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97. シロムの結婚
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(シロム視点)
翌日に予定されていた神官様達への挨拶はマジョルカさんのお陰で無難にこなせたものの、それから慌ただしい日々が待っていた。
まずはマジョルカさんとのお別れだ。久しぶりに僕の精神世界から外に出たマジョルカさんは迎えに来たアーシャ様と一緒に神域に旅立った。コトラルによって無理やりレイスにされたマジョルカさんに聖なる山の神様が魂の輪廻の流れに戻る方法を見つけて下さったのだ。だけどそのためには聖域に行く必要がある。
人前でまともに話が出来ない上がり症の僕はマジョルカさんにお世話になりっぱなしだった。先日も神官様全員の前で挨拶をするのを助けてもらったばかりだ。感謝の気持ちとこれからは自分で何とかしないといけないという恐怖が入り混じり泣きそうになった。
「シロムさん、お世話になったわ。シロムさんと出会わなければ魔族に力を奪われて消滅していたでしょうね。ありがとうね。」
「とんでもありません。僕こそ沢山お世話になりました。」
「まあお世話したのも事実だけどね。シロムさんはもう少ししっかりしないとダメよ。ちょっと心配だけど何とかなるって。シロムさんには沢山の仲間がいるもの。」
マジョルカさんはいつもの調子でそう言ってアーシャ様と去って行った。それを見送った僕の顔は多分ぐしゃぐしゃだったと思う。
マジョルカさんとの別れを惜しむ間もなく、僕の預言者としての仕事も始まった。仕事は僕の為に神殿に増設された執務室で行う。執務室の隣には供物の間を小さくした僕専用の礼拝室が設けられており、そこには精霊王様が見つけて来て下さった聖なる岩が設置された。この岩は神域と亜空間の通路で繋がっており、この岩の前であれば神域にいらっしゃるアーシャ様や聖なる山の神様と念話で話ができる。
基本的に僕の仕事は神官長様から上がって来た国の懸案事項について、アーシャ様や聖なる山の神様のご意向を確認することだ。この国は神のご意向に沿って政治を執り行うことになっているから、僕の一言で重要な決定がなされることになる。アーシャ様や聖なる山の神様に懸案事項の内容を正しく伝えることができるか、アーシャ様や聖なる山の神様の意向を正しく神官様達に伝えることが出来るかと毎日冷や汗を掻いている。僕は理路整然と分かりやすく話をするのが得意ではない。アーシャ様が我慢強く聞いて下さるのが救いだ。精霊王様相手だったら即アウトだろう。
そして僕の執務を助けてくれているのが、神官候補生クラスの同級生、マーク、カーナ、カリーナの神官3人だ。僕の性格や欠点を把握しているクラスメイト達は、出来る限り僕が直接他の人達に会わなくても済む様に、僕と神官様や国の重役様達の間に入って話をしてくれる。
ちなみに最近の懸案事項には外交上の問題が多い。カルロ教がガニマール帝国の国教に据えられたことから、他の国々ではカルロ教、しいてはその発祥の地であるカルロ教国に注目が集まっているらしい。
沢山の国が我が国に使節を派遣して交流を持とうとしている。大国ガニマール帝国が重要視して友好条約まで結んだ国であれば仲良くしておいた方が良いということだろう。
それから個人的には重要なイベントがあった。僕とカンナ、それにアルムさんとの結婚式だ。今カンナは僕と同じ19歳、アルムさんは21歳だ。結婚まで随分と待たせてしまったから出来るだけ早く式を上げないといけないと思っていた。もっとも結婚式は僕の強い希望で密やかに執り行われた。カンナとアルムさんが盛大な結婚式を期待していたら申し訳ないが、公表すればとんでもない数の人々が詰めかけるに違いない。そんなことになったら恐怖の余り僕は動けなくなるだろう。
と言うわけで、僕達の結婚が公表されたのも式の翌日になってからだ。後でマークから「国中の独身女性が残念がっていたぜ」と聞かされたがありえないと思う。マークが結婚する時にこそふさわしいセリフだ。
とにかく式の日から僕の屋敷に新しい家族が2人加わったわけだ。シンシアさんとアルムさんはお互いに「アルム様」、「シンシア様」と様付けで呼び合って、お互いに様付けは止めて欲しいと言い合っていた。
「シロム、ウィンディーネ様は子供を10人産んだのよね。」
突然カンナが詰問して来る。
「そ、そうだけど.....前にも言った様に僕はウィンディーネ様とは....」
「そんなことはどうでも良いの。シロムの子供に間違いないのでしょう? 私には見えないけれどこの屋敷に居るのよね。」
はい、たった今カンナの頭の上を物珍しそうに飛び回っています.....。
「アルムさん、敵は10人よ。私達も負けられないわよ。」
「はい、頑張ります。」
カンナが気合を込めてアルムさんに言い放ち、アルムさんもそれに応える。アルムさん....完全にカンナに毒されているぞ....。それにしても敵って....。
その後じゃんけんでアルムさんに勝ったカンナから今夜は私よと宣言された。相変わらず僕の意思は関係ない様だ....。
翌日に予定されていた神官様達への挨拶はマジョルカさんのお陰で無難にこなせたものの、それから慌ただしい日々が待っていた。
まずはマジョルカさんとのお別れだ。久しぶりに僕の精神世界から外に出たマジョルカさんは迎えに来たアーシャ様と一緒に神域に旅立った。コトラルによって無理やりレイスにされたマジョルカさんに聖なる山の神様が魂の輪廻の流れに戻る方法を見つけて下さったのだ。だけどそのためには聖域に行く必要がある。
人前でまともに話が出来ない上がり症の僕はマジョルカさんにお世話になりっぱなしだった。先日も神官様全員の前で挨拶をするのを助けてもらったばかりだ。感謝の気持ちとこれからは自分で何とかしないといけないという恐怖が入り混じり泣きそうになった。
「シロムさん、お世話になったわ。シロムさんと出会わなければ魔族に力を奪われて消滅していたでしょうね。ありがとうね。」
「とんでもありません。僕こそ沢山お世話になりました。」
「まあお世話したのも事実だけどね。シロムさんはもう少ししっかりしないとダメよ。ちょっと心配だけど何とかなるって。シロムさんには沢山の仲間がいるもの。」
マジョルカさんはいつもの調子でそう言ってアーシャ様と去って行った。それを見送った僕の顔は多分ぐしゃぐしゃだったと思う。
マジョルカさんとの別れを惜しむ間もなく、僕の預言者としての仕事も始まった。仕事は僕の為に神殿に増設された執務室で行う。執務室の隣には供物の間を小さくした僕専用の礼拝室が設けられており、そこには精霊王様が見つけて来て下さった聖なる岩が設置された。この岩は神域と亜空間の通路で繋がっており、この岩の前であれば神域にいらっしゃるアーシャ様や聖なる山の神様と念話で話ができる。
基本的に僕の仕事は神官長様から上がって来た国の懸案事項について、アーシャ様や聖なる山の神様のご意向を確認することだ。この国は神のご意向に沿って政治を執り行うことになっているから、僕の一言で重要な決定がなされることになる。アーシャ様や聖なる山の神様に懸案事項の内容を正しく伝えることができるか、アーシャ様や聖なる山の神様の意向を正しく神官様達に伝えることが出来るかと毎日冷や汗を掻いている。僕は理路整然と分かりやすく話をするのが得意ではない。アーシャ様が我慢強く聞いて下さるのが救いだ。精霊王様相手だったら即アウトだろう。
そして僕の執務を助けてくれているのが、神官候補生クラスの同級生、マーク、カーナ、カリーナの神官3人だ。僕の性格や欠点を把握しているクラスメイト達は、出来る限り僕が直接他の人達に会わなくても済む様に、僕と神官様や国の重役様達の間に入って話をしてくれる。
ちなみに最近の懸案事項には外交上の問題が多い。カルロ教がガニマール帝国の国教に据えられたことから、他の国々ではカルロ教、しいてはその発祥の地であるカルロ教国に注目が集まっているらしい。
沢山の国が我が国に使節を派遣して交流を持とうとしている。大国ガニマール帝国が重要視して友好条約まで結んだ国であれば仲良くしておいた方が良いということだろう。
それから個人的には重要なイベントがあった。僕とカンナ、それにアルムさんとの結婚式だ。今カンナは僕と同じ19歳、アルムさんは21歳だ。結婚まで随分と待たせてしまったから出来るだけ早く式を上げないといけないと思っていた。もっとも結婚式は僕の強い希望で密やかに執り行われた。カンナとアルムさんが盛大な結婚式を期待していたら申し訳ないが、公表すればとんでもない数の人々が詰めかけるに違いない。そんなことになったら恐怖の余り僕は動けなくなるだろう。
と言うわけで、僕達の結婚が公表されたのも式の翌日になってからだ。後でマークから「国中の独身女性が残念がっていたぜ」と聞かされたがありえないと思う。マークが結婚する時にこそふさわしいセリフだ。
とにかく式の日から僕の屋敷に新しい家族が2人加わったわけだ。シンシアさんとアルムさんはお互いに「アルム様」、「シンシア様」と様付けで呼び合って、お互いに様付けは止めて欲しいと言い合っていた。
「シロム、ウィンディーネ様は子供を10人産んだのよね。」
突然カンナが詰問して来る。
「そ、そうだけど.....前にも言った様に僕はウィンディーネ様とは....」
「そんなことはどうでも良いの。シロムの子供に間違いないのでしょう? 私には見えないけれどこの屋敷に居るのよね。」
はい、たった今カンナの頭の上を物珍しそうに飛び回っています.....。
「アルムさん、敵は10人よ。私達も負けられないわよ。」
「はい、頑張ります。」
カンナが気合を込めてアルムさんに言い放ち、アルムさんもそれに応える。アルムさん....完全にカンナに毒されているぞ....。それにしても敵って....。
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