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最強の魔導師
しおりを挟む神楽と鶯がやり合っている音が響くだけで、咲良と白羅の間には奇妙な沈黙が流れていた。
初めから対話が成立しているとは言い難かったが、今はその非ではない。
「嘘つきですね~。あなたは」
「私は、嘘など……。この身は、産まれ出流時からヴィンズに、光の神にささげたのです」
「や~っぱり。くだらないお家のおもちゃ何ですね。そんなにお家が大事ですか?」
咲良にも当然両親がいた。しかし、それは神楽の両親のように守り、教えてくれる存在では決してなかった。
両親はヴィンズ教を信仰してこそいなかったものの、光と闇を持って産まれた咲良と咲斗をいないものとして扱った。咲良たちの居場所は物置か、家畜小屋。魔法が使えるようになってからは森の中に立てた二人だけの秘密基地だった。
我が子を見ようともしないが、虐待や処分するということをしない程にはまともな人たち。咲良の両親への認識はこんなものだ。
しかし、咲斗は違う。血の情を捨てられない。同じ地に住んでいる縁を切り捨てられない。
咲良たちが生まれたのは人口二百人ほどの小さな村だ。村人たちにヴィンズを信仰している人はいなかったが、闇属性に対する畏怖は根強かった。逃げられたことも、歩くだけで石を投げられたこともある。それでも、ヴィンズに差し出されなかっただけまだましだということを理解してからは、悔しいも憎いも無関心に変わっていった。
けれど、どれだけ他人がどうでもよくなっても、咲斗が傷つくのは許せなかった。傷ついて、何ともないふりをする咲斗が気に入らなかった。
咲良が取り繕うことをしないのはそんな咲斗が嫌いだから。咲良が我儘なのは我慢し続ける咲斗が気持ち悪かったから。
神楽は咲良がこんな性格で咲斗が大変そうだというけれど、咲良がこうなったのは咲斗が原因だ。
少なくとも咲良はそう思っているから、咲斗に迷惑をかけることを悪いとは思っていない。むしろ、変りに言ってあげているから感謝しろ、とすら思っている。
だから、家の決まりや血のつながりに縛られる人を見るのは、酷く気分が悪い。
そう思いつつ、咲良とて咲斗とのつながりを捨てることなどできないのだから、血のつながりすらない神楽とのつながりを無くしたくないのだから、人の心とは理屈や理性ではどうにもならない。
もどかしいし、腹立たしい。
「あなたも家出しちゃえばいいのに。あ、する勇気がないんです? まあ、精霊武器の継承者がい無くなれば総出で探されるんでしょうけど」
「……そう、でございますね。私は逃げる勇気も、裏切る勇気もありはしません」
「…………」
「だから私は、この場所で生きる覚悟をしなければいけないのです! 邪魔、しないでくださいまし!」
消え入るような声でぼそぼそと喋ったかと思えば、キっとこちらを睨みつけた白羅は、さっきよりましな顔になってはいたものの、魔力の揺らぎは収まっていなかった。
敵に自分がヴィンズによくない思考を持っているということを隠せていない迂闊さに、咲良の嫌悪が若干弱まる。抜けていった嫌悪の代わりに入り込んだのは困惑だ。
ヴィンズ以外の常識を知らないであろう白羅がなぜヴィンズが間違っていると気づけたのか。
「我が血脈に受け継がれし力よ。力を貸し与える大精霊よ。今代の所有者の想いをくみ取り光の御加護をお与えください。……光輪・光の裁き!」
白羅は覚悟を決めたように詠唱を初め、精霊武器の力を引き出す。咲良の頭上に光の輪が浮かび、高濃度の魔力が咲良を囲むように襲う。
『大魔導士』にしては高威力な魔法。それでも、咲良には届かない。
影を隆起させて、傘の形に具現化させると、頭上に差した。すると咲良を焼き尽くさんとしていた光が影に吸収されている。
詠唱すらしないで攻撃を無効化した咲良を見て白羅は驚愕の表情を浮かべている。
「有詠唱久しぶりに聞きましたね~。それはそうと、私に傷をつけたいなら攻撃特化の上位『魔女』になってから出直してどうぞ~」
「そ、んな。精霊武器の攻撃を、そんなあっさり……。防御に特化した『魔女』さまは三人。二人はお顔を知っていて、もう一人は〝紅の舞の君〟あなた様は、一体」
「私ですか? 私は、そうですね~」
咲良はにっこりと笑うと影の具現化を解いて、右手に魔法式を描いた。その式の意味は脳に干渉し、解析する。記憶を覗くための魔法。
繊細で多くの魔力が使われようとしているのに魔力光が反応して花びらが散っては消える。
「最強の魔導師。って言えば、わかります?」
「っ……!? 東洋の花びらの、魔力光……。ま、さか。『森羅万象』〝散桜〟様っ」
『魔女』でないとはいえ、若くして『大魔導士』の階級を与えられただけあって頭は悪くないようで、すぐに咲良の正体に思いあったったらしい白羅はその顔を蒼白にさせた。
その顔を見て、咲良は満足そうににんまりと笑った」
「大正解」
「な、にを。やめてくださいましっ」
「そんなに怯えなくても死なないから安心安全ですよ~。咲良様はと~っても優しいので!」
「っ……」
「ちゃんと私が望む回答をしなかったのが悪いんですよ」
せっかくチャンスをあげたのに。と咲良は自分が間違っているとは塵ほども思わず白羅に触れようと手を伸ばす。
しかし、その手が白羅に届くことは無く、別の手によって阻まれた。
邪魔をした人物を認識した瞬間、咲良は魔法式を慌てて破棄することになる。
「大馬鹿家出娘。こればどういうことだ?」
「…………咲斗」
咲良と反対の色をした、男女の違いこそあれそっくりな顔をした少年。咲良の双子の兄、椿咲斗がそこにいた。
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