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漫画家を目指す、1人と1匹
タヌキと終わりの鐘
しおりを挟むさて、俺が自炊を始めて早くも一週間経ったのだが、この日大きなニュースが俺の心を揺らした。
今日の朝も幸せだったんだよ。
お米は炊けるかってウチのかわいい狸に聞いたら「ボタンは押せるなう!」って。
じゃあ、俺がお米を研いでセットしとくから、と家を出たのが朝。
・・・あれ、思っていたよりも小さい話だったな。
さて、俺の職場無くなるって。
あと、1年で。
俺は元いた地元の店に戻る事になるだろう。
あーあ、どうすればいいんだろう。
せっかく掴んだ俺の幸せが・・・。
重い気持ちのまま家に帰ると炊きたてご飯の香りが迎えてくれた。
「ただいまー。」
「おかえりなうな、ちょうどご飯炊けたなう。」
珍しく玄関まで出迎えに来てくれた朱花が頭を突き出して来る。
・・・まさか!
撫でろというのか?
この俺に!?
このキューティクルとキュートがいっぱいの頭を!?
俺に撫でろというのか?
・・・迷ってるうちに頭が引かれた。
・・・。
「今日のご飯は何なう?」
「・・・。」
「・・・。」
「忘れてた。」
「この油なうなっ!!」
「ふあっ!」
朱花のしなやかな蹴りが俺のお尻を襲った!!
まじか!俺はもうこれで死んだ。
野生動物の身体能力を存分に生かした蹴りだった。
「油おじさん。」
倒れ伏した俺を朱花が冷たく見下ろしてくる、ねー、薄暗い玄関で目が光ってるんだけど。
「すぐに買いに行くなうよ。」
「はい。」
うわー、俺の腕を引き上げる力が凄い強い。
「ダッシュで。」
それは勘弁してくれ、油くさいだけのおじさんにそんな体力は無いよ。
丼にご飯を盛ってその上に千切りキャベツ、そしてベーコン3枚の目玉焼き2つをドン!!
手抜きに見えるかも知れないけどたまにはこういうのも良いと思うのです。
「はぐはぐ!!美味しいなう! 」
おー、いい掻き込みっぷりだ、ベーコン切ってやれば良かったな。
凄く口から伸びてる・・・。
「でも、丼は食べづらいなう、どうしてもご飯だけ残るなうな。」
寂しそうな顔で朱花が言う。
そこはバランスを考えて食べてくれよ、最後には醤油のかかった半熟の黄身でご飯が美味しく食べれる筈なのに、見事に白米だけが残ってる。
仕方ないなと、ベーコンを一枚乗せてやる。
「油おじさんのベーコンなう。」
そんな可愛い顔で言ってくれるんだったら、ベーコンじゃなくてソーセージにすれば良かった。
・・・いや、なんでもない。
「朱花さん。」
ご飯を食べ終えたところで俺は話を切り出す。
「油おじさんさん?」
やめろよ、かわいく首を傾げるの。
言いづらくなるだろ。
「俺が働いてる店、一年後に無くなるらしい。」
俺の言葉に朱花のクリクリの目が大きく開く。
「そんな・・・油おじさんが油を卒業するなうな?」
いや、愕然としてるところ悪いんだけどそんな話はしてないんだけど。
「漫画描くなう!!」
自分の食べた食器をシンクに持っていてテーブルを拭くと朱花はまたルーズリーフを広げる。
俺は少しその様子を眺めてから食器を洗いに行く。
想像してた反応は無かった、寂しい気持ちでいっぱいになりながらベッドに横になるとそのまま寝てしまった。
うー、しまった、結構寝ちゃってた。
コンタクトをつけっぱなしだった、朱花はまだ机でカリカリ描いてる。
携帯で時間を見るともう4時・・・。
「ずっと起きてたのか?」
俺の声に反応した朱花が目をこする。
「なんか眠いなう、あたしも寝るなう。」
俺の胸元にもぞもぞと入ってくる朱花をいつもの様に抱きしめて目を閉じる。
顔に当たる髪の毛はふわふわでいい匂いがして、腕の中はあったかくて柔らかくて、俺の股間はすぐに膨らんで・・・違和感に気付いた。
ぽこん。
朱花の頭を叩いた。
「痛いなう。」
「なんでそのままなんだよ!? 狸に戻れよ!!」
「もう疲れたなうな、今日だけなう。」
そう言う朱花はぼんやりと本当に眠そうで俺はそれ以上何も言えなくなる。
「今日だけだからな。」
「なう。おやすみなう、ふへへ。」
「・・・おやすみ。」
にへと笑う朱花は本当に可愛くて、俺は腕では抱きしめたまま当たらない様に腰だけ引いた。
眠りに落ちる事は出来ず、全然進んでくれない時間、それは頭がおかしくなりそうな程に甘い甘い拷問だった。
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