大草原の少女イルの日常

広野香盃

文字の大きさ
43 / 71

42. ラトスさんを探して - 1

しおりを挟む
 盗賊達と一緒に居た魔法使いであるが、名前はトルムス。トワール王国の軍隊から脱走してきたらしい。兄さん達を攻撃したのは、いきなり矢を射かけられたので身を守る為に止む無くということ。確かに盗賊と間違われて殺される可能性があったから情状酌量の余地はある。もっともそのためにランさんとトマさんは爆風で吹き飛ばされ、退却した兄さん達が盗賊に追われることになったわけだ。盗賊達がトルムスさんを捕まえて何をしようとしていたかは不明だが、魔法使いはどこの国でも欲しがっているから高く売れると思ったのではないかとの事。それと、ランさんとトマさんを治療に向かった私を攻撃したのは、瞬間移動の魔法を使ったのを見て、私を軍隊から脱走兵を殺すために差し向けられた殺し屋と思ったとのこと。誠に失礼な奴である。こんな可愛い殺し屋が居るわけがないじゃないか!

 長老達の話し合いで、トルムスさんは釈放となった。無事檻から出ることが出来たトルムスさんは、怪我をさせたランさん、トマさんに謝った後。私にも謝罪に来た。謝罪を受け入れた私にトルムスさんが話しかける。私の所へ来たとき、トルムスさんはひげを剃っていた。ひげが無いと印象が変わるもので、中年かと思っていたが、こうして見ると20歳には行っていないだろう。結構ハンサムだ。アッシュグレーの髪で目の色もグレー。

「それで、言いたくなければ言わなくても良いんだが、イルちゃんは何者なんだ。俺のファイヤーボールを余裕で弾き飛ばしていただろう。それに魔力遮断結界を解除して見せてくれた魔力。一瞬でこれは敵わんと悟ったさ。こんな魔法使いが草原に居るとなると、思い当るのはひとりしか居ないんだが。」

ハハッ、ばれている。これはとぼけても無駄だろう。

「草原の魔導士です。でも秘密ですよ。」

「やはりそうか。分かった誰にも言わない。もっとも話したとしても信じないだろうがな。草原の魔導士がこんな小さな女の子だなんて。軍隊時代の仲間内では草原の魔導士は美女だという奴も、老婆に違いないという奴もいたが、小さな女の子と考える奴はひとりもいなかったよ。」

 まあ、当然だな。数々の魔法を使いこなすのが魔導士だ。私は前世の記憶があるから特別だが、当然ながら魔法の習得には時間が掛かる。ある程度以上の年齢に達していると考えるのは自然だ。それを考慮すれば老婆と思われるのも納得できる。

 それからは何事もなく一族の移動は進み、ついに次の居住地となる場所に到着した。到着したらすぐに天幕の設営である。やはり天幕があると安心する。トルムスさんはしばらく長老の天幕に同居させてもらえることに成った。こんな草原の真ん中でひとりで旅に出たら、再度遭難するのが落ちだからね。今後どうするかは良く考えてから決めるそうだ。ラナさんと違って、トルムスさんは魔力遮断結界を完全に使いこなしているから、どこに行っても大丈夫だろうと思う。カマルさんはここまで私達と同行してきたが、次の目的地を目指して、助けてもらったお礼を言いながら去って行った。

 新しい居住地に到着して数日経ち、気持ち的にも落ち着いてきた頃、アトル先生が天幕に私を訪ねてきた。相談があると言う。ちょうど母さんと兄さんも居たので一緒にアトル先生の話を聞くことになった。アトル先生の相談と言うのは「東の魔導士であるラトスさんと連絡が取れないか」と言うものだ。アトル先生が言うには、先日、偶々長老とトルムスさんが話しているのを立ち聞きしてしまい。私が草原の魔導士であると知ってしまったらしい。私が草原の魔導士なら、魔導士繋がりで東の魔導士であるラトスさんとも連絡が取れるのではないかと期待してやって来たとの事。長老とトルムスさんには秘密事項を話すときはもっと周りに注意するようにお願いしなければならないが、ここは、アトル先生の相談が、王妃と宰相を殺してくれという依頼じゃ無くて良かったとしよう。アトル先生は、ラトスさんならトワール王国の現状を解決する良い方法があるのではないかと期待している様だ。

 実は私も、この数日ラトスさんと連絡を取ろうと何度も念話で話しかけていたのだが、応答が無いのだ。私の念話が届くのは100キロメートルまでが限度だから、おそらく遠くに居て念が届かないのだと思う。その事を母さん、兄さんに伝え。可能ならトワール王国にラトスさんを探しに行きたいと私の希望を言った。予想通り母さんが渋い顔をしたが、私なら日帰りで行って来れると言うと、兄さんが、それなら自分も一緒に行くと言う。まあ、ふたりくらいなら楽勝で瞬間移動できる。可能な旨を伝えるとようやく母さんの許可も下りた。するとアトル先生が、是非自分も連れて行ってくれと言い出した。気持ちは分かる、トワール王国の現状を自分の目で確かめたいのだろう。アトル先生なら小さいから増えても大丈夫だ。その旨を伝えると、兄さんがコーラルさんの許可が出ればとの条件を付けた。結論として翌日の朝、兄さんと私で出発し、アトル先生はコーラルさんの許可が下りれば一緒に行くことになった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...