大草原の少女イルの日常

広野香盃

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41. ラナさんの求婚 - 4

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 ここに来てようやく敵をじっくりと観察する。かなりの火魔法の使い手の様だが魔力を感じない。私と同様に魔力遮断結界を使っているのだろうか? 敵は30メートルくらい離れたところにある岩の陰に居る様だ。それならと、私は土魔法で敵の隠れている岩を細かい砂に変化させた。途端に今まで岩だったものが上部から順にサラサラと崩れてゆく。そして岩の後から現れたのは、あっけにとられた顔をしたひげ面の男だ。軍服の様な服を着て、手に魔法使いの杖を持っている。杖以外に武器は持っていない様だ。それに...なんと首輪を嵌められ、首輪に繋がる鎖で傍の金属製の杭に繋がれている。

「降伏をお勧めします。」

と大きな声で言いながら、少しの間だけ魔力遮断結界を解除した。魔力の差を認めて降伏してくれないかと考えたのだ。殺人はしたくない。

 しばらく睨み合っていたが、意外にも男は杖を手放し両手を上にあげた。降伏のサインだろう。

「それでは、そのままそこに座って下さい。」

私が杖を向けたまま言うと、男は素直に従う。それから私は亜空間からラナさんが入れられていた檻を取り出すと、男を檻の中に瞬間移動した。この檻には中に入れられた者の魔法を使えなくする仕掛けがされている。

「もう大丈夫です。」

ランさんとトマさんにそう言って、急いで兄さん達の方を振り返ると、兄さん達を追っていた盗賊達が立ち止まっており、それに向かって兄さん達が攻撃を掛ける所だった。すれ違いざまに矢を放つ兄さん達、兄さん達が通り過ぎた後、立っている盗賊はひとりもいなかった。遊牧民が止まっている的を外すはずがないのだ。

 私が手を振ると、一族の男達の一団はそのままこちらに駆けてきたが、兄さんだけが反対方向に駆けて行く。あれ? と思って兄さんが駆けて行く方向を見ると、ラナさんがひとり立っているのが見えた。きっと最後の攻撃をする時、危なくない様にラナさんを降ろして行ったのだろう。兄さんはラナさんを再び馬に乗せると、こちらに向かって駆けてくる。私は兄さんが到着するまでに、傷ついた一族の男達や馬に回復魔法を掛けて回る。幸い亡くなった人は居ない。それにしても盗賊に魔法使いが加わっているなんて初めて聞いた。きっと兄さん達は、ファイヤーボールの攻撃を受けて逃げざるを得なかったんだろうな。

 それから、ひげ面の男が嵌められていた首輪と鎖の近くに行って観察する。やはり何かの魔道具の様だ。おそらく魔法使いを拘束するための物だろう。試しに火魔法で鎖を熱すると、あっという間に首輪が小さくなる。火魔法使いが鎖を焼き切って逃げ出そうとすると首が締る仕掛けだ。これでは逃げ出せない。拘束されていたということは盗賊の仲間ではないのかもしれない。

 しばらく待っていると兄さんとラナさんが到着した。兄さんは私の前で止まるとすぐ馬を降り、怖い顔で私の頭をゴツンと叩いた。結構痛い。これは相当怒っているな。

「こんな危険な場所にやって来るなんて、何を考えているんだ。おまけにラナさんまで連れて来て! お前は女の子なんだぞ! 何かあったら母さんがどれだけ悲しむか分かっているのか?」

「ヤラン様、私が連れて行って下さるようにイル様にお願いしたのです。イル様の所為ではありません。」

とラナさんが取り成してくれ様とするが、私は素直に「御免なさい」と言って頭を下げた。兄さんが私のことを心配して叱ってくれているのが分かったからね。

「ヤラン、そう怒るな。イルちゃんとそこの嬢ちゃんが来なかったら、確実に犠牲者が出ていた。女、子供が戦いに参加すべきじゃないという気持ちは分かるが、今日の所は勘弁してやれ。」

とコーラルさんが援護してくれる。

「そうとも、イルちゃんが来てくれなかったら、俺とトマはどうなっていたことか。感謝しないとな。」

とランさんも感謝の言葉を言ってくれる。

「そこのラナさんだっけ? その人もすごかったぞ。土魔法って言うのか? 俺達を追っていた盗賊達の馬が次々にすっころんだからな。そのお蔭で反撃に転じる時間が取れたんだ。ありがとうよ。」

とヤルさんも言ってくれた。

「と言う訳で、いいか、お前ら、感謝するんなら魔法のことは口外なしだぞ! ふたりはここには来なかった。俺達は何も見ていない。いいな!」

とコーラルさんが言うと、全員から「オー!」と返事があった。

「皆さんありがとうございます。」

と私とラナさんは皆にお礼を言った。

コーラルさんが、

「ふたりが来なかったんなら、ヤランがイルちゃんを叱る理由も無いしな。」

と笑いながら言う。思わずつられて笑ってしまい、相変わらず、ブスッとしている兄さんをチラッと見てあわてて表情を戻す。どうも、長老が居ない時はコーラルさんが皆の実質的なリーダーの様だ。まあ、適切な人選だと思う。

「コーラルさん、その魔法使いの人ですけど、盗賊の仲間ではないかもしれません。あそこの首輪と鎖で拘束されていたんです。」

と檻の中のひげ面の男を指さしながら言うと、檻の中の男が必死に訴えた。

「そうだ! おれは盗賊の仲間じゃない。遭難しかけていたところを盗賊に捕まったんだ。頼む、命だけは助けてくれ。」

「それに、この人はランさんとトマさんを殺しませんでした。わざと狙いを外したんです。私へ攻撃してきたときの正確さから言って、わざと外したとしか思えません。」

「そうですね?」

と私が檻の中に向かって声を掛けると。

「そりゃ... もう人殺しは沢山だからな。俺はトワール王国の内戦で沢山人を殺したんだ、同じ軍隊仲間をだ! 中には顔見知りの奴もいた。嫌になって軍隊を脱走して草原に逃げ込んだら盗賊に捕まっちまった。」

ここまで聞いてからコーラルさんが口を開いた。

「まあ、盗賊の仲間では無いのは間違いなさそうだな。だが、こいつがランとトマを傷つけたのも確かだ。イルちゃんも攻撃した様だしな。どうするかはじっくり話を聞いてから、皆で話し合って決めることになるだろう。」

「分かりました。」

と私は答えた。一族の皆なら酷い結論にはならないと思う。

 それから私とラナさんは一足先に瞬間移動で元の毛布の陰に戻った。毛布から顔をだした私達に母さんが満面の笑みで抱き着いて来た。きっと心配してくれていたんだろう。兄さんも、一族の他の男達も無事なことを伝えると一層笑みが深まる。

 しばらくして、兄さん達が凱旋してきた。カマルさんの荷馬車も見つけて運んで来た様だ。カマルさんが大喜びで皆にお礼を言っている。これが無かったらカマルさんは商売が続けられない。そうなると私達も困ってしまう。

 私達の元に兄さんが戻ってくる。母さんが兄さんに抱き着いて 「お帰り」と言う。

「ただいま」

と返した兄さんは、次にラナさんに向かって、

「良かったらこれを受け取ってくれ。」

と言って、ラナさんの手の平に何か小さい物を落とした。手の平の上の物をみた途端ラナさんの目から大粒の涙が溢れる。嬉し泣きという奴だろう。兄さんがカマルさんから指輪を買ってラナさんにプレゼントしたのだ。ラナさんはすぐに指輪を左手の指に嵌めて兄さんに見せてから抱き着いた。兄さんは訳が分からないという顔でラナさんの頭を撫ぜている。しまった! 兄さんに男性が女性に指輪を贈る意味を教えてない。単にラナさんに指輪を贈ったら喜ぶよと言っただけだ。でもまあ、いいじゃない。これでお互いに求婚して、お互いに了承したわけだ。まったく問題ないはずだ、たぶん...。後で兄さんに指輪の意味を伝えると、何も言わずに頭に拳固が落ちてきた。痛くて涙が出た。
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