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1章 家族になろう

タヌキ、一緒に住むみたい

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 夜中に目を覚ます。
 危ない危ない、目覚ましかけるの忘れてた。
 ちなみに俺は寝る時も電気点けっぱなし派です。

「・・・狸、いるな。」

 夢だけど夢じゃなかったってこういう時に使えばいいの?
 とりあえず、かわいい女の子でも狸なら法律的には問題ないな。
 そんな風に考えてしまったのは寝起きだからと言い訳したい。

 これ、どうすればいいんだろう。
 寝る前は確認して無かったけど、 狸が寝てる服の山に俺のじゃないのが混じってる、あの子が着てた服だ。

 本当にそういう事なのか?
 
 そして、その服の中で一つ、柔らかそうな白地にデフォルメされたフルーツがふんだんにあしらわれたアレは!
 フルーツがふんだんにあしらわれたアレは!!

「・・・寝よう。」

 分かんない事を考えても仕方ない。
 外し忘れていたコンタクトレンズを取って俺は布団に潜り込んだ。



 ガサガサした音で起きる、カーテンの隙間から陽の光が漏れてくる、朝か。
 眼鏡をかけて音の方を見る。

「!?」

 狸が弁当ガツガツ食べてる。
 昨日俺が買ったやつだ、そういえばコイツがいたんだった。

 上半身を起こした状態で無言のまま様子を見てると、狸が俺に気づいた。
 食べるのを途中でやめた狸が無言でリビングを出て行く。

「・・・うん。」

 本当にどうなるんだろうな。
 ぼんやりした思考のまま寝起きの頭をかきむしる。
 セットしていたアラーム3連打を解除して、と。

 昨日の女の子が昨日と同じ格好で戻ってくる、当たり前の様に床に座り込むと箸を開けて、から揚げ弁当の続きを食べ始める。

「油おじさんは本当安定の揚げ物だなう、あたし、朝はパン派だから明日はサンドイッチがいいな、ハムとレタスなう。」

 マジで!?
 それは今日も泊まるって事ですか?
 この美少女が一緒に住むって事!?
 朝はパン派、心のメモ帳に記しておかねば。

「いや、他に言う事あるだろ!」

「なう?おはよー、油おじさん。」

 きゅん!
 おはようの女の子が可愛くて一気に目が覚めた!

 おはようの 
  たぬき笑顔で 
   目を覚ます

 油おじさん、心の俳句。

 いや、なに頭お花畑にしてるんだ、俺。

「おはよう。」

 はー、とりあえず朝の準備しよう、立ち上がって風呂にお湯を貼りにいく。

「何の音な?」

「お風呂溜めてる。俺は朝風呂派だから。」

「油おじさん、朝からお風呂なう?まあ油おじさんだからな。」

 やめろよ!なんかその言葉悪意あるだろ!?
 
「お前、本当にあの狸なのか?」

 正直、もう聞かなくても答えは出てるけど、一応聞いておかなくちゃな。
 そんな俺に対して女の子は箸を止めて冷たい目を向けてくる、これって呆れてる顔か?

「油おじさん、狸以外の何に見えるなう?」

「・・・。」

 かわいい女の子にしか見えないよ!!

 もういいや、お風呂入ろ。
 風呂場の前で全裸になって服は洗濯機に突っ込む。

 湯船に浸かってから気付くけど、着替え持ってくるの忘れた!
 これは、バスタオルを腰に巻くとしても見えるか見えないかギリギリの戦いで履くパンツを手に入れる感じ?
 合法?合法セクハラ?
 いや、合法とかそういうのじゃないか、でも仕方ない事なんだ。
 仮に見られてしまったとしても。

「しつれいみゃう。」

 俺がそんな事に悩んでいたら風呂場に入ってきた、全裸の狸が。

「・・・。」

「あぶらおじさん、あたしもいれてくれみゅう。」

 一糸纏わぬ姿でとことこ湯船に近づいて来た狸を両手で持ってお風呂に入れてやる。
 足つかない深さだけど大丈夫なのか?
 そう思いながら見守っていると、器用に犬かきで泳ぐ狸は俺の肩に捕まって気持ちよさそうに息を吐いた。

「ふうー、ごぞうろっぷにしみわたるみゅう。」

 いや、使い方違うぞ。

「お前、狸の時も喋れたんだな。」

「あたりみゃえみゃう!」

 心外だとばかりに俺の首に鼻を突っ込んでくる狸。
 でもお前、狸の時少し舌ったらずだぞ。

 しかし、裸を見せちゃうかもって悩んでた自分が馬鹿みたいだな。
 狸だもんな、なんか笑える。

「あぶらおじさん、ほんとうにソーセージとかからあげすきみゃうみゃあ。」

 狸がお湯の中を見ながらそう言った。
 俺のはソーセージとから揚げじゃない!!

「そういえば、お前名前とかあるの?」

「あるみゃう。スカーレット・ダイヤモンド、スカーレットが名前でダイヤモンドが名字みゅう。」

 何その競走馬みたいな名前。
 俺、こいつの事スカーレットって呼ぶの?なんかいやだな。

「日本風の名前ってないのか?」

朱花しゅか、そう呼ぶみゅう。」

「朱花か、じゃあ、そう呼ばせてもらうわ。」

 俺は朱花を湯船の淵に運ぶと自分は上がって身体を洗っていく。
 立ち上がったから俺のが丸見えだけど気にしなくていいだろう、朱花も気にしてなさそうだしな。

「油おじさん、あたしも洗ってほしいみゅう。」

 泡を落とし終えた所で朱花から声がかかるから湯船から出してやる。

「全身シャンプーで頼むみゃう。」

 まー、毛むくじゃらだしな。
 言われた通りに洗っていく、なんか気持ち良さそうに洗われてるからこっちとしても癒されるな。

「流すぞ。」

「後はリンスも頼むみゃう。」

「・・・そんなものはない。」

「油おじさんはだから油おじさんみゅう。」

 やめろよ、そういう傷付きそうなこと言うの。

「もう少しお風呂入ってるから入れてくれみゅう。」

「はいはい。俺は出るから溺れたりするなよ。」

「みゃうみゃう。」

 なんだ、そのかわいい返事は。
 風呂から出た俺は体を拭いてパンツを装着、コンタクトをはめて歯を磨く。
 なんで俺とあの狸は当たり前の様に一緒に風呂入ってるんだろ、何度も一緒にご飯を食べてるうちにお互いに信頼関係が出来てたのかな。
 そうなら悪くないな。

 朱花が風呂から出て来た。
 かわいい女の子の姿で既に服は着ていて髪の毛をタオルで拭いている。

「油おじさん、あたしもハブラシほしいなう。」

 んー、確かこの辺に新しいのがあった筈。
 しかし、朝から湯上り美少女が見られるなんて幸せすぎるな。

「・・・。」

 なんで、
 なんで!風呂の時は狸の姿だったんだよ!!

 一緒にお風呂入ったり全身洗ってあげたり、なんで狸なんだよ!!
 いや、実際は狸で良かったよ、この子の身体を洗うとか刺激強すぎて多分脳みそ溶けてたわ。

「しゃこしゃこ。」

 とりあえず小さい口を一生懸命磨く姿は癒しだ、結ぶ前の柔らかい髪の毛もかわいいし宝物にしたい。
 いや、意味分かんないな。
 美少女との生活自体が刺激が強すぎるのかもしれない。

「俺は今日仕事だけど・・・朱花はどうするんだ?」

 はじめて名前で呼んでみた、変じゃ無かったかな?

「部屋で漫画描いてるなう。」

 本当にここにいるつもりなのか?
 なぜこうなった?
 家に帰って来たら美少女がいるとか最高過ぎるぞ!

「俺今日は7時には帰って来れると思うんだけど、昼飯はどうする?」

「カップラーメンと鯖缶食べるな。」

 朱花が昨日寝床にしていた服の山からカップラーメンと缶詰めを取り出して見せてくる。

 いや、俺の非常食をいつそんな所に隠してたんだよ。

「ケトルでお湯沸かせよ。火傷しないようにな。」

「分かってるなう、油おじさんは油お母さんみたいだなぁ。」

 いや、油いらないよね?お母さんだけでいいよね!?

 俺が準備を整える横で朱花はいそいそと俺のベッドに潜り込む。
 えっ、マジで!?そこで寝ちゃうの!?
 俺仕事行ってる場合じゃなくない!?

「あー、この油とおじさんの混じった匂い、本当安定の油おじさんだな。」

 目を瞑りながら朱花が言う。
 朝だけで何度油おじさんって言うんだよ!
 悪かったな、俺仕事終わってそのまま寝るから。

「ファブリーズあるけど?」

「いいなう、油ぎとぎと中華料理の夢でも見るな。」

 そ、そうか、それはいい夢なのか?
 しかし朱花が入るとベッドの中がいつもの100倍は気持ち良さそうに見える。
 俺も一緒に寝たい。
 もし死ぬ時はそのベッドの中で死にたい。

「じゃあ、行ってくるから。」

「行ってこいなう。」

 後ろ髪を力強く引かれる俺に朱花が小さく手を振ってくれた。
 何これ幸せすぎる、俺は少し垂れた涙を拭いて家を出た。 

 早く早く帰って来たい。
 帰る時間は変わらないのに俺は早歩きで店に向かった。

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