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43. ラトスさんを探して - 2
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翌朝、私と兄さんが出発の支度をしていると、アトル先生とコーラルさんがやって来た。もしやコーラルさんも一緒に行くのかと思ったが、アトル先生の見送りに来たということでホッとする。流石に3人を連れて瞬間移動でトワール王国まで日帰りの旅をするのはきつい。
「ヤラン、イルちゃん、アトルをよろしく頼む。」
とコーラルさんが言う。「こちらこそ」と返して。天幕の中から3人で瞬間移動した。アトル先生は弓矢を持ち、腰には短剣を差している。これは兄さんも同じだ。
最初に向かうのはトワール王国の王都。アトル先生の故郷でもある。トーラさん達から王都は焼野原になったと聞いたが、やはり自分の目で確かめたいというのがアトル先生の希望だ。ラトスさんが王都の近くにいる可能性もある。王都に向かうと言っても、私は王都に行ったことがないので、大体の方向を目指して近づき、近くまで来たら探査魔法で正確な場所を探るつもりだ。1回目の転移先はまだ草原だ、念のためにラストさんに念話を飛ばすも応答はない。ヤラン兄さんとアトル先生は初めての瞬間移動にかなり驚いている。2回目の転移先も草原だったが、3回目になると草原を抜け出し森林地帯に入った。見通しが悪いので宙に浮かんで高度をとる。これには、度胸の座ったヤラン兄さんも緊張気味だ。アトル先生は悲鳴を上げる一歩手前で何とか堪えている。「大丈夫! 絶対に落ちないから。」と言って宥める。上空から見ると、少し離れたところで森林は終わり、そこからちらほらと畑が現れ、遠くには村々も見える。トワール王国には入った様だ。ここでも念話を試すが相変わらず応答はない。
「アトル先生、この辺りに見覚えはありますか?」
「そう言われても、空から見たことが無いからなぁ....。いや、あっちにある村の教会には見覚えがある。多分、草原へ逃げる途中で一泊した村だと思う。」
「なら、王都の方角も分かりますか?」
「僕たちはあの村に続く道をやって来たんだ。だから、王都はあの道を逆にたどる方向のはずだ。もっとも途中で道が曲がっていたら分からないけど...。」
アトル先生が指し示す方向は東北東。私達が出発前に考えていた王都の方向とも一致する。間違いはなさそうだ。私はその方向にもう一度瞬間移動する。この辺りは穀倉地帯の様だ。沢山の畑に麦が植わっている。向こうにはかなり大きな村が見える...。だが、村では何か異変が起こっている様だ。沢山の家から黒い煙が上がっている。村が襲われている!? 私達は顔を見合わせた。私は躊躇していた。私の回復魔法を使えば傷ついた人達を助けられるかもしれない。でも...、と悩む私の心をヤラン兄さんが代弁した。
「イル、行くな! あそこでは戦いが起っている。戦いでは誰かを助けるために、誰かを殺さなければならない。お前は戦士じゃない。そんなところへ行かなくてもいいんだ。」
そうだ、私に人が殺せるだろうか? 姉さんの結婚式を北の同族が襲撃した時には、何十人もの人を殺してしまった私だが、あの時は目の前で父さんを殺され逆上していた。後でものすごく後悔したのだ。冷静な状態の私に人が殺せるだろうか? この前トルムスさんと戦った時は、降伏してくれたから良かったものの、もしトルムスさんが徹底抗戦していたらどうなっていただろう...。
私の手はいつの間にか震えていた。怖い! たまらなく怖い! でも、私は震える手で、兄さんの手を強く握り、兄さんの目を見詰めて言った。
「でも、助けられる人を助けなかったら、きっと、もっと後悔する。私は誇り高き戦士ラナイの娘よ!」
兄さんは私の目をじっと見つめていたが、何も言わなかった。しばらくして、兄さんはアトル先生に向かって口を開いた。
「アトル、お前も戦士じゃない。ここに残っても良いんだぞ。」
だが、アトル先生の瞳に恐れはなかった。
「もちろん僕も行きます。村人達は僕の国民なんです。」
私達は顔を見合わせ、3人同時に頷いた。それから、「行きます」と合図して、私は村の上空に瞬間移動した。
上空から村を見下ろす。村人達が戦っている相手は盗賊の様だ。きっと普段なら盗賊から村人達を守ってくれる軍や兵士が内戦で不在なのだ。その隙をついて盗賊が襲って来たと言うところだろう。村人達が必死で戦っているが、武器の質も防具も、剣を振るう腕も明らかに盗賊の方が上だ。唯一勝っているのは人数だが、それでも劣勢なのは明白だった。見ている間にも何人もの村人が盗賊の剣の餌食になっている。
私は盗賊目がけて攻撃魔法を放とうと杖を掲げる。だが、その時ヤラン兄さんが私の肩に手を置いて止めた。そして弓に矢をつがえると、ヒュッと放つ。兄さんの矢は盗賊達の最後尾にいた豪華な鎧を着た男の額に突き刺さった。鎧の男がドッという音と共に倒れる。間を置かず、兄さんの大音声があたりに響き渡った。
「お前達の頭は死んだ! 逃げるなら良し、抵抗するなら頭と同じ運命をたどると思え!」
兄さんの声で漸く私達に気付いた盗賊や村人が、こちらを見上げる。「ひっ」と言う恐怖の声が聞こえる。兄さんがもう一度弓に矢をつがえて引き絞ると、盗賊達は我先に逃げ出した。
「ヤラン、イルちゃん、アトルをよろしく頼む。」
とコーラルさんが言う。「こちらこそ」と返して。天幕の中から3人で瞬間移動した。アトル先生は弓矢を持ち、腰には短剣を差している。これは兄さんも同じだ。
最初に向かうのはトワール王国の王都。アトル先生の故郷でもある。トーラさん達から王都は焼野原になったと聞いたが、やはり自分の目で確かめたいというのがアトル先生の希望だ。ラトスさんが王都の近くにいる可能性もある。王都に向かうと言っても、私は王都に行ったことがないので、大体の方向を目指して近づき、近くまで来たら探査魔法で正確な場所を探るつもりだ。1回目の転移先はまだ草原だ、念のためにラストさんに念話を飛ばすも応答はない。ヤラン兄さんとアトル先生は初めての瞬間移動にかなり驚いている。2回目の転移先も草原だったが、3回目になると草原を抜け出し森林地帯に入った。見通しが悪いので宙に浮かんで高度をとる。これには、度胸の座ったヤラン兄さんも緊張気味だ。アトル先生は悲鳴を上げる一歩手前で何とか堪えている。「大丈夫! 絶対に落ちないから。」と言って宥める。上空から見ると、少し離れたところで森林は終わり、そこからちらほらと畑が現れ、遠くには村々も見える。トワール王国には入った様だ。ここでも念話を試すが相変わらず応答はない。
「アトル先生、この辺りに見覚えはありますか?」
「そう言われても、空から見たことが無いからなぁ....。いや、あっちにある村の教会には見覚えがある。多分、草原へ逃げる途中で一泊した村だと思う。」
「なら、王都の方角も分かりますか?」
「僕たちはあの村に続く道をやって来たんだ。だから、王都はあの道を逆にたどる方向のはずだ。もっとも途中で道が曲がっていたら分からないけど...。」
アトル先生が指し示す方向は東北東。私達が出発前に考えていた王都の方向とも一致する。間違いはなさそうだ。私はその方向にもう一度瞬間移動する。この辺りは穀倉地帯の様だ。沢山の畑に麦が植わっている。向こうにはかなり大きな村が見える...。だが、村では何か異変が起こっている様だ。沢山の家から黒い煙が上がっている。村が襲われている!? 私達は顔を見合わせた。私は躊躇していた。私の回復魔法を使えば傷ついた人達を助けられるかもしれない。でも...、と悩む私の心をヤラン兄さんが代弁した。
「イル、行くな! あそこでは戦いが起っている。戦いでは誰かを助けるために、誰かを殺さなければならない。お前は戦士じゃない。そんなところへ行かなくてもいいんだ。」
そうだ、私に人が殺せるだろうか? 姉さんの結婚式を北の同族が襲撃した時には、何十人もの人を殺してしまった私だが、あの時は目の前で父さんを殺され逆上していた。後でものすごく後悔したのだ。冷静な状態の私に人が殺せるだろうか? この前トルムスさんと戦った時は、降伏してくれたから良かったものの、もしトルムスさんが徹底抗戦していたらどうなっていただろう...。
私の手はいつの間にか震えていた。怖い! たまらなく怖い! でも、私は震える手で、兄さんの手を強く握り、兄さんの目を見詰めて言った。
「でも、助けられる人を助けなかったら、きっと、もっと後悔する。私は誇り高き戦士ラナイの娘よ!」
兄さんは私の目をじっと見つめていたが、何も言わなかった。しばらくして、兄さんはアトル先生に向かって口を開いた。
「アトル、お前も戦士じゃない。ここに残っても良いんだぞ。」
だが、アトル先生の瞳に恐れはなかった。
「もちろん僕も行きます。村人達は僕の国民なんです。」
私達は顔を見合わせ、3人同時に頷いた。それから、「行きます」と合図して、私は村の上空に瞬間移動した。
上空から村を見下ろす。村人達が戦っている相手は盗賊の様だ。きっと普段なら盗賊から村人達を守ってくれる軍や兵士が内戦で不在なのだ。その隙をついて盗賊が襲って来たと言うところだろう。村人達が必死で戦っているが、武器の質も防具も、剣を振るう腕も明らかに盗賊の方が上だ。唯一勝っているのは人数だが、それでも劣勢なのは明白だった。見ている間にも何人もの村人が盗賊の剣の餌食になっている。
私は盗賊目がけて攻撃魔法を放とうと杖を掲げる。だが、その時ヤラン兄さんが私の肩に手を置いて止めた。そして弓に矢をつがえると、ヒュッと放つ。兄さんの矢は盗賊達の最後尾にいた豪華な鎧を着た男の額に突き刺さった。鎧の男がドッという音と共に倒れる。間を置かず、兄さんの大音声があたりに響き渡った。
「お前達の頭は死んだ! 逃げるなら良し、抵抗するなら頭と同じ運命をたどると思え!」
兄さんの声で漸く私達に気付いた盗賊や村人が、こちらを見上げる。「ひっ」と言う恐怖の声が聞こえる。兄さんがもう一度弓に矢をつがえて引き絞ると、盗賊達は我先に逃げ出した。
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