転生したけどレア度N!?ディレイ「遅くなる(対象:自分)」しか使えない件

月猫ひろ

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高速の視界、景色が次々に吹き飛んでいく。
風が服をはためかせ、猛る気分を高揚させていく。
ユリアに貰った靴は、魔力を吐き出しながらトウタを加速させていく。
疲労は無く、車の助手席に座って高速道路を入っている感覚。自身の足で走っているのに、車のような速度が出る事実に、少し脳がくすぐったい。
軽い気持ちで最高速まで出したくなるが、一途に表示される距離を見て思いとどまる。
靴が保有する魔力の残量はギリギリ。速度を出して燃費を悪くすれば、敵の拠点まで持つか怪しくなってしまう。
「ユリアちゃん……」
トウタは靴をくれたユリアの言葉を思い出す。

病院で選択をした後、気が付いたら召喚神殿に立っていた。そこで待っていたのは、不機嫌な顔のユリアだった。
どうやらユリアは召喚神殿の調査に来ており、偶然神の御使いと会ったらしかった。
「今更なんで帰ってきたのかは、聞かないけど」
ユリアは大いに問い詰めたそうな顔で、これ見よがしに溜息を吐いた。
「どれぐらい物事を把握しているの?」
「現実のユリアちゃん達が……昏睡状態にある事ぐらいしか分かっていない……」
「そう」
ユリアは目を瞑り、少し黙った。
俯いている為、表情は読み取れなかった。
「でもそれで、少しこの世界のことが分かった気がするわ」
「情勢的な事?……構造的な事?」
「まだそんなレベルの話じゃないわ。誰に味方するべきか、判断が付きかねているの」
「神の御使いが……正しくないってこと?」
「この世に正しいものなんてないわ。人は正義の味方にはなれるけど、正義そのものにはならないんだから。
まあ、そういう大雑把な物言いは止めておくとして。神の御使いとやらは、少なくとも2つ誤魔化していることがあるの」
「え~と……この異世界は実は存在しなくて…僕の妄想の産物とか?」
「そしたらトウタくんが神ね。『シュミレーション仮説』は否定も肯定も出来ないけど、考えたって仕方がないでしょ?これまでの現実だって『世界五分前誕生説』や『水槽の脳』を否定できないんだから」
ユリアは少しだけ楽しそうに笑った。
「まず1つはレア度。SSRやRってやつね。トウタくんも聞いたと思うけど、町の人間はレア度を使っていなかった」
「そういえば……店のおじさんは9等級……10段階評価って言ってたっけ」
「そ。レア度は、神側のみの評価システムなのよ。そして、Rの剣よりもNの短刀の方が人間側の評価が高かった」
「神の評価と人間の評価は……必ずしも一致しない?」
「それもあるかも知れないけど、そもそもNの方がレア度が高いのよ」
「そんな事って……あるの?」
「私の調べた限りでは、一番上はFファンタズムとNノーブル、それ以外はRレギュラー、後は無価値なN+ノープラスっていう感じっぽいわ」
「そんな……URやSSR…とかは?」
「Rの細分化と言うか……FやNの価値を隠す為に、後付けしたものじゃないかしら?」
「僕達は勝手にNをノーマル……Rをレアだと思うから?」
トウタは言って、少し話が合わない事に気付く。
「神の御使いは……何からレア度を隠したいの?」
町の人間はレアだのレギュラーだの以前に、レア度の表記に興味が無いようだった。
では魔王側ということになるが、それでは魔王側がまるで現代人の様ではないか?
「情報が足りないから、はっきりしたことは言えないわ」
「うん……そうだね……もう一つの隠している事は?」
「………隠すっていう程の秘密ではないのかも知れないけどね」

ユリアは静かに言葉を口にすると、トウタに餞別のアイテムをくれた。
その事実を伝えてくれたユリアは、教師から進路指導を受けている時みたいな顔をしていた。
「この世界では……『スキルは道具に備わっているもの』か……」
トウタはユリアの言葉を反芻しながら、ユリアに貰った仮面を付けた。
右側が黒で左側が白の、顔の上半分を覆う仮面。『自我を強くする』スキルと、賢者の眼鏡と同じ世界を理解するスキルが備わっているらしい。
右腕の手甲を見ると『魔力を弾く』スキル表示が行われた。そして、背中には漆黒の槍『グングニル・レプリカント』を背負う。
漆黒の槍は神の使徒から渡されたものらしく、一発分の魔力だけ残っていた。
「後は『リペア』の宝玉が5個……」
道具が壊れた時に使うと、スキル一回分だけ回復できる宝玉らしい。ただし使えるのはRまでなので、トウタが現在装備している道具には使えない。
ユリアに貰った靴、仮面、手甲、槍、宝玉。
これだけで魔人を倒すことはできないかもしれない。
――でもトウタはもう一度、ヒーローになると決めたのだ。
「見えてきた……!!」
魔人と戦っていた拠点が見えてきた。
靴の魔力は何とか持ちそうだ。
「……冒険者の人達が…一方的に襲われてる?」
拠点に近付くと、魔物と冒険者達が戦っているのが目に入った。
冒険者はどう見ても総崩れで、圧倒的に押されていた。
「皆さん……逃げて下さい!」
トウタは高速で走り寄り、魔物の1匹を殴りつけた。
魔力を纏っている魔物は、手甲のスキルに弾かれて数メートル吹き飛んでいった。
「た、助かった!あ、あんたぁ誰だ?」
吹き飛んだ魔物に襲われていた冒険者が、トウタに駆け寄ってきた。
「僕は冒険者です……皆さん、もう撤退して下さい!」
「魔人に冒険者の殆どがやられて……撤退する戦力もおらんよ……ただ逃げたって、後ろから襲われて全滅するだけよぉ……」
冒険者は肩を竦め、頭を抱えた。
確かに冒険者の数に比べて、魔物の量は圧倒的だ。背中を見せて逃走すれば、追撃されて全滅する可能性が高い。
「魔物の数を減らせば……いいんですね?」
トウタは漆黒の槍を引き抜くと、右手に載せた。槍は形を変え、バレーボールぐらいの球形に変化した。
一発しか使えないが、仕方のない選択だ。
「………」
右腕を伸ばして顔の高さに持っていく。
周囲の音が消えて、視界が鮮明になっていく。
脳味噌の中を血が暴れ、眼球が破裂しそうになる。
「……『殲滅する千棘の偽証(グングニル・レプリカント)』」
前上方に球体を投げると共に、大きく走り出す。
2歩で最高速に到達すると、踏み込んで全力で飛び上がる。
「『ディレイ』!!」
体を反らせて反発。右手で球形を打つ瞬間に、スキルを発動させた。
世界が高速で動き出し、トウタだけが停止する。
(威力を……込めろ!!)
トウタに引っ張られて停止を続ける球形が、ミシリと悲鳴を上げた。
「いけえ!!」
バレーボールのスパイクサーブよろしく、スキルを停止した途端に球形が飛んでいく。
漆黒の槍は神の使徒が使った時と同じように、千の槍に別れて魔物の軍勢へと襲い掛かった。
「すげぇや……」
感嘆を漏らす冒険者の目の前で、槍に貫かれた魔物達が息絶えていった。
「生き残っている冒険者を呼び集めて……固まって撤退して下さい!」
「へ、へぇ!あんたさんは、どうするんで?」
「僕は……助けたい人達がいるので……」
トウタは言うと、靴の最後の魔力を使って走り出した。
冒険者はトウタが拠点の壁を飛び越えるのを見送ってから、歓喜と共に味方を呼び集めた。
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