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48. アトル先生王座を目指す - 4
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ラトスさんと念話での最後の打ち合わせを終えた私達は行動に移った。トワール王国の北端にあるランドルフ領から南下しながら、各神の主要な神殿で信者、特に神官達に神託を授けて回るのだ。主要な神殿の位置が掛かれた地図はラトスさんから入手済みだ、全部で31ヶ所もある。1日当たり10ヶ所強、強行軍だね。
最初の神殿はランドルフ領内にある美の神カリキオーテの神殿だ。流石ラトスさんが選んだだけあって、立派な神殿で参拝者も多い。神殿内に瞬間移動で忍び込んだ私達は、女神カリキオーテの神像の後に隠れた。いよいよ本番だと思うと緊張する。音魔法による音声と効果音はララさんが担当、光魔法による神の映像や背景の描写はトスカさん、私は風魔法と土魔法を使って風と振動を担当する。さて、作戦開始だ!
突然、静かだった神殿内に「ドーーーン!!!」という大きな音が響き渡ると同時に神殿全体が地震の様に大きく揺れる。神殿が崩れない様に気を遣いながら揺らすのは中々大変だ。揺れが収まり、悲鳴を上げていた信者の皆さんが一息付いた途端、女神カリキオーテの像が輝き、同時に強風が吹き荒れ、信者の皆さんが着ているローブがバタバタと揺れる。余りのことに皆があっけにとられていると、像の中から本物の女神様が現れ空中に浮かぶ。女神の背景には七色の光が舞って幻想的な光景である。この時点で信者の方達や神殿の神官や巫女達が全員、女神に向かって跪いた。ガタガタと震えている人もいる。そして女神様が言葉を発した。
「愛する者達よ、よく聞きなさい。苦難の季節が終わろうとしています。今日、この国に真の王、アトル・マントラーゼ・マリアーク・トワールが誕生しました。彼はこの国の最後の希望です。心ある者達よ、彼に従い、彼を守るのです。この国の真の未来は彼と共にあります。」
この言葉を発すると、女神は再び神像の中に消えて行く。静寂が神殿を満たすが、ひとりが、「女神様、感謝いたします。」と言葉を発すると、全員がそれに習った。しばらくすると、立派な衣装を着た神官が全員に語りかけた。
「信仰深き皆さん、今日私達は神の奇蹟を目にすることが出来ました。女神様の言葉を直接耳にする事が出来たのです。女神様は私達を「愛する者達」と呼んでくださいました。なんと喜ばしい事でしょう。もちろん、我が教団は女神様のお言葉に従います。真の王であるアトル・マントラーゼ・マリアーク・トワール様に仕え、お守りするのです。女神様が我らを守ってくださいます。行きなさい。まずは、急いでアトル様をお探しするのです。」
信者の方達はもう一度女神像に頭を下げると、我先にと神殿から出て行く。神官達も女神像に祈ってから、今後の打ち合わせの為に退出していった。それを見て、私達は次の神殿に瞬間移動する。正直、あの人たちを騙していると思うと良心が痛む。だけど、今はこれがあの人たちにとっても最善の方法なのだと信じるしか無いだろう。
私達3人は同様のことを、さまざまな神殿で繰り返した。信者や神官の方達の反応はどの神殿でも概ね同じであった。ただ、やはり狩りと戦いの神アモールと力の神モロクの神殿では、神官の演説が新しい王にお仕えすることより、新しい王を守る為に「戦う」ことに重点が置かれていたのは気に成った。信者の方達が皆、武器を持ってアトル先生の元に馳せ参じようとしていた。新たな戦いに発展しなければ良いがと不安になる。
こうして、なんとか3日後には最後の神殿での仕事も終わった。翌日、宿屋で休憩して疲れを癒しているとラトスさんから念話が入った。ここはトワール国の南端だ、北端にあるランドルフ領とは千キロメートル近くも離れている。どうやって念話を送っているのだろうと考えたが、そんなことを尋ねる雰囲気では無さそうだった。
<< 皆、緊急事態じゃ、ランドルフ伯爵が協力を翻した。アトルはカルルを追いかけて出て行ってしもうたわい。>>
ラトスさんは相当あわてている。これじゃ分からないよ!と思ったら、案の定ララさんが言い返した。
<< この耄碌じじい! 落ち着いて詳細に状況を説明しな! 何のために歳を取ってるんだい! >>
<< やれやれ、手厳しいのう。じゃが状況は深刻じゃぞ。実はな、ランドルフの奴、アトルへの協力の条件として孫娘とアトルの婚姻を言い出しおった。それを聞いたカルルが、置手紙を置いて行方をくらましてしもうたのじゃ。置手紙には「アトルの将来の為に自分は身を引くから探すな」と書いてあっての、それを読んだアトルがすぐに探しに行こうとしたのじゃが、ランドルフが止めたのじゃよ、「カルルを探しに行くのなら今後の協力はせん」と言ってな。じゃがアトルはランドルフの制止を振り切って飛び出して行きよったよ。それで、ランドルフは立腹しおってのお、アトルへの協力はせんと宣言しよった。>>
えええ! ランドルフ伯爵め、アトル先生が王様になったら、幼い王の外戚として権力を握ろうと考えていたな。とんだ狸じじいだ。だけど、いつの間にアトル先生とカルルがそんな仲になっていたんだ!? まったく気付かなかったぞ! いや、カルルのことだひとりで勝手に思い込んでいるだけかもしれない。でも、それでもアトル先生としては放って置けないよね。
<< それで爺は、アトルを放って置いて何をしてるんだい? >>
<< それがのう、儂はランドルフを宥めようと屋敷に留まっておったのじゃが、その間に探査魔法でも見つからないくらい遠くに行ってしまった様での。ここへ来た日にランドルフから馬を貰っておったからのお...。多分馬に乗って領外に出てしもうた様じゃ。>>
最初の神殿はランドルフ領内にある美の神カリキオーテの神殿だ。流石ラトスさんが選んだだけあって、立派な神殿で参拝者も多い。神殿内に瞬間移動で忍び込んだ私達は、女神カリキオーテの神像の後に隠れた。いよいよ本番だと思うと緊張する。音魔法による音声と効果音はララさんが担当、光魔法による神の映像や背景の描写はトスカさん、私は風魔法と土魔法を使って風と振動を担当する。さて、作戦開始だ!
突然、静かだった神殿内に「ドーーーン!!!」という大きな音が響き渡ると同時に神殿全体が地震の様に大きく揺れる。神殿が崩れない様に気を遣いながら揺らすのは中々大変だ。揺れが収まり、悲鳴を上げていた信者の皆さんが一息付いた途端、女神カリキオーテの像が輝き、同時に強風が吹き荒れ、信者の皆さんが着ているローブがバタバタと揺れる。余りのことに皆があっけにとられていると、像の中から本物の女神様が現れ空中に浮かぶ。女神の背景には七色の光が舞って幻想的な光景である。この時点で信者の方達や神殿の神官や巫女達が全員、女神に向かって跪いた。ガタガタと震えている人もいる。そして女神様が言葉を発した。
「愛する者達よ、よく聞きなさい。苦難の季節が終わろうとしています。今日、この国に真の王、アトル・マントラーゼ・マリアーク・トワールが誕生しました。彼はこの国の最後の希望です。心ある者達よ、彼に従い、彼を守るのです。この国の真の未来は彼と共にあります。」
この言葉を発すると、女神は再び神像の中に消えて行く。静寂が神殿を満たすが、ひとりが、「女神様、感謝いたします。」と言葉を発すると、全員がそれに習った。しばらくすると、立派な衣装を着た神官が全員に語りかけた。
「信仰深き皆さん、今日私達は神の奇蹟を目にすることが出来ました。女神様の言葉を直接耳にする事が出来たのです。女神様は私達を「愛する者達」と呼んでくださいました。なんと喜ばしい事でしょう。もちろん、我が教団は女神様のお言葉に従います。真の王であるアトル・マントラーゼ・マリアーク・トワール様に仕え、お守りするのです。女神様が我らを守ってくださいます。行きなさい。まずは、急いでアトル様をお探しするのです。」
信者の方達はもう一度女神像に頭を下げると、我先にと神殿から出て行く。神官達も女神像に祈ってから、今後の打ち合わせの為に退出していった。それを見て、私達は次の神殿に瞬間移動する。正直、あの人たちを騙していると思うと良心が痛む。だけど、今はこれがあの人たちにとっても最善の方法なのだと信じるしか無いだろう。
私達3人は同様のことを、さまざまな神殿で繰り返した。信者や神官の方達の反応はどの神殿でも概ね同じであった。ただ、やはり狩りと戦いの神アモールと力の神モロクの神殿では、神官の演説が新しい王にお仕えすることより、新しい王を守る為に「戦う」ことに重点が置かれていたのは気に成った。信者の方達が皆、武器を持ってアトル先生の元に馳せ参じようとしていた。新たな戦いに発展しなければ良いがと不安になる。
こうして、なんとか3日後には最後の神殿での仕事も終わった。翌日、宿屋で休憩して疲れを癒しているとラトスさんから念話が入った。ここはトワール国の南端だ、北端にあるランドルフ領とは千キロメートル近くも離れている。どうやって念話を送っているのだろうと考えたが、そんなことを尋ねる雰囲気では無さそうだった。
<< 皆、緊急事態じゃ、ランドルフ伯爵が協力を翻した。アトルはカルルを追いかけて出て行ってしもうたわい。>>
ラトスさんは相当あわてている。これじゃ分からないよ!と思ったら、案の定ララさんが言い返した。
<< この耄碌じじい! 落ち着いて詳細に状況を説明しな! 何のために歳を取ってるんだい! >>
<< やれやれ、手厳しいのう。じゃが状況は深刻じゃぞ。実はな、ランドルフの奴、アトルへの協力の条件として孫娘とアトルの婚姻を言い出しおった。それを聞いたカルルが、置手紙を置いて行方をくらましてしもうたのじゃ。置手紙には「アトルの将来の為に自分は身を引くから探すな」と書いてあっての、それを読んだアトルがすぐに探しに行こうとしたのじゃが、ランドルフが止めたのじゃよ、「カルルを探しに行くのなら今後の協力はせん」と言ってな。じゃがアトルはランドルフの制止を振り切って飛び出して行きよったよ。それで、ランドルフは立腹しおってのお、アトルへの協力はせんと宣言しよった。>>
えええ! ランドルフ伯爵め、アトル先生が王様になったら、幼い王の外戚として権力を握ろうと考えていたな。とんだ狸じじいだ。だけど、いつの間にアトル先生とカルルがそんな仲になっていたんだ!? まったく気付かなかったぞ! いや、カルルのことだひとりで勝手に思い込んでいるだけかもしれない。でも、それでもアトル先生としては放って置けないよね。
<< それで爺は、アトルを放って置いて何をしてるんだい? >>
<< それがのう、儂はランドルフを宥めようと屋敷に留まっておったのじゃが、その間に探査魔法でも見つからないくらい遠くに行ってしまった様での。ここへ来た日にランドルフから馬を貰っておったからのお...。多分馬に乗って領外に出てしもうた様じゃ。>>
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