大草原の少女イルの日常

広野香盃

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61. ラナさんのお母さん救出作戦 - 10

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 この命令は効果抜群だった。直ちに残りの兵士たちが、路地の入り口側を塞ぎ男達の退路を断つ。コントラが兵士に向かって「裏切り者」と罵るが、兵士達は聴く耳を持たない。賄賂で動く役人や兵士なんてこんなものなのだろうか。

 やがて兵士達の隊長と名乗る人が馬に乗って駆け付けて来た。隊長は到着するなり馬から飛び降りて私に向かって敬礼する。ハルマン王国のメダルは効果抜群だ。「ありがとう、ララ女王」と心の中でつぶやく。この辺りの国は小国ばかりだから、大国ハルマン王国の機嫌を損ねる訳にはいかないのだろう。隊長はしばらく兵士と話し合っていたが、やがて金貨の入った袋を持って私の所へやって来た。

「この袋はこの男達が奪ったものの様です。申し訳ありませんでした。お返しいたします。」

と隊長が言う。

「このお金はドレークさんの物です。返すならドレークさんにお返しして下さい。お詫びを言うのも忘れないで下さいね。」

その間もコントラは隊長の名前を呼びながら、「今までどれだけ金を渡したと思ってるんだ」とぼやいているが完全に無視されている。

「それと、ドレークさん達がその男達に襲われてお金を強奪されたなら、相手をアーススピアで傷つけたことは正当防衛と言えますよね。違いますか?」

「その通りでございます。」

「それでは、ドレークさん達は帰ってよろしいですね。純粋な被害者ですから。」

「はっ、おっしゃる通りです。」

私が合図するとラナさんはアーススピアを解除し、ドレークさんと一緒にこちらにやって来る。ラナさんは居住地で私がこの姿に成るのを見たことがあるから、私が誰だか分かったはずだ。隊長がドレークさんに「申し訳ありませんでした」と言いながらお金の入った袋を渡す。ドレークさんは面食らって「あ、いや...」としか声が出ない。私は去り際に最後の仕上げと、隊長に声を掛けた。

「それではこの人達の取り調べを十分にお願いしますね。きっと余罪もあるでしょうから、どの様な処罰が下されるのか楽しみにしておりますわ。」

 隊長以下兵士全員が私に敬礼する。私のご機嫌を取る為に、あることない事色々な罪状をでっち上げるのではないだろうか。ちょっと可哀そうだが、さっきの様子を見ると沢山の余罪があるのは間違いなさそうだ。

 私達3人は急いでその場を立ち去った。ドリアさんの引渡しの手続きは、魔物騒ぎで明日に延びたと言うことなので、とりあえず私達の泊まっていた宿に向かった。途中で私は物陰に隠れて元の子供の姿に戻る。ドレークさんが驚いていたが後で説明するからと宥めておいた。

部屋に入るとさっそくドレークさんが口を開いた。

「おま、いえ、あなた様は神様でございますか?」

 ドレークさんまで私を神様と勘違いしている様だ。更に、ラナさんが突然私にひざまずき小声で囁いた。

「イル様が神とは知らず、ご無礼申し上げました。」

私はあわててラナさんを立たせて同じく小声で言う。

「ラナさんまで何言ってるのよ! 私が神の訳ないじゃない。」

「でもイル様の膨大な魔力と、先ほど見せて頂いた奇蹟の数々、何よりドラゴンが頭を下げる相手など神様しか考えられません。」

「あれは、あのドラゴンが勝手に勘違いしただけよ。ラナさんにまで誤解されたら私悲しいわ。お願い信じてちょうだい。」

「そ、そうなのですか...分かりました、私はイル様を信じます。」

とラナさんは言ってくれたが、ドレークさんはまだ疑っている様だ。

「本当に、本当に神様じゃないんだな?」

「本当に、本当に違います。そりゃ魔法使いですから魔法は使いますが、こんな小娘が神様の訳ないじゃないですか!」

「あれは魔法か? 魔法ってあんなにすごいのか? 空飛んで、すごい竜巻をいくつも起こしていたよな。軍隊相手に喧嘩しても勝てるんじゃないか?」

「それは...その、一応、魔導士なので...」

「魔導士って! それ見ろ、やっぱりとんでもない奴じゃないか!」

「でも魔導士は人です。神じゃありませんから。」
 
まあ、ララ女王は魔導士は人の枠を超えた存在と言っていたけれど、今は伏せておく。とにかく私は神ではないとドレークさんを納得させることが出来た様だ。

「まあ、神様であっても無くても助けてもらったことには変わりない。この金はありがたかったよ、これが無かったらコントラにドリアを取られていた。ありがとうよ。」

ドレークさんはそう言いつつ、私が渡した小袋から金貨を10枚取り出し、残りのお金を袋ごと私に差し出す。

「金貨を10枚借りるよ。これだけあれば俺の金と合わせてドリアを取り返すことができる。借りた金はきっと返すからな。」

返さなくてもいいと言い掛けたが、ドレークさんの真剣な顔を見ると、この人は他人から理由もなく施しを受ける人ではないんだろうなと理解できた。袋を受け取りながら、

「分かりました。返していただくのはいつでもいいですから。」

とだけ言っておく。その後ドレークさんは自分の農園に帰って行った。明日のドリアさんの受け取り時には私達も同席する約束をしている。
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