドラゴニウスさん、アーシャ様の様に身体を透明化することはできますか? >>
<< ああ、出来るぞ。長い間は無理だがな。>>
<< それでは少し村から離れたところで降ろして下さい。そこから歩いて行きます。ドラゴニウスさんの姿を見られたら大騒ぎになりますから。>>
ドラゴニウスさんにお願いして、身体を透明化してもらってから地表に降り立つ。手探りでドラゴニウスさんから降りるのは恐怖だったが何とかやり遂げた。僕がやっとのことで地表に居りて座り込んでいると、マークとマリアさんが平気な顔で降りて来る。なんか悔しい。
マークが祭壇で縛られている黒髪の女性に声を掛ける。
そうだ、アーシャ様でなくても生贄にされそうになっていた女性を助けないという選択肢はない。僕は改めてそちらに目を向けた。女性は祭壇の上に仰向けに寝かされ、手足をそれぞれ杭に縛り付けられている。歳は僕達より少し上だろうか。アーシャ様と同じ黒髪に黒目だが、整った顔つきは彫が深く、アーシャ様と違ってかわいいと言うより美人と言った方が良い。さっきの大男は奴隷と言っていたが、着ている服は上質のもので奴隷というイメージではない。神の生贄に捧げるのだから襤褸を着せておくわけにいかなかったのかもしれないが。
「勇者様、助けて頂きありがとうございます。勇者様が来て下さらなければ、今夜月の出と共に生贄として首を切り落とされるところでございました。」
手足を杭に固定していた縄を切ってもらった女性は、マークに向かって拝む様な姿勢でこう口にした。
「勇者って.....?」
「ご自覚が無いのですか!? 貴方様は伝説の勇者様に間違いありません。勇者様は国の危機に竜に乗って現れ苦難に喘ぐ国民を救って下さる救世主です。金色の光と共に現れると伝えられています。御髪の色、後ろに従えておられる竜、何よりあれだけの軍隊をたったひとりで退けられるなど勇者様以外考えられません。」
「俺達は聖なる山の神の命であるお方をお探しているだけだ。悪いが君の言う勇者ではない。」
「俺達でございますか?」
そう言った女性の視線が初めて僕を捕らえるが、すぐにマークに戻った。気にするほどの者ではないと判断した様だ。
「申し遅れました、私は今は無きモンコール王国の第3王女マリアンローズと申します。只今より勇者様の忠実な僕でございます。どうかマリアとお呼び下さい。」
マリアさんがマークを見つめながらうっとりとしたように言う。これは鈍いと自覚している僕でも分かる。マークに一目惚れした様だ。マリアさんは僕達より年上の様だけど、マークは背が高い分実年齢より年上に見える。あんな状況から助けられたら、マリアさんでなくても恋心を抱いても不思議ではない。
「俺はマークだ。マリアさん、さっきも言った様に俺は勇者ではないよ。だけど君を安全な所まで送って行くくらいはさせてもらう。いいよな? シロム。」
「も、もちろん」
いきなりこちらに振られたので慌てて答える。当然こんな場所にひとりで残すわけにはいかない。
「そんな.....。マーク様はご自覚が無いだけでございます。是非私達の村にお越し下さい。姉も礼を述べたいと言うと思います。」
「その村にはマリアさんの姉さんが居られるんだな。それではそこまで送って行こう。村の場所は分かるかい?」
「残念ながら....。ですが方向だけは分かります。」
「話は変わるが、俺達は俺達と同じくらいの歳の少女を探しているんだ。昨夜から行方不明なんだ。ここに来た可能性があるのだけど何か知らないか。」
「そうでございますか。私は数日前からこの祭壇の傍で縛られておりましたが、そのような少女は見ておりません。」
「そうか....ありがとう。」
またしても手掛かりなしだ。そうなると次にどこに行けば良いのか分からない....。
<< シロム。出発するなら急いだ方が良いぞ、ここで夜を明かすわけにはゆかん。夜になったらさっきの奴らが闇にまぎれて襲って来るかもしれんからな。>>
「マーク、日が暮れる前に出発しよう。」
「そうだな。マリアさん。これからこのドラゴン、いや、竜に乗って村まで送る。空を飛ぶのは初めてだろうけど、しっかり捕まっていれば大丈夫だ。」
マークはそう言って、マリアさんの手を取ってドラゴニウスさんの翼を登って行く。僕も後に続いた。ドラゴニウスさんの背中には、マークが先頭にその後にマリアさん、僕の順で座る。
「マ、マリアさん、僕はシロムと言います。村の方向を教えてもらえますか?」
僕がそう口にすると、マリアさんが鋭い目でこちらを振り返った。
「マリアは親しい方だけが呼ぶ名です。貴方はマリアンローズと呼んでください。」
「し、失礼しました......マリアンローズさん。」
「それなら俺もマリアンローズと呼ばせてもらうよ。さっき会ったばかりで親しいわけでは無いからね。」
途端にマークが非難を込めた口調で言う。それを聞いたマリアさんは意外なほど慌てた表情になる。
「そんな、マーク様は特別でございます。」
「そんなことは無いさ。俺とシロムは同じだよ。マリアンローズさん。」
「........分かりました。シロムさん、どうかマリアとお呼び下さい。」
僕に向かってそう言うが目が怖い.....。
「ありがとうございます。それで村の方向は分かりますか?」
マリアさんがひとつの方向を指さす。それを僕がドラゴニウスさんに伝えると翼を羽ばたかせて離陸する。経験上離陸時には大きく揺れると分かったので、僕は必死にドラゴニウスさんの背中にしがみついた。マリアさんは
「キャーッ」
と悲鳴を上げてマークにしがみ付く。勝手にやってくれという気分になった。
日暮れが迫った空をドラゴニウスさんが駆ける。マリアさんは空を飛ぶという初めての経験に興奮している様だ。相変わらずマークにしがみつきながら、
「すごい、なんて速いのでしょう。もう森林地帯を抜けましたわ。馬車で丸1日かかったと言うのに。」
などと口にして盛んに感動している様だ。
「マリアさんはどうしてあんなところにいたのかな? 奴隷と言われていたけど。」
しばらくしてマークが質問を投げかける。
「マーク様、どうかマリアと呼び捨てにしてください。」
今度はマークに呼び捨てにするように言い始めた、どうやら僕とマークで差を付けたい様だ。
「その内にね。ところで質問には答えてもらえるのかな? 言い難いのなら構わないけど。」
「もちろんですわ。先ほどお話しました様に。私はモンコール王国の第3王女です。もっとも国は5年ほど前にガニマール帝国に滅ぼされました。王族で生き残ったのは私と姉のふたりだけ。私達はかつての乳母の実家を頼り隠れ住んでおりました。ですが最近になって元モンコール王国の家臣たちがガニマール帝国に対して独立戦争を企てていると聞き、姉の反対を押し切って反乱軍に加わったのです。
先月反乱軍はガニマール帝国軍と国の独立を賭けて戦いましたが、武運拙く破れてしまい私はガニマール軍の捕虜となりました。奴らは私を王族と知りながら戦争奴隷とし、その上異教の神への生贄としようとしたのです。おそらく高貴な血筋の私なら良い生贄になると考えたのでしょう。」
なるほどそう言う事か....。それで伝説の勇者であるマークが自分達の国の再興を成し遂げてくれることを期待しているわけだ。
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<< ドラゴニウスさん、アーシャ様の様に身体を透明化することはできますか? >>
<< ああ、出来るぞ。長い間は無理だがな。>>
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