大草原の少女イルの日常

広野香盃

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44. ラトスさんを探して - 3

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 私は盗賊が逃げ出したことを確認して、村に降り立った。怪我をした人に回復魔法を掛けるのだ。だが、私達が降り立つと村人達は一斉に私達に向かって土下座した。面食らったが今はそれどころではない。私は出来る限り大きな声で村人に呼びかけた。

「怪我をしている人をこちらに運んでください、治療します。」

効果てきめんだった。村人達は私の言葉に 「ハハッ」と応じて、頭を下げると、怪我人を運ぶために我先に走り去る。今頃気付いたが、この村は獣人族の村らしく、人間族は見当たらない。しばらく待つと次々と怪我人が運ばれてきた。中には死にかけている人もいる。私は急いで回復魔法を掛けて回った。ほとんどの人の怪我を治すことが出来たが、中には出来なかった人もいる。手遅れだったのだ。回復魔法では死んだ人を生き返らせることは出来ない。私は助けられなかった人の家族に、「ごめんなさい」と謝った。だが私を責める人は居なかった。むしろ感謝の言葉を口にされる。

 全員の治療が終わり、私が兄さんとアトル先生の元に戻ると、村の代表と思われる年配の人達が3名、私達の前に来ると両膝でひざまずき、

「アモール神様、我らの危機をお救い下さり感謝いたします。また、ご尊顔を拝させていただいたことは、我ら末代までの誇りとなりましょう。この様な有様で大したおもてなしもできませんが、どうか本日はこちらにご逗留いただけませんでしょうか。出来る限りの歓迎をさせて頂きます。」

と、何かおかしなことを言って来る。アモール神って何だ? どう対応したら良いのか分からないでいると、アトル先生が、

「申し訳ないが、我らは先を急ぐ。滞在は次の機会にさせて頂こう。それではさらばじゃ」

と返し、私に小声で、「イルちゃん、瞬間移動をお願いします。」と言ってきた。先生の言葉に従い、とりあえず村から10キロメートルくらい離れた地点に転移する。転移が終わると3人で顔を見合わせた。

「あれで良かったんですか。碌に挨拶もせずに来てしまいましたが...」

と私が言うと。

「いいんです。僕もイルちゃんも正体がバレると困ったことになりますからね。どうやらヤランさんがアモール神に間違えられていた様ですので、そう思い込まれたまま立ち去った方が都合がいいと考えたんです。」

とアトル先生が言う。そう言われてみればその通りだ。私が草原の魔導士だと知られると、トワール王国から勧誘が掛かる可能性が高いし。アトル先生は王族だと疑われたら命を狙われる可能性がある。

「ところでアモール神ってどんな神様ですか?」

と私が質問するとアトル先生が答えてくれた。トワール王国で沢山の人々が信仰している神様らしい。信仰している人は獣人族が多いが、人間族にも信仰者は少なくない。アモール神は狩りと戦いの神で、その姿は金髪、キツネ耳で弓矢を持っている。それで、神様と同じ容姿で空から現れたヤラン兄さんのことをアモール神と勘違いしたのに違いない。差し詰め、アトル先生と私はアモール神の眷属と言ったところだろう。

 村を離れた私達は、予定通り王都に向かう。もちろん移動前にラトスさんに念話を送るが相変わらず応答はない。東北東に再度移動すると探査魔法で大きな町を感知出来た。これが王都かと行ってみる。町の入り口に着いて驚いた。大きな町の家々の半分以上が焼失している。内戦に巻き込まれたのだろうか。いくらトワール王国の家々が木造で燃え易いといっても、これだけの範囲が燃えるのに手が出せなかったのだろうか。町には人影が見当たらない。アトル先生が言うにはこの町は王都ではないらしい。町の中に足を踏み入れて愕然とした、道に人々の死体が点々と転がっている。死んだのはかなり前らしく、白骨化している物が多いが、中には獣に食い散らされたのであろう、骨が道一杯に散らばっている死体もある。それを見た途端私は吐き気を覚えた。何とか散らばっている骨を避けて先に進むと、町の広場だったであろう開けた空間に出た。そして...そこには沢山の死体が一ヶ所に積み上げられて...。

「キャ~~~!」

 その光景を見た途端、私は悲鳴を上げ、兄さんとアトル先生を連れて夢中で瞬間移動した。 どこかを目指したわけではない。とにかくこの場を離れたかったのだ。到着したのはどこかの山の中の様だったが、着いた途端、私は座り込んでしまった。あの光景はショックだった。広場で敵方の処刑が行われたのかもしれない。火災で亡くなったのなら、あんなふうに積み重なってはいない。

「おい、イル、大丈夫か?」

兄さんが私の前に屈みこんで、私の顔を覗き込んでいる。まだ心臓がドキドキしている。手足が冷たい。恐らく顔面は蒼白になっているだろう。兄さんが私の頭を優しく撫でながら言う。

「イル、これ以上は無理だ。家に帰ろう。お前は女の子なんだ、あんな光景は見なくていい。」

大丈夫だと言い返したかったが、出来なかった。自分でも分かる。無理だ! 私はあんな光景に耐えられない! 思い出すだけで、酸っぱいものが喉にこみ上げてくる。私は兄さんに頷いた。

「うん、家に帰る。」

無性に母さんが恋しくなった。早く帰って母さんに抱き付きたい。

「アトル先生、御免なさい。家に帰ります。」

とアトル先生に謝る。せっかくトワール王国に来たのに、故郷の王都すら見ずに帰ることになってしまった。

「いいですよ、それに王都なら見ることが出来ました。」

アトル先生はそう言いながら、ひとつの方向を指さす。つられてアトル先生の指し示す方向に目を向ける。ここは山の頂に近い所の様で、周りを見渡すことができる。そしてアトル先生が示す方向に巨大な都市が見えた。いや...正確には都市だった物だ。すべての建物が焼け落ち、完全に廃墟と化していた。

「帰りましょう。」

とアトル先生が言う。アトル先生にとってもショックだった様だ。私は頷いて、最長距離の瞬間移動を使い、可能な限りの速さで私達の居住地に戻った。

 居住地に戻りアトル先生と別れた後、私は勤めて明るい顔を装って自分達の天幕に向かう。

「おー、イル嬢ちゃん。待ってたぞい。」

あれだけ探し回って見つからなかったラトスさんが、私達の天幕の前に居た。母さんとラナさんと3人で、天幕の前のシートに座ってお茶を飲んでいる。私はがっくりと膝をついた。
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