33 / 71
33. ラナさんの悩み
しおりを挟む
「大丈夫、ヤラン兄さんはそんな心の狭い人じゃないよ。妹の私が保障する。」
と励ますが、ラナさんの顔は暗いままだ。ここで私は一計を案じる。
「ねえ、ラナさんは刺繍が出来る。」
「とんでもない。縫い物はしたことがありますが、刺繍なんて私達奴隷には縁がありませんから。」
「私、母さんから刺繍を習っているんだけど、それなら一緒に習わない? それでね、素敵な刺繍を完成させて兄さんにプレゼントするの。」
「わ、私がですか? 無理です、刺繍なんてしたことが無いんですよ。」
「そんなの、私も同じ様な物よ。それじゃ、もしうまくできたらで良いじゃない。気に入らなければ自分で使えばよいのよ。」
「そ、それでしたら...。」
となんとか、刺繍をさせるのに成功した。後はハンカチに刺繍したものを兄さんにプレゼントすればよい。兄さんのレナさんを見る時の態度からして、きっとうまく行くと思う。これには母さんのお墨付きもある。
昼近くになって、ヤラン兄さんを含む偵察隊の面々が帰ってきて、長老にオカミ達の群は遠くに行ってしまった様だと報告した。これでこの騒ぎはひとまず終着を迎えたわけだ。
さっそく、その日から裁縫と刺繍の授業にラナさんも加わった。ラナさんは裁縫の方はある程度出来る様なので、主に刺繍を練習することになった。奴隷時代にも自分達の服は自分達で縫わなければならなかったので裁縫は必須技術だったらしい。最初は私がヤラン兄さんの誕生日に作った小さな花の刺繍からだ。小さな刺繍だが、母さんが言うにはこれにはすべての刺繍の基礎が含まれているらしく、これを発展させていけば色々な刺繍が作れる様になるとか。
「ラナさんもここで結婚するんなら、花嫁衣裳の刺繍は自分でしなければならないからね。しっかり覚えないとね。」
と母さんが言うと、戸惑った表情になる。
「結婚ですか? 私は奴隷ですよ、結婚なんて...」
「ラナさん、ここには奴隷なんていないわ。あなたは私達の客人よ。それにヤランから聞いたの、昨日は魔法でこの居住地を守ってくれたんですってね。ありがとうね。」
「いえ、とんでもないです。」
とラナさんは恐縮している。
「ラナさんは器用そうだから、きっとすぐに上達して、素敵な花嫁衣裳が作れるわよ。頑張ってね。」
と母さんが言う。隣でアイラ姉さんの顔が引き攣っているのはご愛嬌だ。それにしてもラナさんは自分が奴隷だという考えから未だに抜け出せない様だ。ヤラン兄さんも私も何度も奴隷じゃないと否定しているんだけどな...。
ラナさんは生まれた時から奴隷だったそうだ。お母さんも奴隷だったのだ。お父さんは誰だか分からないらしい。生まれた時から「お前は奴隷だ」と言われて育ったのだ。それで自分は奴隷だという考えが染みついているのだろうか。そんな奴隷制度が残っている南の小国群にすごく腹が立つ。トスカさんが奴隷制度なんかぶっ潰してくれれば良いのに。ラナさんがトスカさんは女奴隷の待遇改善のために尽力してくれていると言っていたけれど。もしかしたら本当に奴隷のことを考えてくれていたりして...いや、あのトスカさんに限ってありえないとは思うけど...。
ちなみに私は昨日の行動について母さんから叱られなかった。どうやら兄さんはラナさんが私達を守る為に尽力してくれたことだけ報告して、私のことは黙っていてくれた様だ。
それから数日して、ソラさんが姉さんを迎えに来た。約束の一月が過ぎたのだ。こちらで1泊してから、ソラさんは姉さんと一緒に自分達の居住地に向かって出発した。出発前にもう一度姉さんのお腹を診察するが、赤ちゃんは元気だ。これなら大丈夫だろう。
「時間は掛かっても良いから、ゆっくり行くのよ。それとお腹を冷やしてはダメよ。」
と母さんは最後まで姉さんに注意する。姉さんは、それを 「ハイ、ハイ」と受け流している。無理もない、もう何度も聞かされたものね。母さんが少し寂しそうな顔をしている。私もだ。一月とはいえ、姉さんが戻ってきて昔の我家に戻った様な気がしていたのだ。その日の夕方、姉さんに念話を飛ばして無事にソラさん達の居住地に到着したことを確認した、姉さんの体調にも異常はないとのこと。それを母さんに報告すると緊張していた顔が穏やかになる。私もいつか母さんにこんな思いをさせる時が来るのだろうか。今日は思いっきり母さんに甘えようと思う。
と励ますが、ラナさんの顔は暗いままだ。ここで私は一計を案じる。
「ねえ、ラナさんは刺繍が出来る。」
「とんでもない。縫い物はしたことがありますが、刺繍なんて私達奴隷には縁がありませんから。」
「私、母さんから刺繍を習っているんだけど、それなら一緒に習わない? それでね、素敵な刺繍を完成させて兄さんにプレゼントするの。」
「わ、私がですか? 無理です、刺繍なんてしたことが無いんですよ。」
「そんなの、私も同じ様な物よ。それじゃ、もしうまくできたらで良いじゃない。気に入らなければ自分で使えばよいのよ。」
「そ、それでしたら...。」
となんとか、刺繍をさせるのに成功した。後はハンカチに刺繍したものを兄さんにプレゼントすればよい。兄さんのレナさんを見る時の態度からして、きっとうまく行くと思う。これには母さんのお墨付きもある。
昼近くになって、ヤラン兄さんを含む偵察隊の面々が帰ってきて、長老にオカミ達の群は遠くに行ってしまった様だと報告した。これでこの騒ぎはひとまず終着を迎えたわけだ。
さっそく、その日から裁縫と刺繍の授業にラナさんも加わった。ラナさんは裁縫の方はある程度出来る様なので、主に刺繍を練習することになった。奴隷時代にも自分達の服は自分達で縫わなければならなかったので裁縫は必須技術だったらしい。最初は私がヤラン兄さんの誕生日に作った小さな花の刺繍からだ。小さな刺繍だが、母さんが言うにはこれにはすべての刺繍の基礎が含まれているらしく、これを発展させていけば色々な刺繍が作れる様になるとか。
「ラナさんもここで結婚するんなら、花嫁衣裳の刺繍は自分でしなければならないからね。しっかり覚えないとね。」
と母さんが言うと、戸惑った表情になる。
「結婚ですか? 私は奴隷ですよ、結婚なんて...」
「ラナさん、ここには奴隷なんていないわ。あなたは私達の客人よ。それにヤランから聞いたの、昨日は魔法でこの居住地を守ってくれたんですってね。ありがとうね。」
「いえ、とんでもないです。」
とラナさんは恐縮している。
「ラナさんは器用そうだから、きっとすぐに上達して、素敵な花嫁衣裳が作れるわよ。頑張ってね。」
と母さんが言う。隣でアイラ姉さんの顔が引き攣っているのはご愛嬌だ。それにしてもラナさんは自分が奴隷だという考えから未だに抜け出せない様だ。ヤラン兄さんも私も何度も奴隷じゃないと否定しているんだけどな...。
ラナさんは生まれた時から奴隷だったそうだ。お母さんも奴隷だったのだ。お父さんは誰だか分からないらしい。生まれた時から「お前は奴隷だ」と言われて育ったのだ。それで自分は奴隷だという考えが染みついているのだろうか。そんな奴隷制度が残っている南の小国群にすごく腹が立つ。トスカさんが奴隷制度なんかぶっ潰してくれれば良いのに。ラナさんがトスカさんは女奴隷の待遇改善のために尽力してくれていると言っていたけれど。もしかしたら本当に奴隷のことを考えてくれていたりして...いや、あのトスカさんに限ってありえないとは思うけど...。
ちなみに私は昨日の行動について母さんから叱られなかった。どうやら兄さんはラナさんが私達を守る為に尽力してくれたことだけ報告して、私のことは黙っていてくれた様だ。
それから数日して、ソラさんが姉さんを迎えに来た。約束の一月が過ぎたのだ。こちらで1泊してから、ソラさんは姉さんと一緒に自分達の居住地に向かって出発した。出発前にもう一度姉さんのお腹を診察するが、赤ちゃんは元気だ。これなら大丈夫だろう。
「時間は掛かっても良いから、ゆっくり行くのよ。それとお腹を冷やしてはダメよ。」
と母さんは最後まで姉さんに注意する。姉さんは、それを 「ハイ、ハイ」と受け流している。無理もない、もう何度も聞かされたものね。母さんが少し寂しそうな顔をしている。私もだ。一月とはいえ、姉さんが戻ってきて昔の我家に戻った様な気がしていたのだ。その日の夕方、姉さんに念話を飛ばして無事にソラさん達の居住地に到着したことを確認した、姉さんの体調にも異常はないとのこと。それを母さんに報告すると緊張していた顔が穏やかになる。私もいつか母さんにこんな思いをさせる時が来るのだろうか。今日は思いっきり母さんに甘えようと思う。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。
さら
恋愛
私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。
そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。
王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。
私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。
――でも、それは間違いだった。
辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。
やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。
王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。
無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。
裏切りから始まる癒しの恋。
厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる