亡者とリンクする

カトリ

文字の大きさ
10 / 10

三日目(サヨウナラ)

しおりを挟む
10.
 金本部長を稽古場に呼び出して、私は暮れる夕焼けを、小さなガラス越しに見ていた。
「よぉ」
 部長は、幾分かスッキリした顔をしていた。
「できました」
 私が原稿用紙を渡そうとしたら、部長は鍵を開ける為にすり抜ける。
 宙に浮いた私の原稿用紙は、その後から来た伊藤先輩が受け取った。
「すごいね。一日で書き上げるなんて」
「それこそ、あいつが取り憑いたのかもな」
 部長は笑いながら、からからと引き戸を開けた。
 黒板を見て、ほくそ笑む。
「ふふん。絶対成功させてやるぜ、白山。これは、俺らが一つ成長する為のステップだ」
「新入部員にぜーんぶ頼ってたくせに、よく言うわよ」
 その後ろから、理沙先輩の声。
 原稿を眺めていた伊藤先輩が、急に呟いた。
「……よく出来てる。すごいな」
「あったりめーだろ! こいつ、高校ん時、全国大会の最終選考に残る作品書いた奴なんだからな!」
「うっそ! あんたどうしてそれ言わなかったのよ?!」
「え? え? や、その……別に、関係、ないかなぁ、なんて」
「能ある鷹は爪を隠す、だね」
 私は戸惑いながら、ちょっと、照れくさくて苦笑いをした。
「文野」
「は、はい」
 ちょっと泣きそうな顔で、金本部長が、静かに、丁寧に、言った。

「ありがとうな」

 その表情が、あまりにも淋しそうで、それでいて、どこか吹っ切れていて……──私は、初めて、先輩たちを前に泣いてしまった。


 夕焼けが、溶ける様に沈んでいく。
 三日間。
 私は、白山さんとリンクしていた日々を思い出す。
 白山さんは、あまりにも感受性が強いがばかりに……自分を失ってしまった。
 残された先輩たちは、そんなアナタを、日常生活の中で、きっとふぃに思い出すでしょう。
 思い出して、淋しい気持ちになるでしょう。

 でも、アナタの強いメッセージは、ちゃんとみんなに伝わりましたよ?

 だから、もし今度生まれ変わるなら……もう、自分を傷つける方法で何かを知ろうなんて、しないで下さい。
 その強い想いは、発信すれば、必ず誰かが、受信してくれるんですから。
 私が、そうした様に。
 
    さようなら、白山さん。
    遺したものは前を向きます、きっとーー

終    
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...